一般財団法人アグリオープンイノベーション機構 PROJECT

5年計画、活動2年目で目標数値の85%達成
会員組織AOIフォーラム担当者インタビュー

2017年7月からロフトワークが広報やイベントの企画運営の一部を支援している静岡県による先端農業プロジェクト、「Agri Open Innovation プロジェクト」(以下AOIプロジェクト)。農業を軸にしたオープンイノベーションの中心的役割を担う会員制の「AOIフォーラム」では、オープンから2年で約170の会員が集まり、新たなビジネスの芽が生まれつつあります。当初の目標である2021年までに200会員加入という目標を大幅に更新するペースで活動しているAOIフォーラムにおいて、プロデューサーとして現場で奔走されてきた、吉田さん(※1)と、提案から並走し「AOIフォーラム」をサポートしているロフトワーク プロデューサーの脇水の対談でこれまでのプロセスと手応えを紐解きます。

聞き手:山口 謙之介(マーケティングDiv)

※1肩書はプロジェクト当時のもの

静岡県から日本の農業を変えていこうという壮大な取り組みの幕開け

AOIプロジェクト立ち上げの経緯

── まずは、「AOIプロジェクト」が立ち上がった経緯と組織体系を教えていただけますか?

吉田(AOI機構):2015年に、静岡県が先端技術による農業の生産性革命の必要性などの課題を背景にオープンイノベーションにより多分野との連携を推進する目的で、AOIプロジェクトを立ち上げました。

これまで取り入れられていなかったICTや、バイオ技術等を農業分野でも活用し、農業という産業を、より高品質・高生産可能な状態にして、静岡県から日本の農業を変えていこうという壮大な取り組みです。

2017年8月には活動の拠点である「AOI-PARC」が沼津市に開設され、同時に研究と事業を結びつける役割を担う、「AOI機構」が設立されました。このAOI機構が運営するのが、研究機関や、民間事業者、生産者が参加する会員制の「AOIフォーラム」です。

一般財団法人 AOI機構 プロデューサー 吉田 新吾さん

── 吉田さんは、どのようなきっかけで、AOI機構に参加されたのですか?

吉田:AOIプロジェクトは県と理化学研究所、慶應義塾大学が中心となって展開、推進されています。個人的に、以前から慶應義塾大学環境情報学部の神成淳司教授と様々なプロジェクトでご一緒させていただいて、今回のAOIプロジェクトも神成先生から、誘いを受けて参加することにしました。

── ロフトワークにお声がけいただいたのは、どのような経緯だったのでしょうか?

吉田:大学でデザイン思考を研究していたこともあり、ロフトワークの棚橋さんのブログを読んでいました。そのため、以前からロフトワークのことは知っていて、Webサイトに農業関係の取り組みやBioClub(バイオクラブ)(※2)での活動をされてることも把握していました。

※2 BioClub:異なる分野に存在するサイエンスへの興味を持つ人々が共働し、新たな視点を生み出すためのプラットフォーム

AOIフォーラムの活動を行うにも、情報を発信するWebサイトの立ち上げも必要でしたので、そのあたりのご相談も兼ねて一度お話を聞いてみたいと思い、問い合わせたのが最初の接点でした。

脇水(ロフトワーク):オープンイノベーションということで、ロフトワークが経験してきたオープンイノベーションプロジェクトの知見をベースに大きなビジョンをご提案していたのですが、“オープンイノベーション”や“共創”という言葉に馴染みがない地域の人たちを巻き込んでいくのは難しいのではないか?という率直なコメントをいただきました。そこでまずは、会員制のAOIフォーラムとはどんな付加価値を提供する組織で、そのためにどんな活動を行っていくのかを伝えるためのツールを作成することから着手しました。

ロフトワークプロデューサー 脇水 美千子

吉田:そうでしたね。

脇水:農業従事者だけでなく、物流やサービス業の人も巻き込んだ合宿形式のハッカソンもご提案しましたね。

吉田:合宿の話、ありましたね。でも2年近く経った今、合宿は実現していませんが、当時ご提案いただいて、繋がれたら面白いだろうなと感じた人たちとは、繋がりつつあります。ですので、いきなり実現はしませんでしたが、AOIフォーラムが実施すべき活動のインプットとしてはよかったと思います。

地元の協力を得て、会員募集活動が一気にスピードアップ

── 会員募集活動の手応えはいかがでしたか?

