EVENT

「デザイン経営」は来たるべきイノベーションへの大きな起爆剤
──公開カンファレンス速報レポート

ロフトワーク代表の林千晶も委員を務める、経済産業省・特許庁主宰の「産業競争力とデザインを考える研究会」。

研究会が5月23日に公表した「『デザイン経営』宣言」は、世界における日本企業の競争力を高めるために、デザインを活用した経営手法「デザイン経営」の必要性を提言したものです。デザインにフォーカスした経産省による大きな政策提言は15年ぶりであり、新聞・テレビをはじめ、多くの注目が集まっています。

そして「『デザイン経営』宣言」を公表するだけでなく、この政策提言をきちんと社会に実装するために、研究会の有志たちによってオープンなカンファレンスが開催されています。6月13日に行われた第1回を経て、7月13日、第2回の公開ディスカッションが行われました。(共催:公益財団法人日本デザイン振興会)

登壇者は、梅澤高明(A.T.カーニー日本法人会長)、喜多俊之(株式会社喜多俊之デザイン研究所 所長)、永井一史(株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長 クリエイティブディレクター)、長谷川豊(ソニー株式会社 クリエイティブセンター センター長)、鷲田祐一(一橋大学大学院 商学研究科 教授)の各氏に、林を加えた6名。「『デザイン経営』宣言」がもちうる可能性、そして解決すべき課題をめぐって、オーディエンスと共に熱いディスカッションが繰り広げられました。

テキスト=宮田文久
編集=原口さとみ

「デザイン経営」の“担い手”は誰なのか

2部構成の第1部は、なぜいまデザイン経営なのか、そしてデザイン経営の有効性をどう捉えるか、といった「『デザイン経営』宣言」のアウトラインをいま一度熟議する時間に。

まずは、そもそもなぜ、いま「『デザイン経営』宣言」が必要とされたのか。林は、「市場や競合他社を見ながらコンセプトを生み出す20世紀型ビジネスではなく、何のビジネスかもわからない段階で新しい(経営)アイデアを生み出す」必要性がある今の時代における、「デザイン経営」の力を訴えました。

[ロフトワーク代表 林千晶]

「デザイナーは、人がその企業が提供する価値に触れた瞬間を想像します。その瞬間を形にするのが、デザイナーです。常に届ける対象である“人”の視点から価値を作り出すデザイナーを、企業経営の最上流において欲しい。イノベーションを起こすために、デザイナーの視点が重要になってきているんです」

技術的差別化ではないイノベーションに、デザインは大きな力を持ちえるはず。では、実際に「デザイン経営」をなしうる“担い手”とは誰なのか──? この論点は、経営者とデザイナー、その2者にわたって、さまざまな意見が飛び交いました。

企業の意思を決定するうえで、そしてそもそも「デザイン経営」を企業の中核に据えるという判断をするにあたって、経営者の判断は重要なものです。

梅澤氏は、「(既に実績を残し始めている日本の)メガスタートアップは、意識が高い」といいます。

[A.T.カーニー日本法人会長 梅澤高明]

「アメリカ西海岸の企業を見ているし、皆さん実感をもって対象を“自分事”にしている。『UXデザインは経営トップの仕事でしょ』という感覚でいるんです。ただ、そういうことを口にする大企業の経営者の方には、残念ながらまだ会ったことがない。そこに落差はある」(梅澤氏)

鷲田氏は、1980年代に「イノベーション」が「技術革新」と誤訳のまま輸入されてしまったことに、大きな問題が端を発していると指摘しました。多くの経営者はイノベーションをその意味合いのままに捉えているために、デザイナーから有意義な意見が出たとしても、積極的な経営判断をなかなかくだせないのではないか、と。

[一橋大学大学院 商学研究科 教授 鷲田祐一]

「本来持っている意味と、いまの日本での“イノベーション”の概念にはズレがある。本来のものとは異なる解釈をすることで当時の日本経済は爆発的に躍進したが、その爆発はもう終わっています。しかし、大企業の人ほど、その古い意味にとらわれてしまっている。いまの状況を変えていくのが私たちの仕事だと思います」(鷲田氏)

では、経営者たちにデザインのもつ力をどう伝えるか。イタリアや北欧の最先端のデザイン、そして近年デザインの分野においても成長著しいという中国の事例にあかるい喜多氏は、「日本にたくさんあったはずの、ユニークな成功事例」をもっと伝えようと提案しました。

[株式会社喜多俊之デザイン研究所 所長 喜多俊之]

「報告書にも事例集がありましたが、よりダイレクトに届く、かつ日本社会がこれまで蓄積してきた成功事例がいまこそ参照されるべきです。経営者、特に若手や、これから中国などと対等に渡り合わなければいけない経営者が、デザインの力を理解する必要があります。日本独特の成功事例があるはずで、それがデザインの本質にもかかわってくるはずです」(喜多氏)

