諏訪市 PROJECT

諏訪の産業を次の世代へ受け継ぐために、
人材育成と情報発信の土壌をつくる

Outline

写真 : 合同会社ヤツガタケシゴトニン 小林聖

諏訪の産業を次の世代へ受け継ぐために、人材育成と情報発信の土壌をつくる

「SUWAクリエイティブシティ化戦略事業」の一環として2016年度にスタートした「SUWAデザインプロジェクト」。ロフトワークは立上げから取り組みを並走してきました。
クリエイティブ人材との交流・共創により、新商品・新サービス創出が後押しされただけでなく、諏訪市と諏訪市の中小企業の関係も醸成されています。また、2020年3月にSUWAデザインプロジェクトの公式ウェブサイトがオープンし、情報発信の基盤も整えられました。

現在、COVID-19のため多くの産業が影響を受けています。5年目となる2020年は、人材育成・動機形成・情報発信の3つをテーマとし、諏訪市の産業の魅力を若い人を中心に広く伝え、良さを感じてもらうこと、さらに将来的にその産業を共に牽引していこうという機運を広げていく取組みを行いました。

コロナ禍にあって東京 – 諏訪間の移動にも制約がある中、地元・諏訪のクリエイターや諏訪東京理科大学の学生の皆さんの参加により、地元でも注目される取組みとなりました。

プロジェクト概要

  • プロジェクト期間:2020年7月-2021年1月
  • プロジェクト体制
    • クライアント:諏訪市 経済部 産業連携推進室
    • プロジェクトデザイン:宮本明里、飯沢未央
    • プロジェクトマネジメント:宮本明里
    • クリエイティブディレクション:飯沢未央、伊達善行
    • プロデュース:二本栁友彦、柏木鉄也
    • プログラム企画サポート
  • 発表会審査員:金子ゆかり市長(諏訪市)、鶴本晶子(箔一)、くろやなぎてっぺい、玉樹真一郎

Process

双方にメリットと学びがある、事業者と学生とのコラボレーション

諏訪の事業者5社と諏訪東京理科大学の学生20名がチームを組み、未来の諏訪で実現したい、ワクワクする企画を紡ぎ出し、発信につなげるプログラムを実施しました。ポイントは「ワクワクする」企画を作るということ。コロナウイルス感染症の影響を受けて、若年層の代表として学生には、諏訪市産業への関心を持ってもらうこと、自分たちが大学での学びを諏訪でどう生かせるか、事業者とのコミュニケーションから学ぶことを意図しました。また事業者の皆さんには、自分の事業や諏訪市が持つ魅力や可能性を再認識し、それらを若年層に伝えることで、これからの事業へのモチベーションを形成することを意図し、設計しました。

事業所の見学の実施

2020年10月、参加企業の事業内容と想いを理解することを目的として、学生20名・地元クリエイターと共に、長野県諏訪市に拠点を置く5つの事業者の工場・売り場を見学しました。

株式会社高島産業を訪問

事業者紹介動画の制作ワークショップ

事業者訪問を踏まえ、企業の魅力や強みを整理し、それらを紹介するための動画(主音・副音声動画)を制作しました。専門家・クリエイターからのレクチャー、動画の企画・プランニング、くろやなぎさん制作のフレームワークを用いて紹介動画の制作までを行いました。事業者を複数の視点から深く知ること目標に「主音声・副音声」の2つの動画を制作しました。

SUWAデザインプロジェクトオリジナルマスク。参加者は全員この着用をお願いしました。

新規事業アイデアの企画ワークショップ

2020年11月、今回のプログラム用に開発したフレームワークを用いて、新規事業の企画を考え、さらにその企画をオンラインで発信するための企画動画を制作しました。
また、プログラム実施中には、今回のためにデザインしたオリジナルマスクを着用することによって、一体感を持ってワークに励むことができました。

企画内容を外部へ発信する機会づくり

発表会という形で一般公開のイベントを実施し、制作した動画を元に学生たち自らが企画のプレゼンを行いました。
発表会の様子は地元のケーブルテレビ局でも放映されました!

