南海電気鉄道株式会社 PROJECT

南海電鉄が大阪・なんばに仕掛ける
街の担い手を育む、レジデンスプログラム

Outline

「グレーターなんばビジョン」実現に向けて。
活き活きとした活動や人が集うエコシステムをうみだす

南海電気鉄道株式会社(以下、南海電鉄)は1885年に創業。大阪から和歌山を結ぶ鉄道会社です。鉄道事業を中核に、都心開発や住宅開発、宿泊施設の運営など沿線エリアの発展とともに成長し続けてきました。

同社は2023年に、クリエイターインレジデンスプログラム「Chokett」(チョケット)を始動。Chokettは、南海グループが推進するまちづくり構想「グレーターなんば構想」* をより加速させるために策定されたグレーターなんばビジョン 「ENTAME-DIVER-CITY ~Meet!Eat!Beat! On NAMBA~」**実現に向けたプログラムです。次代のなんばを創造する手段として、多様なエンタメとユニークな街並みを生かし、なんばエリアのあらゆる場所で誰もが幸せになれるシーンを生み出すことを目的としています。

2025年に「大阪・関西万博」が開催、2030年頃に「大阪IR」が開業予定、2031年に「なにわ筋線」開業に向けて、大阪、特になんばエリアの機運が高まっています。ビジョンを実現し、選ばれ続ける街に育てていくために、来街者の気持ちが高ぶる体験(=エンタメ性)をうみだすシステムの構築が必要です。同社はなんばパークスなんばスカイオなどの不動産事業に注力してきましたが、まちづくりの手法が限定的となっていた今こそ、心躍るコンテンツづくりが必要だと感じていました。

そこで発足したのが、来街者やクリエイターを巻き込みなんばで新しいエンタメを作り出すプログラムであるChokettです。ロフトワークはこのプログラムを支援。プログラムの企画設計やシステムの構築までのロードマップ策定、プログラムの運用を担当しています。

今回、フィールドワークやプレイベントを経て、3ヶ月間のクリエイターインレジデンスプログラム1期が始動。なんばの街中での実験を通じて、大人や子ども、観光客を含めた多様な方々が担い手となる多彩なアクティビティが生まれました。目指すのは、ボトムアップの活動が同時多発的に生まれ、なんばの街全体が劇場のステージのようになること。2024年6月、2期の活動がスタート、ビジョンの実現へと歩みを進めています。

* 『グレーターなんば』構想
**グレーターなんばビジョン「ENTAME-DIVER-CITY ~Meet!Eat!Beat! On NAMBA~」

プロジェクト概要

  • クライアント:南海電気鉄道株式会社
  • プロジェクト期間:
    • 立ち上げ〜第1期運用:2023年1月〜2024年3月
    • 第2期運用:2024年4月〜
  • ロフトワーク体制
    • プロデュース:プロデューサー 小島 和人
    • プロジェクトマネジメント:クリエイティブディレクター 服部 木綿子、クリエイティブディレクター 太田 佳孝
    • クリエイティブディレクション:クリエイティブディレクター 村田 菜生、クリエイティブディレクター 岩倉 慧、クリエイティブディレクター 山﨑 萌果
  • 制作パートナー
    • プログラム名、コンセプトテキスト:アサダ ワタル(アーティスト、文筆家、近畿大学 文芸学部文化デザイン学科 特任講師 )
    • ロゴデザイン、ビジュアルデザイン:森倉 ヒロキ(グラフィックデザイナー)
    • 背景ビジュアルデザイン:若木 くるみ(版画家)
    • 拠点開発:TEAMクラプトン

執筆:田中 青紗
編集:野村 英之
企画・編集:横山 暁子(loftwork.com編集部)

Outputs

クリエイターインレジデンスプログラム「Chokett」

クリエイターインレジデンスプログラム「Chokett」は、「なんばで正々堂々とちょける!」を合言葉に、新しいエンターテインメントをつくるプログラムです。Chokettの“チョケ”は、関西弁で「ふざける、おどける」という意味があります。大阪・なんばを拠点に「なんばエリアに訪れたくなる、過ごしたくなる動機づくり」を実現するために、ジャンルレスなクリエイターとさまざまな共創をし、大真面目にふざけていく。街のあらゆる場所でチョケる楽しさを通じて、人を惹きつけ続ける次代のなんばの創造を目指します。

レジデンスプログラムはプラットフォーム『AWRD』にて活動クリエイターを公募。採択されたクリエイターは3ヶ月間、大阪なんばの街を拠点に、自身のアイデアやクリエイティブの種を、試すことができます。第1期の活動は2023年11月〜2024年2月に行われ、6組のクリエイターとともに実験活動を実施。公共空間の使い方の可能性が広がりました。

