作り手、つなぎ手、食べ手が食文化の多様性をつくる。
長崎で育まれた「食の愉しみ」を巡る探索
Outline
長崎県が公募した“長崎県らしい食の魅力”を存分に伝えるショーケース(拠点)づくりに向けた可能性調査を受け、ロフトワークはデザインリサーチを通じて、長崎県らしい「食の賑わい」のあり方について提案しました。
ロフトワークは、2024年8月から2025年3月にかけて120名以上の食の担い手との対話を重ね、長崎県らしい賑わいの本質と21のインサイトを抽出。その結果をもとに、“県内の回遊”を生み出す食の賑わい拠点の創出を提案するとともに、長崎市・佐世保市・長崎空港の3箇所における地域ごとの拠点を構想しました。
さらに、拠点のあるべき姿の仮説と次年度に向けた具体的なアクションを提案し、官民共創による「世界が惚れ込む食体験」の実現に向けて、県内21市町が主体的に動き出すための羅針盤を示しました。
Outputs
成果物① 最終調査報告書
ロフトワークは、約半年間のデザインリサーチ結果をもとに最終調査報告書を作成しました。
報告書では、さまざまな取材手法(デスクトップリサーチ、フィールドワーク、インタビューなど)を用いて行ったリサーチ内容を詳細に報告し、長崎モデルの食の賑わい創出コンセプトを提示。さらに長崎市・佐世保市における食の賑わい拠点案や、長崎空港を起点とした食の賑わい創出の方向性を提案しました。
成果物② リサーチブック
今回のリサーチプロセスや洞察を、より直感的かつ共有しやすい形でまとめたリサーチブックを制作。
中間・最終報告書が政策検討や事業設計のための公式文書であるのに対し、本リサーチブックは、より手触り感のある形でリサーチ内容を伝えるために作られました。
デザインリサーチを通じて見えてきた長崎県らしい「食の賑わい」のロールモデルを示し、現場で交わされた言葉、風景、気づきを重ね合わせることで、長崎の魅力をより身近に感じられる冊子となっています。
120名以上の食の担い手との対話から導かれたインサイトや活動指針を、ビジュアルやストーリーを交えて編集。行政・民間・地域住民など立場の異なる人々が、同じ未来像について語り合うための「共通言語」を目指した一冊です。
Approach
長崎県のリサーチ事業としてはじまった本プロジェクト。ロフトワークはリサーチの全体設計からディレクション、企画支援、情報整理までを担う伴走者として関わってきました。
現地を訪れ、地元の生産者や料理人など、食に関わる担い手へのヒアリングやフィールドワーク、データの分析を通じて地域の文脈を読み解くなかで、食の賑わいを支える「人」「産業」「文化」の3つの構造に着目。
多様な視点を束ねながら、官民共創によって生まれる長崎の食の未来ビジョンと、戦略の土台づくりを行っていきました。
背景:長崎の豊かな食文化と、「回遊されない」という課題
長崎県は、極めて多様な食の資源を有しています。全国有数の水産業基盤をはじめ、豊かな海と山の幸、在来種野菜や地域固有の食材があるだけでなく、多文化が交わる歴史の中で独自の食文化を育んできました。
一方で、全国の地方自治体がそうであるのと同様に、長崎県も人口減少や少子高齢化、過疎化といった地域課題を抱えていました。地域の活力低下や将来への不安が顕在化しており、食分野においても、担い手不足や後継者問題、流通やブランド化の弱さといった構造的課題が重なり、地域の食の価値が十分に発揮されていない状況がありました。
観光においても食の魅力は点在しているものの、その魅力を身近に感じられる体験や、回遊につなぐ拠点、編集の視点などが不足していました。こうした課題と可能性の両面を踏まえ、食を起点に産業・文化・観光を横断的につなぎ直し、県民が誇りを持てる「食の賑わい拠点」を構想するためのリサーチ事業がスタートしました。
リサーチで用意した「2つの入り口」