Challenge

1)発信を視野に入れたアウトプットの設計

企画書を動画に落とし込むフォーマットを制作

今回のプロジェクトを通して、「チャレンジする機運を市内に醸成したい」、「多様な世代を巻き込みながら進めていきたい」という狙いから、ワークショップで出たアイデアを参加者の中だけに留めておくのではなく、実現を目指した取り組みとしてきちんと伝えていく必要がありました。
そのため、アウトプットを「企画書」というドキュメントで表現するのではなく、「企画動画」として動画でまとめるフォーマットを制作。企画内容をビートに乗せてラップで披露するという異例のプレゼンテーションは、市報やケーブルテレビ、新聞やWebメディア等の様々な媒体に取り上げられました。

2)オンラインを活用したプログラム進行

遠方の専門家やクリエイターからのレクチャー

COVID-19の影響を受け、圏外の人材との接触が難しくなった今年度は、現地で対面のワークショップを実施しながら、ワークの間に、Zoomで専門家やクリエイターからのレクチャーの時間を確保。レクチャーをオンライン開催としたことにより、青森や福岡など、遠方に在住の企業や専門家、クリエイターからのサポートが可能になり、多様なインプットの時間を確保することができただけでなく、地域を超えた交流が生まれました。

品質を担保するためのオンライン中間レビュー

企業訪問と3回に及ぶワークショップを、およそ2ヶ月半に渡って実施した本プログラム。ワークショップとワークショップの間の期間に、動画の撮影や編集をチームごとに実施してもらうことで、学生が自発的に企業やまちと関わりを持つことのできる設計を心がけました。また、自発性を大切にしつつアウトプットの品質を担保するために、Slack上での事務局の動画制作に関する質問対応や、動画クリエイター くろやなぎてっぺいさんとのオンライン中間レビューを実施しました。

3)10年先も続くプログラムを目指した体制づくり

継続開催を視野に入れた、マニュアル作りと地元クリエイターのアサイン

このようなプログラムは、単年度で良い成果を挙げることはもちろんですが、それが継続していくことに意味があると、企画当初から私たちは考えていました。そこで、ロフトワークの手からプロジェクトが離れた後にも、地元で何かしらの形で継続することができるよう、「実施マニュアル」という形で今年度のプログラムのプロセスをまとめたドキュメントを制作しました。

また、今後のプロジェクトの担い手を圏内に増やすことを目指して、地元で精力的に活動しているクリエイターをプログラムの実施サポーターにアサイン。結果として、ワークショップのファシリテーションなどの参加者サポートを、連携しながら進めることができました。

サポーターとして参加していただいた月城さん(中央)。チームに入りながら議論をサポートいただきました。

Outputs

事業者と新規事業のアイデアを伝える2種類のムービー

事業者紹介動画

松尾商店× チーム30
松尾商店の野沢菜の魅力を紹介

高島産業 × CHALLENGERS
精密金属加工の高島産業の企業概要や技術力を紹介

みんなのテンホウ × ふぉ〜ちゅん
ラーメンチェーン テンホウの企業理念や地域との関わり方を紹介

ホテル紅や × レトスワ
紅やの魅力をエリアごとに紹介

旭 × サラダ軍艦
旭の企業理念や加工技術について工場を取材し紹介

  1. 各動画はこちらのYouTubeからご覧いただけます。
    https://www.youtube.com/playlist?list=PLlaGozMb26mG7aL27p7pUWKirf-lKOZp9

新規事業企画のプレゼン動画

松尾商店× チーム30:野沢菜×ボードゲーム 〜知ってよ野沢菜、食べてよ長野~
手に取りやすく、誰でも気軽にできる”ボードゲーム”と長野県の名産である風味豊かで食感の楽しい”野沢菜”を掛け合わせることで、互換を使って長野を楽しんでもらえる商品を作る

高島産業 × CHALLENGERS:Hearing Fashion
高島産業の持つ精密金属加工技術や医療領域への強みを生かした、メカメカしくないファッショナブルな補聴器の開発販売を通して、高島産業の技術力を世界へ伝えることを目指す

みんなのテンホウ × ふぉ〜ちゅん:テンホウLAB 〜ラーメンを工学する〜
公立諏訪東京理科大学とテンホウがコラボレーションし、学生が運営するテンホウを経営。経営工学の知見を身につけ、大学で学んだ技術を社会で活用する機会を作ることで、実践的な学びの場を作ることを目指す

ホテル紅や × レトスワ:遊ぼう子ども、休もう大人
職場体験や自由研究の宿泊プラン、子供が遊んで学べる空間の提供、プロジェクションマッピングなどのイベント開催を通して、子供が主役の体験を作ることによって、大人になった時に、自分の子どもを連れて「また帰ってきたい」と思えるような、世代を超えたホテルとなることを目指す

旭 × サラダ軍艦:幸せパズル
旭の持つ接合技術を生かした、継ぎ目が見えないパズルを「切れ目のない縁起の良いパズル」として制作・販売することによって、挑戦し続ける旭の企業としての姿勢をPRすることにつなげる

