大学サイトのUX設計
横浜市立大学 Webリニューアル
Web・リアルを横断したUX設計はますます重要になっています。例えばWebサイトにおいて、単体だけの体験設計はなくユーザーがどういう気持ちでサイトに訪れるのか、そこでどういう感情を抱き、サイトを離脱した後のどんな行動につなげるのか。Webサイトに訪れる前・後も含めた一連の体験を設計しなければ、自分たちが描いた理想のUXを実現することはできません。
本レポートはVisit loftworkの実本のセッションを元に、Web・リアルを横断したUX戦略とそれをクリエイティブに落とし込んだ横浜市立大学のWebリニューアルプロジェクトについてご紹介します。
テキスト:山本直子、編集:岡徳之
ユーザーリサーチから描くUX・クリエイティブ
2016年から約10カ月かけて、横浜市立大学のメインサイト及び各組織のサイトをあわせて、約20サイトのリニューアルを支援。
プロジェクトの初期フェーズで学長・副学長など経営陣、大学職員、教授、学生へのインタビューとアンケートを実施。医学部は首都圏の公立校に競合がないことから安定して入学者を獲得できているのですが、他学部は医学部と比較して認知度が低いという課題がありました。
そこで、プロジェクトメンバーで協議の上、メインサイトは受験生をメインターゲットとしよう、と位置付けを設定しました。
ユーザーインタビュー
国公立大学の受験生はセンター試験の結果が出た後にどの大学に出願するかを決める人も多いです。ヒアリングの結果からも、高校生が受験校や入学先を決めるタイミングは次の2つでした。
- センター試験の結果が出たあと
- 国公立大学の合否が決まったあと
→すでに合格している私立大学など複数選択肢の中で進学先を決めるとき
そこで横浜市立大学の受験を考えている高校生が長期ではどのように受験校を選ぶのか、さらに、センター試験の後、2次試験の出願締め切りまでの短い期間でどのように受験校の情報にたどりつき、大学を選ぶに至るのか、という課程に焦点をあてユーザーインタビューを実施。
リサーチの方法はターゲットをある程度絞り、仮説を元にそれを検証するというもので、まずは大学側でセレクトしていただいた複数の動機属性を含む入学者へのグループインタビューを実施しました。
グループインタビューは1人当たりの時間が短く、深い話はしづらいというデメリットがありますが、会話の中でエピソードや気持ちが喚起されるという利点があります。また、付箋でコメントを書き出してもらうなど、適宜ワーク形式も取り入れました。
インタビューの結果はシートにまとめ、入学までのタイムライン・そのときの感情・行動を一覧できるようにしました。さらに、インタビューからインサイトを抽出してペルソナやカスタマージャーニーマップなど、UX戦略を作る上での土台となる情報を整理していきました。
大学キャンパスでのフィールドワーク
もう一つ実施したのは大学キャンパスでのフィールドワークです。高校生や保護者が肌感覚で醸成している大学への印象や、入学動機のランクづけ方法への理解を深めるために、オープンキャンパスに参加して実際に高校生がもらうものと同じ紙資料をもらいキャンパス内を歩いてみます。
フィールドワークの結果、発行されているリーフレットや広報誌、紙資料の色彩やフォントなどデザイントーンが統一されていないなど、大学のイメージにばらつきがあるという課題も明らかになりました。
カスタマージャーニー
インタビューとフィールドワークをもとにユーザーをセグメント分けし、受験者像を言語化することでユーザー像のイメージを統一。さらにペルソナやあるべきユーザージャーニーを作成、これをプロジェクトのベースとしました。紙、オープンキャンパスなどのリアルなタッチポイントと、Webサイトの関係性も定義し、それを前提にWebサイトのコンテンツとして何が必要か、どのような構造であるべきかを導いています。
クリエイティブへのブレイクダウン
今までの体験設計をもとに、キャンパスとWebとの視覚的な一貫性をはかる色彩、フォントなどのデザイン計画や、メッセージ・コンテンツ設計といったところに繋げていきました。
またWebサイトだけでなく紙媒体のデザインの共通化も実施。タッチポイントによってユーザーが得る情報の種類や質は異なっても、「緑豊かで少人数での教育に熱心」というイメージに大きなブレがなく、結果的に受験・入学の背中を押す、という効果につながっています。
安定した運用のためのコンテンツディレクション
Webサイトの運用に関してはCMSを整えるとともに、受験生に思いを届けるための記事の作り方、掲載写真の撮り方・選び方などの講習会を、部署毎のWeb担当者に向けて実施。日々の運用の中で、あるべき体験設計が実践されるような基盤づくりも行っています。
横浜市立大学 公式Webサイト
スピーカー
UXから考える大学のWebサイトリニューアル
単体だけの体験設計はなくユーザーがどういう気持ちでサイトに訪れるのか、そこでどういう感情を抱き、サイトを離脱した後のどんな行動につなげるのか。Webサイトに訪れる前・後も含めた一連の体験を設計します。