EVENT Case Study

資生堂・全日空(ANA)も取り組む、
世界中の創造性とつながる“アワード”が
企業にもたらす新しい価値とは?

あるテーマでアイデアを募り、審査基準に応じて応募者を表彰する「アワード」。映像や文学、絵画など芸術面の文脈で利用されることの多い手法です。

昨今、様々な企業が新規事業開発や商品開発のために、アワード手法を取り入れています。背景には、企業が自社内だけで開発していては気づけない商品の魅力や、新しい活用のアイデアを生み出すために取り組む”オープンコラボレーション”の必要性の高まりがあるでしょう。

可能なかぎり情報を公開し、外部視点を積極的に取り入れながら新しい価値創造につなげるために、アワードはどのように役立つのでしょうか?

8月29日に開催したイベント『AWRD presents イノベーションを生むのは個人か?それとも企業か?アワード型プロジェクトが”価値創造”を民主化する』で、アワードの手法を取り入れて事業開発や価値創造に取り組む企業の担当者を招きその意義やメリット、課題について考えました。

テキスト=竹中 玲央奈

クリエイターの才能とプロジェクトの接点を作り、イノベーションを生む。

ロフトワークは、企業が外部の知見を取り入れて共創を進めるために、主催者とクリエイターを結びつけるプラットフォーム「AWRD(アワード)」をスタートさせました。新サービス「AWRD」は、企業の新たな価値創造やイノベーションにどのように寄与できるのか?

創造を加速させるAWRDの仕組み

「AWRD(アワード)」は「価値の発見」・「価値の検証」・「コンテンツ開発」・「ブランディング・PR」など企業のものづくりの様々なフェーズで、グローバルアワードから1日のハッカソンまで様々な規模で主催者と世界中のクリエイターを結ぶプラットフォーム。単なるコンテンスト運営にとどまらず、クライアントのニーズに合わせてプロジェクト全体をデザインしていくのが特徴です。

AWRD編集長 金森香はAWRDの特徴を、「社会課題をテーマにしたアワードを実施することで企業のプレゼンスを上げるということもあります。また、企画次第ではそのアワードの実施自体がブランドメッセージの発信にもなり、PRに繋げられるという機能も持ち得ます」と説明。

「アワードは多くの人を巻き込みやすく、結果として優秀な才能とも出会わせてくれます。応募者はもちろんのこと、審査員や共催・協賛などの形でも企業に新たなつながりを産むことができます。海外のクリエイターネットワークともつながりやすく、グローバルを視野に入れた製品やサービスでも有効に機能します。」(金森)

ロフトワーク AWRD 編集長 金森 香

アイディアの優劣を競うだけのものではないという部分が一般的なコンペティションとは異なる重要な点です。クリエイターと企業だけでなく、審査員や協賛企業と企業、フォローユーザーと企業などのつながりから生まれるコミュニティ形成のハブという役割も、AWRDの特徴です。

新たな共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」

AWRDは、コンペティションやハッカソンを実施するための、オンライン審査プラットフォームです。アワードは、独自のテーマで作品を募集し贈賞する仕組みです。あらゆる領域・表現の作品が集うため、テーマに対する様々な視点を発見することが期待できます。プロジェクトの価値をリフレーミング(再定義)したり、社会との接点をつくる起爆剤として、ビジネスを加速させる手段に有効です。

資生堂とANAの取り組みと、その狙い

日本を代表する著名な企業も、アワードの手法を積極的に取り入れています。資生堂から企業文化部で芸術支援活動を行う豊田佳子氏が、全日本空輸株式会社からはANAデジタルデザインラボの梶谷ケビン氏が登壇。それぞれアワードを活用した取り組みを紹介しました。

資生堂「shiseido art egg」

資生堂は2006年から自社が持つ展覧施設である資生堂ギャラリーにて新鋭アーティストの活動を支援する「shiseido art egg」という公募展を行っています。これは同社が持つ「新しい価値の発見と創造」という企業理念を元にスタートしたもの。作品集や個展プランを広く公募し、入選したアーティストと共に個展開催に向かって動いていく形を取っています。

