三菱電機エンジニアリング株式会社 PROJECT

対話を加速させ、介入の根拠を導く。
創発を促すシステム思考実践ワークショップ

Outline

イノベーション風土の醸成に向けた、思考の「アップデート」

三菱電機株式会社の設計開発請負や自社ブランド製品の展開を主軸とする三菱電機エンジニアリング株式会社 。同社の「創発活動推進チーム」は、現在、5か年計画に基づき、社員の意識変革とイノベーション風土の醸成を目指した活動を推進しています 。同チームが活動の核として重視しているのは「時代に合った手法改良」の継続です。これまで活用してきたデザイン思考に加え、複雑化する課題に対して対話と相互理解を促す新たなアプローチとして、今回「システム思考」の導入を検討しました 。

こうした新しい手法への挑戦の背景には、既存の枠組みだけでは打破できない新規事業のボトルネックや、複雑な社会課題への危機感がありました 。多くの関係者が関わるプロジェクトにおいて、表面的な事象の解決に留まらず、「問題がなぜ起こっているのか」という構造的な共通認識を持てるかどうかが成功の鍵となります 。そこで同チームは、実際の業務である「社内ハッカソン」における課題をワークショップのテーマに設定 。目に見える事象の背後にある「構造」を可視化し、最小の力で最大の効果を生む「レバレッジ・ポイント(急所)」を特定するための共通言語として、ロフトワークと共にシステム思考を学ぶ1dayワークショップに取り組みました。

Approach

多拠点のチームを繋ぎ、実務へ適用するための多層的な設計

今回のワークショップは、単なる知識の習得ではなく、現在進行中のプロジェクト(社内ハッカソン)への直接的な貢献をゴールに据え、準備段階から当日までを地続きのプロセスとして設計しました。

1. 多拠点を繋ぐMiroでの事前学習

三菱電機エンジニアリング株式会社の創発活動推進チームは、日本各地の様々な拠点に在籍しています。この物理的な距離を越えて議論を深めるため、本プロジェクトではオンラインホワイトボード「Miro」を思考のプラットフォームとしてフル活用しました。

ワークの起点となったのは、ワークショップ数週間前からの事前課題です。本プロジェクトでは、初期のヒアリング段階から取り組むべき重要課題として「社内ハッカソン」が据えられました。その議論を当日最大化するため、参加者はまずMiro上の個人シートでシステム思考の基礎を予習し、一般的な社会課題をテーマに自らループ図を作成する練習を事前に行いました。

さらに、各自が身近な業務上の課題へと対象を広げ、手法を「自分の思考の道具」として動かしてみるトレーニングを重ねました。あらかじめ思考の助走をつけておくことで、メインテーマである「社内ハッカソン」に対し、当日の限られた時間の中で即座に、表面的な事象を超えた深い議論へと潜り込むための土壌を整えました。

2. インプットと対話。システム思考を「使いこなす」ための視座

当日の午前中は、まず「なぜ今、システム思考による構造把握が必要なのか」を紐解く講義からスタートしました 。ここでは、事象全体の把握に不可欠な情報収集の手法として、最新のAI活用や、ロフトワークの先行事例のループ図を解説。具体的な活用のイメージの解像度を高めていきました。

講義後のQAセッションでは、実務への適用を見据えた実践的な問いが次々と交わされました。

  • デザイン思考との使い分け: 個別の課題を深掘りするデザイン思考に対し、システム思考は問題の全体像を捉える役割を担うこと。両者を組み合わせることで、一社では解決できない複雑な課題への「介入点」が見えてくるという、思考の統合プロセスが共有されました 。
  • 「問い」の設定とAIの境界線: 情報収集においてAIは強力なパートナーですが、「なぜその問題が起きているのか」という問いの設定や、収集した情報を読み解く内省の部分こそが、人間が主導すべき「最も重要なステップ」であることが強調されました 。
  • ループ図の終着点: 「図をどこまで作り込むべきか」という問いに対し、棚橋は「構造を理解し、ステークホルダーと議論が可能になったと感じたときが終わり」と回答 。完璧な図を目指すのではなく、対話を生むためのプロトタイプとして、小さなループを繋ぎ合わせていく段階的なアプローチが示されました 。

