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2022.12.02

知財コミュニケーションをリデザイン!
忖度なしのギャル式ブレストで「契約書」を考える

時代に合わせて、“知財”をきちんと理解するために。

「クリエイティブ」という言葉が一般的になってきた昨今。制作過程や流通のあり方は日々進化を続けています。現場では、機械学習を活用したAIがイラスト制作を行ったり、流通では、従来のような1度きりの納品ではなく、月額定額のサブスクリプションモデルも常識となってきました。テクノロジーの進歩のおかげで、個人が気軽に制作活動を行うことができる今、大切になってくるのが、知的財産権の課題です。

創業時から「Creativity within All ー全てのひとにのうちにある創造性」を信じて活動してきたロフトワークでは、これまでもクリエイターの知財保護とオープンコラボレーションの活性化に取り組んできましたが、誰でもクリエイターになれる今だからこそ、時代に即した形で、“知財”をきちんと理解していくことが大切だと強く考えています。

ロフトワークでは、知財やクリエイターの権利に関する社内勉強会を昨年10月から開催。多様なプロジェクトデザインの実現に向けたボトムアップの施策として「攻めのバックオフィスをつくろう!」という声掛けを旗印に、現場社員で組成された「知財事務局」が活動しています。

今回は知財のなかでも重要な「契約書」にまつわる取り組みを行いました。知財事務局のメンバーでもある、プロデューサーの福田がレポートします。

福田 悠起

Author福田 悠起(プロデューサー)

1997年鳥取県生まれ。学生時代に過ごしたシェアハウスでの経験から、共同空間における人と人同士の、素直なコミュニケーションが生む価値と必要性を認識。見た目のデザインだけではなく、仲間・感情・社会など多角的な視点での価値創出に興味を持ち、ロフトワークに入社。
コミュニティデザインを中心に、だれもが夢中になれる居場所づくりに取り組む。趣味は国立公園めぐり。

Profile

編集:鈴木真理子

契約書に関する誤解とは?

福田の契約書に対するイメージ図。毎回、契約書を確認していない福田(写真左)と、それを注意する上司(写真右)

クリエイターとのお仕事に限らず、取引や納品物に対しての権利保護対象を定めるのは、契約内容を明示する法的根拠となる書面。すなわち「契約書」です。

文字はびっしり、甲やら乙やら普段使わない言葉が並ぶその冷徹な佇まいから、なかなか愛着を持つことが難しい契約書。その本質とは一体何なのでしょう。

そもそも契約書とは「誰が見ても認識の齟齬なく意味が理解できるか」が大きな論点となります。そのため、一つの契約書に対して解釈のずれがなく、客観的な共通認識が必要であり、それさえ満たすことができれば、下記でも契約書としては成立します。

・イラストを加える
・色やデコレーションを加える
・書面形式ではない
・日常会話のような、平易な言葉遣いが使われている

しかし、実際は、一般的な書式を踏襲することに囚われているのが現状です。

ギャルと一緒に、契約書を破壊してみた!

実はもっと自由に作ってもいい、作るべきなのに、フォーマットに変更の余地がないと誤解されている契約書。今回は契約書の内容を参加者全員で見直し、内容を改めてわかりやすくリデザインするワークショップを開催しました。ゲストでお呼びしたのは、ギャル式ブレストを展開する「CGOドットコム」さんです。

ギャル式ブレストとは、令和ギャルが企業の会議に参加し、一緒に課題解決を行う取り組み。「あだ名で呼び合う・敬語禁止・一番派手な服で参加」など、独自のルール設定によって、組織内のコミュニケーション硬直化の改善、新規事業創出のためのマインドセット獲得のサポートを実施しています。より多くの意見やアイディアが必要なブレストの本質的価値を最大化させるため、今回はギャルの方々の目線もいただきながら、取り組みを行いました。

契約書をデコったり、言い回しを変えてみる

ワークショップでは、参加メンバーがそれぞれの視点で自由に意見を言い合いながら、大きく印刷した契約書をカラーペンやシールでデコレーションを行いました。

「甲乙丙」といった普段使わないような言い回しを変えたり、相手が自分を裏切ることを前提として書かれた内容に、違和感を感じ修正するなど、参加者それぞれの視点で契約書内容を考察する機会となりました。

