未来をデザインする vol.6 Insurance & Technology
-システムデザイン思考で考える新しい保険イベントレポート(後編)
前回に引き続き、2016年8月3日~4日の2日間にわたり、東京都江東区にあるコワーキング・スペースMONOで開催された「未来をデザインする vol.6 Insurance & Technology -システムデザイン思考で考える新しい保険」のレポートをお届けします。
地球村研究室代表 石田秀輝氏による貴重な「バックキャスト思考」についてのキーノート・スピーチに続いては、2日間に渡って開催されたワークショップの全容をご紹介いたします。
レポーターは前回に引き続きタムラカイが担当します。
Workshop Day1
ここから実際に頭と手を動かすワークに移りました。初日のワークのチームは事前に決められていました。
ワーク1:保険とは?
ワークシートにそれぞれの思う「保険とは」を書き出す。
「リスクに対する相互補助」「大多数が損をする仕組み」という保険業界からのまっすぐな答えがある一方で、「背後霊、守ってくれそう」といった概念的な答えもあり、テーブルごとにそれぞれの保険観があぶりだされました。
ワーク2:今はない10年後のライフスタイルを考える。
現在考えられる依存型のライフスタイルを赤の付箋に、それに対する自立型のライフスタイルを緑の付箋と、1対1対応であげていく。
ワーク3:ギャップを解消する社会活動やサービスとそこで必要な保険
今の社会状況の中での制約条件を意識し、依存型から自立型への転換を考える。 10年後と今の「間」を埋めるサービスを考え、そこで必要な新しい保険や、既存の保険の再発明を行う。
個人ワーク、チームで一案にまとめて発表、その内容をベースに再度個人ワークを行うという小さくサイクルを回すことでアイデアが深まりました。
アイデアオーナーによる30秒ピッチとエントリー
アイデアオーナーが30秒のピッチを行い、アイデアの賛同者を募る。
ここまで考えたアイデアを持って我こそはという30名を超えるアイデアオーナーが前に立ち、次々にアイデアピッチが行われて行きました。
ちなみに私タムラもアイデアを発表し、賛同者を募ったのですが発表よりも人が来てくれるかが一番ドキドキしました。
結果チーム人数の調整などを行い、Day2に向けて24のチームが結成され、Day1は解散となりました。
Workshop Day2
2日目もロフトワーク松井の挨拶とタイムスケジュールの紹介から1日がスタート。
各チームプレゼンに向けてグループのアイデアを深めていきます。
ワーク4:グループ討議と他チームとの討議
チームごとにアイデアの検討を進めた後、本番を想定した2分で他チームとプレゼンをし、クリティカルシンキングを意識しながらお互いのアイデアへの批判を行う。
一度形にすることでアイデアの取捨選択を行う必要があることと、他チームの視点が入ることで、自分たちでも弱いと思っている部分に指摘が入ったり、チーム内では想定していなかった課題が浮かびあがったり。どのチームもアイデアがより深まったようでした。
インスピレーショントーク - 保険とテクノロジーの融合
昼食を挟んでアクサ生命 松下氏より「インステック 日本生保市場への影響ー保険とテクノロジーの融合」というタイトルでインスピレーショントークがありました。
「保険料はリスクに応じて算出されるが、現状は性別と年齢でしか保険料が判断されない。ここにIoTデバイスなどが活用されることで保険は大きく変化していくことは間違いない」と松下氏。
紹介のあったアクサの取り組む3つの変革分野は
1.商品・オファー
2.ヘルスペイヤーからヘルスパートナーへ
3.営業・ディストリビューションへの取り組み
アクティビティトラッカーによる加入者の健康状態取得から、シニアを見守るスマホアプリ、見込み加入者に欲求が生まれるマイクロモーメントを捉えるためのターゲットセグメンテーションなど、これまでのような細切れの施策ではなく、最適なカスタマージャーニーを意識した取り組みが紹介されました。
「お客様の予想を超える顧客体験を提供しないと、成長し続けられない。そのためにデジタル領域の可能性を追求している」
最後にアクサ生命のブランドキャンペーン「Born to Protect。保険を超えて、守りたい。」のメッセージとともに、「みなさんが考える新しい保険の提案が楽しみです」とエールを送りました。
発表&表彰
プレゼン準備
各チームが自分たちのアイデアをもっとも効果的に伝えるため絵を描く、動画を撮る、寸劇形式にするなど思い思いの表現を駆使していました。
発表
全24チームと数が多かったため、プレゼンは8チームごとのグループで予選を行い、参加者投票でそれぞれの上位2チーム、今回は同率2位を含む7チームで決選を行いました。どのチームも2分間の発表という短さに悩みながら、それぞれに個性的で魅力のある提案を行いました。
