
「つくる」より先に「みる」
──森と土から生まれたFabCafe Osakaの空間づくり
2025年4月29日、いよいよ大阪・天満にFabCafe Osakaが誕生します。
FabCafeは、2012年に東京・渋谷で誕生し、タイ、スペイン、フランス、メキシコ、マレーシアなど世界中に拠点を広げながら、地域のクリエイターたちと共創を通じたものづくりをしてきました。
「水都大阪」と称されるこの都市は、古くから淀川を中心に発展してきました。FabCafe Osakaの空間づくりには、この大阪の歴史や文化を体現するための特別な試みがなされています。グランドオープンまで1ヶ月に迫る中、淀川の土を壁に吹き付けて土壁をつくり、飛騨の木材を地下2mの穴から突き出してテーブルを設置する... そんなFabCafe Osakaを取材しました。

「つくる」より先に、森を「みる」
ー FabCafe Osakaの物件が決まってすぐに、建築家の井上真彦さんと飛騨の森を見に行ったと聞きました。
太田 空間デザインには、大阪を拠点に活動する建築家・デザイナーの井上真彦さん(Marginalio Inc.)をパートナーに迎えました。彼はデザインプロジェクト「elements」での活動や、東横堀川沿いのパブリックスペース「β本町橋」などの設計を通して、大阪の都市空間に関わってきた人物です。
製作ディレクションの一部を担当した株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称、ヒダクマ)は、2015年に飛騨市・トビムシ・ロフトワークで設立した会社です。FabCafe Osakaでは、ヒダクマと協力して、飛騨の広葉樹を活用した空間設計ができないかと計画しました。最初に考えたことは、何をつくるかというより、まず飛騨の森を理解し、その環境から井上さんと一緒に学ぼうということ。一回目の訪問では、ヒダクマのメンバーに森を案内してもらい飛騨の森が持つ多様性や樹種ごとの特性、さらには林業を通した人と森の関わりについて教えてもらいました。

太田 二回目の訪問で、いよいよテーブルとベンチに使う木材を選んだんですが「ここから選んでください」という感じで大量の木材が並んでいて(笑)。井上さんとしても、最初はどう選んでいいのかわからなくて長い時間、ただ木を眺めていたようです。でも、だんだんと目が慣れてきて「この木は端っこがちょっと曲がっていて面白いな」とか、「この木に腰掛けたら気持ちよさそうだな」とか、現地で試しながら感覚的に選んでもらいました。

太田 ヒダクマが拠点を構える岐阜県飛騨市古川町は、広葉樹の豊かな森として知られています。井上さんは飛騨で様々な木材をみて、太い木だけでなく、小径木もできるだけ使うことで、素材を無駄にしない設計にしたいと言ってくれました。
井上さん:「一般的に、家具用の材は太く成長した木を製材して作られますが、それらの木を山で伐採して搬出する時に、周囲に生えている小径木も切らざると得ないという話を聞きました。普段はチップに加工して利用されるそうなのですが、まだ成長途中でも山に生えている姿はとても美しかったので、これも何かに使うことができないだろうかと思ったんです。」

ー FabCafe Osakaがオープンするのは、自動車整備工場の跡地で、空間の真ん中に作業ピットが残っています。このピットをどのように活かすか、どんなアイデアがありましたか?
太田 当初は、穴を活かして、床下を収納スペースにするのはどうかとかカフェスペースにするなどのアイデアもありましたね。最終的には、穴をそのままデザインとして活かすセンターテーブルを作ることになりました。
FabCafe Osakaが目指す「L’Informe(アンフォルム)」の思想は、形に縛られない美しさの探求にあります。その一環として、通常の加工木材ではなく、広葉樹の曲がり木をテーブルの脚に採用しました。
曲がり木は、直線的で均一な素材とは異なり、自然が生み出した独自のフォルムを持っています。伐採後も木は呼吸を続け、割れや収縮、ねじれが時間とともに現れます。形が固定されず、常に変化を続ける曲がり木の姿は、まさに「アンフォルム」の哲学を体現するものと言えるかもしれません。
ー センターテーブル以外にも、屋内外に様々な形のベンチが設置されていますね。
太田 最初から「ベンチを置こう」と決めていたわけではありませんでした。内と外の境界を曖昧にする設計の一環として、自然に出てきたアイデアでしたね。結果的に、外の空間がより開かれた印象になり、街とのつながりを意識した設計になったと思います。

