コミュニティはビジネスを生み出せるか?
〜中小企業だからできる「Made by Community」のものづくり〜
名古屋や東海エリアにおけるオープンコラボレーションの可能性を探求し、ビジネスの機会創出を促すシリーズイベント、名古屋共創会議。第3回目となる今回は、デザイン経営の具体的アプローチのひとつである「共創のコミュニティをつくる」をテーマに開催しました。 >> イベント詳細(名古屋共創会議 vol.3 〜事業を生み出すコミュニティをつくる〜)
今回、FabCafe Nagoyaにお招きしたのは、中小の家具メーカーを中心とした家具のものづくりコミュニティ「1518(いちごいちはち)」の発起人であり、ノーリツイス代表取締役の青木照護さんと、デザイナーの横関亮太さん。複数社が協力してプロダクトを開発する体制をつくることで、1社では実現できない生産の仕組みを実現しています。これからの生産・消費・流通の形はどうなるのか、新規事業と組織理解について、また、「コミュニティ」という考え方に付き纏う責任やお金の話など、多くの事業担当者が悩む課題について、リアルな議論が繰り広げられました。
執筆:野本 纏花
編集:loftwork.com編集部
生産と消費のエコシステムを変える?「1518」の「Made by Community」の思想とは
井田(モデレーター) まずは「1518」とは何なのか、青木さんからお話いただけますか?
青木 当社ノーリツイスは、オフィスチェアを中心に74年間ものづくりをしてきている中小メーカーです。中小メーカーはどこも同じだと思いますが、1998年頃までは大手メーカーの下請けとして成長していたものの、次第に価格の切り下げ競争が激化していくとともに、大手メーカーの製造拠点がどんどん海外へと移っていきました。
2019年には年間1,000件もの中小メーカーが倒産・廃業しているんですね。そのうち半数近くは黒字倒産です。つまり、人材も設備も技術も良いものを持っているにもかかわらず、後継者不足や将来性が見えないといった理由だけであきらめてしまっているところが非常に多いということですよね。これは非常にもったいない。
「当社もこのままではいけない」という危機感とともに、もし中小メーカー同士で横の連携ができれば、「1社では実現できないようなこともできるようになるのではないか」「大手メーカーと渡り合えるのではないか」という想いを抱くようになりました。そうなれば、これまで持っていたBtoBの商流だけでなく、BtoCやD2Cの商流も獲得できるかもしれない。そんな想いから始めたのが、“一期一会”を数字化して「1518(いちごいちはち)」と名付けたプロジェクトでありコミュニティです。
現在「1518」の中心となっているのは、当社ノーリツイスと、名古屋のロッカーメーカー「アルプススチール」、そして静岡のソファーメーカー「フジライト」の3社から成る“作り手”の連合体です。その周りを横関さんのようなデザイナーやクリエイターの方が取り囲んでくれていて、さらにその周りには“使い手”である消費者のみなさんがいます。このように「1518」に関わるすべての人たち、つまり“作り手”と“使い手”が意見を出し合いながら一緒にものづくりをしていくのが「1518」のコンセプト。これを「Made by Community」と呼んでいます。
この「Made by Community」の概念が一般化すれば、“使い手”の方々は自分でつくったものを自分の納得する価格で購入して、愛着を持って長く使い続けられますよね。この概念は家具メーカーだけに通用するものではなく、すべてのものづくりに通じるものです。「Made by Community」の概念をあらゆる業界に広げていくことで、豊かで持続可能な社会を目指していきたいと考えています。
井田 「1518」のコミュニティに参加して、ものづくりをするには、どうしたらいいですか?
青木 メインサイトで「1518」のことを知って「自分もこんな家具をつくりたい」と思ったら、非公開のFacebookグループに入っていただきます。そこで作り手と意見交換をしながら、実際にものづくりを進めていきます。完成した商品はオンラインで販売するほか、リアルの展示会やイベント、ショップのエクスペリエンススポットなどで体験していただけます。
井田 多くの人が関わる中で、組織やコミュニティの仕組みはどのように整備されてきたのですか?
