「共創空間」ってどうやってつくるの?
ディレクターが語る、場づくりのはじめ方
2020年1月24日、ロフトワークのプロジェクトデザイン手法を紹介する連続イベント「Loftwork Toolbox」のVol.2が開催されました。テーマは「ロフトワークの共創空間のつくり方」。「共創をする目的の違い」を切り口に、「新しい働き方の土壌をつくる(事例:株式会社鈴与)」、「先進的な働き方を加速する(NTTコムウェア株式会社)」、「社内外の枠を超えた共創をうむ(事例:パナソニック株式会社)」と、ロフトワークが支援した3事例を紹介。各々の目的に合わせた空間設計や運営計画のポイントを解説しました。
今回は、このイベントに登壇したロフトワークのLayout Unitに所属する3人のディレクター——高橋 卓、松本亮平、越本春香——が再び集結。同じくLayout Unitの佐川夏紀がインタビュアーとなり、「共創空間のつくり方」について、イベント時に質問の多かった議題を取り上げて語るアフタートークを行いました。
「クライアントからどのような相談を受けるのか?」、「よく聞かれる質問は?」、「陥りやすい失敗とその改善策は?」など、イベントでは語りきれなかった、共創空間を生み出すヒントが次々に現れてきました。
テキスト:船寄 洋之
インタビュー:佐川夏紀(ロフトワーク Layout Unit)、編集:loftwork.com編集部
一緒に戦える仲間を求めてロフトワークへやってくる
ーーまずは「共創空間」が生み出されるきっかけについて、ロフトワークにはどういったクライアントが相談に訪れるのでしょうか。
松本亮平(以下「松本」):以前は会社の総務部など資材を管理している部署から場づくりの相談が多かったのですが、年々他社との差別化が求められる流れもあり、最近は経営層や広報部など会社のブランディングを担う部署の方が自ら「これからの会社や社員のあり方から見直さなくてはいけない」と意識を持って相談に来られることが増えていますね。共通してどのクライアントもすごく熱量を持って相談に来られます。
ただ、彼らは「自分たちが組織全体を改革していくんだ」と高い志を抱いて活動する一方で、社内で理解者を集められなかったり、改革案を訴求しても社員になかなかイメージしてもらえない、という似た傾向の悩みを持っているように感じます。そういった社内全体のマインドを変えるために、一緒に戦える仲間として私たちに声をかけてもらうことが多いです。
高橋 卓(以下「高橋」):鈴与のケースも経営層のトップである社長がもっとも課題感と熱量をお持ちでした。よりスピード感を持って改革を推し進めていくために、その仲間を求めてロフトワークに相談してくれたと感じています。
松本:相談される側としては、トップないしはトップと連携が取れているような社内への影響力が強い方がプロジェクトに参加してくれると、私たちも推進しやすくなるので、そういう組み合わせっていいですよね。共創空間のコンセプトを策定するときに決裁者や判断を下す方を巻き込んで彼らの将来像も反映することができれば、「こういうコンセプトだから、このような機能と空間があるんだ」とその文脈が説明しやすくなり、チームがプロジェクトを進めるうえで精神的な安心感も生まれてきます。
越本春香(以下「越本」):そうは言っても、最初からその状態になるのはなかなか難しいけど、私たちはそうやって上層部の方も巻き込んでいけるような設計をしていきたいと思いながら、プロジェクトを進めていますよね。
高橋:確かに。プロジェクトのスタートが現場の担当者か経営層なのかという違いはあるけれど、最終的には全体が一丸となるようなプロジェクトデザインの設計が必要になるので、私たちはその実現に向けて、工夫を重ねながら進めていますね。
重要なのは、アウトプットで終わらせない継続性
——これまでさまざまなプロジェクトに携わられたと思いますが、プロジェクトを進めるうえでどんなことを心掛けていますか?
