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基 真理子 2025.03.26

自律性を”仕組み”で育てる
──リーダーに頼らずとも成長するチームのつくり方

一人一人が輝く組織をつくるには

あなたのチームメンバーの表情が、最も輝く瞬間は、いつでしょうか?
おそらく、指示された仕事をこなすときではなく、自ら考え、動いたときではないでしょうか? 自律的なメンバーが集い、指示管理しなくても、それぞれが豊かな成果を生み出す。多くのリーダーはそんな理想のチームを目指しているはずです。では、どうすれば、理想を現実へと近づけていけるのでしょう。

ロフトワークは、一人ひとりが自律し、ボトムアップで進化し続ける文化を大切にしてきました。しかし、この「自然と育まれてきた創造性」を、組織の成長とともに「誰もが再現できる仕組み」へと進化させる必要がありました。

本記事では、HRディレクターの私が、プロジェクトマネージャーとしての経験も交えながら設計してきたオンボーディングプログラムでの試行錯誤や発見をもとに、これからの時代に求められるチームづくりのヒントを探ります。

基 真理子

Author基 真理子(HRディレクター)

兵庫出身、京都在住。フリーター時代にWebの世界に魅了され独学を始める。その後、百貨店系クレジットカード会社のWeb担当者として、サイトのフルリニューアルなどを推進。書籍『Webプロジェクトマネジメント標準』との出会いをきっかけに、2018年ロフトワークへディレクターとして入社。教育機関や企業の大規模Webリニューアルから、イベントの企画運営など幅広い領域に携わる。また大学でのPM特別授業講師、KJ法勉強会など、多様な「学び」のデザインにも従事する。2021年に罹患した病をきっかけに「健やかに働くこと」をより深く考え、HRディレクターに就任。採用業務全般から、育成プログラム開発まで「人」に関わる業務を担っている。2024年米国PMI®認定PMP®,PMI-ACP®取得。合言葉はENJOY NOISE。アカハライモリと暮らす。

Profile

ロフトワークという「Will」の集合体

入社直後の私は、ロフトワークのあまりのフラットさに驚きの連続でした。それから7年が経ち、いま改めて感じるのは、ロフトワークとは、メンバーの「Will(意思)」の集合体であること。組織構造や制度、働き方、プロジェクトの方向性までもが、トップダウンの指示ではなく、「やりたい」というメンバーの意思によって決まっていくのです。そんな仕組みを活用しながら、私も、自身のWillとロフトワークを掛け合わせながら、「新しいこと、面白いこと」にチャレンジし続けています。

やりたい人が起点になって始まるというのも、僕ららしいやり方だなと思う。FabCafeもヒダクマもたまたま始まったという面があって、実は戦略的じゃないんだよね。偶然性をどう捉えるかという話でもあるんだけど、やりたい人がいるというのが大切で、だから上手くいく。

引用元:ロフトワークの今とこれから——創立25周年を迎えて

また、ロフトワークには自己主張だけでなく、相手の意見を尊重する文化もあります。プロジェクトごとに多様なパートナーと協働する中で、さまざまな想いを受け止めながら、より良い成果を生み出すプロセスが根付いている。この「共創の仕組み」こそが、創造性を自然と育む環境につながっているのかもしれません。

 

メンバー集合写真

多様なバックグラウンドを持つメンバーが、それぞれのWill(意思)を尊重し合いながら働いている

「自然発生的なもの」を「誰もが再現できる仕組み」へ

フラットで自由な環境を特徴とするロフトワークでは、その育成のあり方も一般的な組織とは異なります。トップダウンで指示・管理するのではなく、メンバーの主体性を引き出し、自発的に動ける力を育む、そんなスタイルが求められます。しかし、主体性は「出せ」と言われて出せるものではなく、一朝一夕で身につくものでもありません。

メンバーが組織に馴染む過程は「組織社会化」と呼ばれます。これは単なる業務習得にとどまらず、組織の文化や価値観を理解し、実践していくプロセスを含みます。周囲を観察しながら徐々に調和し、自分なりのスタイルを確立していくーーそんな段階を経るものです。そのため、ロフトワークでは、メンバーが主体性を発揮しながらもスムーズに組織に馴染んでいけるよう、適応を支える仕組みを意識的にデザインすることが不可欠です。

