ロフトワークは「超高齢社会における働き方」をテーマに、鶴岡・所沢・川崎の3都市で実施したリサーチ結果を「HIDDEN ABILITIES(見えざる可能性) – ビンテージ社会における、高齢者の『働き方』調査報告書」として公開します。

平成28年の労働人口6,673万人のうち高齢者は約10%(686万人)(*1)を占め、今後この比率は増えると言われています。背景には平均寿命・健康寿命の延伸があり、年齢を重ねてもなお生産的な活動ができる人が増えている現状があります。

(*1)平成28年労働力調査年報、総務省統計局

一方で、まだ一般的に高齢者は社会を「支える」人材として認識されていません。健康寿命の延伸に合わせて、超高齢社会(*2)における高齢者が働くことへの認識や、行政・民間サービスなどの社会システムも更新する必要があるのではないでしょうか。

(*2)超高齢社会……65歳以上の人口が総人口の21%以上の社会。高齢社会は14%〜21%。高齢化社会は7%〜14%。(WHO)

ロフトワークは、2017年より経産省が主宰する「ビンテージ・ソサエティ・コンソーシアム」の一員として、高齢者がよりいきいきと活動できる社会システム創出を検討するための、フィールドリサーチに取り組みました。当コンソーシアムでは、2017年9月よりリビング・ラボ(*3)を設立し、複数の企業や大学、研究機関、地域の方を交えて実証実験が進められています。

(*3)リビング・ラボ……人々が生活する街のなかで社会実験を重ねる拠点

当プロジェクトでは、「働く」ということが高齢者にとってどのような意味をもち、「学ぶ」「遊ぶ」といった生活全般にどう影響しているのかを理解することを目指し調査を進めました。

老いることについて本当に実感を持って語ることができるのは、実際に年齢を重ねた人のみです。本報告書によって、高齢者の実態がより明らかになり、理解が広まり、既成の型に左右されない豊かな働き方が生まれることで、超高齢社会のあらゆる課題解決に寄与することを期待しています。

※当リサーチは、経済産業省委託事業「平成29年度商取引適正化・製品安全に係る事業(ビンテージ・ソサエティ・プラットフォーム形成事業)」として実施されました。

2016年、ロフトワークは、東京・吉野・成都(中国)の3都市で実施した高齢化にまつわる基礎調査を実施しました。全170名の高齢者にインタビューを行い、「老いる」ことを多面的に理解するために概念を再定義したり“暗黙知”をフレームワーク化・言語化するなど、調査から生まれそうなビジネスの方向性を報告書で公開しました。

「東京・吉野・成都(中国)の3地域、170名対象|「老い」への向き合い方のリアリティを探求する デザインリサーチ報告書を公開」

報告書の特徴

いま多くの高齢者は、社会的な活動を長く継続することに強い意欲をもっています(*4)。しかし、採用基準や業務評価が資格や過去の経歴で判断されがちなように、一般的に「職業」とは、人のスキルの断片でしかありません。

人の能力を断片的に捉えるのではなく「満月」のように捉えたとき、高齢者の働き方はどうなるのか。高齢者の社会での活動が周囲と支え合いながら行われるには、どんな仕組みやデザインが必要なのか。
本報告書では、全6つのフレームワークで、高齢者がいつまでも社会を支える存在でい続けるための視点をまとめました。以下は、その一部の抜粋です。

(*4)平成28年度「Transformation──高齢化にまつわる基礎調査報告書」

■ 自身の関心と外部要因で高める「活動の上昇気流」

周囲からのはたらきかけ(外部要因)だけではなく、自分自身の喜びややりがい(内部要因)の両者とバランスよく向き合うことで、高齢者の活動を加速させることが可能です。

周囲からの働きかけをきっかけに活動を始め、頼りにされるなかで勉強意欲が湧いたり、自身の成長に喜びを感じたりすると活動に大きく拍車がかかります。場合によっては、起業することもあります。

■ 広く人の価値を捉える「アクティブフルムーン」

人の能力の中で「キャリア」や「スキル」と認識されているものは、その一部にすぎません。 例えば「聞き上手」であることは、組織や団体においては、有機的な繋がりを生みだす貴重な存在です。

従来、雇用は「仕事・キャリア・スキル」のマッチングによって実現すると考えられていますが、高齢期の働き方を考えるうえで、スキルはより広い意味の「人としての能力」と捉えることが重要です。

ダウンロード

以下の文書・写真は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-NC-SA 4.0*)を付与し一般公開します。 このライセンスは、非営利な目的のもと、適切なクレジットの表示、ライセンスへのリンク貼付、変更がある際はその旨を表示し再配布の際は同じライセンスを付与すれば、利用・再配布することが可能です。営利目的の利用の際は、ロフトワーク広報(pr@loftwork.com)にお問い合わせください。

*Transformation images, figures, and content are published under a Creative Commons, Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License. https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/

「HIDDEN ABILITIES – ビンテージ社会における、高齢者の『働き方』調査報告書」(PDF・9MB)

プロジェクト概要

期 間:2017年9月〜11月
場 所:山形県鶴岡市、埼玉県所沢市、神奈川県川崎市
テーマ:高齢化とそれに関わる社会、人の行動様式・思考のあり方について
内容・対象:専門家へのインタビュー、90〜180分程度のデプス・インタビュー、アドホック・インタビューなどを71名へ実施
体 制:林千晶、神野真実、上村直人、江原満怜、木許宏美(ロフトワーク)

デザインリサーチについて

今回の調査で用いた手法「デザインリサーチ」の特徴は、調査を行う主体が実際に事業や製品を設計・デザインしていく本人であることです。従来のマーケティングリサーチではマーケターやリサーチャーが調査主体となりますが、実際にデザインに携わる人が調査段階から関わることで、人々の生活のニュアンスまでも汲み取った理解につながります。

またデザインリサーチは、定量調査や形式的な定性調査では明らかにすることが難しい、生活者の行動や思考の裏側にあるコンテクストも含めた“Why”に着目します。本人さえ気付くことのなかった視点や心的態度を明らかにし、より本質的な課題発見につながる調査手法といえます。

・デザインリサーチについてのご相談はこちら
・デザインリサーチに関するロフトワークの取り組み

Keywords

Next Contents

2050年の京都市の都市構想への道筋を描く。
「創造的都市、京都」を提唱する、最終報告書を公開