リサーチプロセスを検討するにあたり、ロフトワークはリサーチにおける“2つの入り口”を設計。長崎県内の食産業や、土地の歴史と文脈を見つめ直すための「Looking-in Research」と、国内外を含むベストプラクティスをリサーチし、世界の食トレンドを含む情報収集を行うための「Looking-out Research」、2つの軸でリサーチを実施することに。
土地の未来という壮大なテーマに向き合う上で、「何に手をつけるべきか」の道筋をつくることが重要だと考えたロフトワーク。リサーチプロセスの設計からクリエイティビティを発揮し、地域に深く潜る視点と、俯瞰してトレンドを見つめる視点、2つの視点をもとに施策を実行していきました。
[Looking in research]約120名の食の担い手へのインタビュー
半島や湾が入り組み、急峻な山地が面積の多くを占める長崎。そのため、同じ県内でも地域ごとに異なる食文化や産業の性質を持っています。ひとくくりに「長崎県」として捉えないために、リサーチチームは県内21市町村を訪問。120名以上の食の担い手へのフィールドリサーチを行いました。
取材のなかで得た情報や気づき、インサイトは、「人(作り手・つなぎ手・食べ手)」「産業(持続的な価値創造)」「文化(地域固有のアイデンティティ)」の3つの視点と、8つのリサーチテーマに基づいて整理。
リサーチから浮かび上がったのは、食の賑わいは個別の施策や拠点整備だけで成立するものではなく、人材育成、ブランド化、流通支援、文化継承、交流の場づくりといった要素が相互に関係し合う構造を育てる必要があるという認識でした。これらの洞察は、最終的に提案された8つの活動指針(Action Line)の基盤となっています。
Gallery
Looking in researchにおいて特徴的だったのは、今回のプロジェクトに携わる県職員の方々が全てのリサーチに同行したこと。文書などによるリサーチ内容の報告が成果物になりやすいリサーチ事業において、今後の「食の賑わいづくり」を目指すためには県職員の方々と県内各地にいる食の担い手との繋がりが重要だと、ロフトワークは考えました。共に現地を訪れ、食の担い手のリアルな声を聞き、長崎の「食の魅力」が生まれる瞬間を目撃することで、各地の食の担い手と行政職員とのネットワークを構築することを目指しました。

[Looking Out research]外部視点から、国内外9都市のリサーチ
外部視点からのリサーチ(Looking-Out Research)においては、食を起点に産業や地域活性を実現している国内外9都市の先進事例をリサーチ。そのうち、富山県と山形県(鶴岡市)の国内2都市で現地視察と食の担い手への対話を実施し、東京都内の食の共創拠点の視察や食分野の有識者へのインタビュー、海外7都市のリサーチと組み合わせることで、多角的に食産業の成功例を分析しました。

リサーチを通じて、地域内循環型モデルの重要性や、料理人と生産者の協働によるブランド化、参入支援と継続支援を一体で設計する必要性など、食産業の成功における17の示唆を導出。食産業の拠点を利用する方々の声や、産業への批判的な評価も含めて検証を行いました。
本リサーチを通じて得られた最大の示唆は、食の賑わいは施設やイベントを「つくる」ことで生まれるのではなく、地域に根づく人の営みや文化、産業の関係性が重なり合うことで自然に立ち上がるという点でした。重要なのは、作り手・つなぎ手・食べ手が循環する構造を育てること。そのためには、短期的な集客施策ではなく、体験の質や記憶に残る価値を重視した場づくりと、地域住民や県民が主体の継続的なアクションを支える仕組みが不可欠であることが明らかになりました。
Outcome
県内に目をむける「Looking-in」と、県外・国外の先進都市から学びを得る「Looking-out」という2つの軸で進められた、今回のリサーチ事業。それぞれのリサーチから得られたものは、食の賑わい創出に向けた活動指針だけではありません。
