EVENT Report

公募はコミュニティのはじまり
“予想外”を受け入れ、事業に繋げる施策とは

広く社外からアイデアを募り、製品やサービスに活かすための手段として、「公募」というやり方があります。しかし、いざ公募を行うといっても目標設定や良いアイデアを集めるための施策など、設計すべきことはたくさんあります。

2019年1月16日にMTRL KYOTOで開催されたイベント「共創で素材を磨き、新たな市場を作る ー公募型プロジェクトで生まれる価値とその効果」では、AGC株式会社の商品開発部門の三宅徳顕さんをお招きして、公募プロジェクトへの向き合い方について考えました。

コミュニティを盛り上げて化学反応を促す

ロフトワーク プロデューサー 篠田 栞

ロフトワークはクリエイターとのコラボレーションやコミュニティを醸成することで、さまざまな公募型のプロジェクトを手がけてきました。まずプロデューサーの篠田からロフトワークのコミュニティの考え方を伝えました。

どんな人のどんな視点を混ぜていくと想像もできていなかったような価値を生めるだろう?という視点でクリエイターをアサインしてチームビルディングしていく」と言う篠田。同時に、単発でプロジェクトを終わらせず、エコシステムとしてコミュニティが機能する仕掛けを提案していくということが、ロフトワークがプロジェクトを行う上で大切にしていることだ、と加えました。

コラボレーションを軸に生まれたプロジェクトの例として、京都地下街「ポルタ」の壁の一部をクリエイターとの共創で作るというプロジェクトがありました。複数のクリエイターたちとひとつのアートウォールを作るプロジェクトだったため、京都らしい質感とは?」を考えるワークショップを開催し、施主であるポルタや、施工会社であるスペースなど複数のステークホルダーとともにひとつの世界観のある作品を作り上げていきました。

応募者とのコミュニケーションを密におこなっていくことで、公募プロジェクトで最終的に集まるデザインの質をあげていくこともできます。たとえば、石垣市の名産品リデザインプロジェクトでは、クリエイターと一緒に島に行き生産者と出会う、という行程を入れたことで、クリエイターの製品への理解が深まり、最終的な製品のデザインをブラッシュアップしていくことができました。

公募が内部メンバーの発想力や仕事の幅を広げる

続いて、AGC株式会社(旧旭硝子株式会社)でオープンイノベーション推進のための”協創”プロジェクト「SILICA(シリカ)」を立ち上げた三宅徳顕さんをお迎えし、素材メーカーが事業として公募に向き合うスタンスや成果についてお聞きしました。

「オープンイノベーションって重要だと世の中的にも言われていると思うのですが、それはつまり、時代の流れが早くなるにつれて開発のスピードアップが必要だということで、AGCでもクリエイターとの”協創”(*)プロジェクトを始めたんです」(*AGCとのプロジェクトにおいては、共創ではなく”協創”という表記に統一)

”協創”活動のひとつとして行なった公募プロジェクト「Glass Innovation Challenge」を企画した背景として、「もっとガラスって色んなことできるんじゃないのと漠然とした思いがあった」という三宅さん。普段ガラスを扱っている人と話すと「ガラスってこういうもの」と発想を限定しがち。クリエイターたちに問いかけることでガラスの新たな活用方法のヒントを得たいというのがコンペの理由とのことでした。

約2ヶ月間に渡る募集期間中に200点に登るアイデアが集まったと言う「Glass Innovation Challenge」。ところがアイデアが”斬新すぎるものは実現性が低い”という公募ならではの難しさに直面したとか。

「ガラスを使って何を作っても良いという広いテーマ設定で、できる限り多様なアイデアを集めようとしたから起きたことで、テーマ設定の大切さも認識できました様々な視点のアイデアがたくさん集まったのは良い点でした。頂いたアイデア以外にも、普段接しない様々なバックグラウンドの方々から得られる意見は面白いし、そもそも考え方や仕事の進め方が違う方々と一緒に仕事をすることができたということ自体が非常に面白かったです。」(三宅)

AGC株式会社, 商品開発研究所 主幹研究員/協創アクセラレータ 三宅 徳顕(写真右)とロフトワーク プロデューサー 井田 幸希(写真左)

何をもって公募の「成功」を評価するのか

公募プロジェクトを進めるうえで社内からの理解は皆さん気になるところ。「そのプロジェクトをやる意味はあるのか? とプロジェクト開始前も進行中も社内から色々なことを言われ続けましたよ。」と笑う三宅さん。