「もともと初代社長である福原信三氏は幼少期から絵画や写真を学んでおり、芸術家になることを夢見ていました。芸術に勤しんでいた彼は資生堂に入る前にアメリカとヨーロッパへ留学したのですが、そこで日本から留学している芸術家の卵たちと出会いました。

そして帰国後、留学中に会った芸術家の卵達が作品の発表をする場がないことに気づき、1919年に創業の地銀座に資生堂ギャラリーを設立しました。

こういった背景もあり資生堂は芸術支援活動を行っています。『shiseido art egg』が始まった当初は社会貢献という意味合いで取り組んでいましたが、徐々に投資的な意味合いを持つようになって来ました。今は、社員の美意識や創造性の醸成という面での役割も担っています」(資生堂 企業文化部 豊田 佳子氏)

資生堂がこの活動を始めた背景と、時代が進むに連れて変化するその役割について、豊田氏はこう語りました。

資生堂 企業文化部 豊田 佳子氏

全日空(ANA)「WonderFLY」

2016年からスタートした「WonderFLY」。これは1つのテーマに対して優れたアイディアを募るクリエイティブアワードに加え、そのアイディアを実現するためのクラウドファンディングを組み合わせてプラットフォームです。もともとこのサービスが出来上がった背景を、梶谷氏は自身の体験を交えて語ります。

「僕はアメリカ人で8年前に日本に来ました。もともとアメリカに住んでいたときには “日本のモノはカッコいい”という印象を持っていたのですが、同時にこの10~15年で日本が持つイノベイティブなブランディングは薄れてきていることも実感していました。

しかし、8年前に来日してた際にい日本にはまだまだ革新的なプロダクトがたくさんあることに気づきました。テクノロジーだけでなく体験型のアートについても最先端にいますし、漫画が世界で流行っているように文化的な面でもポテンシャルがある。

ただ、そのポテンシャルとアウトプットがリンクしていませんでした。そこをブレイクスルーができれば、大量に日本に眠っているものが海外に発信できるかもしれないと考えました。また、以前所属していた部署で多くのデータと向き合っていたのですが、そこで興味深いことを発見しました。

アメリカでは優れたアイディアやサービスへの投資の形は企業からではなく個人からが主流となっており、それを加速されているのがクラウドファンディングだったんです」(ANAデジタルデザインラボ 梶谷 ケビン氏)

ANAデジタルデザインラボ 梶谷 ケビン氏

こういった自身の経験と”気づき”がサービスの立ち上げに繋がりました。そして、2018年夏からは「AWRD」と協働のプロジェクトをスタートさせています。梶谷氏は、このサービスの目的は世界中の多くのクリエイターの持つアイディアの出口となることだと語りました。

アワードを通じた価値創造に励む両者のプレゼンの後、会場からは多くの質問が飛び交いました。

──「アートをビジネスに」とは最近よく聞く言葉で、企業のDNAとしてどのように社員全体にその意識をインストールしていったのでしょうか?

豊田 企業広告などを資生堂ギャラリーに出てもらったアーティストにお願いすることがあります。私がいる企業文化部ではこれまでの商品やポスターなどの広告を収集し展示する企業資料館や、「花椿」という企業文化誌の編集も行っています。そういった、企業の文化を伝えるクリエイティブな活動が社員の創造性に繋がっている部分はあるとは考えています。

もともと、美術と化粧品というところは“美を追求する”と親和性があると考えていました。なので、「ビジネスに繋げなければいけない」という強い意識はありませんでした。ただ、経営陣も変わるとその考えも変化します。その都度、活動の意味を論理的に言語化して説明しなければいけないので、難しさを感じます。

──企業活動としてはROIで評価されると思いますが、どうクリアしていますか?