  1. 各動画はこちらのYouTubeからご覧いただけます。
    https://www.youtube.com/playlist?list=PLlaGozMb26mHb_LhsqpiY_QOTz86pmkba

Member

メンバーズボイス

“「全国に非常事態宣言が発令され、事業者もそれどころではない。一体何ができるのだろう?」。昨年4月時点での率直な気持ちです。
それでも、ここまで継続してきたデザインプロジェクトを止める訳にはいきません。制約下でも「新しいワクワクに挑戦しよう」という気持ちから、公立諏訪東京理科大学との展開が始まりました。関係者で事前協議を重ね、「これは成功するぞ」と感じた手ごたえを、今でも覚えています。
その手ごたえは、成果発表での大学生の頑張り、市内事業者やクリエイターの協力、ロフトワークのコーディネートが融合し、確かな熱量として実現に至りました。振り返ると感慨深いですね。
今回の取組は、次年度以降に向け大きなベースになったと感じています。引き続き、ワクワクするSUWAを広げて行きたいですね。”

諏訪市経済部 産業連携推進室 茅野様

“ワークショップを通して、諏訪の学生たちの表情が変わっていくのを肌で感じました。事業者さんの力強いパートナーシップもあり、チームで課題を乗り越えていく姿に心動かされました。むかえた最終日、ある学生が涙を流しながら”映像のプロになりたい”と伝えてくれたのを今でも鮮明に覚えています。このプロジェクトを通して、ものづくりの力を改めて感じ、諏訪のクリエイティブの未来が楽しみになりました。企画運営のロフトワークの皆さん、諏訪市役所の皆さんお疲れ様でした。素晴らしいプロジェクトに参加できて良かったです。”

くろやなぎてっぺいさん

“SUWAデザインプロジェクトの5年目は、いい意味でも、そうでない意味でも予定調和にない一年でした。打ち合わせのために諏訪に訪問することもままならず、関係性の構築から価値を最大化していくと言う、私たちの武器が機能しない。はじめましてのみなさんとも常に画面越し。一時は、今年の事業は本当に価値につながることになるんだろうか、諏訪のみなさんにとって意味ある取り組みにできるんだろうか。と、不安だらけでした。
でも、そんな事は微塵にも感じさせないプロジェクトの進行と、現地側のバックアップ体制。参加する大学生や事業者のみなさんの高いモチベーションと出されてくる成果の数々。日々驚かされると同時に、私自身が一番信じられていなかったんだなと大いに反省をしました。
5年の挑戦を重ねても、尽きる事なくワクワクを発見できる諏訪市。予定調和を超えて、6年、10年、20年と、いろんなワクワクを諏訪の皆さんと共創していきたいと思っています。”

ロフトワーク 二本栁 友彦

“今回個人的に大切にしていたことが2つあります。1つ目は、「大変だけどわくわくする」プログラムづくりです。参加した学生が「地域の課題を解決する」というマインドではなく、企業の技術や社員の熱意などの地域の資源に希望を感じることができるような、そんな体験設計を心がけました。
2つ目に、参加者の中だけでアイデアを完結させない、ということです。課題解決のワークショップは世の中に溢れていますが、参加者の中だけでアイデアが閉じてしまうことが多いように感じます。今回は、活動そのものを諏訪圏内外に発信するために、「映像」という表現手法を使って、積極的な情報発信を心がけました。
最後に、本当に多様な方々に関わっていただいたプロジェクトでしたが、良いプロジェクトは、1人1人が他人に自慢したくなるものなのだと、今回の企画を通して改めて感じました。今後もご一緒できることを楽しみにしております。”

ロフトワーク 宮本 明里

“2020年はコロナウイルス感染症の影響から、多くの事業者の方が深刻な状況に陥りました。そんな不安定な状況の中、より良い諏訪の未来をつくるために必要なことは自分たちの暮らしている土地や行われている営みに誇りを持つことだと考え、本年度のプログラムのコンセプトを作成しました。最初にそんな想いをプロジェクトメンバーで共有できたことが、プロジェクトの熱量を上げるきっかけになったのではないかと思っています。
また諏訪市からの要望であった新規事業の創生と情報発信に応えるために提案したのが、動画企画書というフォーマットでした。そしてクリエイターのアイデアからラップも加わり、他にないユニークなアウトプットを作り出すことができました。完成した企画と動画はどれも大変素晴らしく、発表会の盛り上がりは今後の諏訪の盛り上がりを期待させてくれるものでした。ご協力いただいた関係者の皆さまありがとうございました。ワクワクする諏訪の未来に少しでも貢献できたのならば、とても嬉しく思います。”

ロフトワーク 飯沢 未央

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