横関 実は3年くらいの紆余曲折を経て、やっと今の状態になった、というのが正直なところです。クリエイターのメンバーとしてコミュニティ構築のディレクションをしている山田研一さんが入ってくるまでは、コミュニティという形が明確にあったわけではなくて。ブランドなのか、コミュニティなのか、曖昧な状態でした。そんな中、僕が開発目線でアイデアを出していると、「もっとユーザー目線でものづくりをしなきゃいけない。いろいろな人の声を集められる座組みにすべきだ」と山田さんが発したのをきっかけに、「1518」がコミュニティとして必要な機能を書き出して行ったんです。その中の足りないところへ新たなメンバーに入ってもらいながら、今の形に辿り着きました。
井田 多様な人がコミュニティに集まって意見を出し合う中で、コミュニティだからこそ大変だったこともあるのではありませんか?
青木 僕がプロジェクトリーダーとして最も気を遣っているのは、「絶対に1対1で人をジャッジしないこと」です。人という生き物は、ついこれをやりがちだけれど、これが始まるとコミュニティは崩壊しますから。
井田 青木さんのような、ちゃんと引っ張っていけるリーダーがいることが、コミュニティ運営において重要なポイントなんでしょうね。
プロダクト全体に共通したカラーリングは、デザインを担当した横関さんの故郷の岐阜の景色をフィールドワークして決めていったもの。全体に東レのサステナブル素材「ウルトラスエード」が活用されている。写真はノーリツイスの椅子。パイプ椅子でありながら自宅やカフェにも馴染む世界観を作り出している。
コミュニティを機能させるための5つの要素とは
井田 ではここからはFabCafe Tokyo CTOの金岡大輝より、プロジェクトの事例とともにコミュニティが機能する5つの要素を紹介してもらいたいと思います。
金岡 FabCafe Tokyoがエバーブルーテクノロジーズさんと行った無人自動操船ヨットをつくるプロジェクト「A.D.A.M(アダム)」をご紹介します。これはAIデザインをテーマに、最先端のジェネレーティブデザインを活用しながら、コミュニティでまだ世にないドローンのヨットをデザインすることに挑戦したものです。
「A.D.A.M」にはプロのデザイナーやエンジニアなど、さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが参加してくれました。プロジェクトのメンバーの中には、こちらから声をかけた方もいますが、FabCafeにはいろいろなコミュニティがあるので、「こんなプロジェクトをやりませんか?」と声をかけると、さまざまなプロフェッショナルの人たちが興味を持ってくれます。とはいえ「ただ一緒にやりましょう」というだけではダメで、「ヨットのことを学べますよ」とか「新しい技術を知れますよ」、「FabCafeで最新のテクノロジーを使って、その世界をのぞいてみませんか?」といった参加してくれる人にもきちんとインセンティブを設定することが大切です。
プロジェクトのフェーズ2のゴールとして、2mクラスのヨットを3Dプリンターで実際につくって、逗子から葉山まで航行することに成功しました。コミュニティに参加することで、普段の自分の活動領域とは異なる、社内では出会えない人や技術と出会えるというのも、参加者にとって大きなインセンティブになっていました。
FabCafeのエコシステムについて、次の5つのポイントにまとめてみました。これらの要素が循環することで、FabCafeのコミュニティが有機的な活動を展開できていると思います。コミュニティはアメーバのようなもの。その時々のトピックによって、日々形を変えながらプロジェクトは進んでいきます。外の人たちとコラボレーションしたり、何か新しいことをやってみたい方がいらっしゃれば、ぜひご一緒できればと思っています。
- Core Value
コミュニティを刺激するスタッフがいて、コミュニティを維持するための施設があること。それに、最新のトレンドにアンテナを張っておくことも大切です。 - Openness
これがとても大事で、FabCafeのように誰もがふらっと立ち寄れる場所であることで、偶発的な出会いが生まれます。 - Connect
ただ場所があるだけでは人は集まらないので、異なるバックグラウンドの人同士をつなげ、“新しい血”を入れるためのオープンな機会があること。 - Project
コミュニティのメンバーがコミットできる活動があれば、そこに興味のある人がだんだん集まって勝手にプロジェクトが始まることもありますし、こちらから声をかければ参加してもらえるようになります。 - Business
予算がなければ、サステナブルなコミュニティ運営はできません。プロジェクトと企業をつなげて予算を確保したり、逆に予算のついたプロジェクトをコミュニティで回したりするようなサイクルをつくる必要があります。
「フラットな関係」と「リーダー不在」は違う
井田 次に、「コミュニティから始めるデザイン経営」をテーマに、ノーリツイスの青木さん、デザイナーの横関さん、FabCafe Tokyo CTOの金岡に、OKB総研戦略事業部 部長 長瀬一也さんを加え、パネルセッションを行っていきたいと思います。
「1518」で行われている、“消費者やユーザーの視点を取り入れながら、デザイナーも一緒にものづくりをしていく”というのは、まさに「デザイン経営」ですよね。これを1社で行うのはなかなか大変ですが、コミュニティで役割をシェアすることで前に進めていこうという試みは、とても新しい。そんなコミュニティを生み出すためには、何が必要だと思いますか?
