ロフトワークは12月18日(月)から22日(金)まで、企画展「ロフトワーク展 01 – Where Does Creativity Come From?」を開催。「偶発的なひらめきを待つのではなく、自ら創造性を生み出すにはどうすればいいのか」という問いに長年向き合ってきたロフトワークが、数多のプロジェクトの“創造性の種”を初めて展示しました。

本記事は、展示の一般公開に先駆けた12月15日のオープニングレセプションにおける、「創造性の源」についてゲストと語り合ったセッションを、2編成でお伝えします。

前編のゲストは、建築家の山﨑健太郎さんです。山﨑さんが携わった千葉県佐倉市の「はくすい保育園」は、ゆるやかに傾斜した土地に建てられた常識破りの設計が話題に。「保育園は大きな家である」をコンセプトに、すべての空間を同じ部屋であるかのように意識しながら、階段状に保育室を配置。段差の安全対策も必要最低限にとどめ、死角を極力つくらないように設計されたそう。

なぜ、そのような設計が可能になったのでしょうか。ロフトワーク シニアディレクターの重松佑を交えたトークより、クリエイターのみならず「クライアントの創造性を引き出すクリエイション」に焦点を当てます。

「クライアントを説得する」ではなく「アイデアに共感してもらう」

重松:「創造性はどこから来るのか」という問いですが…….とても難しいですよね。僕が知りたいくらいです(笑)。

山﨑:僕もそう思います(笑)。誰もが違う定義の「創造性」を持っていると思うんですが、僕は現代美術家の宮島達男さんの「人を思いやる想像力と、出口の見えない問題を突破する創造力」という言葉がしっくりきています。

いま僕たちが取り組んでいる仕事は、オーダーに対して「かっこいいデザインの建築をつくる」ことではないんです。クライアントは「こういうビジョンで保育園をつくりたいけど、何を建てればいいかわからない」と相談をしてきます。

重松:たしかに、5年くらい前まではクライアントへ「驚きのある答え」を出すことが創造性だと思っていました。でも今は「なぜそれをつくりたいか?」という問いを考えることから始まる仕事が増えたように感じています。

山﨑さんは「はくすい保育園」をつくる際、どのように「問い」を設定していたのでしょうか?

《はくすい保育園》(千葉県佐倉市)
「保育園は大きな家である」という考えに基づいて設計された保育園。山林に囲まれ、南向きに傾斜した敷地をそのまま利用している。異なる年齢児の活動の違いも「大きな家」の特徴として捉えられ、子どもたちは大きく解放された空間でのびのびと過ごす。 http://ykdw.org/works/hakusui-nursery-school/

引き出しの中の「創造性」は誰にでもある

山﨑:子どもたちは「どんな保育園が欲しいか」はわからないんです。だから、園長先生や保育士が子どもたちを管理しやすいように設計することもできます。でも、南側の窓を広くして暖かい日差しを取り入れたり、風が吹き抜けるようにした方が健康的ですよね。

大人が「子どもたちはこれを求めている」と押し付けるのではなく、「子どもだったときどうしていたのだろう?」と環境を翻訳することが大事だと思っていました。

重松:山﨑さんによって、クライアントの創造性が引き出されるんですね。

山﨑:良く言えば、ね(笑)。

僕はクライアントだってアーティストだと思うんです。普段は全然クリエイションなんてやっていなくても、クリエイターに負けないくらいの創造性がある。

極論を言えば、「儲かる保育園をつくる」ことだけを考えていても経営は成り立ちます。でも彼らは、「自分たちが保育園をつくりたいのはなぜなのか」を自問自答し、事業としてアウトプットしました。そういう創造性が、彼らの引き出しの中にある。

異なる環境で育った他人なのに、これはどう?と目の前に出されたものが「こういうのがほしかった」と思うものだった時、とても嬉しい気持ちになります。次のクリエイションに繋がるような、自分の創造性が高まる気がしています。

重松:誰かと仕事を進める際、みんなでお互いの「引き出し」を開け合うような感覚ってありますよね。

でも僕はそのとき、「自分の引き出しの中には何も入っていないんじゃないか」って怖くなることがあるんです。だから、開けられた時のためにいろんなものを詰め込んで、引き出しに並べておくようにしている。

山﨑:あぁ……わかる(笑)。でもこうやって重松さんと話していると「引き出しを開けられること自体が気持ちいい」と感じるんです。

自分の引き出しの中に創造性を並べておくことが大事なのではなく、お互いの引き出しの中身を交換することが大事だと思っています。

創造性の種は「日々大切にしていることへの、思いやり」

山﨑:「創造性の育み方」への答えのひとつは「他人を思いやる力」を持つことだと思っているんです。今、重松さんと話しているだけでも「自分の中の知らない自分」にどんどん気づいていって、可能性が広がる。相手の中から本人も気づいていないことを引き出すには、「他人を思いやる」という想像力が必要です。

たとえば、認知症の人たちや目の見えない人たちの施設をつくるとなったら、僕らは同じ感覚を100%共有しようと思っても叶いません。だから、わからないことからスタートし、できるだけ寄り添うことが大事だと考えています。

重松:以前体調を崩して入院していた期間があったのですが、そのときに仕事のインプットが減ってしまう恐怖を覚えました。でも、実際はそうではなく、仕事があるときには触れられなかったインプットの機会がむしろ増えたんですね。それ以来、意識的に家にいる時間を増やすようにしています。

子どもが二人いるので、育児に時間をとられてインプットの量が落ちると言われることがあります。僕にとって実態はそうではなく、映画や本、アートよりも、自分の大事にしているものにフォーカスすることで想像力が育まれることがある。

山﨑: 創造性が生き方と関係しているのであれば、自分たちの人間性を高めていくことが創造性につながるのかもしれない。

もちろん映画を見たり、美術館でアートを鑑賞するのも大事だけれど、体を休めたり家族との時間を過ごすことも人間性を高めることにつながる。そうやって「思いやり」を育むことが、創造性の種になるのではないでしょうか。

 

(テキスト:長谷川 賢人奥岡 権人

登壇者プロフィール

■ 山﨑 健太郎/建築家
1976年 千葉県生まれ / 2002年 工学院大学大学院建築学専攻 修了 / 2008年 山﨑健太郎デザインワークショップ設立 / 2014年 工学院大学 非常勤講師 / 2017年 東京理科大学 非常勤講師、明治大学 兼任講師。地域住民と石をつんでつくった沖縄の「糸満漁民食堂」、家族も過ごすことができる佐賀の「さやのもとクリニック」、園児たちの原体験をつくる千葉の「はくすい保育園」の設計を手がける。グッドデザイン賞ベスト100、iF DESIGN AWARD 2017 GOLD AWARD(ドイツ)、日本建築学会作品選集新人賞など受賞。 http://ykdw.org/

■ 重松 佑/ロフトワーク シニアディレクター
日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像業界を経てディレクターとしてWeb業界に入る。2012年ロフトワーク入社。ブランディングを中心としたプロジェクトをリードする。「良いチームを作ること」を信条に、型に囚われないプロジェクトのデザインを行う。ミュージックビデオなどの映像作家としても活動中。

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