審査結果&講評
決勝の審査員を務めたのは、慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科委員長・教授 前野 隆司氏、アクサ生命保険株式会社 執行役員メディカル&プロテクション事業本部長 松下 健一郎氏、HealthTech News Founder 吉澤 美弥子氏の3名。
審査員それぞれの切り口で選んだイノベーション賞、システムデザイン賞、バックキャスティング賞の3つと、参加者投票賞で選ばれたアイデアをご紹介します。
オーディエンス賞
チームナンバー16 KCM保険
参加者投票の1〜3位が全て1票差という僅差の中選ばれたのがこのアイデア。
KCMとはK(企業)C(カルチャー)M(メンタルヘルス)の頭文字で、正式名称を「企業カルチャー反映型メンタルヘルス保険」。
保険業界が企業で働く全ての人のメンタルヘルスを向上するための保険で、センシングデバイスにより企業カルチャーを測定し、これによって決まった保険料の中で従業員に対する保障を行い、同時に社会に向けて企業のブラック度合いが見える化されるというもの。
イノベーション賞
チームナンバー6 健康bitcoin
加入者の健康に対する取り組みが仮想通貨bitcoinとして還元され、様々な経済活動に使われるというアイデア。
「ブロックチェーンに対する期待があるが、それを保険会社がやるところにインパクトが大きいと感じた。診療報酬データなど、今まで保険会社ではとれなかったデータを取れることで保険も変わっていくかもしれない。」(吉澤氏)
システムデザイン賞
チームナンバー14 夢追う保険
年齢や環境に関わらず、夢に挑戦できる社会を保険会社が実現するという保険。「『夢は一か八かでないと叶わない』ということがすでに夢に対するバイアスに縛られているということ」というプレゼンが印象的。
「本来であれば全体としての整合性が取れたものをシステムデザイン賞に選ぶつもりだったが『夢を諦めていませんか』の一言にぐっときて選んだ。実は幸福学の研究もしており、幸福度が高いと死亡率も下がるという研究から効果も高いのではと感じた」(前野氏)
バックキャスティング賞
チームナンバー8 ぼっち飯保険
切実な食糧不足を原因としてコンビニやファストフードが打撃を受け、一人での食事が金銭的にも、健康的にも、精神的にもリスクになってしまう未来に、保険会社が一緒にご飯を食べる相手と健康的な食事を提供する保険。
「あのプレゼンだけを聞くと保険と言えないかもしれない。しかし健康に関する要素のうち運動と睡眠はデバイスで取れるが、食事のデータを取るのは難しく課題になっている。これに加入している人の食事データがとれることで、将来のインフラになれるかもしれない。そこに期待を感じた」(松下)
こうして2日間に渡るワークショップのプログラムが終わりました。
2日間のワークショップに参加してみて
最後に少し、いち参加者としてのタムラの感想をお伝えしてレポートを締めたいと思います。
今回参加してみて感じたのは、まだまだ理解のために咀嚼中ではありますが、アイデアを考えることや「オープンイノベーション」や「バックキャスト」といったキーワードの一つ一つに実践するという体験が加わって、本やネットだけでは得られない理解ができたということです。
結果として良いグループに恵まれて賞をいただくことができ、これ自体は大変光栄なことなのですが、それよりもここで得られたことを自分の分野で活かしたいとワクワクドキドキできたことが何よりの収穫でした。
また、ロフトワークではこのようなワークショップを開催するそうなので、ご興味のある方は是非参加してみることをおすすめいたします。
イベント概要
ロフトワークは2016年8月3日、4日の2日間で「未来をデザインする」と題し、不確実性の高い未来をバックキャストで考えていきながら、システムデザイン思考の技法を使って新しいサービスを創造していくワークショップを開催。
過去には宇宙、家事、音楽、ライフスタイルなどのテーマで開催してきた人気シリーズの第6弾となります。
InsTech(インステック)は単なるテクノロジートレンドではない。 「保険」という日常に身近なテーマには、様々な新結合のヒントが眠っている。
保険業界は、大きな変革の時代を迎えつつあります。
近年、FinTechやInsTechという言葉が話題になっているように、金融や保険がIT技術と結びつき、全く新しいビジネスやサービスが続々と誕生しています。
変化の波は、テクノロジーの進化だけが要因でありません。
社会情勢や環境、人の価値観もまた着実に大きく変化しはじめているようです。
例えば、シェアリングエコノミーなどはIT技術進化とライフスタイルや価値観の変化により成長している分野です。
