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寺本 修造, 松井 創 2025.08.01

起業家人材を地域で育てるには
ロフトワークの支援事例3選

地域の未来を切り拓く、起業家人材の育成を支援

地域の未来を動かすのは、地域で実践する人材

地域の産業や暮らしを、次の世代へとつないでいく──その原動力となるのが、地域に根ざして価値を生み出す「起業家人材」です。
事業の立ち上げにとどまらず、地域資源を見出し、人と人をつなぎながら、新しい仕組みや実践を生み出していく存在。そうした実践者の登場は、自治体にとっても、新たな変化の起点となります。

いま求められているのは、“共創”と“実践”を見据えた育成のしくみ

これまでの地域における人材育成は、研修や外部講師によるセミナーなど、知識をインプットすることに重きを置いた取り組みが中心でした。こうした手法も一定の意義を持つ一方で、「現場に活かせない」「地域との接点が乏しい」「育成後の実践機会がない」といった課題も見受けられます。
起業家人材のような実践的な担い手を育てていくには、単なる知識伝達を超えて、自ら問いを立て、他者とつながりながら、実践を通じて価値を生み出す力が必要です。特に、地域で求められる人材には、以下のような役割が期待されています。

  • 地域資源や人をつなぎ、協働を生む“ハブ”になる
  • スタートアップや新規事業を通じて、地域経済を動かす担い手になる
  • 抽象的な課題を言語化し、実行可能な形に落とし込む存在になる

このような力を育んでいくためには、対話、実践、内省、そして他者とのコラボレーションを重ねながら、地域全体のつながりとともに成長する仕組み=エコシステムの構築が欠かせません。
ロフトワークは、地域の資源や関係性を活かした“育成の土壌”づくりを支援し、起業家人材が自らの問いを育て、実践につなげていくプロセスに伴走してきました。
ここからは、そうした取り組みの事例を3つご紹介します。

地域に根ざした起業家を、地域とともに育てるという選択

地域課題の解決や新たな価値創出に挑む、次世代の起業家たち── その多くは、地域の資源や人との出会いをきっかけに、自らの問いを見出し、行動を起こしています。
ロフトワークは、そうした芽生えを一過性の挑戦で終わらせず、地域に根づいた人材と仕組みとして育てていくために、行政や企業とともに、育成プロセスの設計から伴走支援までを行っています。

事例: 富山県「T-Startup Leaders Program」
デザインの力で成長を後押し 富山県のスタートアップ育成支援

T-Startup Day当日に登壇者がトークセッションをしている。左から、寺本 修造氏(ロフトワーク)、花城 泰夢氏(BCG X)、諏訪 光洋(ロフトワーク)、古結 隆介(エムスリー株式会社)、小池 藍(THE CREATIVE FUND)。手前には真剣に話を聞く視聴者が多数がいる。

富山県では、地域経済の持続的な発展や若者の地元定着に向けて、スタートアップ支援の強化が重要なテーマとなっていました。特に、起業家にとって「地域との信頼をどう築き、継続的な支援を得られるかどうか」がその後の成長や定着に大きな影響を及ぼすという課題意識がありました。こうした背景を受けて、県の成長戦略「幸せ人口1000万」に基づき、スタートアップ支援の中核施策として始動したのが「T-Startup Leaders Program」です。

ロフトワークは、本プログラムの立ち上げ、および2022、23年度の企画運営を担当。このプログラムでは、県内の成長性の高いスタートアップを選出し、約6か月にわたって専門家による個別メンタリング、事業戦略支援、地域との接続機会の提供などを実施。プログラム終盤には成果発表イベント「T-Startup Day」を開催し、投資家や支援者、行政関係者とのネットワーク構築を支援しました。

企画運営においては、プログラムの全体設計から実施、ビジョンの言語化、採択企業に対するハンズオン支援などを実施しました。ハンズオン支援では、採択企業と二人三脚で歩み、デザインのアプローチを導入しながら、魅力的なビジョンや顧客目線でのイノベーション創出を支援。地域発のスタートアップの事業成長に貢献し、富山県におけるスタートアップ・エコシステムの形成を目指しました。

