ホテル「Len」との連携が始まって最初となる第3期メンバーは総勢7組が参画

FabCafe Kyotoのプロジェクトインレジデンス「COUNTER POINT」。アーティストインレジデンスともアクセラレータープログラムとも違うこの企画のコアになるのは、「偏愛と衝動」です。社会に役立つかどうかは後回し。まずはその人の中にしかない、混じりっ気のない想いをオープンなプロジェクトと名付けることで、FabCafeに集う多彩な人々を巻き込みながら、とことん突き詰めるこの企画。これまでも、さまざまな偏愛と衝動が社会に飛び出しました。

今回も自己の内面や好奇心に正面から向き合う7組の偏愛活動が集結しました。また、FabCafe Kyotoから徒歩5分の距離にあるホテル「Len」との連携がスタートして最初の期。じっくり腰を据えて活動に取り組みやすい環境になったことで、どんな化学反応やコラボレーションが生まれていくのでしょうか。個性あふれる第4期メンバーを一挙ご紹介します!

1. 自分が脱皮する様子を見てください。(毛殻やぶり)

10歳の時にお母さんがカラーモールを買ってきて以来、20年間モールアートを密かに続けてきたまきのさん。応募時に以下のメッセージを送ってくれました。

カラーモールに夢中になっていたら、気が付くと同世代や年下の世代は大人になっていて、結局の所私はただの子供のままで、偏愛についても、あまりに内的。そもそもこのことを他者が認めるほどの偏愛なのか、ただの孤独なのかさえ、私はまだよくわかりません。 けれども私の明るい部分、感情の発露は殆どがモールで出来ていました。 そこで、脱皮をしたいと思います。私を包む殻をカラーモールで具現化するので、それを脱ぐ作業、発表方法についてのアイデアで助けてほしいのです。他者への自己表現というものを苦手としてきた私にはこれは大きな挑戦になります。 ぜひご協力をお願いします。

最終的なパフォーマンスはもちろん、子どもを対象にしたカラーモールワークショップも企画される予定です。ぜひ、彼のモールワールドを体験し、脱皮を目撃しましょう。

▼ チームメンバー
まきのみつる

カラーモール殻のイメージ
井上さんと、カラーモールヘルメットを羨ましそうに眺めるコミュニティマネージャーの服部。

2. ネットとリアルの自分がかけ離れていたことに向き合いたい(Skin Records in Kyoto)

映像作家としてキャリアを築きながらFORBS「30 UNDER 30 JAPAN」に選ばれるなど、近年注目される現代アーティストのノガミカツキさん。今回は「自分の顔」への偏愛に向き合うプロジェクトで参加します。

小学生の時にノートパソコンをもらってからネット上で女性として振る舞ったり、物理社会の自分とネットの自分が剥離していく感覚があったという彼。中学時代では、友人の掲示板を匿名で日夜荒らすなどの行為を通して、二重人格のような感覚を持ったといいます。それまでは毎日毛穴パックでニキビを潰してコンプレックスを消そうとしていたというノガミさん(整形する事も考えていたのだそう)も、デジタル技術で顔を簡単に編集できるようになってからは、次第に自分の顔を編集する事への関心は減っていったといいます。しかし、身体に嘘をつくのが当たり前になったことで、逆に身体への執着が無くなることを寂しくなり、愛おしく感じたのだそう。これから先、バーチャル化は一層加速し、身体性というものが改めて見直されている時代だからこそ、自分の身体のコンプレックスを受け入れ、他の人にも認めてもらいたいそうです。

今回COUNTER POINTに参加したのは、その取り組みを自分1人の中だけで完結させるのではなく、同じSNS世代の若者たちとも関わりながら、表現に落とし込んでいきたいという意図があったそうです。オンラインの世界が大きな意味を持つ世界で、若者がそこでどう生きていくかを一緒に考え、彼自身がこれからも生きていくための気づきがほしい、という今回のチャレンジなのだそうです。現時点では「顔塚」という形をイメージしているそうですが、一体どんな表現が生まれていくのでしょう。