1期メンバーと実施したイベントの様子(動画制作:竹山 樹)
街の中に寝転がれる場所をつくる「なんかいい寝ころ場」や、なんばの刺激的な夜を案内する「ナイトカルチャーツアー」、大阪に古くから伝わる上方落語を気軽に聞ける機会を設けた「初めての上方落語」など、多彩なエンタメ企画を実施。

ロゴマーク/コンセプト

ロゴデザイン:森倉 ヒロキ(グラフィックデザイナー)、プログラム名、コンセプトテキスト:アサダ ワタル

活動拠点「Base(108)」

なんばパークス1階に位置する「Base(108)」は、アジャイル的思考でモノ・コトを創り上げ、体験できるChokettの活動拠点です。人々の価値観を受け入れながら、なんばを盛り上げていく部室のような役割でもあります。プログラムに参加するクリエイターは、屋内スペース、屋外オープンスペースを創作活動に使用できるほか、展示や販売、パフォーマンスの場としても活用が可能です。

活動拠点Base(108)には、みかん箱、ツール棚、DJ屋台など、クリエイターの創造力を後押しする什器を用意。(ファサードデザイン:乃村工藝社)


アイコンとなる木製ロケットモニュメントなど、TEAMクラプトンと共に制作した。

Approach

なんばの公共空間を舞台に多彩な実験を実施

Chokettを具現化するために、まずはリサーチやフィールドワークを経てプレイベントを実施。クリエイターたちによるトークセッションや古着リメイクを0円で販売する「0円ショップ」、屋台づくりなどプロトタイプの出展、DJプレイとともにChokettの開幕を盛り上げました。イベント後、第1期生を募集し6名のメンバーを採択。プレイベント〜1期生の約3ヶ月の活動期間の中で、15種を超える実験を実施しました。

Chokettが大切にしていることは、ひとつの大きなエンタメを生み出すのではなく、小さなエンタメを多く生み出すこと。クリエイターだけではなく大人や子ども、観光客を含めた全ての人たちが担い手となり、ひとりでも楽しめるきっかけを多発的につくることで、Chokettの目指す世界観を表現しています。

「夜まで賑わう大阪一の繁華街・ミナミ」「たこ焼き・串カツ」などの固定されたイメージから、ファミリー層や若い世代などの中には“なんばでの居づらさ”を感じてしまうことも。歴史あるなんばの建物や食などのカルチャーを特定の年代や性別に敬遠されないように、クリエイティブと掛け合わせて何度も伝えていくことで、街の魅力を再発見できるようにする。また、継続して伝えることで、カルチャーの継承に繋がり、新しいコミュニティの形成にも発展していくことを期待しています。

また、Chokettはクリエイターの活動の後押しにも繋がっています。プログラムにより、クリエイターにとって新しいことに取り組む「0→1」へのハードルが下がりました。今後も実験への一歩が踏み出しやすい空気を醸成していきます。

青山メリヤス、山田 麻理子さんの0円ショップ。他人のいらなくなった衣類で服をつくり上げ、それを0円で販売するという新しい価値観を商品に。

活動拠点「Base(108)」の前は、ショッピングに来た家族や外国人観光客が行き交う。

DJ屋台を子どもたちと制作

制作した屋台を使って、街に滲み出す様々なアクティビティを実施。(1期のクリエイター:ミウラセナ)

こたつを持って、なんばの街の過ごし方を調査。(1期のクリエイター:流しのこたつつ)

みかん箱を客席とし、トークイベントを実施。雨の中、傘を差しつつ開催。

芝生の上に、風船を使った自作のクッションを持ち出すと、子どもたちが集まってきた。(1期のクリエイター:竹村望・井上康子)

創造性を引き出す、チームビルディングとムード醸成

多様なメンバーが集まるプログラムだからこそ、何よりもチームの一体感が重要。ロジックやフレームワークには収まりきれない溢れる熱量によって活動がより加速すると考え、チームビルディングとムードづくりに力を注ぎました。

まずはクリエイティブを駆使してビジュアル面からプログラムの世界観を醸成。関西弁で「ふざける」を意味するChokettの“チョケ”を体現できるように、大阪ならではの軽快な“ノリ”を意識し、遊び心を忘れないコミュニケーションを心がけました。チーム内ではテーマソングを決め、活動のムードを高める取り組みも。異なるバックグラウンドを持つ人々の集まりの中で、各々が創造性を発揮し、Chokettが理想とするムードが生まれやすくなりました。

背景ビジュアルは街中にあるさまざまな物体がロケットのように飛び交っている様をイメージ(制作:若木 くるみ)

ロゴデザイン、ビジュアルデザイン:森倉 ヒロキ(グラフィックデザイナー)