共創のポイント

  • 起業家の内発的動機に寄り添いながら、地域資源との接続を支援
  • ビジョンの言語化やストーリー設計を通じて、事業と社会の接点を強化
  • 成果発表イベントを起点に、地域・支援者・行政との関係性を構築

詳細については、以下の事例記事をご覧ください。

スタートアップの成長をデザインの力で牽引する「T-Startup」プロジェクト詳細

事例:岡山県真庭市「Cultivate the future maniwa(通称、カルマニ)」
地域に持続可能な共創の基盤を築く、SDGsビジネス創出プログラム

Cultivate the future maniwa プログラムでのワークショップの一コマ。

真庭市では、都市部からのU・I・Jターン促進や起業家・従業員の機会創出を通じて、若い世代を呼び込み定着させることが課題でした。持続可能な地域づくりを目指し、SDGsの視点を取り入れた新たなビジネス創出が必要とされていました。

ロフトワークは、2021年より、真庭市におけるSDGsビジネス創出プログラム「Cultivate the future maniwa(通称、カルマニ)」を包括的に支援しています。地域事業者と都市部の起業家・デザイナーらをつなぎ、SDGs領域での新規事業アイデア創出を目指すプログラムを実施しています。
特に、2023年度では、農業、モビリティ、教育など多角的なテーマでビジネスアイデアを具現化するためのワークショップを設計・運営しました。官民連携のもと、サービス・製品のプロトタイプ開発・実証実験まで伴走しました。このプロセスでは、プロジェクトマネジメントやクリエイティブディレクションも行いました。

共創のポイント

  • 地域事業者と外部人材による「民民共創」の促進で、地域産業の活性化を推進
  • 多角的なテーマ設定と、ビジネスアイデアの具現化に向けた実践的なワークショップの実施
  • デザイン思考を取り入れ、地域に根ざした持続可能なビジネスモデルを共創する基盤を構築
ピッチイベントでプレゼンテーションを行っている様子。
ビジネスアイデア創出プログラムで発言をしている様子。

詳細については、以下の事例記事をご覧ください。
真庭市とのプロジェクト詳細

1年目 2年目 3年目 4年目(成果イベントレポート)

創造的なコミュニティが育む、新たな価値のデザイン

未来を切り拓くイノベーションは、多様な視点や経験が交わる場から育まれます。バックグラウンドの異なる人々が「問い」を共有し、共感を通じてつながり、共に手を動かす。そのプロセスが、新たな価値を生み出す力となります。

ロフトワークでは、そうした創造的なコミュニティが育つ場 ── たとえば渋谷の「SHIBUYA QWS」のような環境 ── との連携を通じて、行政や地域のプレイヤーがこれまでにない視点や問いに出会う機会を提供しています。自治体がそのような場に“参加する”ことそのものが、地域に新しい風を吹き込むヒントになるかもしれません。

事例:SHIBUYA QWS 立ち上げ・運営プロジェクト
多様な「問い」から社会価値を生み出す渋谷の共創拠点

QWSプロジェクトスペースの風景。オンラインMTGをしている人、ディスカッションをしているグループなどがいる。

渋谷スクランブルスクエア内に誕生した「SHIBUYA QWS」は、渋谷ならではの多様な価値観が交差する場で、新たな社会価値を生み出すことを目的とした共創施設です 。ロフトワークは、渋谷スクランブルスクエア株式会社と共同事業体を組み、QWSの立ち上げから運営まで包括的に支援しています 。

事業計画、コンセプト開発、ブランドデザイン、空間・内装設計、サービス・運用設計、コミュニケーションデザインといった開業準備の全てをマネジメントしました 。運営においては、ビジネスから芸術、社会活動まで、多様な領域のメンバーが力強く創造できるコミュニティを形成するため 、ピッチイベントやワークショップ、公募プログラムなど14のユニークなプログラムを企画・運用し 、メンバー間の交流を活発化させています 。

個人会員だけでなく、自治体や企業も「コーポレート / パブリックメンバー」として会員登録が可能。現在約20の自治体が登録しており、多様なコミュニティが融合し 、新たなイノベーションを推進する「問い」を探索し 、社会に発信する場として活用されています。