▼ チームメンバー
ノガミカツキ(現代アーティスト)
https://katsukinogami.co/

2021年2月に開催されたBnAアートホテルのアーティストインレジデンス参加中の様子。この時もFabCafeのツールを用いて自然物に顔を映し出す作品を制作していた。今回はこの活動を発展させたものになるという。

3. テクノロジーの視点は私達の日常に変化をもたらすか(LOST)

2012年から開催しているYouFab Global Creative Awards。毎年、今ある常識に挑戦する世界中のクリエーターを対象とし、好奇心や想像力を刺激するような、”ハックされた”新しいアイデア”が集まっています。川端 渉さんは、YouFab 2017に「ノイセンス」という作品でファイナリストに選ばれています。今回COUNTER POINTで取り組むのも、この作品と繋がる視点から生まれたそうです。その視点とは、人から「不要」だとして取り除かれるノイズや錆、滲み、しわなどは、実はテクノロジーは上手くその性質を利用しているのではないか?テクノロジーから見た世界に存在感を与えることで、見慣れた日常はどのような変化をしていくのかを探求できるのでは?という疑問。

今回はシュレッダーを対象にそうした疑問を探求していくそうです。私たちはシュレッダーによって個人情報を消せると思っているけれど、むしろ情報の断片の輪郭をはっきりと浮かび上がらせ、鮮明にするのではないか?という問いを立て、解釈の幅を持たせた作品として表現したいとのこと。最終的な作品はもちろん、制作プロセスも気になります。

▼ チームメンバー
川端 渉(研究員・アーティスト)

YouFab Global Creative Award 2017でファイナリストに選ばれた作品「イノセンス」。植物や蝶の翅に光を当てることで視覚ノイズを発生させている。

4. 未来の暮らしのヒントは縄文時代にあるはず(縄文暮らし隊)

幼い頃に花見をしに行った時になぜ場所取りしてるのか疑問だった。全員知り合いだったら好きに移動したりできるのに…」と話す、リーダーの黒田さん。今回、会社の新規事業アクセラレータプログラムに応募したメンバーで、現代の暮らしを見直す実験をすべく、COUNTER POINTに参加することになりました。

テーマは「縄文時代」。大きな戦争もなく、約1万年も続いたと言われる縄文時代の暮らしを体感することで、自分たちの暮らしをより豊かにする気づきを得たいのだそう。たとえば、土器づくり。必要最低限で設備もいらない原始的な「火」のエネルギーを使ったものづくりと、そこから生まれる場の可能性はどんなものがあるのか。道具やテクノロジーがない生活から学び、私たちの生きる力を取り戻すべく、縄文の暮らしを自ら実践しながら気づきを得ていくということです。

今回、COUNTER POINTで純粋な好奇心に向き合うそうです。一体どんな縄文実験が繰り広げられるのでしょうか。

▼ チームメンバー
黒田 愛美、岩田 奈津美、谷口 諒

5. 義肢の専門家 × ファッション偏愛(選択性を拡張する襯衣(しんい))

義肢の製造・販売企業で製造部部長を務める安田さん。以前から偏愛を持っていたファッションにチャレンジしたいということで、今回COUNTER POINTに参加することになりました。ファッションといってもブランドやカラーではなく、形(シルエット)に対してこだわりがあるという安田さん。特に好きなものはシャツなのだそうですが、いまだこれだという形(シルエット)が見つかっていないとのこと。自身の体型はもちろん、コンディションやシーンごとに自身で変えられる「自由で選択性のあるシャツ」を作ることはできないか?という問いのもと、着たい、という枠を超えて自ら作りたいという想いが募っていたのだそう。

服は、他人からの視点や社会的な記号など、さまざまな要因で無意識のうちに制約の中で選択しているのかもしれません。衣服の選択性をいかに拡張できるのか?本当に自分が気持ち良いと思える衣服を自ら変化させながら着ることがでいる服とは?普段義肢を作る安田さんだからこそ突き詰められる視点があるような気がします。

