意匠制度の見直しに加え、今回大切なアップデートだと思うのは、イメージマッチングツール「Graphic Image Park」の導入です。意匠登録されている画像の中から、ドラッグ&ドロップの簡易操作で、類似デザインを一覧で確認できる便利なツールです。自分のデザインが既に登録されているデザインに酷似していた、なんていう侵害リスクを防ぐことができます。

国のシステム開発プロジェクトは、遅かったり費用がかかりすぎたりと悪評があります。今回、このツール開発計画を教えてもらった時から、設計や詳細仕様、インターフェースデザインのプロセスに可能な限り関わらせて欲しいとお願いをしました。この領域こそ、自分が貢献できると思ったからです。

ベースで採用する画像認識ソフトの検討や、絞込み機能の設計、インターフェースの思想など、開発プロジェクトメンバーの方と何回か打ち合わせをさせてもらいました。プロジェクトメンバーの意識が高く、コミュニケーションもスムーズで、何の不安もなく開発は進みました。2015年10月1日にリリースされましたが、評判も上々のよう。

制度の見直しも重要ですが、このような使いやすいツールを提供することで、画像デザインに対するリテラシーを高め、競争力を高める基盤を作ることは、国の政策として重要だと感じました。

私はこのツールに、密かにもう一つの役割を期待しています。それは、保護のきれた画像デザイン、あるいは意匠保護の対象とならない画像デザインを提示してくれることです。今は意匠登録されている画像を類似順で表示してくれるのがメイン機能ですが、例えば「保護期間が終わった画像デザイン」が検索できたり、「CCライセンスやパブリックドメインで利用できる画像デザイン」を探し出せると便利だと思いませんか?

今まで伝えてきたことと一見、矛盾するように聞こえるかもしれませんが、私は画像デザインにおいて、保護拡充することが画一的に善だとは思っていません。デジタル領域は進化スピードが早いですし、まだ20年弱の歴史しか持たない成長フェーズ。その段階で、ある一定表現が特定企業の権利として独占されてしまうと、社会全体の進化は遅くなる恐れがあります。

インターネットが誰のものでもないからこれだけ進化したように、行き過ぎた権利保護は一部の企業にメリットはあっても、社会全体のメリットには繋がらない。日本においても、デザインの重要性が認識されることは喜ばしいことですが、権利拡充だけが有効な手法だとは感じられないのです。

このツールは、意匠出願を狙うための「攻め」のツールであると同時に、侵害していないかクリアランスするための「守り」のツールでもあり、安心して利用できるデザインリソースを教えてくれる「コモンズ」のツールにもなりうる。権利を保護することと、共有すること。そんな一見、相反する思想を魔法のように統合し、共存させてしまう。そんな挑戦を夢見ています。

(謝辞)今回の貴重な機会をくださった特許庁山田正人さん、伊藤宏幸さん、木本直美さんはじめ、特許庁の皆さんに心からお礼申し上げます。毎回、個人レッスンのように法解釈を教えていただき、意匠法だけでなく知財全般について理解が深まりました。またアドバイザーとして専門知識を教授してくれたシティライツ法律事務所の水野祐さん、どうもありがとう。みなさんに教えていただいたこと、一連の経験は、私の宝物です。

(お知らせ)

特許庁主催で、今年1~3月にかけて、全国11都市で、意匠制度改正に関する説明会を開催するとのこと。もし興味があったら是非参加してみてください。
詳細:http://www.seminar-reg.jp/isyou/2016/index.html

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