3. 実践ワーク。一般課題から実務課題への橋渡し

後半のステップでは、段階的なトレーニングを配置しました。まずは「残業スパイラル」という身近な一般課題をテーマに、個人ワークで時系列変化パターングラフやループ図の作成を体験 。要素間の因果関係の可視化を学びました。

その後、2つのチームに分かれてハッカソンの実課題の分析へと移行。事前準備で整理された「参加者」「運営側」「認知」の課題群をループ図へと変換し、多角的な視点から「負の連鎖」や「テコ入れのポイント」を浮き彫りにしていきました 。少人数で集中して描き、パートごとに役割分担をすることで、複雑な事象が議論可能な「構造」へと姿を変えていきました 。

ロフトワークのメソッド:徹底的なリサーチとAIが支える「システム思考」

ロフトワークでは、システム思考を単なる図式化のツールではなく、複雑な課題を解き明かすための探究プロセスとして捉えています。その要となるのが、徹底的なリサーチと最新テクノロジーの活用です。

ここでは、人間とAIの最適な協働を定義した「HAIC(Human-AI Collaboration)モデル」が適用されます 。広範な情報の探索や構造のプロトタイプ作成をAIに委ねることで、人間は「問いの設定」や「情報の意味の読み解き(内省)」といった、より高度な洞察が求められる役割に集中します 。情報の圧倒的な速度と人間の深い「腹落ち」を往復させるこのアプローチこそが、複雑な社会課題の本質を捉え、精度の高い構造化を実現するためのロフトワーク独自のプロセスとなっています 。

Insights

構造化することで見えてきた、共通認識と介入の根拠

ワークショップを通じて確認されたのは、複雑な事象を「構造」として可視化することが、チームの合意形成において極めて有効な装置となる事実です。言葉だけでやり取りされていた課題がループ図として可視化されることで、チーム内での対話の質が変化。図を介して議論の論点が整理され、特別なファシリテーションを必要とせずとも、参加者間で自然と深い共通認識が生まれました。

特に重要な知見となったのは、レバレッジ・ポイントを特定するための「重なり」の読み解きです。事前課題から抽出された「参加者」「運営側」「認知」といった複数のループが複雑に交差する点は、解決の難易度は高いものの、そこを解消できればシステム全体に大きなインパクトを与えられる、文字通りの急所(レバレッジ・ポイント)となります。こうした「重なり」を視覚的に捉えることで、闇雲な対策ではなく、どこに介入すべきかという確かな根拠を持って議論を進めることが可能になりました。

また、システム思考は定性的な思考と定量的な評価を繋ぐ橋渡しとしても機能しました 。ループ図を描き、要素間のつながりを紐解く過程で、何を評価指標とすべきかが自然と浮かび上がってくることが確認されました。これにより、数ヶ月にわたって検討を重ねてきたハッカソンの方向性に対し、構造的な観点を得ることができました。

システム思考という共通言語を手にした創発活動推進チームにとって、本プログラムは、単なる「手法の習得」の場に留まらず、ハッカソンという実務課題の整理を並行して行う、極めて実践的なプロセスとなりました。

Credit

クライアント:三菱電機エンジニアリング株式会社 創発活動推進チーム 
プロジェクト期間:2025年12月

体制

株式会社ロフトワーク
プロジェクトマネジメントオフィス:棚橋 弘季
プロジェクトマネジメント:髙橋 聖
プロデュース:矢部 真裕子

執筆・編集・撮影:山口 謙之介

Member

棚橋 弘季

株式会社ロフトワーク
執行役員 / CPO(Chief Produce Officer)

Profile

髙橋 聖

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター

Profile

矢部 真裕子

株式会社ロフトワーク
プロデューサー

Profile

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