青木 先ほど横関さんからもあった通り、「そもそもコミュニティをつくろうと思って始めたわけではなく、必然的にそうなってしまった」というのが実情なんですね。僕は10年以上前から青年会議所に所属して、いろいろな企業の経営者たちとともにプロジェクトを進めていくことになれていたというか、もはやコミュニティという感覚すらないくらい、いつも通りやっていたらこうなった、という感じがあるんです。
横関 そういう意味では、最初は「みんなフラットな関係にしたい」ということで、代表を立てていなかったんです。でもそれによって、みんな遠慮して意見を出さないとか、方向性が定まらないといった弊害が出てきたので、青木さんに「船頭が必要だからリーダーに立って欲しい」という話をして、そこからどんどん変わっていきました。
「振り返ったら誰もついてきていなかった。」社内に理解を得るために挑戦していること
井田 対外的なメリットを考えるとコミュニティは良さそうだというのは分かるのですが、社内に対して何かコミュニティの価値を感じるところはありますか?
青木 そこがまさに課題なんです。「1518」は新規プロジェクトのような立て付けで、もともとそこにリソースを用意していたわけではないので、なるべく本業に迷惑をかけないようにしなきゃいけないんですよね。自分ひとりで3年間走り続けて、パッと後ろを振り返ってみると、ほぼ誰もついてきていない状態でした。本来であれば、もっといろいろな人を巻き込みながら社内の雰囲気を盛り上げていかないといけなかったんですけど…それができてこなかったというのは、自分の最大の反省点です。
もっと社内に対して「1518」に秘められた可能性を伝えていかなければならないと思っているので、来月から社内の組織体制をガラッと変えて、「月刊1518」という社内向け広報メディアをつくろうと考えています。それと、社内で絶大な信頼を得ているキーパーソンを引っ張ってきて、シンパにしてしまおうと。彼が社内に対して「1518」の価値を伝えることで、社内の空気を変えられるのではないかと画策しているところです。
金岡 コミュニティに参加した人がその文化を持って組織に戻ることで、中から会社を変えていくムードがつくれるのが理想ですね。FabCafeに来られる方の中にも、「会社を変えるために、まずは個人的に来てみた」という方は多いですよ。
井田 青木さんのようにトップダウンで社内風土を変えようとされるケースもあれば、外のコミュニティでいろいろな知見を吸収した人がボトムアップで新しい風を吹かせるケースもあるということですね。
青木 リアルな話をすれば、その新しい動きによって「どれだけ売上につなげられるか」ですよね。ほぼスタートアップのようなものだから、売上が上がるまでには、相当な我慢が必要ですから。「これは会社のために正しいことなんだ」という説得力を持たせるためには、売上は絶対に欠かせませんし、そこにいかに早く辿り着くかという視点は、コミュニティ運営でも重要なのではないかと思います。
横関 そんな青木さんを少しでもサポートしたくて、コミュニティが誕生した経緯を伝える「1518」のブランディング動画を制作しました。社内のモチベーションを上げるためにも、できるだけ現場の人たちの顔を出したいと思ったので、ここでは青木さんよりも現場の方が多く話しているんですよ。仲間から反響があることで、プロジェクトに対する社内の印象が変わることもあると思うので、「関係者を表に出す」というのは、意識的にやっていきたいと考えています。
「デザイン経営」は中小企業だからこそ実践できる
井田 「デザイン経営」は中小企業に向いていると思いますか?
