創造性を引き出す「働き方と働く場のニューノーマル」とは?
Vitraのリサーチャーと探るワークプレイスの未来
コロナ禍を機にリモートワークが急速に進み、新しい働き方への移行が求められている今。ロフトワークは「ニューノーマル時代の働き方と働く場」をテーマに、スイスの家具メーカー ヴィトラとイベントを開催しました。
本レポートでは、世界のオフィスと働き方に加えて、アフター&ウィズコロナで働き方がどのように変わっていくかをまとめた最新のリサーチをご紹介。後半はヴィトラとロフトワークによるトークセッションの模様をお届けします。
働くことに対する価値観が大きく変わろうとする中、より創造的な働き方、働く場をつくるにはどうすればよいのか。この機会を変革のチャンスと捉え、ぜひみなさんもご一緒に考えていただけたらと思います。
未来のワークプレイスが果たす役割とは?
世界の事例から次の時代の働き方を読み解く
ヴィトラからは、世界中を飛び回って年間100以上もの企業のワークプレイスや教育機関を訪ね、先端的なオフィスの研究を行っているヘッドリサーチ&トレンドスカウティングのラファエル・ギールゲン氏が、世界のオフィスと働き方の最新動向をレポートしてくださいました。
ヴィトラは家具を製造するだけでなく、世界のオフィスと働き方の動向を研究し、この研究を俯瞰的に見るレポート「ワーク パノラマ」を毎年発表しています。今回はそのワークパノラマからアフター&ウィズコロナの今だからこそ伝えたい4つのポイントをご紹介。世界のアクション例から、次の時代の働き方を読み解いていきましょう。
1.ANYWHERE ECO-SYSTEM
「我々はどこからでも仕事ができるようになり、本社の機能が分散化していきます。私たちは今、家、コワーキングスペース(写真)、ホテルのロビーなど、どこからでも働ける「自由」を手にしています。リモートで勤務できるのに、なぜオフィスに戻る必要があるのか、会社に所属するとはどういうことか、改めて考え直す必要があるでしょう。」
2.PERMANENT BETA
「『パーマネントベータ』とは製品・ サービスは決して100%である必要がなく、改良を繰り返しながら満足度を向上させる考え方です。この考えは、オフィス空間にも適用し、日々変化する社会情勢に柔軟に対応できるスペースとして注目されています。例えば、独シュトゥットガルトにある自動車メーカーのシェアオフィス(写真)。今までは各メーカーがそれぞれの会社で仕事をしてきましたが、ここでは複数のメーカーが同じ場所に集まり、お互いに学び合っています。さらに、オフィスの中でもベータ版の要素を持つ空間が必要とされています。スイス・チューリッヒにあるPwCのエクスペリエンスセンターでは、日々研究、実験が行われており、目的や人数の変化に応じて即座に対応できるスペースが設けられています。」
3.CAMPUS COMMUNITY
「アディダス(写真左)やグーグルのオフィス(右)をはじめ、本社を大学のキャンパスのように自由度が高く、求心力のあるコミュニティを形成する場として活用させる動きがあります。今後、本社の役割はますます重要になるでしょう。個人がどこに所属しているかという帰属意識、コーポレートアイデンティティーと一致しているかが大事になってきます。」
4.TALENT TRANSFER
「学ぶこと、学び直すことが重要になってきます。ソフトウェア会社のオートデスク(写真左)では、オフィス内に実験や失敗できる工作スペースがあります。ニューヨークの広告会社R/GA(右)は、空間に大画面のモニターを設置し、自分たちの仕事を可視化することで、同僚からフィードバックをもらう環境を用意しています。このように、会社の中でいかに新たなスキルを身につけ、限られたスペースを有効に使っていくかを考える必要があります。」
コロナ禍で見えてきた「これからのワークプレイスの仮説」とは?
