EVENT ミートアップ

先生が働きやすくなれば、子どもの学びも広がる!
働き方改革のための施設のアップデートとは?

文部科学省によって創設された、新しい時代の学びを実現する学校施設づくりを支援するプラットフォーム「CO-SHA Platform(コーシャプラットフォーム)」。「令和の日本型学校教育」に向けた未来の学校施設づくりの推進に向けて活動しています。

そんなCO-SHA Platformでは、「CO-SHA ミートアップ vol.4 -施設から考える、学校の働き方改革-」と題し、イベントを開催。職員室のフリーアドレス化や地域と連携した教育活動など、教員の働き方改革について施設面でのアプローチの事例をご紹介いただいた後、参加者のみなさんで課題をシェアするミートアップを実施しました。

本稿では、2校の事例とクロストークの模様を中心にお届けします。

事例1: 柏市立土小学校「地域と連携した教育活動」(柏市立富勢小学校 校長 梅津健志さん)

梅津さんには、前任の土(つち)小学校の校長時代の取り組みについてご紹介いただきました。

令和1〜2年にかけて、柏市初の長寿命化工事が行われた土小学校。校舎が新しくなったことで、「授業スタイルが変わる、外部が入りやすくなる、これらによって学びが変わる」という3つの変化を感じた、と梅津さんは話します。

「古い校舎のままで、新しい学習指導要領に沿った主体的・対話的・個別最適で協働的な学びを実践するのは、なかなか難しい。“教室ではなく学室へ”と変化する必要がある」と考えた梅津さん。「学校には壊さなければならない4つの壁がある」として、以下の図を示しました。

まずは学級の壁を壊すために行った「学年担任制の導入」について見ていきましょう。長寿命化により廊下がオープンになり教室と教室の間にも扉ができたことで、学級間を先生や子どもたちが行き来できるようになり、約70人の子どもたちを2人の先生が担任するようにしたそうです。

こちらは、千葉県教育委員会が作成した授業動画を再生しながら、2クラス同時に同じ授業を行っている様子です。1人の先生が2クラスを同時に見られるようになったことで、もう1人の先生は時間の使い方が工夫できる利点があったと言います。

続いて、教科と学年と学校の壁を壊すために行った「コミュニティ・スクールの導入」についてもお話いただきました。土小学校で掲げている「目指す子どもの姿」は、地域の人たちと先生が一緒になって行ったワークショップによって定められています。

それを軸に、総合的学習の時間や生活科の授業に地域の人たちが入ったり、保護者や地域の人たちが子どもの発表を聞いて、次の手を一緒に考えたりしているそうです。

こうして学校に関わる人が次第に増えてきたことで、16の必修クラブを地域の人たちが指導してくれるように。毎回40人以上の人が来て、竹細工やゴルフなど、ユニークなクラブ活動を行っており、その時間帯は先生の研修時間として活用されていると言います。

千葉県教育委員会では地域住民の声を学校運営に生かす地域とともにある学校づくりや地域コミュニティの構築を目的として、「教育ミニ集会」の開催を推進しています。

「校舎が変わっただけでなく、教育ミニ集会を通じて地域の人たちとコミュニケーションを図ることで、地域課題を子どもの学習課題にした地域との協働が始まりました」と語る梅津さん。子どもが使っていない時間は、学校を地域の人たちが使えるようになっており、さまざまな取り組みが行われているそうです。

事例②: 板橋区立板橋第十小学校「職員室のフリーアドレス化」(板橋区教育委員会 事務局指導室 指導室長 冨田和己さん)

昨年度のCO-SHAソウゾウプロジェクトに採択され、オープンスペースの利活用を推進した板橋区立板橋第十小学校。昨年度まで同校で校長を務めていた冨田さんに、今回は職員室のフリーアドレス化についてお話しいただきました。