“担い手”にかんしては、一方でデザイナーについても同時に考えなければなりません。

永井氏からは、企業経営の最上流にデザイナーをビルトインすることについて、指摘がありました。アドバイザーやコンサルタントとしてのポジションを含め、「経営者がデザインの重要性を理解した上で、デザイナーを企業の外に置くということも認める」かどうかは、非常に重要な点です。

(インハウス・)デザイナーを企業体の中で上位に置くにせよ、外から経営判断の上流に参加してもらうにせよ、企業のブランドやビジョンをきちんと共通の理解として実際のプロダクトやサービスに体現できれば、「デザイン経営」はその力をいかんなく発揮するはずです。

長谷川氏は「企業の思想や姿勢にきちんと応える」デザイナーの重要性について、「やはり企業の価値観を知らないと答えは出ない」としつつ、「(デザイナーを外に置いても)できる企業はあるかもしれないし、企業のアプローチの仕方もさまざまなはずです」と、「デザイン経営」のバラエティ豊かな可能性について述べました。

永井氏と長谷川氏が述べる「規定されない、言語化されないブランディング」「言葉で定義されない『らしさ』や『暗黙知』」を、デザイナーと共有し、そのクリエイティビティが十全に発揮されたとき、「デザイン経営」は来たるべきイノベーションへの大きな起爆剤となりえます。

そうすれば、「属人的」ではない「機能としてのデザインという経営資源」として、「デザイン経営」は各企業においてサステイナブルなものになっていくことでしょう。

クリエイティブとビジネスの対等な議論は、今日から始まる

第2部は、オーディエンスの意見が「K/P/T」の3種ごとに書かれた付箋をもとに、より深くディスカッションを進めました。

オーディエンスが評価した「K」──Keepしていくべき「デザイン経営」の評価ポイントのひとつは、議論が起こっていること、発信し続けていること自体が非常にポジティブなものだという意見。なぜ経営にデザインが必要なのか、その議論自体が起こることが「『デザイン経営』宣言」のひとつの成果です。「デザイン経営」というワーディングも、議論を喚起するうえで良いという声が上がりました。

解決すべき「P」、つまりProblem(問題)としては、経営者へのアプローチがまだ届き切っていない、という指摘がありました。すでにアンテナが高く、会場にいる参加者のような人ばかりではなく、第1部でも取り上げられていた多くの経営者たちに、積極的に「デザイン経営」の有効性を訴えていくことは、委員たちの間でも必須の課題として認識されています。

そして「T」、今後Tryしていきたいことには、デザイナーの「教育」が取りざたされました。どうやったら、この可能性に満ちた「デザイン経営」を担うデザイナーを育成できるのか。学校教育だけでなく、「ビジネスの戦略にストーリーを落とし込むデザイナーの役割」(長谷川氏)は、ますます求められていきます。

[ソニー株式会社 クリエイティブセンター センター長 長谷川豊]

鷲田氏は、「(デザインを)きちんと産業として成り立たせる」ための次のステップは、「情報の力を(デザイナーが)自分の武器とすること」と言います。デザイナーのクリエイティビティの応用範囲は、これまでにないほど広くなってくるでしょう。

永井氏も、「カテゴリーやプロダクト、グラフィックデザイン、インターフェイスなどを横断して物を考える──既存のフォーマットではなく、何が課題なのかという観点でデザインに最終的に落とし込める教育が必要なんじゃないか」と口を揃えました。

[株式会社HAKUHODO DESIGN 代表取締役社長 クリエイティブディレクター 永井一史]

喜多氏による「デザインはバランス。機能性や時代、コスト、企業の規制や設備をすべて考え、『このバランスがいいのではないか』と指摘するのがデザインなのではないかと思う」という発言も、次代のデザイナーへの期待感の表れです。

最後に林は、「テクノロジーとクリエイティブを対等に議論することは、これまで実践できてきた。クリエイティブとビジネスの対等な議論は、今日から始まるのかもしれません」と熱を込めて語り、今回のカンファレンスは閉会へ。

いままで別々に語られていた「デザイン」と「経営」をめぐって繰り広げられる、フラットな議論──今回のようなディスカッションを積み重ね、ロフトワークもクリエイティブエージェンシーとして、「デザイン経営」の未来を切り拓いていきたいと思います。

グラフィックレコーディングは、「新しい文化をつくる人とともに革新的な視覚化メソッドで今ないつながりをつくりだすビジュアルファシリテーションチーム[BRUSH]」の三澤直加さん、和波里翠さん作。

※当日の様子はflickrのアルバムからもご覧いただけます

Related Event

Loftwork magazine