松本:僕はクライアントのコアメンバーと私たちのプロジェクトメンバー、そしてクライアントの想いをうまく引き出せるクリエイターが三位一体となるチームビルディングを心掛けています。建築家やデザイナーなどクリエイターの選び方は、プロジェクトの成功を大きく左右する要素のひとつだと思っています。
高橋:それ、すごくわかります。僕は鈴与のプロジェクトから、クリエイター選定の重要さをあらためて感じました。もともと鈴与の社長から「地方にもう一度、磁場をつくりたい」という想いを伺っていたので、東京で活躍するクリエイターを起用するのは少し違うんじゃないかなと思っていました。地元の活性化という意味では、それはサステイナブルではないような気もしていて。だから、地域に根ざしているクリエイターに目を向けて調べていくうちに、鈴与と同郷の静岡に事務所を構える若手建築家・後藤周平さんを見つけ、この人が適任だと思いプロジェクトに招待しました。
後藤さんは事務所から車を少し走らせると鈴与の本社に行けるので、プロジェクトを終えてからもアフターメンテナンスだけでなく、空間デザインに関するアドバイザーのような関わり方を続けてくれています。今ではインターネットを介せばどこでも打ち合わせができるけど、持続的な場づくりのためには完成後もクリエイターが気軽に訪れて相談に乗れるような関係を私たちがいかに残すか、ということがすごく大切だなと実感しました。そのような意味でも、地元クリエイターの起用はとてもよかったと思っています。
越本:私たちって「場所を納品して終わり」みたいに、何かをアウトプットをして終わることもできるんだけど、後々「やってみたら違った」とか「思うように動かなかった」ということもあるから、その場を運営していくなかで見えてきた問題を改善できるような仕組みづくりが、サステイナブルにもつながっていくのだと思います。そこまで見据えた計画の元でプロジェクトを進められたらベストですよね。
迷ったら立ち返る コンセプトは判断基準の塊
——では、クライアントと「新しく共創空間を作ろう」とスタートを切ったとき、はじめに何をすることが大切なのでしょうか?
松本:まずは、「どういった共創を目的にしているのか」が重要だと思います。あくまで場をつくることは、目的を達成するための手段なので、その場を使ってどういった共創を目指したいかについて、はじめにクライアントとしっかり固める必要がありますよね。
越本:それに加えて「何年後にどうなりたいか」というビジョンも大事ですよね。コンセプトをつくるなかで、そういう話は絶対に出てくるから、私はその度に「こうなりたいから、こうやって分解していこう」とビジョンをブレイクダウンする方法を取っています。
高橋:鈴与のケースみたいに、会社の上層部の方とプロジェクトを始められたら、会社としての未来のビジョンを軸に進めることはさほど難しくないと思います。しかし、例えば有志メンバーがビジョンを実現したいと相談してきたときに、その想いをうまく引き出して実現することって簡単なことではないと思うのです。そういった有志メンバーや、一社員の方から生まれた共創空間の事例ってありますか?
松本:NTTコムウェアのケースはそれに当てはまる好事例だと思います。ここでは、プロジェクトチームが「本気でアジャイル開発に取り組む場をつくる」という明確なミッションを持っていたことが、共創空間を生み出すうえでの大きなポイントになりました。
とはいえ、うまくはいかないシーンも当然あって、最初にビジョンやコンセプトをつくったのだけれど、プロジェクトが進むなかで「内装はこうしたい」「什器はこれがいい」と、直感的に判断してしまいそうになることもありました。やっぱり、一度掲げたコンセプトを念頭に置きながら、「何のためにその機能が必要なのか」「何のためにその家具を置くのか」「どういう体験をその場で起こし、どういうことを会社として伝えたいのか」その先の意味を常に考え続けないと、本当に目指したい共創のかたちがボヤけていってしまいますね。
高橋:「コンセプト」って使いやすい言葉だから、その言葉自体に頼ってしまいがちだけど、「何のためにそれが必要だっけ?」ということをよく理解した方がいいですよね。短期間のプロジェクトはチームでコンセプトに込めた想いを持続しやすいけれど、長期間のプロジェクトになるとそれがだんだんと忘れられてしまいやすい。そうなると、好みやそのときの気分など属人的な判断になってしまいます。そんなプロジェクトこそ、みんなでコンセプトをつくるワークがとても重要になりますよね。「みんなで考えた価値基準でここまで決めたのだから、その判断を大切にしよう」という考えがチーム全体に浸透すれば、どんな問題に直面しようともコンセプトが軸になり続けていくと思います。
松本:そうですよね。判断基準の塊がコンセプトだし、何か采配に困ったときに拠り所となるものですよね。
越本:クライアントごとにコンセプトを一緒に築いていくけど、Layout Unitのプロジェクトってどんなことにも対応できるように、少し余白を残すような意識が備わっている気がします。例えば、100BANCHだと、若者の力を信じる要素がすごく大きいから、その人たちが好きなように活動できたり、個性によって使い変えられたりできることも空間デザインに取り入れています。それってLayoutメソッドというか、空間プロジェクトの共通点かなと思います。
松本:その余白があるとないとでは、利用者が自分ごと化できる度合いが変わりますよね。だから、空間デザインにおける70パーセントは「こういう体験をしたい」っていう機能を設えるのだけど、残りの30パーセントは、利用者がもっとこうしたいと思ったときに手を加えられる、カスタマイズすることができる、つまり自分事ごと化できる場として残しておくことで、より愛着が湧き、新たなチャレンジが生まれる機会も増えると思います。空間に余白を残しつつ、プロジェクトが掲げる世界観を目指せるように舵取りするのが、私たちの仕事だと思っています。
他人ごとじゃなく“自分ごと”により関係人口を増やす設計を
——イベントの参加者からは「共創空間をつくったけど、うまく利用されていない場合の解決法を教えてほしい」という声がありました。そういった場合に、みなさんはそれをどう解決していますか?