自走し、持続可能なプラットフォームの構築

継続なくして、まちづくりはできません。そこで、プロジェクトの担当者が入れ替わっても面白さや熱量が継続する仕組みをつくるべく、南海電鉄が自走できるプラットフォームを構築中。1期では南海電鉄とロフトワークが事務局を担い、全体像を設計。2期からは外部パートナーとしてメンターとコミュニティマネージャーを配置し、南海電鉄は施設やエリアの管理、ロフトワークはプログラム全体のディレクション、サポートを担う予定です。試験的にまずはやってみて、改善点を都度チューニングしながら長期的に自走できる仕組みづくりを行っています。

現在は実験的に南海電鉄が管理しているエリアを舞台に活動していますが、将来的にはエリアを拡大していく予定です。街全体を使って、なんば発のイベントを同時多発的に発信していきながら、街全体がエンタメのステージとなる。そして、人々が訪れ続ける活気ある街、なんばを目指していきます。

Chokettが描く未来予想図

Process

Partner

Chokettを共につくるパートナー

アサダワタル

アサダワタル


アーティスト、文筆家、近畿大学 文芸学部文化デザイン学科 特任講師

森倉ヒロキ

森倉ヒロキ


グラフィックデザイナー

若木 くるみ

若木 くるみ


版画家

山口 晶

山口 晶

TEAM クラプトン

今村 謙人

今村 謙人


カモメ・ラボ/橋ノ上ノ屋台共同店主

笹尾 和宏

笹尾 和宏


NPO法人とんがるちから研究所研究員, 認定SHIKAKIST, 経営科学博士

三宅 航太郎

三宅 航太郎


デザイナー

Member

大前 孝文

大前 孝文

南海電気鉄道株式会社
まちづくりグループ まち共創本部 グレーターなんば創造部

福井 良佑

福井 良佑

南海電気鉄道株式会社
まちづくりグループ まち共創本部 グレーターなんば創造部

入江 浩介

入江 浩介

南海電気鉄道株式会社
まちづくりグループ まち共創本部 グレーターなんば創造部,課長

寺田 成

寺田 成

南海電気鉄道株式会社
グレーターなんば創造部長

※所属や役職は2024年3月末現在のものです

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka 準備室

Profile

服部 木綿子(もめ)

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

太田 佳孝

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター / FabCafe OSAKA 準備室

Profile

山﨑 萌果

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

加藤 修平

加藤 修平

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

村田 菜生

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

岩倉 慧

株式会社ロフトワーク
バイスFabCafe Tokyoマネージャー

Profile

メンバーズボイス

“グレーターなんばビジョンの具現化は、ハードではなくソフトで実現したい。固定的なイメージではない"なんばらしさ"を大切にしながら進めています。ロフトワークさんとの協力も、「なんか考えてよ」ではなく、「一緒に考えて汗を流しましょう」という姿勢で取り組んでいます。現在プロジェクトは二期目に入りましたが、定型化することなく、さらなる高みを目指してステップアップしていきたいです。”

南海電気鉄道株式会社 グレーターなんば創造部長 寺田 成

“「エンタメ」というと、有名な人たちが来て大勢の人が一斉に盛り上がる、という状況を想像する方も多いと思います。それも素晴らしいと思います。しかし、多様性という言葉があちこちで議論されている今の時代、「エンタメ」のカタチはそれだけではないはず。
例えば、騒ぐのが苦手な人、人と話すのが苦手な人、お酒を飲むのが苦手な人。そういった人たちでもおおらかに楽しめるような"小さなエンタメ"が広がっていけば、なんばの街はもっと豊かになると思います。そうなってほしい。
目指す世界は描きつつ、活動は自由に。なんばは「やってみてから考える」が許される、そういう街だと思います。思う存分チョケてほしい。”

株式会社ロフトワーク プロデューサー 小島 和人(ハモ)

“「誰もが演者になれる街」が、Chokettを通して私たちがつくりたいなんばという街の理想の姿です。
このプログラムを始めてまだ間もない頃、拠点であるBase(108)の前でみかん箱を並べてイベントのレイアウトを検討していた私たちの前に、“彼”は颯爽と現れました。立派な舞台があるわけではないけれど、座席状に並んだみかん箱に囲まれてステージのように見立てられたなんばの街の真ん中で、彼は「一曲歌わせてもらうで」と言い、高らかに一曲披露し、「ほな」とどこかに去っていきました。彼は、ただの通りすがりの大阪のおっちゃんです。もしくは、彼こそがエンタメの神様だったのかもしれません。なんばという街が歴史の中で積み重ねてきた産業と文化の土壌には、訪れる誰でもを演者に変える力が元来備わっているのだと、その光景を見た私たちは確信しました。
住む人、働く人、遊ぶ人。街に関わるあらゆる人を結び、豊かな相互の関係を育む新しいエンタメ。Chokettの街づくりはまだまだ始まったばかりです。”

株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター 太田 佳孝

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