これまでのロフトワークでは、時間と経験を通じて自然とこの文化を身につけることができました。しかし、組織が成長し、多様なバックグラウンドを持つメンバーが増える中で、「見て学ぶ」だけでは十分ではなくなりました。だからこそ、これまで暗黙知として受け継がれてきた適応のプロセスを、「自然発生的なもの」から「誰もが再現できる仕組み」へと進化させる必要があったのです。

そこで、従来のOJT(On-the-Job Training)中心だったオンボーディングを見直し、Off-JT(Off-the-Job Training)を取り入れた新たな設計へと刷新。単に業務を教えるのではなく、メンバーが自律性を育みながら、チームとして共創できる環境を整えることを目的とし、プログラムを構築していきました。

メンバーが働く様子
経験値、経歴も多様なメンバーに何をどのように伝えるか、試行錯誤の連続だった。

アジャイル的設計プロセス:試行錯誤の連続

実際のプログラム構築は、試行錯誤の連続でした。新卒・中途、バックグラウンドや経験の違い、さらには職種ごとに求められるスキルの異なる——その中で、どうすれば「自律的に動く力」を育めるのか? 何が達成できれば、オンボーディングは成功と言えるのか?最初から明確な答えがあったわけではありません。だからこそ、私はプロジェクトマネジメントの視点に立ち返って、小さく試し、冷静に観察しながら、改善を繰り返し、方向性を探るというアジャイル的アプローチをとりました。

理想を言えば、オンボーディングはトップダウンで整然と設計されるべきかもしれません。しかし、ロフトワークのように「暗黙の文化」が根付いた組織では、そもそも 何が新メンバーの適応を妨げるのかすら、当初ははっきりと見えていませんでした。そこで私たちは、「決めたものを実施する」のではなく、「試しながら進化させる」アジャイルな設計プロセスを取り入れたのです。

オンボーディングとは「完璧な仕組みをつくる」ものではありません。それは、新しいメンバーが「自分らしく創造性を発揮できる環境」を整えるもの。そのためには、私たち自身も、オンボーディングを常に進化し続けるプロセスとして捉えることが重要だと考えています。

オンボーディングのアイデアや設計図
ヒアリングやアンケートなど様々な手法で改善を繰り返し続けた。

メンバーの自律性を育む3つのヒント

このオンボーディングプログラムは、現在も継続的に改善中です。日々変化する環境の中で、私自身も、新メンバーとともに学び、試行錯誤を続けています。

ここからは、その過程で見えてきた特に重要だと感じる3つのヒントをご紹介します。オンボーディングに限らず、メンバーの創造性や自律性を引き出したい方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

1. 問いを通じ「探索する旅路」をデザインする

「マニュアルで仕事を覚える」ことには限界があります。私も、最初に「教えたいこと」をリストアップしましたが、その数は400項目を超えていました。すべてを伝えようとすれば、新メンバーは情報過多に陥り、本当に伝えたいことが伝わらないばかりか、主体性を奪ってしまうことにもなりかねません。

もちろん、伝えたいことはたくさんあります。しかし、変化の激しい環境では、どれだけ詳細なマニュアルを用意しても、それはその時点での「正解」に過ぎません。むしろ、一時の正解を受け取るだけの受動的な学習者を生み出してしまうという課題がありました。そこで、「指示」ではなく「問いかけ」を重視する、探索型オンボーディングを設計しました。たとえば、こんな問いを投げかけます。

  • ロフトワークはどういう会社なのか? 社内外からみるとどんな価値をもつのか
  • プロセスを通じ、あなたが学んだこと、できるようになったことは?
  • どのようにロフトワークのアセットを活用するか? 

