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岩沢 エリ, 諏訪 光洋, 棚橋 弘季, 寺井 翔茉, 金岡 大輝, 加藤 翼 2025.05.22

正解が溢れる時代に、私たちは何を問うのか
未来デザインとAI 速報レポート

私たちは今、生成AIの急速な進化により、働き方、学び方、暮らし方という「あらゆる体験」が根本から問い直される時代に立っています。企業や個人は、AIを単なる効率化ツールとして捉えるのではなく、どのように常識や価値観を更新し、新たな価値を生み出していけるのでしょうか?

2025年5月14日、ロフトワークとSHIBUYA QWSの共催で開催された1DAYカンファレンス&ワークショップ「未来デザインとAI」は、この問いに正面から向き合い、「アフターAI」の世界における未来の構想と価値創造の可能性を探る場となりました。研究者、起業家、経営者が集い、参加者も手を動かしながら、AIと未来をつくる実践方法を探った当日の様子を速報レポートでお届けします。

イベント情報

「未来デザインとAI」は、ロフトワーク/SHIBUYA QWS 共催の 1DAYカンファレンス&ワークショップ。

生成AIが社会を一変させる今、いかにして組織とビジネスの未来を描くのか。多様な領域での実践者の議論と手を動かすワークショップを通じて、AIと新たな価値を生み出すヒントを探りました。

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オープニングトーク:「AI導入の先にあるもの」を見据えて

株式会社ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪 光洋

ロフトワーク 代表取締役社長の諏訪 光洋がイベント冒頭に投げかけたのは、「AIをバリバリ使っている皆さんに問いたい。その先に何があるんだろう?」という問いでした。

プレゼンでは、過去の技術革新の事例を引き合いに出しながら、ヘンリー・フォードの有名な言葉「顧客に何が欲しいかと尋ねれば、皆『もっと速い馬』がほしいと答えるだろう」を紹介。AIの現在地も、まさにそのような段階にあると語ります。たとえば「AI冷蔵庫」や「AIアバター営業マン」といった、既存の発想を延長したような活用例は、導入初期によく見られる一方で、本質的な価値につながるとは限らないと指摘しました。

さらに、スターバックスの事例も取り上げ、高度なエスプレッソマシンを導入しながらも、オートメーション化を進めすぎたことで顧客体験が希薄になった反省から、人間的なコミュニケーションを重視する方針に転換したことに言及。AIは「見えないし、感じられない」技術だからこそ、「心地よい体験」をどう提供するかが重要だと説きました。

諏訪は、AIをインターネットに次ぐ大きな変革と位置づけ、「AIネイティブ」世代の登場が社会に大きな変化をもたらすだろうと展望を語ります。組織へのAI導入においても、単にライセンスを買うだけでは完結せず、AIとどう関わり、未来をどう形作るかが問われているとし、本イベントがそのための対話の場であることを強調しました。

KEYNOTE:価値創造とイノベーションの源泉となるものとは?

キーノートセッションでは、慶應義塾大学理工学部 教授の栗原 聡さんと、パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 SVP CMO DEI推進・カルチャー&マインド改革推進担当 山口 有希子さんが登壇。AI時代の価値創造とイノベーションについて語りました。

慶應義塾大学理工学部 教授 栗原 聡さん

栗原さんは、現在の日本におけるAI活用が「情報が動くだけの世界」での効率化に偏っていると警鐘を鳴らしました。「生成AIは人間が作り出したデータが元になる」という視点や、自分自身の創造力なしではAIの回答に流されてしまうリスクについても指摘。これからの時代、AIを価値創造に役立てるために求められるのは「何をしたいのか」「どうあるべきか」という根本的な問いであり、企業や個人は「優秀な歯車から小さくてもモーター」へその役割を変える必要があると強調しました。

パナソニック コネクト株式会社 取締役 執行役員 SVP CMO DEI推進・カルチャー&マインド改革推進担当 山口 有希子さん

一方、山口さんは企業変革の実践者として、パナソニック コネクトでのAI全社導入の経験を共有。一年間で186,000時間の労働時間削減という成果に触れつつも、AI時代の企業競争力の源泉は組織文化にあると提唱しました。縦割りから「フラットで俊敏な文化」への転換を目指し、フリーアドレスのオフィス、役員個室の撤廃、ドレスコード廃止など、「つながりやすさ」を重視した改革を展開していると語りました。