松本:まずは「そこでどんな活動をしているのか」というソフトの分析をします。私たちが共創空間のプロジェクトを進行していくときは、内装にまつわるハード面の設計を行いますが、それと並行して「そこでどういった活動をすることが望ましいか」というユーザーの体験設計も行います。その片方が欠けただけで、使われない場になってしまうので、そこで行われている活動を丁寧に紐解きながら、より空間が活用されるためのコンテンツを再構築できるような提案をしています。
越本:私は、場が活用できていない理由って、利用者がそこを自分ごと化できていないからだと思うんです。場をつくった後で、利用者が「ここはあのプロジェクトチームがつくった場所なんでしょ?」みたいな他人ごとにならないように、つくりあげるプロセスにいろんな人を巻き込んでいくことが大切ですよね。みんなが自分ごと化する仕組みをつくることで、その場が長く使われるようになると思います。
高橋:それで言うと、鈴与のケースでは、社員一人ひとりに自分ごと化してもらえるように、さまざまなアプローチを取り入れました。本社にいる約700人の社員の方々にアンケートを取ったり、プロジェクトの進捗を見てもらえるように会社の一室をプロジェクトルームとして常に開放したり、アイデア発散のワークショップにはさまざまな部署の方に参加してもらったり、そうやってプロジェクトの情報を発信し続ける状況をつくることで、「自分たちには関係ないや」と思う人を減らせることができたと思っています。
松本:アンケートにしてもワークショップにしても、今生み出そうとしている共創空間について、一人ひとりが考えるきっかけを持ったということがとても大切ですよね。そうやって一人ひとりのプロジェクトへの距離が近づいていくと、人にも伝えたくなるから口コミでその新しい場の情報が広がっていく。そんな好循環が生まれてくると思います。共創空間をつくる前も、つくった後も、そういう自分ごととして捉えてもらう機会をいかにつくるかって本当に大事だと思います。
越本:そうそう。クライアントによっては、初めて共創空間をつくる場合もあれば、ちょっと共創空間っぽいことを始めている場合もあるし、実際につくってみたけどうまくいっていない場合もある。まずは状況に応じて、社員の方々がどれくらい自分ごととして捉えているかを見極めることが大切ですよね。
高橋:部署や役職などの縦割りでは組織がうまく立ち行かなくなったときに、それを横串するための仕組みとしてオフィスに共創空間が求められることが多くなっています。しかし、さまざまな交わりを生み出す共創空間の役割は、内向きなオフィス空間だけでなく、より公共的な場所にも求められていくだろうと考えています。そこに、これまで私たちが取り組んできたメソッドが発揮できる可能性があると感じています。
越本:もしかしたら、共創って世の中のイメージはAとBが一緒になにかをするようなイメージが強いのかもしれないけれど、本当の共創って、コンセプトを空間に落とし込むときに、Aの人もいればABの人もABCみたいな人もいるなかで、それがちゃんと横断して交わっていく、もっと広がりのあることなのかなと思います。100BANCHのGarageProgramに所属するメンバーは、それこそABCDくらい持っている人たちがたくさん集まっているからこそ、そのメンバーが交わることで全く新しい「X」みたいなものがどんどん生まれているのだと思います。
——最後に、共創空間をつくるときに、今日からできるアクションがあれば教えてください。
松本:まず初めに、自社や自分の部署がどんな共創をしたいのかという目的をもち、明確にすることが大事だと思います。その目的がもてたら、次にそれを共に推進していく仲間を社内で見つけられると、プロジェクトチームを立ち上げることができます。そして同じ想いのもとに共創空間をたくさん見て回ることが大切だと思います。共創空間をイメージするには、実際に空間を見学することがもっとも効果的です。見学先に迷ったらロフトワークが携わった共創空間をご案内できるので、ぜひ一度ご相談に来ていただければうれしいですね。
本記事で紹介した事例の詳細記事はこちら
- 新しい働き方の土壌をつくる(事例:株式会社鈴与)
「空間から働く人の⾏動や思考を変える鈴与本社リニューアル」 - 先進的な働き方を加速する(NTTコムウェア株式会社)
「まだこの世に存在しない空間の創造
“本気” でアジャイル開発に取り組む「COMWARE TO SPACE」」 - 社内外の枠を超えた共創をうむ(事例:パナソニック株式会社)
「未来をつくる実験区 渋谷100BANCH」
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