複雑化する時代のプロジェクトデザイン
ー 新しい価値をうみ育てる、共創の技法と仕掛け イベントレポート
複雑化した時代を味方にする、ロフトワーク流プロジェクトデザイン
他部署、経営者、他社企業、ユーザー、クリエイター…
どうすれば立場の違う人たちを巻き込み、共創的なプロセスで新しい価値創出に臨めるか。
今回は「複雑化する時代のプロジェクトデザイン」に焦点をあて、
3つの切り口で、実践事例を参考に共創の技法や仕掛けをご紹介しました。
共創の場をどう仕立てるか?
1つ目は、「共創を仕掛ける場」。
つくば市で活動する研究者の研究価値と可能性を拡げ伝えるために実施した実験的ハッカソンと展示のプロジェクト。静岡県発の農業系オープンコラボレーションプラットフォームを目指すAgri Open Innovation機構のビジネスマッチング支援プロジェクト。
2つの事例を取り上げ、共創の場を企画者側として仕立てるときに必要な視点を、「Focus」と「Trigger」という2つのキーワードから解説。「Focus」を中心に振り返ってみます。
Focus ー焦点を絞ることで、意思決定の判断軸が浮かび上がる
前提と目的。プロジェクトの与件整理に重要な、背景情報と目指す姿。それぞれの解像度を出来る限り上げることで、プロジェクトに関わるメンバー間で大きな決断をするときに「これだ」の方向がブレにくくなります。つまり、目的を意思決定の判断軸になるところまで洗練させることが重要です。
ディレクターの中川は、例としてつくば市から当初相談された目的と、最終的に絞り込んだ目的を比較しながら解説。ポイントは、現状の前提や目的を選んだ「理由」をいかに掘り下げて具体化できるか、です。本当に一番喜んで欲しいのは誰なのか。誰がどのような状況になると喜んでもらえるのか。現状と理想にはどのような差があるのか。ヒアリングと議論を重ねて言語化することで、ようやく共有の判断基準となる前提と目的に仕上がります。
つくば市のプロジェクトでも、プロジェクト当初は「つくばの科学技術の多様性・創造性をアピールする」という目的を置かれていたが、結果的には「つくば市が、つくば市にいる研究者の発表する研究内容や成果を、論文ではなく、より多くの人に伝わりやすい形に変換し、発信できる機会をつくること」と、変換。
誰が、誰のために、何を提供することを目指すのかが明確になり、それを実現するための最善策を選ぶことができるようになりました。
最終的には、研究者✕クリエイターが混合した4チームのハッカソンを実施。研究者の研究内容や成果を土台に新たな解釈や問題提起を促す4作品を制作し、展示しました。
その後、作品は都内ギャラリーや21世紀美術館で展示されたり、G20サミットで各国大臣に紹介されるなどの広がりを見せています。
Trigger ー質の高い創発を呼び起こす、共通言語と共通インプット
もう一つは「Trigger」。共創の場において、コミュニケーションやアイデアのきっかけを生む設計が大切です。設計方法は様々な手段がありますが、共通するのは「いかに関係者同士での共通言語を構築できるか」という点。
例えば、アグリオープンイノベーション機構という、静岡県が設立した農業分野でオープンイノベーションを推進することを目的とした団体の会員交流イベントの場合。プロジェクト実施前、会員は互いにどんなことが出来るのか。何をしたいのか。全く知らない状態でした。これでは有効なマッチングに繋がりません。私たちは、小さな仕掛けとして、お互いの課題やできることを可視化するカードを作成し、交流イベントの中でカードを使った自己紹介プレゼンの時間を設けました。
結果、有意義な交流の実現となり、有効なマッチングや、具体的な共同研究の開始などに繋がりました。
他にも、公開インタビューや素材提供、連想カードなど、色々な共通言語をつくる方法があります。ぜひ活用してみてください。
ユーザー、他部署、経営層…誰もが主語、誰もが重要。 運用サイトのUIと基幹システムをリニューアルしたサービスデザイン事例
2つ目のテーマは、「サービスデザイン」。
ロフトワークのディレクター松永がプロジェクトマネージャーを担当した、ファイブスタークラブの旅行サイトフルリニューアルを紹介。複雑化する時代のプロジェクトをどう設計し、マネジメントするか。サービスデザインの手法と合わせて解説しました。(詳しい事例はこちらをどうぞ)
ファイブスタークラブならではの旅行体験を伝え、ユーザーも運営する社員も使いやすいサイトにするにはどうしたらいいか。松永が指摘したのは、仕様策定のために課題やインサイトを掘り下げることです。複数の立場の視点を集め、統合するリサーチフェーズがいかに大切かを語りました。