両名の対談では、イノベーションには単なる効率化を超えた「野望」が必要であり、それは打算的ではない「つながり」から生まれるという点で意見が一致。アフターAIの世界では、人間はより「自由意思」を持って創造や意識拡張を追求する存在になる可能性が示されました。

ポイントとなる問い

  • AIによる効率化を超えて、真の価値創造やイノベーションを起こすには何が必要か?
  • 企業競争力の源泉としての「組織文化」をどう変革し、「繋がりやすさ」をどう促進するか?
  • これからの時代、組織や社会を形づくる存在として、私たちはまずどんな未来を望むのか?

SESSION 1-A:変容する「方法」の価値とAI起点のビジネスエコシステム

「UXとビジネスエコシステムはどう変わる?」をテーマとしたこのセッションでは、ロフトワーク 執行役員 / CPO(Chief Produce Officer)の棚橋 弘季と株式会社Ridge-i 常務取締役の小松 平佳さんが登壇しました。

株式会社Ridge-i 常務取締役 小松 平佳さん(写真右)、株式会社ロフトワークCPO 棚橋 弘季(写真左)

棚橋はシステム思考のアプローチを起点に、AI技術の発展と「方法論」の価値変容に焦点を当て、人間の役割が「AIに適切に“方法”を実行してもらう」ことへと変化していると指摘しました。AIは大量データの処理に長け、人間は他者の内面の理解に優れているという互いの特性を活かし、特に「社会に届かない声」を人間が抽出してAIに学習させる重要性を説きました。

小松さんは、AI導入を支援するRidge-iの事例として、自動車部品設計のリスク予測の精度を高めるシステム構築や、衛星データの解析を行うアプリケーション開発などを紹介。「データ・AIがUXを主導する時代に”主導権”を握るのは、サービスを作る企業なのか、モデルを提供するAI企業なのか、データを保有するプラットフォーマーなのか」という問いを投げかけました。

議論では、現在のAI活用の多くが既存業務の効率化にとどまっており、それはまるで、印刷技術が発明された当初に新しい本を生み出すのではなく、ただ既存の写本を印刷していた状況に似ていると指摘。こうした状況を踏まえ、AIを起点とした新たなエコシステム構築を進める必要があるという見方が示されました。

ポイントとなる問い

  • UXデザインの主導者がAIになると、人間の役割はどのように変化するだろうか?
  • AIが拾いにくい「社会に届かない声」に対して、どのようなアプローチができるだろうか?
  • AIによって「これまでにない」エコシステムを生み出すとしたら、あなたの業界では何が可能になるだろうか?

SESSION 1-B:AIによる「学び」の変容と自己変容

「AIは「学び」をどう変えたか。進化させるか」をテーマとしたセッションでは、デジタルハリウッド株式会社 執行役員(大学事業部長)/小説家の池谷 和浩さん、合同会社Hundreds 代表の大塚 あみさん、ロフトワーク COOの寺井 翔茉が登壇しました。

合同会社Hundreds 代表 大塚 あみさん(写真左)、デジタルハリウッド株式会社 執行役員(大学事業部長)/小説家 池谷 和浩さん(写真右)

大塚さんは、大学時代のChatGPT活用から始まり、100日間のプログラミング作品投稿チャレンジを経て作家となった自身の経験を共有。AIは一般的にイメージされるような初心者が簡単に使いこなせる魔法の道具ではなく、専門家が使うことでこそ真価を発揮する「増幅器」であり、使用者自身も変容させる存在だと述べました。

池谷さんは、デジタルハリウッド大学が「AIガイドラインを作らない」方針を採用していることを紹介。これは人々の試行錯誤を通じて問題は自然に淘汰されていくという考えに基づいています。「AIの時代」はすでに始まっており、伝統的な「訓練・順化」型教育から、個人が「無意識にしてしまっていること」「どうしてもやらずにいられないこと」を研ぎ澄ませる学びへと転換が必要だと主張しました。

議論では、AIの活用によって生じる格差や、場所や時間に縛られない「セルフサービス化」した学び方の可能性についても言及されました。個人の強い動機や願望がAI活用のエンジンとなり、新たな働き方や学び方を形作る可能性が示唆されました。

ポイントとなる問い

  • AI時代の教育機関はルール設定とガイドラインをどう考えるべきか?
  • AI活用が「できる人」と「できない人」の格差が生じる中、組織はこれをどう扱うべきか?
  • 伝統的な教育から個人の強みを伸ばす教育へ、転換を実現するにはどんな取り組みが必要か?