「ただ、ひとつの公募からいきなり新規事業や製品・サービスが生まれるというのは非常に稀なことと思うんです。今回は新事業に結びつかなかったとしても、このような試みで様々なネットワークを広げて種を見つけていく活動を繰り返すことに意味がある。手段や手法も色々と試してみたい。だから、今後のためにも、コンペだけで終わらせず、成果を展示という目に見える形で発表することで、社内外から「成功したね」と言ってもらうことが大事だと思っています」(三宅)

とはいえ「何をもって成功するのか」という疑問は新規事業に常に付いて回るもの。会場からも疑問の声があがりました。「イノベーションを起こすために積極的に取り組んでいこう」ということと、「失敗したらどうするのか?」とは矛盾した課題なのではないかと。

それに対して三宅さんは「そもそも研究所での活動自体、失敗のほうが圧倒的に多いものなんです」と回答。「新しい素材の開発に成功したとしても、最終的に事業にならなければ、会社の事業という目線では失敗ですが、恐れていては何もできない。だから私自身は基本的に失敗は避けられないことだと思って取り組んでいました」(三宅)

成功だと認識し、安心してもらう手法として、外部の視点を入れるという方法もある」というのは、「Glass Innovation Challenge」の展示企画「AGC Collaboration Exhibition 2018」を三宅さんと共に担当したプロデューサーの井田。今までの価値観に全く新しいものを持っきてそれを認めろというのはなかなか難しいもの。「Glass Innovation Challenge」では、既存顧客にメルマガを送ったり、メディアさんと組んで記事化したり、影響力のある人に協力してもらうという活動をすることによって、外部評価を先に得ることで社内評価を得ることを目指しました」(井田)

既存の視点でアイデアを狭めないための審査方法

会場からの質問として、アイデアの選定についての悩みもあがりました。公募の選定の段階で何を基準に選べばいいのかわからず、結果的にすでに成功していたり実績があるところで選びがちになってしまう…。しかし、それは本来の「新しい価値観やアイデアを集める」という目的からずれてしまうのではないか、と。

その質問に対して「審査委員の選定に外部メンバーをうまく巻き込むことが大切だ」と井田。社員だけが審査委員になると、既存の価値観から飛び出すのは難しいもの。クリエイターや社員にはない視点や専門性を持つ人材をバランスよく審査委員に招くことで、一般的に質の高いものを選び出していくことができるのだと強調しました。また、三宅さんは「Glass Innovation Challenge」で実践したこととして、プロジェクトメンバーに若手社員を多くすることで、上層部の視点だけで選定しない設計をしていたと、付け加えました。

公募≠発注 予想外を受け止める度量を

AWRD編集長 金森 香

公募を始めたとしても、ただ待っているだけでは良いアイデアや作品は集まりません。どうやったら良いアイデアを集めることができるのかは、どの公募プロジェクトでも主催者が悩むポイントでしょう。その疑問に対して「セオリーはない」と言うAWRD(※)編集長の金森。しかし、共通した設計のポイントとして、(1)公募を設計する上での主催者のスタンスと(2)応募者のモチベーション向上のための視点をあげました。

(※AWRD=ロフトワークが運営する公募プラットフォーム)

まず前提として「公募は発注ではない」と強調する金森。目的に対して多様な解が返ってくるのが公募なので、主催者が思っている正解を求めるのは、そもそも公募に適してません。しかし頭ではわかっていても、主催者と応募者のスタンスにズレが生じてしまうことは多々起きること。参加者は主催者の想像を越えようと応募してきます。主催者には「未だ見ぬ価値や化学反応、多様な解を受け止めよう」という姿勢が必要だと訴えました。

続いて、良いアイデアを集めるための視点として、参加者のモチベーションあげること・インセンティブを設計すること・主催者のメッセージを伝えることの3点をあげました。中でも、お金以外の価値で参加者のモチベーションをあげることとが大切だと伝えました。

応募者とのコミュニケーションが価値を生む

金森は、ANAが運営するWonderFLYというクラウドファンディング/オンラインショッピングサービスでの公募を例に学びの場の設計について言及しました。女性と健康をテーマに「女性の心身をメンテナンスするアイテムやプロジェクト」を募集したもの。このプロジェクトでは審査員やメンターが途中段階で応募作品をブラッシュアップするプロセスを設計。それだけではなく、公募の直前にイベントを開催し、プロジェクトの理解を深め、目的を共有するためにディスカッションする機会を作りました。「審査員のトレンドに関してのトークはすごく刺激的な内容で、応募作品の質もイベントによってグッと底上げされました」と、金森。

イベントを開催するのは学びだけが目的ではありません。クリエイター同士の交流の場自体も大切です。クリエイターは時に孤独なので、同じ目的に向かって走っている人と情報交換したり相談し合うことで、仲間やライバルを意識しモチベーションに繋がっていくと言います。