問いを通じて新メンバーが自ら考え、試行錯誤するプロセスを大切にすることで、単なる知識のインプットではなく、「自ら学び、判断する力」を自然と身につけられるようにしました。オンボーディングとは、答えを与えることではなく、「探索する旅路」をデザインすること。問いを重ねながら、新メンバーが主体的に動き、ロフトワークらしい学びのスタイルを体得できる、そんな環境をつくっています。

オンボーディングで伝達したいことを洗い出した図
伝えたいことを羅列すると400以上の付箋に。完全なマニュアルを作ってもメンバーの主体性を奪うだけだと気づいた。

2. いきなり放任せず、段階的に権限を委譲する

「自由にやっていいよ」と言うだけでは、メンバーの成長は促されません。適切なタイミングで 「成長に応じて手を離していく」プロセス を設計することが重要です。具体的には、以下の4つの段階 で権限を委譲していきます。

  1. モデリング(見せる):まずは先輩がやってみせる
  2. コーチング(試す):反復練習の機会をつくる
  3. 支援(任せる):適度なサポートをしながら手を離す
  4. 委任(完全に任せる):最終的にすべてを任せる

オンボーディングでもこの流れに沿って、シンプルな業務からスタートし、徐々に複雑なタスクへと移行するプログラムを設計しました。「いきなり放任しないこと」こそが、結果的に自律的なメンバーを育てる近道です。適切なサポートのもとで挑戦を重ねることで、新メンバーは「手探り状態」に陥ることなく、主体性を持って成長していきます。

3. 関係性を構築する仕掛けをつくり、共創の文化を根付かせる

どれだけ学んでも、実践の中で分からないことは必ず出てくるものです。そのとき、「誰に聞けばいいのか?」「どこにサポートを求めればいいのか?」 を知っているかどうかが、新メンバーのスムーズな適応と成長を大きく左右します。そこで、オンボーディングでは、社内メンバーへのヒアリングや対話の場を設計し、「他者の視点」を獲得する経験を提供しました。さまざまな視点に触れることで、発想の幅が広がり、創造性を引き出すことにつながるからです。ただ「社内の人と話してください」と言うだけでは、関係性は自然に生まれません。そこで、新メンバーが「人に話を聞きにいく流れ」を意図的にデザイン しました。

  • 前半:指定されたメンバーへのヒアリングを実施し、社内ネットワークのきっかけをつくる
  • 後半:新メンバー自身が課題を設定し、自ら主体的にヒアリングを行う

このように、「話しにいく口実をつくる」ことで、社内の関係性が自然と生まれ、組織への馴染みやすさが高まります。結果として、新メンバーは他者と協業しながら課題解決する力を身につけ、チームの一員として早期に機能できるようになります。

創造性を育む環境が、チームを豊かにする

オンボーディングプログラムを構築する中で痛感したのは、「管理するリーダー」ではなく、「主体性を引き出す環境をつくるリーダーシップ」が必要だということでした。プロジェクトマネジメントの世界では、ここ数年で「サーバントリーダーシップ(支援型リーダーシップ)」が重要視されるようになりました。これは、リーダーがトップダウンで指示を出すのではなく、メンバーが最大限の力を発揮できるよう支援し、成長を促すスタイルです。この考え方は、プロジェクト単位の仕事だけでなく、組織やチーム運営においても非常に有効だと感じます。

打ち合わせする風景

かつての組織では、「リーダーが決め、メンバーが動く」ことが一般的だったと思います。しかし、変化の激しい時代において、この構造は適応力を失い、メンバーの創造性も発揮されにくくなります。これからの組織に求められるのは、メンバーが自ら考え、動き、意思決定できる環境です。リーダーの役割も、すべてをマネジメントすることから、「メンバーが主体的に動ける仕組みをデザインすること」へとシフトしてるのです。

新メンバーが「受け身」ではなく「創り手」としての視点を持ち、自ら考え、行動できる環境が整えば、やがてリーダーが細かく指示をしなくても、組織は自律的に動いていくでしょう。

環境づくりに「完成」はありません。組織の成長とともに、新たな課題が生まれ、求められる仕組みも変化していきます。だからこそ、より良い環境をつくり続けるために、これからも試行錯誤を重ね、進化し続けていきたいと思います。

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