板橋第十小学校は令和2年9月に新校舎が完成し、各学年にオープンスペースができたことで、単元内自由進度学習や交換授業が活発になってきていると言います。

職員室といえば、事務机が並び、学年ごとに島を形成するのが一般的です。これには同学年でのコミュニケーションが深まるメリットがある一方、他学年の教職員との関わりが少なくなるデメリットも。コロナ禍を機に、フリーアドレス化に踏み切る企業は増えてきましたが、学校で導入された例はあまり聞きません。

なぜ板橋第十小学校ではフリーアドレスを導入したのでしょうか。その契機となったのは、新校舎の建設と職員数の増加だったと言います。新校舎の建設の背景には、当然、クラス数の増加が見込まれていました。

それに加え、昨今ではスクールサポートスタッフやALT(外国語指導助手)、ICT支援員など、多様な人材登用が行われており、常に座席が足りない状態になっていたそうです。

職員室に個人席を設けることに限界を感じていた同校では、大学の研究室に協力を仰ぎ、まずは日中の職員室の在籍率や滞在時間を測定することにしました。すると、予想通り、日中の職員室には人がいないことが数値として明らかになったのです。

これを根拠にフリーアドレス化の検討を進めることにした冨田さんですが、「トップダウンで断行するのではなく、プロジェクトチームを発足して、教職員主体で取り組むことが重要だ」と考えたといいます。

そこで、プロジェクトチーム主催かつ各グループに大学生を配置したワークショップを実施。どんな職員室にしたいのか、皆でアイデアを出し合った結果、「個人作業は教室で行うため、オンとオフを切り替える休憩スペースが欲しい」「周りを気にせずに話せる空間が欲しい」といった意見が挙がったことから、フリーアドレス制の導入が決まりました。

「フリーアドレス化の最大の目的は、教職員間のコミュニケーションの多様化にある」と語る冨田さん。実際、固定席がなくなったことで、「いろいろな人と話せるようになっただけでなく、今まで知らなかった互いの強みを見つけられるようになったと言い、ポジティブな変化を感じている教職員が多い」と話しました。

もうひとつ、フリーアドレス化にしたことで、「個人情報の紛失防止とペーパーレス化の促進」という副次的なメリットもあったと言います。フリーアドレス化により、書類やPCなどの私物はパーソナルロッカーに片付けるようになり、個人の作業スペースと収納スペースが切り離されたからです。「机の上にプリントを配布できなくなったことで、自然とペーパーレス化が進み、個人情報を紛失するリスクも格段に下がりました」(冨田さん)

とはいえ、職員室のフリーアドレス化には、いくつか課題も残っています。校務システムには有線でPCをつなぐ必要があるため、クラウド化しなければならないのがひとつ。また、同学年での打ち合わせがしにくくなったという声も上がっていることから、「職員室の役割をリラックススペースやアイデア出しの場として捉え直す必要がある」とも言います。

「当然ながら、フリーアドレスは万能ではない。教職員一人ひとりのニーズや状況に応じた臨機応変な判断や対応が成功の鍵となります。加えて、教職員自身が『より良い職場環境を自ら整えていこう』という雰囲気づくりも大切。この取り組み自体がコミュニケーションの多様化を生み出し、学校の働き方改革につながると考えています」(冨田さん)

学校の働き方改革を実現する施設のあり方とは

続いて、CO-SHA Platformのアドバイザーであり、東京学芸大学 教育インキュベーションセンター長 教授の金子嘉宏さん(以下、金子)がモデレーターを務め、梅津さん(以下、梅津)と冨田さん(以下、冨田)とクロストークを行いました。

金子 両校を実際に見に行った感想としては、「いつでも変えられるから、とりあえずやってみよう」というマインドにさせるために、“変え続けられる環境”をつくっておくことが重要だなと思いました。教職員や地域の人がやりたいようにやってみてもらうのも、良い成果を生む秘訣ですよね。ちなみに両校では単元内自由進度学習に力を入れておられますが、先生たちが授業しやすくするには、どんな教室空間にしておくと良いでしょうか。