「水都大阪」の歴史に根ざした空間づくり
FabCafe Osakaの空間デザインの大きな特徴のひとつが土壁です。今回、壁の吹き付け仕上げの材料として活用した淀川の土は浄水発生土と呼ばれ、浄水場の水処理過程で発生する上水汚泥を脱水・乾燥させたものです。これを活用することで、大阪という都市の記憶を宿した独特な質感の壁を出現させました。

ー 淀川の土を使って土壁をつくろうと思った理由は?
井上 設計当初からアンフォルムというテーマと、蒸留などの有機物を扱う新たなFabCafeを、ということを聞いていて、議論を進める中で、土というマテリアルが良いかもしれないなと思いました。土は、定まった形を持たず、無機物と有機物の混合物ですし、大阪の土地は淀川が運んでくる土の堆積と侵食が繰り返された上にあります。そういった意味で、過去と未来の両方を想起させる素材でもあるなと。
せっかくなので、淀川の土を使えないかと調べたのですが、入手できそうなのは川底から採集した砂しかなく、荒くて使えそうにない。そのことをチームメンバーに相談していたところ、ロフトワーク・FabCafe Osaka準備室の小島さんが、大阪市の浄水場で淀川の土を販売していることを教えてくれました。
浄水場では、淀川の水をくみ上げてろ過していきますが、最初の段階で大きな土の粒子を沈澱させます。その沈澱した土(スラッジ)を回収して、乾燥させて販売しているんです。早速、浄水場にうかがって話を聞いたところ、浄水場毎に土を乾燥させる方法が違い、入手できる土の状態も異なることが分かりました。FabCafe Osakaに近い柴島(くにじま)浄水場では、土を機械的に絞って乾燥させるために、硬く固まった状態になります。一方で、豊野浄水場では自然乾燥するので、比較的柔らかく、粒子も細かい状態でした。
浄水場で譲り受けた土は、そのまま土壁として使うには粒子が荒い。そこで、FabCafe Osaka準備室のメンバーを中心に集まって、土ふるいの作業を行うことに。土嚢にして約20袋、およそ400kgの土を篩にかけまくります。
ー 土壁は左官技術で一般的に作られますが、今回“土を吹く”というのは?
井上 FabCafe Osakaの建物は元々自動車整備工場だったので、鉄骨のブレースや、増改築の繰り返しによる壁の凹凸、露出したスイッチプレートなどの特徴的な設備が残されていました。それらを意匠的に活かせないかと考えたんです。普通の左官技術ではなく、吹き付け技法を使うことで、元の形が完全に消えるのではなく、雪が積もったようにうっすらと輪郭が残る。それによって、元の姿を想像できるような状態をつくれないかと考えました。過去を土壌にして、ここから新しいものが生まれてくるようなイメージも持っています。
素材と技術の掛け合わせによって新たな場所をつくる
浄水発生土は、機械式もしくは自然乾燥により脱水させたものを入手することができますが、機械により加圧脱水させた柴島浄水場の土は粒子が大きい。そのため、形を生かして、床の材料の一部として活用することにしました。
FabCafe Osakaのコンセプトである「アンフォルム」は、決まりきった形を持たないものが、新たな価値を生み出すという考え方に基づいています。土壁は経年変化を楽しむ素材であり、センターテーブルも天然木ならではの歪みや変化があります。そうした流動的なフォルムを、価値として捉える姿勢が、この空間には表れているのかもしれません。
素材と技術の掛け合わせによって生まれたこの空間で、新たな表現や試みに挑戦しながら、これから生まれる多くの出会いが楽しみです。大阪近隣の皆さま、FabCafe Osakaでお待ちしています!
執筆:宮崎真衣(株式会社ロフトワーク)
店舗概要
- 店舗名
- FabCafe Osaka(ファブカフェ オオサカ)
- 所在地
- 大阪府大阪市北区天神橋2丁目2−4
- 敷地面積
- 111.74m²
- 出店予定日
- 2025年4月29日(予定) ※4月21日(月)〜4月27日(日)プレオープン
11:00-15:00(4月21日-4月23日)
17:00-21:00(4月24日-4月26日)
11:00-21:00(4月27日) - 席数
- 48席
- アクセス
- [電車でのアクセス]
・JR東西線 大阪天満宮駅から徒歩5分
・Osaka Metro谷町線/堺筋線 南森町駅から徒歩5分
・京阪本線/Osaka Metro堺筋線 北浜駅から徒歩10分

ACCESS
FabCafe Osaka(ファブカフェ オオサカ)
大阪府大阪市北区天神橋2丁目2−4
お問い合わせ先
FabCafe Osakaについて
info_fabcafe.osaka@loftwork.com
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