オンライン教育プログラム開発ガイド「PATHWAYS」を公開
〜オンライン化における時間・空間・コミュニケーションの
制約をどう解決するか〜
インタラクティブな教育プログラム。オンライン化でおこる課題の実践的な解決法をまとめました
ロフトワークは、立命館大学歴史都市防災研究所とともに、オンライン教育プログラム開発ガイド「PATHWAYS」をまとめ、一般向けに全文無償公開しました。
本ガイドは、教育機関・企業・NPOなどで教育プログラムや研修プログラムを企画・運営する人に向けて、オンライン教育プログラムの提供に必要な知見を収集したガイドです。
COVID-19の流行に伴い、全世界で「オンライン教育」「オンライン研修」の取り組みが急速に広がりました。教育や研修のオンライン化は、コロナ禍の代替的な措置に留まることなく、Afterコロナ時代にもそのニーズが拡張される可能性が高くなっています。しかし、オンラインプログラムには、オフラインと異なる、時間・空間・コミュニケーションの強い制約があり、解決すべき課題が多くあります。
本ガイドでは、オンラインでプログラムを行う際の基本的な考え方を出発点に、「動画制作」「プログラム設計」「コミュニケーションツール」「ファシリテーション技術」などのプログラム設計の道筋をまとめています。
座学プログラムに比べて、オンライン化が難しいとされるフィールドワーク(現地を実際に訪れて対象を観察したり、インタビューしたりする手法)やワークショップ(グループディスカションや演習など)における課題にも対応しています。
- フィールドワークを通じて得られる「没入感」「特別感」を、オンラインでも味わってもらうには?
- 同じ場を共有できないオンラインで、どうやって受講生の集中力をキープできるか?
- 受講生と講師、受講生同士のコミュニケーションを、オンラインでどのように生み出すか?
ガイドの内容
「PATHWAYS」では、さまざまな分野の12人のエキスパートにインタビューを重ね、オンラインプログラムを行う際に起こる課題に対して、実践的な解決方法をまとめています。一部の例をご紹介します。
①すべてを「Zoom内」でやろうとしない。
「講義(座学)」は原則オンデマンド(録画映像+教材資料)での事前学習とし、Slackなどのテキストディスカッションを通じて先に議論・思考を深めた上で、Zoomでつなぐ時間は「アウトプットとフィードバック」の内容に特化すると、最も密度を高めることができます。(2章 基本設計:「同期」vs「非同期」)
②映像は「生配信」にこだわりすぎない。
難易度の高い生配信に比べてメリットの多い「収録」(事前録画)を積極活用。撮影も高度な機材を無理に使わず、iPhoneとジンバル(手ブレを補正するスマートフォン用スタビライザー)を組み合わせれば、十分な没入感・特別感が得られます。フットワーク軽く動きましょう。(3章 動画コンテンツの制作方法)
③進行役と裏方は「2人体制」で。
コミュニケーション力・ファシリテーション力のある「進行役」と、ITまわりに強く、柔軟にトラブルシューティングができる「裏方」。プログラム運営を安定させるにはスキルの異なる2名体制が推奨です。また、少人数のグループワークを行う場合は、サブファシリテーターの立ち回りも重要なポイントです。(5章 体制と規模)
他にも、Slackなどのテキストチャットでのコミュニケーションを円滑にするための、細かなチャンネルの命名・運用指針についても現場の工夫を紹介しています。
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この文書は、立命館大学歴史都市防災研究所ユネスコ・チェア「文化遺産と危機管理」国際研修コーディネートチームからの委託により、株式会社ロフトワークが実施したリサーチ活動の「報告書」です。同時に、International Training Course (ITC) on Disaster Risk Management of Cultural Heritageのオンライン版プログラムを開発するための具体的な「提案書」でもあります。今回のリサーチで得られた知見と示唆を、ITCチーム内に留まらせるだけでなく、さまざまな立場で同様のオンラインプログラムを企画・運営される方々に共有することを意図して、文章ほぼ全体をクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC BY-NC-SA 4.0*)で公開する形になりました。このライセンスは、非営利な目的のもと、適切なクレジットの表示、ライセンスへのリンク貼付、変更がある際はその旨を表示し、再配布の際は同じライセンスを付与すれば、利用・再配布することが可能です。ぜひ幅広くご活用ください。 営利目的の利用の際は、ロフトワーク広報(pr@loftwork.com)にお問い合わせください。
制作チーム
立命館大学 歴史都市防災研究所 ユネスコ・チェア「文化遺産と危機管理」国際研修コーディネートチーム +株式会社ロフトワーク
執筆・編集:入谷 聡(株式会社ロフトワーク)
プロジェクトチーム:藤原里美、松下恵里花(株式会社ロフトワーク)
デザイン:前田 悠樹
「PATHWAYS」が生まれた背景
立命館大学歴史都市防災研究所は、文化遺産の防災をテーマとした『立命館大学ユネスコ・チェア「文化遺産と危機管理」国際研修』(以下、ITC)を2006年から実施しています。これまで世界中から文化遺産保全管理と防災両分野の実践者を日本に招き、歴史都市・京都が抱える文化遺産でのフィールドワークを行ってきました。しかし、コロナ禍で2020年度のプログラムは中止。研修のオンライン化を模索するなか、座学ではない「フィールドワーク部分をどうやってオンライン化するか」は難しいテーマでした。ロフトワークは、プログラム運営チームからの委託を受け、リサーチを実施。教育機関や企業の最前線で試行錯誤を重ねてきたさまざまな分野のエキスパートインタビューを行い、知見をリサーチレポートとしてまとめました。
立命館大学歴史都市防災研究所 ITCについて
UNESCO Chair on Cultural Heritage and Risk Management / The International Training Course (ITC) on Disaster Risk Management of Cultural Heritage は、文化遺産防災の分野における世界初のユネスコ・チェアとして2006年に認定されました。国境を越えた知識の交換と研究成果に基づく国際協力の促進を目的とした国際的な教育事業の取り組みとして、10年間で延べ100名以上の修了者を輩出してきました。
ロフトワークについて
ロフトワークは「すべての人のうちにある創造性を信じる」を合言葉に、クリエイターや企業、地域やアカデミアの人々との共創を通じて、未来の価値を作り出すクリエイティブ・カンパニーです。ものづくりを起点に、その土地ならではの資源やテクノロジーを更新する「FabCafe(ファブカフェ)」、素材と技術開発領域でのイノベーションを目指す「MTRL(マテリアル)」、クリエイターと企業の共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。目先の利益だけにとらわれず、長い視点で人と企業と社会に向きあい、社会的価値を生み出し続けるビジネスエコシステムを構築します。
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