SESSION 2-A:人間とAIの融合による可能性の拡張

「ひとの可能性をひらく、ロボット・AIとの共創」をテーマとしたセッションでは、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授の南澤 孝太さんと、FabCafe Tokyo COO 兼 CTOの金岡 大輝が登壇しました。

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)教授 南澤 孝太さん(写真右)、FabCafe Tokyo COO 兼 CTO 金岡 大輝(写真左)

南澤さんは「身体性メディア」や「Project Cybernetic being」の研究を紹介し、の研究を紹介し、ロボットを通じた遠隔就労が可能な「分身ロボットカフェ『DAWNver.β』」や工芸技能のデジタル化、AIアシストされたロボットアームによる身体拡張などの事例を共有。AIやロボットとの共創により、身体的な制約からの解放や、身体性や自己の概念そのものが変化していく可能性を示唆しました。特に教育やリハビリでは、AIアシストにより難度の高い課題にもモチベーションを維持して取り組むことができ、徐々に介入を減らすことで人の能力として定着しうると、今後の展望をまとめました。

金岡はFabCafeの活動として、株式会社デンソーと行なった伝統工芸技術のデジタルアーカイブのプロジェクトや、2025年6月末より開催予定の「AI is Not Magic」展を紹介。AIの中身を理解し、クリエイティブな共創の場を提供する取り組みを説明しました。

また、両者は議論の中で「自ら触れてみる」姿勢の重要性を強調しました。南澤さんはルールに従うだけでなく、実践を通じてAIの可能性を実感すれば、未来予測の解像度が高まると言及。クリエイターとの共創を通じて、「こういう世界もあり得る」と提示することの大切さを語りました。

問いのポイント

  • 「AIによる身体拡張」は、私たちの考える”できること”や制約の境界線をどう塗り替えるだろうか?
  • AIによる技能の保存と進化は、組織や地域における文化継承のあり方をどう変えるだろうか?
  • あなたがAIを「使う側」から「作る側」に回るとしたら、組織づくりやビジネスにおいて、最初にどんな実践ができるだろうか?

SESSION 2-B:感性価値を軸にした都市デザインのAI活用

「感性価値に寄り添う 都市デザインとAI活用」をテーマとしたセッションでは、株式会社SAMURAI ARCHITECTS 代表取締役CEOの加藤 利基さんと、クウジット株式会社の末吉 隆彦さん・雙木 弘美さんが登壇し、ロフトワーク Layout シニアディレクターの加藤 翼がモデレーターを務めました。

クウジット株式会社 代表取締役社長 CEO 末吉 隆彦さん(写真右)、クウジット株式会社 取締役 CMO 雙木 弘美さん(写真左)
株式会社SAMURAI ARCHITECTS 代表取締役CEO 加藤 利基さん(写真右)、ロフトワーク Layout シニアディレクター 加藤 翼(写真左)

「AIが“答え”を容易に生成できる時代だからこそ、何を問うべきか」。そんな認識のもと、このセッションの議論は始まりました。「問い」というキーワードは、本イベントの共催であるSHIBUYA QWS(渋谷キューズ)のコンセプトでもあります。

雙木さんは「感性価値」を人間らしさや心地よさといった言語化しにくい価値と定義。効率化が進む時代にこそ、こうした人間的な価値が重要になると述べました。また、末吉さんは笑顔や感謝といった曖昧な概念を、データとして定量的に捉える研究に取り組んでいることを紹介しました。