「保険」という、身近でありながらもあまり知る機会のないテーマだからこそ、他業種や他業態との新結合により、大きなインパクトのある全く新しい概念のサービスを見つけるヒントがたくさん眠っているのではないでしょうか。
異業種・異職業の参加者と共に、未来の「保険」をデザインする2日間
本イベントではデザイナー、エンジニア、プランナー、マーケター、研究者、新規事業開発担当者…といった異業種・異職業がひとつのチームとなり「未来の保険」を共創します。
バックキャスティング思考法の先駆者、石田秀輝先生の講演を皮切りに、10年後の未来から考える、新しい保険サービスを2日間かけて作ります。アクサ生命保険株式会社による、保険の仕組みやInsTechの最新事情などのインプットトークも実施予定です。また、パナソニック株式会社 アプライアンス社も協力会社として参戦します。
保険という複雑な要素が絡みあうサービスがテーマのため、システム・デザイン思考の技法も活用予定。複雑な問題を物事全体で捉え、システマティックな分析とデザイン思考的なアイディエーションを織り交ぜ、実現可能性のある保険サービスを考えていきます。
不確実な未来を想像しながら、創造的なアイデアを、組織や業界を超えたメンバーと一緒に形にしてみたい。そんな方にぜひ参加いただきたいワークショップです。
開催概要
セミナータイトル | 未来をデザインする vol.6 Insurance & Technology -システムデザイン思考で考える新しい保険 |
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開催日時 | DAY1 2016年8月3日(水)10:00〜18:30(開場:09:30) DAY2 2016年8月4日(木)10:00〜17:30(開場:09:30) |
場所 | MONO 地図 東京都江東区青海二丁目5番10号 テレコムセンタービル東棟14階 最寄り駅:ゆりかもめ「テレコムセンター」駅直結 |
対象 | ※企業にお勤めの皆さん、フリーランス、学生の方など広く募集しております。 ・アート、デザインなどクリエイティブ分野で活動されている方 ・様々な学問分野で研究者として活動している方 ・コンセプトデザイン、サービスデザイン、ビジネスプランニングなどに携わっている方 ・顧客体験のデザインを実践されている方/関心がある方 ・Tech系ベンチャー、スタートアップの方 |
賞金 | 総額30万円 |
参加費 | 下記は無料となります。 ・プログラムへの参加費用(8月3日、8月4日) ・Day1の昼食 ・Day2の昼食 ・Day2のネットワーキングパーティー参加費 ・2日間のリフレッシュメント(コーヒー、ソフトドリンク、スナックなど) 下記は参加者のみなさまにご準備いただく必要があります。 ・2日間の会場までの交通費(8月3日、8月4日) |
定員 | 50名(応募多数の場合は抽選の可能性がございます) ※当日の総参加者数は、アクサ社員を含む100名規模を予定しています。 |
お申込み | 参加資格 2日間全てのプログラムに参加できる方。 下記参加同意書に同意いただいた方。 お申し込み方法 下記「申し込む」ボタンから必要情報を記入ください。 参加申し込みされた時点で、参加同意書に同意されたものとみなします。 |
歓迎するスキル | ・企画:サービス・製品企画、マーケティングなど ・デザイン:グラフィックデザイン、UIデザイン、イラストレーションなど |
主催 | 株式会社ロフトワーク |
協賛 | アクサ生命保険株式会社 |
協力 | パナソニック株式会社 アプライアンス社 |
ご注意 | *プログラムは予告なく変更する場合があります。 *当日は事務局による写真、動画撮影を予定しております。 参加者の皆さんのお写真は、後日公開予定のレポートに掲載される可能性があります。 *宿泊施設のご用意はありません。 *お申し込みが多数の場合は、抽選とさせていただく場合があります。 |
お問い合わせ | 株式会社ロフトワーク 未来をデザインする Insurance & Technology 事務局 marketing@loftwork.com |
プログラム
Day1
- Keynote 石田秀輝先生(バックキャスト思考によるライフスタイル研究者)
- Workshop
未来の世界とそこで起こりうる不安や課題事項の解決の可能性を考えるワーク
Day2:未来の世界の保険を考える
- InsTech インスピレーショントーク アクサ生命保険株式会社
- Workshop
- 解決の可能性のアイデアをブラッシュアップする
- フレームワークに沿ったシステムデザインをカタチにしていく
- 発表、審査
- 審査結果発表
- アフターパーティ