▼ チームメンバー
安田 伸裕(楠岡義肢製作所株式会社 製造部部長)

6. 制約によって、自然現象に新しい捉え方をつくる(fluid state)

自然現象を題材に作品制作をしてきた平井さん。生で感じる自然には、展示空間の中では感じることのできない迫力がある一方で、ありのままの状態は情報が多く、ひとつひとつの現象に気づけないことも多いもの。そこで、何かしらの仕掛けや制約を設け、ひとつの現象にスポットライトを当てる、というのが平井さんの作品の特徴です。

2020年には当時所属していた研究室の筧康明准教授と、特殊な泡の振る舞いを表現する作品 (un)shaped を制作し、Ars Electronica Festivalというメディアアートの展覧会にて展示を行いました。この作品では、作品内にコントロールされた環境をつくることで、通常では滅多に見ることができない現象を用いた表現を実現しました。

今回COUNTER POINTで取り組むプロジェクトでも自然現象、特に流体の振る舞いに着目して作品制作を行います。普段の生活の中でもふとした時に感じる、煙を始めとした流体の動きや、その発する音の心地よさを起点にします。

また、現象そのものを見せるだけではなく、作品という自分が制約した環境の中で、新しい表現が生まれないかを模索して行きます。

▼ チームメンバー
平井 誠之(アーティスト)
bit.ly/png-jng

コンタクトマイクを容器の裏側に貼り付け、氷の割れながら溶けていく音を収録した実験。

7. 思考の「セーブポイント」としての、作品制作(木村華子立体作品プロジェクト)

プロのカメラマンとして活躍する木村さん。実は、自身の衝動を発端としたクライアント不在のライフワークとして、写真表現を主軸とした現代美術作品を制作して、2~3年に1回のペースで定期的に展示などで新作を発表しているとのこと。 今回、このライフワークの表現活動として、3Dプリンターを使用した立体作品に挑戦する彼女。 2021年7月に大阪で個展が予定されているらしく、COUNTER POINTの作品もそこで発表される予定です。

そもそも自分は「現代美術偏愛だ」という彼女。10代の頃から美術館に通い、不思議な作品たちに価値観を揺さぶられること体験自体にどんどん惹かれていったといいます。写真という技術を得た結果、その世界にプレーヤーとして足を踏み入れたものの、今では生きるためにやらなければいけない活動になっているのだそう。

作品を作るということは、1つのことについて長い期間「考える」という行為だという彼女。 作品を発表することは「今回はここからここまで考えました」ということを物理的な形にして、セーブポイント(途中保存ポイント)として外側の世界に置くということに近いと感じているそうです。 そして、鑑賞者から多様なフィードバックを返してもらうことによって新しい発見や物事の見方がもたらされ、 更に先に考えを発展させることができる。そしてそれを糧に、また作品を作る。 この一連のループが、作品を制作し、定期的に発表を続ける原動力であり醍醐味なのだそうです。

彼女は今回、3Dプリンターで大量の猫のぬいぐるみから3Dデータをとった造形を出力し、それらを集合させることで一体の猫のぬいぐるみの造形を目指すとのこと。途方もない作業に早速試行錯誤が始まっています。

▼ チームメンバー
木村 華子(フォトグラファー・現代美術家)
https://hanako-photo.sakura.ne.jp/#/

早速活動を始めている木村さん。写真は猫を3Dスキャンしたり、グルーガンのテストをしている様子。

第5期の応募締め切りは2021年6月21日

以上、第4期メンバーのご紹介でした。彼らの活動に巻き込まれたい方も巻き込みたい方も、是非FabCafe Kyotoにお越しください。同時に、COUNTER POINTはこれからも継続してメンバーを募集します。偏愛や衝動をお持ちの方は、ぜひ次回以降の応募をお待ちしています。

関連リンク:

COUNTER POINT by FabCafe Kyoto について
※ 第5期 入居期間:2021年7月21日(水)-10月22日(金)(応募締め切り:6月21日)

浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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