加藤さんは建築・都市デザインにおける合意形成の難しさを課題として挙げ、画像生成AIによるイメージの民主化が解決策になり得ると提案。地域の特性をAIに学習させて未来の街のイメージを生成するバックキャスト型のデザイン手法により、多様な関係者のコミュニケーションが加速する可能性を示しました。

セッション中には、クウジットとSAMURAI ARCHITECTSによる新会社「Maison Technology」の設立が発表されました。この共創事業は、生成AIによるデザイン提案と、因果分析による課題発見を組み合わせ、人間中心のウェルビーイングな空間づくりを目指すものです。

ポイントとなる問い

  • 心地よさや愛着などの「感性価値」を、AIを活用してどのように捉え、定量化し、都市デザインに活かせるか?
  • AIによるイメージの民主化は、多様なステークホルダー間の合意形成をどう変えるか?
  • 技術ありきではなく「どんな課題を解決し、どんな価値を作りたいか」を起点としたAI活用を実現できるか?

未来を描くAI共創を、まずは実践してみる

カンファレンスの後半では、4つのテーマに分かれたワークショップが開催され、参加者はAIとの共創を自ら体験しました。まだ明確に捉えきれない「AI」と価値創造との接点を、実践を通して深める貴重な機会となりました。

未来人の思考と行動モデルをAIで生成しUXシナリオを描く実験的なワーク。未来社会を前提としたサービス開発において、「まだ存在しない顧客像」を描くためのプロセスを体験しました。

AIとともに未来をデザインするために、私たちに必要なこと

「未来デザインとAI」カンファレンスを通して浮かび上がってきたのは、AIを単なる効率化のツールとして捉えるのではなく、新たな価値を共に創り出す“パートナー”として向き合うために、私たちにどのようなスタンスが求められるのか、という視点です。

各セッションで繰り返し語られたのは「何がしたいか」「何を問うか」という意志や問いの重要性でした。AIが大量のデータからパターンを見出し「答え」を生成できるからこそ、人間はより根源的な問い──「何を成し遂げたいのか」「どうありたいのか」「どんな価値を創造したいのか」──に向き合う姿勢が求められています。

また、KEYNOTEで栗原さんが語った、「つないで・つながって・腑に落ちる」プロセスに象徴されるように、AI時代のイノベーションの源泉となるのは、多様な人と人、人と機械との「つながり」です。山口さんが進める組織カルチャーの改革、加藤さんが示したAIによる合意形成の促進、南澤さんによる身体的制約を超えた共創の試みなど、それぞれのアプローチがこの「つながり」を生み出そうとしていました。

そして何より重要なのは、「自ら作ってみる」という実践の姿勢です。AIを“使ってみる”“作ってみる”ことで、初めて見えてくる可能性があり、そこにこそ新たな価値創造の原動力がある──そのことが、このカンファレンスを通じて改めて明らかになりました。

「アフターAI」の世界で私たちは、効率化を超えて何を問い、どう価値を創造していくのか。このカンファレンスは、その一歩を踏み出すための、確かな手がかりとなる場となりました。

企画:with AI編集部(Loftwork × inquire)
編集・ディレクション:後閑 裕太朗
スチール撮影:川島 彩未

本記事は、以下の生成AIによる協力のもと制作しています。
情報整理:NotebookLM
執筆支援:Claude 3.7 sonnet
編集サポート:ChatGPT-o3

本イベントでも好評!「未来洞察×AI」ワークショップを東京・大阪で開催!

【東京・大阪開催】
AIと未来を構想し、事業の種を発見する
未来洞察ワークショップ『Future in Hands』

大阪:2025-06-24 (火)
渋谷:2025-06-26 (木)

『Future in Hands』は、これまで専門知識が必要とされてきた未来予測にAIを活用することで、未来トレンドの収集、兆候(シグナル)の抽出、シナリオの構築までを可能にした新サービス。従来、数週間〜数ヶ月を要していたリサーチプロセスを、約2時間に凝縮して体験できます。

本イベントでの反響を受け、東京・大阪でワークショップイベントとして開催。AIとの共創型事業開発のプロセスをいち早くご体感いただけます。

イベントの詳細を見る

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共創空間とミュージアムは、溶け合っていく
乃村工藝社と考えた空間づくりの未来