2015年4月、飛騨市(株)トビムシ、(株)ロフトワークの間で生まれた官民共同事業「(株)飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」のお披露目会を開催しました。
飛騨の食材を使った手料理や飛騨の日本酒が振る舞われたり、クリエイターや建築家の方々によるプレゼンテーションが行われたりと、心躍る2時間半を写真とともにお伝えします!

ヒダクマのロゴを壁に直接描いてお出迎えの準備中。今夜は東京の森で踊りましょう!
この日だけの飛騨地酒バー。なんとウォーターサーバーのお湯で“セルフ燗”で楽しむ方もいらっしゃいました。

故きを温ね新しきを取り入れ、未来をつくる

1人目のヒダクマプレゼンター、トビムシの松本さんからは、国土面積の2/3が森林である日本の林業事情について解説がありました。

森林は手入れをしないと土が痩せて保水力が落ち、様々な問題を起こすこと。しかし、後継者不足や高い流通コストなどの問題から、放置されている森が多いこと。トビムシはそんな課題をクリアするために、森林資源を活用する事業を行っています。ヒダクマではその知見を活かし、木材の商品開発や販売など森林活用事業を手がけます。

※なんとトビムシとロフトワークの出会いは、2013年の全社合宿です。

スライドに映っているのは社名の由来となる「トビムシ」。土壌を豊かにする、食物連鎖の要となる昆虫です。

飛騨の市章のモチーフは、水。豊かな水が鮎を育み、美味しい米がつくられ、飛騨の美しい風景がつくられています。そんな貴重な水を生むのが、森林なのです」。

飛騨市の竹田さんからは、飛騨と森林のつながりの話からはじまりました。

飛騨には京都、金沢、東京(江戸)からの文化の流入による独特な文化、匠の技術があります。ヒダクマの事業で世界中のクリエイターや企業と新しいものづくりに取り組むことで、伝統技術の価値を再認識し、文化保全とその飛躍につながることへの期待が伝えられました。

そしてヒダクマ代表の林からは、「木材だけじゃなくて、“3セク”(第3セクター)の意味さえHackしたい!」という意気込みとともに、ヒダクマの事業説明を行いました。

「床材や家具などに使われる木材は、大量生産されるものの場合安定した供給と品質が求められるため、外国産材のものがほとんどです。なぜなら、“カタログで見たものと違う”ことによるクレームや返品を回避したいから。

しかし、個性ある木製品を好む人たちがいま増えてきているという志向の潮流もあり、節があっても自分でデザイン・カスタマイズできる家具なら購入される可能性が見てきました。事業に経済的な持続性が生まれるのではと考えています。例えば木材をテーマにしたフェスやキャンプ等々、広葉樹が豊富な森をもつ飛騨ではやりたいことがたくさんあります!」

今夏から様々な挑戦をはじめる、と宣言したところで、お待ちかねの鏡割り。飛騨市の谷尻課長より、乾杯の音頭をいただきます。

実は林のスピーチあたりから、飛騨牛の焼けるいい匂いがしていました。食事ブースへと移動するゲストの方々。
右上から時計周りに、豆つかげ/漬け物ステーキピンチョス/鮎の串焼/朴葉寿司

素敵な「飛騨ごはん」をつくってくださったのは、FDN(Food Designers Network)の中山さん。かぶりつきたくなる鮎の串焼きや朴葉寿司、五平餅、やめられないとまらない大豆のおせんべい(豆つかげ)など、数々の飛騨郷土料理をその場で調理していただきました。

ものづくりと食をつなげる活動をしているFDNさん、ぜひみなさんもチェックしてみてください!

実例・飛騨×デジタルものづくり

会場がいい匂いにつつまれるなか、2014年夏に実際に飛騨でものづくりキャンプに参加したクリエイターの方々から、プロダクトの紹介がはじまります。

バッタ☆ネイションさんがデザインをするときに大切にしているのは、「考える仕掛けをつくる」こと。飛騨土産として地酒を買うことの行動をどうデザインするか」という切り口に、「3本組み木」でつくったテーブルを制作しました。

金で壊れた陶器を継ぐ技術「金継ぎ」からインスパイアされ、TAKT PROJECTさんが考えたのはなんと「デジ継ぎ」! 飛騨は家具の街。使えなくなった家具の再生にデジタルファブリケーションを活用することを提案、千鳥格子の背もたれの椅子を制作されました。

「デジ継ぎ」に次いで、noiz architectsの大野友資さんが提案したのは「壁継ぎ」。「.tgt(tsugite)」なんて拡張子ができてもいいのかも(!)、という発想とともにご紹介いただきました。3Dプリンターはいま自然由来の着色も可能になりつつあるようで、飛騨の自然から色を差す、というアレンジもできるかもしれませんね。

IAMAS(情報科学芸術大学院大学)教授・小林茂さんからは、岐阜の森を拠点に、工芸品の制作にデジタル工作機械を取り入れる試みのプロジェクト「CF&S(Craft, Fabrication and Sustainability)」や端材を使ったプロダクトの制作など、持続するしくみを組み込んだものづくりについてご紹介。ヒダクマの事業のヒントをたくさんいただきました。

FabCafe HIDAの建築を担当する建築家の中山英之さん

「今回手掛ける物件は、江戸から昭和までの歴史がつまった伝統ある大事なお屋敷。そんなカフェに入るとき、のれんをくぐったらどんな世界が広がっているんだろう?とゲストがわくわくするようなものにしたい。“古民家再生×カフェ”という観点とは違う、江戸からいまの時代をすべてつなぐ建物にしたい。

FabCafe HIDAでは側壁に入り口をつくり、中庭と板の間をつなぐことで、飛騨古川の街に新しい導線を築きたい」という構想が共有されました。

「みなさん、力を貸してください!」

最後は、ロフトワーク代表の諏訪からクロージングトーク。

「林業の話で出てくるテーマといえば、『世界価格と競争』『高齢化』『世界品質』等々、大変そうなイメージがあります。そこに飛び込もうとしているヒダクマに、『林業をクリエイティブの力で再生する!』なんてそう簡単じゃないよ、という声をたくさんいただきました。 でも、これまでのロフトワークを振り返ると、利益にならないだろうと言われていた『FabCafe』『loftwork.com(現:AWRD)』は今も続いていて、クリエイタープラットフォームとして成長を続けています」。

と伝えたうえで、「これまで極秘主義を貫いてきたApple社も、Apple Watchはオープン・エンジニアリングで開発しました。これからはオープンに、様々な人たちと協力し合ってものづくりをする時代。みなさん、力を貸してください!」と呼びかけ締めくくりました。

最後には、「みなさんが協力してくれる意思表明として、証拠写真を撮るよ!」という林の声掛けに賛同(?)したゲスト、スピーカーのみなさんと集合写真を撮影し、パーティはお開きに。

クリエイターのみなさん、スピーカーのみなさん、そしてご参加いただいたゲストの方々、ありがとうございました。これからのヒダクマに、ご期待ください!

原口 さとみ

Author原口 さとみ(パブリックリレーションズ)

慶應義塾大学SFC卒。学生時代にソーシャルビジネスや開発経済を学びながら、フォトジャーナリズムやチャリティプロジェクトの可能性を模索する。卒業後は英治出版株式会社に入社し、出版プロデューサーとして書籍企画、編集、DTPデザイン、プロモーション等を担当する。その後NPOにて新興国のスタートアップや社会起業家を支援するプログラムのPR等を経て、2015年ロフトワーク入社。

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