梶谷 社内の決定プロセスの中でROIやKPIについては話し合いました。もちろんビジネスとして数字を獲ることは目指しています。

ただ、そもそもクラウドファンディングの認知度が低いので、この市場を切り開く難しさは感じていました。その中で私達は3つの柱を立てました。

ブランディングと、ノンエアーと我々が呼んでいる飛行機以外で新規事業での収入。そして有形無形資産の有効活用です。

立ち上がって1年半から2年が経ったので、そろそろ収入というところにレベルアップをしたいと考えています。ただ、現時点ではブランディングのところで柱を置いているところです。ここについてはメディア露出や新しいネットワーク作りという面でクリアをしていこうと思っています。

──展覧会やプロジェクトの達成後に応援や支援を望む応募者も多くいると思います。ただ、プロジェクト数が増えればその後の支援の数や必要性も増えると思うのですが、対策などはしていますか?

豊田 資生堂ギャラリーで展覧会をやっておしまいにするのではなくて、継続して支援する姿勢はあります。ただ、支援を必要としていない方もいます。基本的に依頼があったときにお答えする形ですね。もちろんその件数は増えていくのですが、新規申し込みの方にもなるべく支援していくようにしています。

梶谷 クラウドファンディングは基本的にその中で完結するものです。なので手を加えなければいけないわけではありません。入り口のクリエイティブアワードをどうやってスケールしていくか。また、サクセスしたものをどう橋渡ししていくか。例えば全日空商事という弊社のECを運営している会社があります。そういったところのパイプを太くしていけないですし、専用のスタッフも増やさなければいけません。グループ内にあるリソースを有効活用して大きくしていく、という形ですね。

AWRDをどう利用していくべきか

ヤマハと創る新しい未来のタネを探す

デザイン思考だけでない新規事業のアプローチ

ヤマハ株式会社も、AWRDを活用している企業の1つ。「デジタル世界」と「フィジカルなものづくり」の連携から生まれる作品を募集するプラットフォーム「YouFab」を通じ、グローバルアワードを実施しました。

課題解決だけが企業の新しい価値創造のアプローチなのだろうか?そんな問いからヤマハとのコラボレーションが始まりました。「課題解決」から「問題提起」へ、企業の新しい価値創造の共創プラットフォームプロジェクト。

ヤマハのスローガンである「感動を・ともに・創る」から着想を得て、「エモーションのスイッチ」をテーマに作品を募集。27の国と地域から147の作品がエントリーされ、受賞者とヤマハでプロトタイプを共創し、展示会で発表されるまで至りました。

VR領域の新しい可能性を世界中のクリエイターと描く

「ファッションカルチャーVR」という新ムーブメントの創出

Psychic VR Lab、パルコ、ロフトワークの3社により結成された「NEWVIEW」プロジェクトは、ファッションや音楽、映像、グラフィックなど、現代のカルチャーを体現する人々が集まり、3次元での新しいクリエイティブ表現と体験をデザインしていく実験的プロジェクト/コミュニティです。

3次元空間(VR)をプログラミングなしで作成できるツール「STYLY」。より生活や肌感覚に近い場所・領域(ファッション/カルチャー/アート)でのVRムーブメントを創りだすことを目標に、次代を担うクリエイターの発掘とコミュニティの醸成を行っています。

一見応募へのハードルが高そうに感じられるVRコンテンツに対し、オフラインとオンラインで戦略的なPR&コミュニケーションをデザインすることで219の応募を実現させました。

クロージングセッションでロフトワークの諏訪は「AWRDは足りないパーツに出会えること、たくさんの”N”と出会えるというところが大きな特徴。ここを世界中の多様なクリエーターをつなげるオープンなフレームワークとして動かしていきたい」と語りました。企業の価値創造を大きく加速されるプラットフォーム「AWRD」。ここから生まれていくプロジェクトや活動の軌跡は、引き続きloftwork.comで発信していきます。ぜひ今後もチェックしてください。

ロフトワーク 代表取締役社長 諏訪光洋

イベント概要

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