冨田 土小学校と板橋第十小学校で共通しているのは、教室の壁をオープンにして2つのクラスを同時に見られるとことですよね。今までのオーソドックスな教室の壁がなくなるだけで全然違うと思います。あとは共用スペースがあることも重要ではないかと。

金子 授業中も子どもたちが溢れ出している感じでしたもんね。

梅津 自由に使える空間は、すごく大事ですよね。土小学校はもとの駆体はそのままなので、可動式の机を配置したラーニングコモンズをつくったり、給食のワゴンホールだったところをギャラリーにしたりするなど、いろいろと工夫しています。

冨田 1人1台端末を通じて、子どもたちの様子を確認したり、アドバイスしたりできるようになったので、改築までしなくてもできることは増えましたよね。板橋第十小学校では若い先生を中心にリアル黒板を使わなくなってきていて、電子黒板で授業することも増えています。

梅津 たしかに、ICT環境が手元ですぐに使える状態になっていることは、非常に重要だと思います。柏市では単焦点のプロジェクターが備え付けられているので、富勢小学校でも電子黒板機能を使った授業が増えています。

金子 単元内自由進度学習にすると先生が大変になるのではないかというイメージを持たれている方も多いかと思いますが、その辺りはいかがですか。

冨田 学校教育方針には自由進度学習なんて一言も入れていなかったんですよ。「子どもが主役になる学びをしてください」と言ったら自然発生的に始まった感じで。実際にやってみた先生によると、「授業準備は格段に楽になったけど、授業中は子どもたちを支援するために走り回るので忙しくなった」と言っていましたね。でも、やりがいはありそうでした。

金子 理想的な働き方改革ですね。そのときに学年担任制やフリーアドレスになっていると、先生同士で相談しやすくなって授業改革も進みそうです。とはいえ、フリーアドレスは嫌だという先生はいなかったんでしょうか。

冨田 「席が決まっていないと、どこに座っていいかわからない」という声はありました。しかし、データとして席にいないことが明らかになっていたので、「でも、ほとんどいないよね」ということで落ち着きました。

金子 なるほど。職員室をコミュニケーションの場として捉えたときに、地域の人に開放していく方向もあり得るのかなと思うのですが、何かお考えはありますか?

冨田 どうしても個人情報保護の観点で、先生たちはあまり積極的ではないようです。中(学校)と外(地域)をリンクする中間的な場所をつくれたらいいのかなとは思いますが。

梅津 どこまで覚悟を決めるかですよね。土小学校では地域コーディネーターの席も職員室に設けていました。学校運営協議会に参加している人は先生と同じ扱いで、どんどん職員室に入ってきてもらっていました。

金子 守秘義務契約は締結しているはずですしね。地域の人が入ってくることで、「先生の保護責任はどこまで発生するのか」という議論にはなりませんでしたか。

梅津 万一、怪我をした場合には学校の責任だから、先生が責任を取る話ではないと伝えていました。ボランティア保険もありますし。先生に求めているのは、出欠の確認だけです。

金子 職員室以外のスペースを地域の人にどこまで開放するのか、どのように線引きされていますか。

梅津 土小学校の場合は、地域に開放する部屋を物理的に離れた棟に集約しています。教室棟と特別教室棟の間で壁をつくってセキュリティを管理するのが一番いいと思いますね。

金子 先生たちも働きやすく、地域の人たちも入りやすい、学校施設の理想形かもしれません。お二方とも、ありがとうございました。

この後、ご登壇いただいた先生方と参加者のみなさんで交流する時間を設けました。それぞれ興味のあるテーマによってブレイクアウトルームに分かれ、日頃感じている課題を共有したり、それに対して自校や自社の取り組みを紹介したりする有意義な時間となりました。

今年も「明日の校舎づくり」に挑戦するプロジェクトを支援するCO-SHAソウゾウプロジェクトがスタートしています。また、CO-SHA PlatformのWebサイトでは、新たな学校づくりのための効果的な取り組み事例やアイデアもご紹介しておりますので、ぜひあわせてご参照ください。

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