これらの施策はどれもクリエイターのモチベーションのためだけではなく、主催者にとっても意味があるという金森。参加者にとってはメンタリングやイベントを通して商品化に向けた様々な知見を手に入れられるのと同時に、主催者にとっては、クリエイターとワンアンドオンリーの商品開発ができ、プロモーション効果も期待でき、エンドユーザーとのタッチポイントを作れるという利点もあるのです。イベントというリアルな場所では、プロジェクトの目的や想いを明確に言語化し、熱意を持って伝える必要があるので、自分たち自身を深く掘り下げる機会になります。

「主催者と参加者のコミュニケーションを通して価値は生まれていくのだと思います。共通言語を持っていないけど同じ方向に走るというのは、想像以上にリミッターを試される行為だと思います。けれどもそれこそが醍醐味ですし、イノベーションは生まれるのだと思います。これから公募に取り組む方はそんな気持ちでぜひダイブしてみてください。」(金森)

「困難な課題」が人を動かし、イノベーションを生む

最後に諏訪から「Challenge」という言葉を例に挙げ、公募プロジェクトを行う上での目的設定の大切さを訴えました。

「日本では『ダイエットにチャレンジ』のように比較的気軽に使うChallengeという言葉ですが、本来「困難な課題」という意味なんです。日本人が『チャレンジする』時は多くが自分自身が設定する課題なのですが、ChallengeはたとえばSDG’sのような、もっと皆で取り組まなければ解決できないような大きくて困難な課題のはずなんです。私たちがはじめたAWRDというサービスの中心には英語の”Challenge”という考え方があります」(諏訪)

ロフトワーク代表取締役社長 諏訪 光洋

たとえば企業の持つ素材やテクノロジーは多くのクリエイターにとってChallengeしがいのあるものです。またはイノベーターが熱意を持って取り組んでくれそうな社会課題もChallengeです。どうやって困難なテーマを見つけ、文脈を繋げていくかが、公募プロジェクトを行う上で非常に難しく、考慮しなければならないことだと強調しました。

諏訪は2014年から年々盛り上がりを増しているFabCafe Tokyoのミニ四駆コミュニティの例を挙げました。これはミニ四駆をデジタルファブリケーションの技術を使って改造し、オリジナルのミニ四駆を作って競争するというもの。子供から大人まであらゆる人が参加していますが、さらにはセンサーのメーカーや日産やホンダのデザイナーがミニ四駆を通して車のデザインに役立てたいと参加しています。

「実はこのミニ四駆コミュニティは地域活性事業にも繋がりました。長野県諏訪市は、精密機器の中小企業がたくさんありますが、工場のアジア移転が進んだことで取引先を失いつつあります。そこで諏訪の持つ精密な技術を発信し、新しい可能性を模索したいと相談を受けていました。プロジェクトの一環として開催したのが諏訪の技術でミニ四駆を作るSUWACKATHONです。「速いミニ四駆を作る」という多くの人が熱狂する明確なテーマを設定することで、諏訪の技術と多様性のある参加者が同じ視点で協力し、高性能のアウトプットを目指しました」(諏訪)

SUWACKATHONにはモデルにした例がある、と諏訪。Robo-Cupはロフトワークの株主でもあるソニーコンピュータサイエンス研究所の所長、北野宏明さん等日本の研究者が提唱し世界に広がるAIとロボットの世界大会です。最終的なゴールは最初から一貫して「人と同じサイズのロボットが人と対戦をし、勝つ」こと。ゴールに込められた意図としては、ロボットが人より機敏かつ強調性を持つためにはいくつかの技術的なははハードルがあり、それらを解決していく中でイノベーションが起こるはずだということでした。実際、Amazonの倉庫で働くロボットは2011年のRobo-Cup優勝チームがベンチャー企業を作りそれが2012年の3月に77,500万ドルで買収されたもの。そのおかげで我々がAmazonで物を買うと翌日に手に届くようになりました。

最後に諏訪は、MIT Media LabのNeri Oxman教授が提唱するKrebs Cycleを例に話を閉じました。

「イノベーションにはアート・デザイン・サイエンス・エンジニアリングの4つの軸が必要だとKrebs Cycleでは言っています。アートやサイエンスが問題提議し、エンジニアリングとデザインは問題解決や価値を作り出していくというもので、至極納得なことだと思うのですが、組織の中では意外にこの4つの軸を保つことが難しい。同時に、困難な課題に向かって新しいものを作ろうとする時は不足している能力はたくさんあって当たり前です。そのときに1対1ではなく1対Nという状況を作り、不足したパーツを探していくことも手段の1つではないでしょうか。我々はAWRDという仕組みを用いて様々なChallengeに一緒に取り組んでいきたいと思っています」(諏訪)

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