共創のポイント

  • 多様な分野の人が集まり、新しい社会価値を創造する会員制の共創プラットフォーム
  • 「問い」を軸にしたプログラム設計により、メンバー間の自発的な交流とプロジェクトの深化を促進
  • 物理的な場を超え、人とアイデアが交差し社会変革を駆動する「駅」のような存在を目指す
QWSプロジェクトスペースの風景。オンラインMTGをしている人、ディスカッションをしているグループなどがいる。窓に外に渋谷〜新宿の高層ビルが見える。
QWSのクロスパークの風景。仕事をしている人が多数。モニターには映像が投影されている。

ロフトワークが伴走する、地域の未来を切り拓く、起業家人材の育成支援

地域の未来を開く、起業家・事業創出人材を「育成する」というアプローチ。それは、単に“スキルを教える”だけでなく、地域の中から新たな価値や事業を生み出す“意志と行動”を育むプロセスに重きを置くものです。地域に眠る可能性と、人の熱意を丁寧に繋ぎ合わせながら、未来へつながる挑戦を生み出していく取り組みです。

事例を通じて実際に見えてきた、地域を支える起業家人材育成に共通する視点は、次のようなものです。

「問い」から始まる、事業創造の機会設計

既存の課題や常識にとらわれず、地域の未来に対する「問い」を起点に、多様な人々が解決策としての事業アイデアを探求できるような機会を設計します。自身の内側から湧き出る問いと、地域のリアルな文脈を接続するプロセスこそが、起業家人材の出発点となります。

多様なステークホルダーを巻き込む共創エコシステム

起業家や事業創出人材だけでなく、地域住民、企業、行政、クリエイターなど、多様な関係者と共に学び、考え、挑戦していく関係性を育みます。互いに刺激し合う環境が、持続的な事業創出と実装につながるエコシステムを形成します。

「場」と「仕組み」で挑戦を育む

物理的な共創拠点や、試行錯誤を前提とした制度設計によって、アイデアが具体化し、社会実装されるまでの挑戦を支える環境を整えます。地域の中に、安心して実験できる“余白”があることが、実践を加速させます。

地域資源の新たな発見とビジネス化

歴史や文化、遊休空間、人々の想いといった“見えにくい資源”を、起業家の視点で再発見・再編集することで、これまでにない体験や持続可能なビジネスへと昇華させていきます。価値が埋もれたままだった地域資源が、新たな事業の核になります。

こうした積み重ねを通じて、自律的に新たな事業が芽吹き、育ち、つながりながら、地域全体の可能性を広げていく。そんな連鎖を生み出すことこそが、ロフトワークが描く地域の未来を支える起業家人材育成の姿です。

ロフトワークは起業家人材の育成を伴走支援します

ロフトワークは、行政や教育機関、地域企業のパートナーとして、「起業家人材の育成」を軸にした地域の未来づくりを支援しています。  

地域の課題や可能性を起点に、デザイン思考やスタートアップ的視点を取り入れながら、実践を通じて「自ら考え、動く力」を育てる取り組みです。

創造的な活動を促す場の設計、多様な分野や人々をつなぐ関係性の構築など、地域に根ざした育成プロセスを支援します。構想段階のコンセプト設計から、学びのプログラム開発、アドバイザーによる伴走支援、プロジェクトを通じた実践機会の提供まで、各地域の状況に応じて柔軟に設計しています。

プロジェクトの設計は目的や課題に応じてカスタマイズ可能です。行政職員向けの研修から、住民との共創ワークショップ、スタートアップ支援との連携まで、幅広く対応しています。具体的な支援内容や事例に関心のある方は、ぜひご相談ください。  

「地域で必要とされる人材像を一緒に考えたい」「既存施策との連携を模索したい」といったご相談も歓迎しています。  

支援内容の詳細や、実際の取り組み事例について知りたい方は、ぜひご相談ください。
 また、「地域で必要とされる人材像を一緒に描きたい」「プログラム導入の相談をしてみたい」「既存施策との連携を考えている」といったご相談も歓迎しています。

 まずはお気軽に、以下のお問い合わせフォームよりご連絡ください。

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