吉田:AOIフォーラムの活動を紹介するリーフレットを地元の金融機関など中心に配布し、認知を拡大していきました。金融機関も地元の企業を応援したいという思いもありますので、県主導ではじまっている新しい取り組みに、参加してもらう意義があったというのも、活動全体のスピードアップに大きな影響がありました。

この活動に、ロフトワークに制作いただいた、リーフレット、それからステークホルダー、強み、価値、タッチポイントなどを整理したビジネスモデルキャンバスがとても役に立ちました。 1年で当時出会いたいと考えていたほとんどの人たちと接点ができていたんですよね。こんなに早く実現するものかと感じました。

会員に向けた情報発信を行うAOI FORUM REPORT

脇水:コーディネーターさんの活躍や地元の金融機関や自治体などの協力もあり、Webサイトオープン当時からは、想像していなかったレベルで会員数が一気に増えました。増加にあわせてWebサイトの表現を変えなければいけないほどでしたね。

会員の増加に合わせて、Webサイトの会員一覧ページも急遽バージョンアップ

会員募集から「会員同士のマッチングの実践」へ

── 会員同士のマッチングにも具体的な施策を実施したのでしょうか。

吉田:1年目は118組織があつまりました。活動への期待と地元貢献の意味や縁で入ってくださったみなさまに対して、どのような価値を提供できるかを考えながら、会員交流イベントとして「AOI Meet up」を2回、企画し実施しました。

会員の皆様の新規事業創出、事業連携によるオープンイノベーションにつなげるきっかけづくりの場と位置づけ、事前に設定したテーマで議論とアイデア交換を行いました。1回目のイベントは、トライアルで実施しましたが、2回目はテーマを決め、事業のマッチングを促進するためのシートを作り参加者にも事前に記入いただくよう協力をお願いしました。

すでに、商談が発生したり、共同研究の動きが出はじめています。結果もそうですが、参加者の盛り上がりも含めて、手応えを感じました。

脇水:退会を検討されていた方が、イベントに参加したことで会員を継続しようと再検討いただいたり、このイベントで気になる企業を見つけて新しい商談に繋がったという声もありました。

吉田:なによりもよかったのは、きちんとお互いの顔と名前がわかるようになったことですね。人となりを知り、直接話しをすると、お互いの事業への親近感もわきやすい。Webサイト上の掲載だけではなく、リアルで繋がれたことがよかったですね。

2年間の取り組みで感じた成果と今後の展望

── この2年間の成果とその要因をどのようにお考えですか?

吉田:プロジェクト開始当初に目標に掲げていたのは、2021年までに200会員という数値です。2019年3月現在で170程度まで拡大するなど順調に推移しているという認識です。ここからはさらに会員向けのサービス向上を行うタイミングかなと思います。

AOI FORUM Webサイト

それから、情報発信の基盤であるWebサイトの存在が大きかったですね。記事作成の担当者も、自身が作成した記事が、きちんとした体裁となって世の中に発信されていくことにモチベーションを感じています。

脇水:当初、AOIフォーラムに掲載する記事は、ロフトワークでライターをアサインしてディレクションしていましたが、途中からはAOI機構からライターと直接契約いただきました。記事のクオリティ管理は発生する可能性はありましたが、現場の実情にあわせた柔軟な体制を組めると思い、ご提案しました。

吉田:最初は書ける人がいないというのが悩みでしたが、何本かロフトワークに書いてもらい、ある程度フォーマットができてからは、静岡にいるライターにも依頼がしやすくなりました。

それから私たちは県に対して活動を報告する義務があります。AOIフォーラムのWebサイトで作った特集記事はリアリティのある実施事項として県への報告にも一役買ってくれています。外側に向けて情報発信をする目的で立ち上げましたが、身近な人や、内側への情報開示という意味でもWebサイトを運営するメリットを感じました。

地方で新しいことに挑戦しているのは間違いないので、自分たちの存在意義として活動を発信していくことは、非常に重要なことだったと思います。

脇水:今振り返ると、戦略・戦術を一緒に考えていくことから始まり、リーフレットやWebサイトそして、会員向け冊子や、マッチングイベントと、その時の状況と目指すゴールに向かって、一回やって終わりでなく、実施したことをベースに次はこうしてみよう。という振り返りから改善していくというチームを長期間にわたって組ませていただいたことが、今の成果に繋がったと感じています。

── 最後に、今後の展望についても教えていただけますか?

吉田:今課題に感じていることは、農業の生産者を守る制度の部分です。農業は工業など他の産業と比べると、守るものが少ない状態です。雇用契約だったり、独自の技術だったり。個人が農家として営む上ではそれほど、企業秘密のような守るべきものはそれほどありませんでしたが、法人格で本気で農業ビジネスをやろうとすると、守らなければいけないものも出てきます。現業の農家さんにも頑張っていただかなければいけない一方で、先進的な取り組みを進める企業も支援する。このバランスを維持していくのは課題として認識し、継続的に取り組んでいきたいことです。

脇水:これからもさらに活動をご支援できればと思います。今日はありがとうございました。

関連リンク

先端技術×農業。静岡県のイノベーションへのアプローチ

静岡県の農業に革新を起こすことを目指すAOI-Project。 その中心的な役割を担うのが会員制の「AOIフォーラム」です。フォラムの運営を担うAOI機構では、活動体としての大きな方向性を元にした、事業内容の具体化が急務でした。ロフトワークは、関係者への綿密なリサーチを敢行し、ビジネスモデルキャンパスを作成。情報を整理し、AOIフォーラムのコミュニケーション戦略及び具体的なマイルストンとアクションを策定しました。

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