共創施設SHIBUYA QWSの事例から
「時間・空間・仲間・世間」の4つの間をテーマに人間の様々な営みを横断した都市環境のデザインに取り組む、ロフトワークのLayout Unitディレクター 宮本明里からは、昨年11月にOPENした渋谷スクランブルスクエア15Fにある会員制の共創施設「SHIBUYA QWS」をご紹介しました。
ロフトワークがコミュニティ運営に携わる同施設では「渋谷から世界へ問いかける可能性の交差点」というコンセプトのもと、世代や国籍、業種、年代を超えた人々が集い、様々なプロジェクトが進められています。
新型コロナウイルスの影響で今春4〜5月の約2ヶ月間は閉館していましたが、68のオンラインイベントを開き、コミュニティの熱量を保ち続けてきました。コロナ禍で運営を続ける中で見えてきた「これからのワークプレイス」に対する2つの仮説をお伝えします。
1.プロジェクト単位の働き方がスタンダードになる
「SHIBUYA QWSでは、コロナ前からプロジェクト単位で活動する会員がいました。リモート勤務が進む中でさらにこの動きが加速し、スタンダートになるのではないでしょうか。」
2.誰かと何かを作ることがより重要になってくる
「会員に休館中に困ったことをヒアリングしたところ、「Fabを使ったプロトタイプ作成の機会」「偶発性の高い出会いの機会」「深い議論をする機会」の3つの機会の損失が挙げられました。その場所に行かないと得られない価値があることは、オフィス空間にもいえます。より誰と何を作るかが重要になり、企業の中にも共創機能に特化した場所が出てくるのではないでしょうか。」
ニューノーマル時代に働き方と働く場はどう変わる?
後半は3つのテーマに沿って、各社の仮説を解説しながらディスカッションしました。ヴィトラの日本法人の代表、片居木亮 社長とLayout Unit ディレクターの松本亮平も加わり、ロフトワーク マーケティングの岩沢 エリがモデレーターを務めました。
テーマ1:ニューノーマルなワークスタイルはどんな風景か?
ヴィトラの仮説:デジタルツインの中で何を選び、どう働きたいか、企業も個人も一緒に考える風景
ヴィトラ ラファエルさん(以下、ラファエル):私たちはフィジカルなワークスペースとしての構造と同時に、バーチャルな構造を考えなくてはいけない時代に生きています。デジタルとアナログ両方を整備することを「デジタルツイン」と呼びたいと思います。フィジカルなスペースを作るためにはバーチャル構造を理解する必要があり、バーチャル構造を作るのであればフィジカルなスペースにも気を配らなければなりません。
ヴィトラ 片居木さん(以下、片居木):まさに今こそ、デジタルツインの中で何を選び、どう働きたいかを考えるべきタイミングだと思います。東日本大震災の後にもリモートワークの話題が盛り上がりましたが、当時は「ビジネスを継続すること」が重視され、定着した企業もあれば定着しない企業もありました。当時と今ではデジタルの環境も違いますし、コロナで強制的にリモート勤務を学んだおかげで、受け手側の慣れも生じています。
ロフトワーク 松本(以下、松本):私たちは企業が与えてくれた場所でどう過ごすかを考えがちですが、そもそも働き方の価値が揺らいでいる今、もっと広い視点で考えを巡らせてみても良いのではないでしょうか。「そもそもこの会社で働き続けたいか」という地点まで戻って問うてみる。そうすることで、個人が企業に対して「こんな働き方がしたい」と発言することができます。
片居木:Work from Anywhereをベースに、自由な発想で働き方を考えることが大事だと思います。今は在宅かオフィスの2択で議論されることが多いですが、実際はこの2択ではありません。コワーキングスペースでも顧客のオフィスでも、移動中でも、タスクに応じて最適な場所を選んで働くことが必要ですね。私たちは、働き方を考える際に、どこにベースを置くかを確認するようにしています。
ロフトワークの仮説:企業が提案するライフスタイルに賛同し、一緒に働く仲間が集まる風景
松本:これからは、「企業が提案しているライフスタイルに賛同し、そこで働きたい人が集まってくる」と考えます。この企業に勤めたら「こんなワークスタイルの選択肢があるんだ」と知ることができるのは、企業自体の価値にもつながっていくと思います。
しかし、そもそも自分たちの企業のワークスタイルを自己分析できていなければ、どんなワークスタイルを提案できるか疑問を持つでしょう。その時にオススメしたいのが、壁打ち相手を見つけることです。中にいるとその企業らしい働き方や映えるシーンに盲目になりがちなので、ロフトワークやヴィトラなど、別の会社の視点を入れて考えてみると良いと思います。
岩沢:「ライフスタイルに賛同していく」という仮説を持つようになった経緯が気になります。詳しく教えてもらえますか?
