ゆっくり廻りながら、少しずつ上へ。ロフトワークのこれから。
マネジメントメンバーそれぞれが考える2018年、そしてこれからのロフトワークの未来について。
代表取締役社長 諏訪光洋
「今年こそはもっと世界にチャレンジするのだ!」ってこの5年くらい毎年思ってたりする(笑)。5年前、2013年にFabCafe Taipei、その2年後にロフトワーク台北を。その後FabCafeは昨年メキシコのMonterreyで世界で10番目のオープンを迎えた。飛騨にヒダクマつくったり、MTRL KYOTOもそれぞれいい感じになってる……から、もしかしたら外から見ると「すげー」と思う人もいるかもしれない。けど……どうも手応えがない。それは当然で、だって連携が少ないから。特にビジネスで(苦笑)。
実はロフトワークは、僕が苦手なことの集合体だったりする。オープン(どちらかと言えば引き篭もり)で、プロジェクトマネジメントが得意(だらしない)で、ワークショップやデザイン思考を通してボトムアップ型のデザインが得意(ほんとは1人で決めたい)で、コミュニティをつくりながら、その外部知見をデザインに活かす(本読む方が好き)。 2017年にはそこに「デザインリサーチ」という新たなる要素が加わった。正直「えーそんな面倒なインサイト……というかその、インタビューとか?」と感じるけど、そのアウトプットとリサーチから生み出されたサービスのクオリティは……素晴らしい。
昨年12月に行った「ロフトワーク展」で“過去の自分を変えた1冊”という本を聞かれ『ゲーデル、エッシャー、バッハ──あるいは不思議の環』を挙げた。とても有名な本なので、知っている人も多いGEB(頭文字をつなげてこう言われる)。ゲーデルから美を。バッハから数学を。エッシャーから論理を。少しずつ視点をずらしながら読み取り、そのズレと矛盾と問いがまたバッハのカノンのように無限にループし上昇する。
この本に出会った高校生の頃、160人の卒業生のうち100人が東大に進む屈指の進学校にいながら、僕はちっとも勉強しないで、麻雀とゲームをしながらデザインに興味を持っていた。数学と物理は好きだったから、ロータリーエンジンや虹が生まれる科学を「美しい」と思っていた。でもそれを誰にも共有出来なかった時、世界は美しさに満ちていて、それは数学や論理と密接に関わっていることを、そして観察し感じる我々自身とその対象との関係や、矛盾にも常に発生することを、GEBは初めて言語化してくれた。そして沢山のことを教えてくれた。
ロフトワークは自由に見えるけど、実はメソドロジーやフレームワークを大切にしているし、メンバー各々が自覚をもってそのメソドロジーやフレームワークを通して自己の成長を管理している。(皆えらいんです、ほんと)
僕は皆とロフトワークの成長の螺旋のちょっとした角度、そのさらに8角形の形をとってあがっていく、その螺旋の線が曲がるタイミングだけを見ているくらいのもの。
生まれたばかりのバイオクラブ、3年目のヒダクマ、6年目の世界への取り組み、そして17年12月にオープンした1年目のロフトワーク香港。僕らの原点であるクリエイティブのコミュニティ「loftwork.com」は、今年クリエイティブのアワードプラットフォーム「AWRD.com」へ変わる。
ゆっくり廻りながら、少しずつ上へ。
“All rising to great place is by a winding stair.” ──Francis Bacon (1561-1626)
(「大いなる高みにのぼるにはらせん階段を使う」フランシス・ベーコン)
決して早くない歩みだけど、声を掛け合いながら皆さんと一緒に登ろうと思います(苦手だけどねw)。
今年もよろしくお願いします。
代表取締役社長 諏訪光洋
代表取締役 林千晶