県内の食の賑わいにアプローチしていく上で、関わる人々はどのような心を持って向き合っていけばいいのか?そうした「Action Mind」もまた、リサーチを通して得られた知見の1つでした。
提案1. 食の賑わいへの“向き合い方”を示す=「Action Mind」
プロジェクトの計画策定において必要なのは、具体的な「活動計画」だけではなく、活動を実践した先で長崎県の人々の心情や意識がどう変化するか?という内面の部分だと考えたロフトワーク。その土地で暮らす人々にとっても手触りのある計画を検討するために、土台となる考え方を整理。
現地リサーチ(Looking-in Research)での対話を通して得た「長崎らしい食の賑わいは、人・産業・文化が交わる中で育まれてきた多様性に根ざしている」という認識を元にしながら、3つの「Action Mind(向き合い方)」を提案しました。
一つ目は、異なる文化や価値観を排除せず受け入れ、新たな可能性へと昇華してきた「多様性の歓迎」。二つ目は、先人から受け継いだ食の営みを未来へつなぎ、新たな価値を生み出す「継承と創造」。三つ目は、競争ではなく主体的な関わりと協力から賑わいを育てる「心からの愉しみ」。これらは実際に活動指針を実践していくための、精神的な基盤としてなっていくはずです。
提案2. 食のにぎわい拠点を創出するための「Action Line」
Looking-outのリサーチによって得られた洞察や示唆を、具体的な行動へ転換する指針として、8つの「Action Line」を設定。長崎県の持つ文脈と本質的な課題を捉え、「食の賑わい拠点」を誰が、どのように、どんなタイムラインで実行するのか、どのようなインパクトをもたらすのかを具体的に落としこみ、構想へと繋ぐ視点を提案しました。
リサーチ終了後、県内行政職員やヒアリング協力者を対象にしたワークショップを実施。リサーチから得たインサイトを共有し、アクション案の発散を行いました。賑わい拠点の候補地として示された長崎市と佐世保市でそれぞれ開催され、プロジェクト外部の方々との対話を通して、次年度以降の施策検討にも繋がる多くの示唆を得ました。
実証実験:長崎空港における情報発信と展示
さらに、リサーチをもとにした実証実験として、長崎空港での展示企画を実施。ポップアップ的な展示を通して、「空港内に食の情報発信拠点がある」シーンを作り出しました。
リサーチを通じて、長崎空港は「通過点」にとどまらず、食を起点に旅の価値を高める拠点となり得ることが示唆されました。一方で、旅行者の多様な食ニーズに対して長崎らしさが十分に伝わっていないことや、食文化・持続可能性を体験として届ける仕組みが不足している点が課題として浮かび上がりました。
そこで、旅の始まりや終わりに長崎の食の魅力を立体的に伝える場づくりを検討。その試みとして、2025年2月21日〜3月14日までの約1ヶ月間、空港内で企画展示(エキシビジョン)を実施。滞在体験の価値や空港の可能性を検証しました。この展示は、長崎空港を「食の賑わいと未来を考える社会的装置」へと進化させるための第一歩と位置づけています。
Credit
プロジェクト基本情報
- クライアント:長崎県
- プロジェクト期間:2024年8月〜2025年3月
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支援スコープ
・調査の推進に向けた着眼点整理
・食の賑わい創出機会の検討に繋がる示唆獲得
・食の賑わい創出の機会検討に向けたベストプラクティス収集
・食の賑わいに対する向き合い方の整理
・食の賑わい創出に向けた活動指針の導出
・食の賑わい創出に向けた実行計画の策定
Credit
- プロジェクトマネジメント・プロジェクトデザイン:寺本修造
- リサーチリード:村上航
- リサーチャー:佐野まり沙、小林奈都子、吉田日菜子
- プロデューサー:中圓尾岳大
*肩書きはプロジェクト実施当時