例えば、ファイブスタークラブの場合。旅行を検討するユーザー(リピーター、新規顧客)だけでなく、ユーザーとコミュニケーションを取る営業や、システム運用担当、経営視点でみる社長。様々な立場でサイトに関わる人達。どうすれば、すべての人たちがそれぞれ快適に利用でき、生産的に仕事ができ、事業構造の改善に繋がるのか。そのためには、例えば以下のようなリサーチプロセスを経て、いかに「当たり前」と見過ごされてた、改善のヒントを発見できるかがポイントとなります。
ファイブスタークラブの事例は、詳しくは別ページで詳細を説明しているので、ぜひこちらをご覧ください。
最後に松永が紹介した、パートナー価値の発揮について少しだけ紹介します。なぜパートナーが必要なのか。それは、ユーザーの多様な価値観を満たすために複雑化したビジネスには、主語なる重要なひとたちが外部のプロフェッショナルに意見をぶつけ、ユーザーと皆さんの価値を有機的に接続する必要があるからです。
不確実で曖昧なことばかりだからこそ、それらを前提として計画を立て、価値創出のために実行できる準備を行い、実践することが重要なのです。私たちは、そのために普段よりPMBOKといわれる世界標準のプロジェクトマネジメントの知識体系を組織的に導入し、すべてのプロジェクトの実践に活用しています。
PMBOKに関心のある方は、こちらから専用冊子が無料ダウンロードできますので、ぜひご活用ください。題名は、Webプロジェクトマネジメントとありますが、Web以外の様々なタイプのプロジェクトにも応用可能です。
アワード・コンペの効果的な活用方法とは?
3つめは、「アワード・コンペ」。ロフトワークが運営するオープンイノベーションプラットフォーム「AWRD」について、AWRD CCO(Chief Communication Officer)の小檜山がお話しました。紹介したのは、ディスカバリー・ジャパンの新コンテンツ開発プロジェクトと、BtoB向けに鉄建材を販売する株式会社フロントのBtoC事業領域の可能性を広げるプロジェクトの2つ。「アワード・コンペ」をどう取り入れると従来の開発プロセスとは違う新たな価値を生み出せるか解説しました。
アワードが考える「共創」の価値
小檜山は、アワードの基本的なプロジェクトプロセスを図を活用して紹介。
合わせて、「共創」の手段をつかうことで得られる2つの価値について、
- 自社の思考・視野から抜け出せること
- ユーザーと一緒に学び、つくれること
と紹介しました。
では、なぜ自社の思考・視野から抜け出せること。ユーザーと一緒に学び、つくれることが価値となるのか?小檜山は、フロントと取り組んだアワードプロジェクトを事例に紐解きます。
海外からの応募者が受賞!普段出会えない価値に遭遇する
フロントは、特殊な鉄加工技術を持っている企業であり、BtoB向けに鉄鋼製品を提供しています。しかし、経営者は現状のビジネスモデルから脱し、新たにBtoCモデルも取り扱う業態変革を試行錯誤していました。toC向けの製品開発も進めていたがなかなか軌道に乗らない中、アワードを活用して新たな製品開発プロセスをつくりあげるプロジェクトが始まりました。
最終的には、海外から応募してきたユニット、Christoffer Jevring & Daniele Caldariのプロダクト案が金賞となり、現在製品化に向けて準備中です。
出入り可能な場が、新しいアイデアを誘発、創発する
このように、1つ目のアワードの特徴である自社の思考・視野から抜け出せる価値とは、自分たちでは思ってもみないようなアイデアを応募者が連れてきてくれることにあります。
しかし、自社だけでは彼らの良さに気づけ無いかも知れません。自分たちでは見いだせない価値を掬い上げて光を当ててくれる役目を担うのは、外部審査員です。私たちは、フロントが目指す新しい業態に必要な視座を持っている人たちを審査員として招き、集まったアイデアの選出や、価値についてともに語り合うことで、関係者全員の視座を引き上げていきます。
もう一つ、ユーザーと一緒に学ぶ、つくるという価値について。
アワードというプロジェクトを実践する中で、私たちが大切にするのは、「やわらかな繋がりのコミュニティを形成する」点です。いつでも出入り可能な、関心もったときにアイデアをいつでも交換できる、開放的な場をつくること。たとえば、ミートアップやトークイベントといったオフラインのタッチポイントも合わせて企業とユーザーのつながりを作っていきます。
そうすることで、次第に新しいサービスや製品について自然とアイデアを出し合い、応援しあえるような場が生まれていくのです。一過性の広告的なプロモーションではなく、じわじわと体質改善していくように変化が蓄積していくような、販促・製品開発プロセスとも言えそうです。
アワードに関心のある方は、以下にアワードの使い方をまとめていますので、ぜひご覧になってください。
以上、3つの切り口で、「複雑化する時代のプロジェクトデザイン」をテーマにお送りしました。今後も、定期的にさまざまなテーマでイベントを開催予定です。