じっくり寝かせて旨みを増した「熟成肉」がブームだ。良質な微生物は、タンパク質を旨み成分であるアミノ酸に分解し、とろけるように柔らかく、芳醇な味わいを生み出す。良質な微生物、というのがポイントのようで、単なる腐敗を進める菌(あえて、ただの“菌”と呼ぼう)がついてしまうと、肉は腐るだけだ。
ロフトワークも、気がつくと設立から18年が経った。いや、経ってしまったというのが、素直な感想。「ベンチャー企業」という言葉には、急成長への期待が含まれている。でも、一つ一つプロジェクトを手がけるロフトワークは、急成長とは無縁だ。ベンチャーとか起業家と呼ばれることに、いつも居心地の悪さを感じていた。
でも18年という月日を振り返ると、それはそれで、なかなか大したものかもしれないと思えるようになってきた。マイペースではあるが、増収・黒字決算を続けている。毎年きちんと税金を払い、少しずつ自己資金を貯めて、デジタルものづくり拠点「FabCafe」や、素材を起点に事業創造を目指す「MTRL」など、自分たちが信じる未来に投資を重ねてきた。
ロフトワークが手がける業務も、驚くほど変化している。10年前は、大規模サイトを手がける制作会社だった。5年前は、ものづくりカフェを始めたデザイン会社だった。でも今のロフトワークは、制作会社でも、デザイン会社でもない。私たちは、冒険心を武器に、価値創造に挑戦するクリエイティブ・プラットフォームだ。ものづくり、サービス開発、コミュニティデザイン、アートフェスティバル、都市デザイン。手がけるものの、形は問わない。それが、未来に向けた創造的な挑戦である限り。
「世界をフィールドに、創造性を流通させるクリエイティブ・プラットフォームを目指す」。このヴィジョンは、2000年の設立時に掲げたもの。18年の歳月をかけて、あの頃、描いた夢を実現しつつあるようだ。ゆっくり、ゆったりとではあるけれど。なにより、私たちが腐ることなく、健やかに成熟してこれたのも、賢明で温かく支えてくれる皆さんの存在があってこそ。そろそろ、とろけるような長期熟成の旨みをお届けしなければ、と心に誓う2018年元旦であった。
代表取締役 林千晶
取締役 兼 COO 矢橋友宏
毎年、年始にこの挨拶文を考える。
でも今回は随分長い時間、書き出すことができなかった。
昨年の出来事や耳当たりのいい新年のテーマを書き連ねることは、それほど難しいことではない。でも今年はなぜか、それをしてはならない気がした。
従来から、決め事をつくり、それをキチッと守っていく仕組みをつくることが好きで、実践してきた。代表の諏訪からは「リベラルを理解するコンサバな人」と紹介されたこともある。「なるほど」と我ながら納得していたが、年齢を重ねるに従って自分の“コンサバ度”が上がりつつあることに危機感を抱いてもいた。
だが、よくないな……と感じながらチャレンジを心がけても、なかなか思う成果には結びつかない。一方で、恥ずかしながら、本来守らないといけないことを守れなかった場面もあった。昨年は、それで痛い目に遭った。いや、組織を痛い目に遭わせるところだった。
改めて、集中? 選択? うん、意思を決めないといけない。組織やメンバーのチャレンジを支援するどころか、このままでは邪魔な存在になってしまう。
攻めるのが得意ではないのに、「攻めないといけない」という焦りだけに押されて、布陣が整う前に無理やり点を取りに行っていた。これでは、カウンターに遭うばかり。
改めて、自分の得意なことに集中しよう。
そう、私は守りを固めます。
守りといっても、引け腰でドローを狙うという意味ではなく、あくまで勝つための守り。ガチガチにルールで固めるのではなく、柔軟性を失わない、しなやかな強さを持ったディフェンス。今のロフトワークには、多様な攻めのパターンを持つストライカーが沢山いる。彼らが安心して攻撃に集中できるよう、新たなディフェンスのあり方に挑戦してみたい。
取締役 兼 COO 矢橋友宏
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