元の姿がうっすらとしか感じられないほど破壊された契約書

契約書の内容が「わかる」って楽しい

ワークショップを通じて、記載項目の詳細に対して、時間をかけて契約書の内容を読み解いていくと、ロフトワーク社員はもちろん、クリエイターとしてコラボしたCGOのみなさんからも、多くの学びが生まれました。

ワークショップ中には、

「契約書ってうちらが仲良くなるための約束ってことでしょ?」
「ここは〇〇で、注意が必要だよね。□□に変更しよう」
「こことここの文章は重複してわかりにくいから、〇〇とまとめるとシンプルになる」
「この契約のままだと、著作権的にクリエイターが不利な契約条件だね」
「もしかしてここ、うちら裁かれようとされてない??」

など、普段は小難しい単語を前にフリーズしていた契約書に対して、本質的な意味の掘り下げや再認識がありました。

ワーク後半には徐々に参加者の主体的な意見が交わされるようになり、「権利保護の観点からは、別の選択肢もあるのでは?」といったような能動的な会話も生まれ、意味理解を経て、創造的な行為へと昇華していきました。

権利の守り合いからコミュニケーションのデザインへ

契約書を破壊したワークショップの後日、最終発表として社内向けのイベントを開催しました。ゲストには法務の専門家として高崎俊弁護士を招き、ギャル式ワークショップから生まれた学びや疑問をぶつけ、契約書の記載内容が意味する本質的な意味を抽出しました。

また、「慣習的な契約書に対する本質的な意味の探求とスタンスを伝える」をテーマに、契約書との向き合い方についてのトークセッションを行いました。

いい対話から、いい契約は生まれる

トークセッションのパートで高崎弁護士から、知財に関する業界全体の話がありました。

「クリエイティブ業界も相当権利意識が高まってきていると感じますがそれも比較的最近の話です。現在でも、まだまだ、契約書を取り交わさないやり取りが多く残っている業界ではあります。

そもそも契約書とは論争が発生した場合の最終的な法的根拠であり、締結した契約書(法的根拠のある書類)を元に裁判所が判断します。そのため、どうしても過去の言葉や事例を踏襲することが増え、文体を一致させることにはそのような合理性があると今は考えられている」と話しました。

一方、婚姻届やサービスの利用規約といった「わかりづらい書面」のリデザインする取り組みは世の中のトレンドとして生まれている、とのこと。

そのうえで、高崎弁護士は、今回の取り組みである「契約書をわかりやすくしていくべき」という挑戦に対して肯定的であること、また、クリエイターと20年以上仕事をつくってきたロフトワークだからこそ、個別取引や知的財産の権利に対して、重要性や意義を深く考えプロジェクトを生み出してほしいことを伝えました。

さらに、現在は契約というと「守り」として社内法務が行うものになっているが、ディレクターなどプロジェクトを作る側の現場の意識を変えて、契約をプロジェクトのデザインに生かす、攻めの姿勢に変わっていって欲しい、現場から非連続的な変化を作ってほしいと伝えました。

[まとめ] 陣地取りから共創へ

契約を取り交わす2者間において、陣地取りのように考えられていた「契約」という行為を、一人ひとりが捉え直し、コラボレーション基点として、認識を再定義できないかという問いから始まったこのプロジェクト。

契約書の言語表現の難しさから生まれる違和感から目を背けず、攻めと守りの起点となる共通のルールがあるからこそ、まだこの世にないものは生まれます。自身がこのプロジェクトに参加した当事者として、当たり前のように取り組んでいる契約に対しての意識を高め、主体的に取り組むべきであると改めて考えることができました。

プロジェクトをより高い成功確度へと引き上げるためには、長期的な視点でクリエイター、クライアントとの関係値や権利について向き合うことが大切です。形式化された雛形を無意識に読み流すのではなく、個別の取引に最適な契約を考え、権利の所在までを考え抜いたプロジェクトデザインが大切だと考えます。

また、CCライセンスの普及や、ロフトワークが創業当初から掲げるオープンコラボレーションの実現などを通して、よりクリエイティビティに溢れる世の中にしていければと思います。そのためにも、このイベントが、自然と知財権利に対して前向きな会話が生まれるようなきっかけとなっていれば幸いです。

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