横関 個人的には、企業規模を問わず、デザイナーやクリエイターと経営者が一緒に最適解を考える「デザイン経営」をするのが当たり前の世界になればいいと思っています。それを実現するためにはフレキシブルに動ける方がいいと思うので、小回りのきく中小企業の方が向いているかもしれませんね。「デザイン経営」ができていれば、必ずいいものができるはずですし。
井田 ユーザー体験から考えてものづくりをした結果、「これって『デザイン経営』だったよね」となるので十分ですよね。「デザイン経営」を進めていく上で、FabCafeにできることは、何だと思いますか?
金岡 進化をつくるところでお手伝いできることはあると思っています。例えば、FabCafeのコミュニティに人を送り込んでみて、コミュニティの価値をつまみ食いしてもらうというのは、ひとつありますよね。いきなりコミュニティをつくるのは難しくても、外の風を持ち帰ってもらうことで、その人が会社の文化を変えていく起点となってもらえるといいのではないかと思います。基本的にコミュニティのプロジェクトはすべてオープンにしてあるので、イベントに顔を出すところから始めて、何かしらの渦に巻き込まれてみるのがオススメです。
長瀬 前向きな変化であっても、社内で変化を起こそうとするとどうしてもハレーションは起きますからね。これが怖くて、大企業ではなかなか動き出せない。トップダウンにせよ、ボトムアップにせよ、「デザイン経営」を取り入れて変化へのスタートを切れるという観点から、中小企業こそ「デザイン経営」との相性が良いと私は思っています。
コミュニティを継続するには外せない“お金”の話
井田 来場者のみなさんからの質問で一番多かったのが、お金の話です。「1518」ではコミュニティ運営で必要なお金はどこから調達されていますか?
青木 「1518」では補助金も使ってはいますが、僕がリーダーになったことで、ノーリツイスからヒトもカネも出すことになったので、補助金以外の持ち出しは、全部うちが出しています。リーダーを立てないと責任のなすりつけ合いになってしまうので、そういう“腹をくくって絶対に引っ張っていくような存在”がコミュニティには必要だというのは、実体験として確信しているところです。
井田 ロフトワークでも補助金を使って商品開発をやるようなプロジェクトを手がけていますが、実際、補助金が終わった後のほうが、もっと大きなお金がかかるんですよね。そうなったときに「補助金がなくても絶対にやるんだ」という意思がある方がいないと、リターンを得られるところまで続かない。だからやっぱり、「腹をくくる」のはとても大事なことだと思います。
金岡 「A.D.A.M」の場合も、最初にコミュニティに参加した方々は「技術を学びたい」などのモチベーションで来てくれたボランティアでしたが、次第に本気で取り組みたい人だけが残っていき、具体的なタスクが発生したときには報酬をお支払いするようになりました。ただ、実際にものづくりをするフェーズになればお金は確かに必要になりますが、もっと手前の「外部と新しいつながりをつくる」とか「新しい技術に触れる」といった、コミュニティの価値に触れるところは、お金をかけなくても全然できることなので、「まずは飛び込んでみる」というのが大事なのかなと感じています。
井田 なるほど。今日はみなさんありがとうございました。
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リアルな展示「ならでは」の提供価値とは? 東レ株式会社が実践した「商品のフィジカルな魅力」を伝え、顧客に訴求するための展示体験デザイン。6/23、そのチャレンジを紹介するオンラインイベントを開催します。 東レ株式会社 塚本陽人氏、プロダクトデザイナー 横関亮太氏らとともに、素材や製品の魅力を伝えるための体験デザインについて対談します。
イベント概要
「手に取る機会を取り戻す」コミュニケーションツールのデザイン
ー 事例:東レ ウルトラスエード x 1518
日時:開催日時:2021年6月23日(水)14:00〜15:00
配信:Zoom/Youtube Live
主催:ロフトワーク
定員:100名
参加費:無料
こんな方におすすめ
- 「コロナ後の展示会」に課題感を感じている、材料メーカー・加工技術メーカーの方
- 「オンライン商談」の増加に伴う、製品やサンプルの実物を実際に手に取りながらのコミュニケーションの機会不足に悩んでいる方
- 展示会場や自社ショールームでの、「製品展示や体験の方法」をあらためてデザインする必要性を感じている方
- 自社の「製品や技術のコアバリューの伝え方」を模索しているB2B企業の方
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