松本:コロナの前から、ワークスタイルのガイドラインを作りたい、ワークスタイルのコンセプトを作りたい、という企業からのお話が多くありました。それらのリサーチをする中で、「そもそもワークスタイルのカテゴリーの中には、働くこと以外のアクティビティや活動もあるのではないか」と疑問を感じていたのです。もっと上段からブランディングしていくべきだし、どのような過ごし方ができるのかを問うていくべきでは?という思いが積み上がっていきました。
■Layoutが手がける空間事例・プロジェクトレポート
https://layout.net/
■都市における新しい“LAYOUT”を考えるプロジェクト紹介
https://loftwork.com/jp/group/layout
テーマ2:企業のワークプレイス改革チームがまず取り組むべきこととは?
ヴィトラの仮説:「自分たちの会社は何がしたいのか」「自分はどう働きたいのか」社員の声を反映しながら会社の戦略をつくる
片居木:初めにやるべきことは、「会社」という大きな視野で働き方を考えることです。これは長期的にみた時に、より良い働き方を作ることにつながるからです。
リモートで働くか、オフィスの面積はどのくらいが良いか、満員電車に乗るかなど、多くのことを考える必要がある中で、リモートにしようとか、出社率を半分にしようとか、手段から考えてしまいがちです。私たちの経験上、手段からスタートすると正しい方向に進まないケースを多くみてきました。
岩沢:普段からコンセプトを考えているロフトワークの意見を伺えますか。
松本:まず、どんな過ごし方を重視したいかを、企業内のメンバーを交えて話すことが大事です。トップダウンで上層部のメンバーだけが話をするのではなく、社員自らが議論に加わるのが良いと思っています。
岩沢:そうですね。価値観が変わる中で、今まで通りの決断フローで良いのかも考えたいですね。
片居木:僕らの会社も自分たちの働く場所や働き方について考えています。緊急事態宣言中は在宅勤務にし、現在は来客がある場合はオフィスを使えるようにしています。自分たちの会社はどういうことがしたいのか、自分の働き方はどうしたいのか、皆で意見を出し合っています。
松本:ぜひ20〜30代の戦力ど真ん中のレイヤーに聞いて欲しいですね。
片居木:その通りですね。一方で、まず大事なのは会社の戦略だと思います。リーマンショックで不景気になった時、働く空間が縮小し、それに対応する手段としてフリーアドレスを導入する動きが加速しました。しかし、残念ながら導入だけが先行し、働き方に応じた細かな設定がなかったことで、業種や職種によっては向かない人たちがいました。例えば、デザイナーは机を共有するより、ブース型にして働いた方が集中できます。会社の戦略があれば、そういった間違いを事前に防ぐことができます。
ロフトワークの仮説:会社のアイデンティティを大切にしたコンセプトを作る
松本:ワークプレイスを一新したい場合、コンセプトメイキングすることが大事です。パーマネントデータの思想を取り込んで更新制にするのが良いでしょう。自分たちで更新することで会社のブランディングにつながり、人が集まる魅力にもなります。
コンセプトはどうやって作れば良いか分かりづらいと思いますが、例えば「オフィスがあるべき場所からコンセプトを考える」方法があります。ビールや食品を作っている企業であれば、飲食店の横にオフィスがあっても良いし、工場の隣にあっても良い。事業を最もドライブさせられるところから、場作りやワークプレイスを考えてみても良いと思います。
お菓子メーカーのたねやさんは、滋賀県に本社があります。一般的には東京や大阪に本社を置きがちですが、ショールーム機能や販売場所、企業ブランドを伝えることをトータルに考えた結果、滋賀を選んだそうです。
岩沢:10年、100年後の戦略を踏まえて考えた時、その場所は必ずしも便利な東京や大阪である必要はなく、自分たちが今まで育ててきた地域、大切な工場がある場所を選ぶことも重要になってきそうですね。
テーマ3:ニューノーマルなオフィスで行う活動とそのための機能とは?
ロフトワークの仮説:本社のコア機能として共創空間が生まれる
松本:今後は、本社のコア機能として共創空間が登場するのではないかと思います。作業スペースや個人が集中してインスピレーションを得る場所は町全体を使えば良いので、本社に必要な機能は社内外の人間がミートアップする空間だと思うからです。SHIBUYA QWSのようなオリジナリティのある場所を各企業が作れば、自ずと他社と差別化できるのではないでしょうか。
コロナを機に共創空間の新しい機能や活動も増えていくでしょう。今までは会場のステージがあれば集まりやイベントができていましたが、それができなくなった今、共創空間にはリアルなライブ感を伝える機能が求められています。例えば、プロジェクト単位の活動を支えるプロジェクト屋台やラジオ配信スタジオなど。昔のタバコ部屋のような場所がアップデートされ、企業のカルチャーを感じられるランドマークスペースになることも予想されます。
宮本:QWSでも仮設スタジオを実験的に作っています。オンラインのイベント配信をホワイトボードに投影し、実験しています。
片居木:オンライン配信文化、面白いですね。我々の会社でも、今年はCEOがビデオ配信で新作を発表しました。中国で家具のオンラインサイトをスタートした時も、CEOが本社のショールームからQ&A形式で答えました。ブランドメッセージを伝える際に、外部に対してもオンライン配信を使い始めています。
ヴィトラの仮説:「会社は良いホストになる」
ラファエル:家に友達が遊びに来た時、私たちは良いホストになろうとしますよね。会社も同じで、そこで働く社員に対して最高の経験を作るために、良いホストになるべきだと思っています。
片居木:今後ワークプレイスが変化していく中で、オフィスに行くことがより意識的な行動になると思います。わざわざ行くのであれば、オフィスに対する期待値はより高まるでしょう。期待に応えるために、ホストはよりホスピタリティが求められます。
ヴィトラの工場は、フランスとドイツとスイスの国境線にある小さな街にあります。ここに来てもらうために私たちが大切にしているのは「どれだけインスピレーションを与えることができるか」ということです。例えば、デザイナーと協業して新製品を開発する際には、デザイナーが足を運ぶ理由として、あらゆる素材や3Dプリンターを揃え、世界一のものづくり環境を用意しています。会社の背景や、どういった環境で製品が作られているかを伝えることができる点もメリットですね。
ヴィトラ、ロフトワークが考える ニューノーマル時代のキーワードとは?
岩沢:最後に、ニューノーマル時代のキーワードを教えていただけますか?
片居木:ニューノーマルなオフィスが確立していないタイミングで会社の戦略をつくっていくには、「長期的なプランを考えること」が大事だと思います。
ラファエル:まずは「俯瞰して全体像をみること」、次に「好奇心を大事にすること」、最後に「マインドセットをすること」です。常に最善のものにアップデートできることが大事だと思います。
松本:「個人と企業それぞれの現在地を明確にしてスタートを切ること」です。自分がこれからどういう働き方をしたいのか、自分が所属している組織や管轄しているチーム、企業の現在地がどこにあるのか、あらためて整理することが、初めにやるべきアクションだと思います。
岩沢:ありがとうございました!
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Layoutチームお問い合わせ先:mailto:layout@loftwork.com