空間プロデュースチームが考える
「ニューノーマル時代の働き方&ワークプレイス」
未来を見据えて「場」を更新し続ける
コロナ禍を機に、多くの企業がこれからの働き方、オフィスの在り方について再考しています。ロフトワークでは「『創造性を引き出す、働き方と働く場』のニューノーマルを考察する」と題したイベントを開催。さまざまな空間プロデュースを手掛けてきたLayout unitが、3つのプロジェクト事例を軸に「ニューノーマル時代の空間と働き方」を提案しました。
ニューノーマル時代においてどのように働き、ワークプレイスのハード面(空間、家具や什器)とソフト面(場のルールやプログラム、イベントの仕掛け)をどう捉え直していくべきか。本レポートには考えるヒントが満載です。ぜひじっくりお読み下さい。
ロフトワークが考えるニューノーマル時代の働き方とワークプレイス
まずは、 Layout Unitディレクターの松本亮平からニューノーマル時代のワークスタイルを考えるための2つの視点をご紹介しました。
①企業が提案するライフスタイルに賛同し人が集まる
「どこでも働けるようになり、企業の選び方に変化が起きるのではないでしょうか。これまでは、どんな環境で働けるか『オフィス空間』を訴求して採用につなげてきましたが、今後は企業が提示する『ライフスタイル』に共感して選んでもらうようになると思います」
②ワークスタイルのコンセプトメイキングが集まることの価値を支える
「『なぜこの拠点に集まるのか』という価値を言語化・ビジュアル化することで、月日が経っても想いを絶やさずに持ち続けることができます。コロナをきっかけに、今こそ経営、社員の生き方、評価も含めて、どのようなコンセプトで社会に価値を提供するのかを考えるべきです」
ニューノーマル時代に合った働く場・働き方を実現するには? 3つの事例に見るコンセプトメイキングとアプローチ
CASE1:ワークプレイスの改革
Layout unitディレクターの高橋卓から、創業220年の歴史をもつ静岡県の老舗物流会社、鈴与株式会社の本社5Fの大講堂を改修するオフィス改革プロジェクトをご紹介しました。
「空間リニューアル」から「働き方改革」への転換
「講堂の一角にあるランチスペースを、居心地の良い空間にリニューアルしてほしい」という依頼を受け、コンセプトメイキングを開始。社長へのヒアリングを重ねながら、依頼の背景に3つの課題を発見することで、本プロジェクトは「空間リニューアル案件」から「働き方改革プロジェクト」に大きく舵を切ることになりました。後述の共創プロセスによって、「本社は全ての人を迎え入れるHOMEであってほしい」という想いから、「HOMEGROUND」というコンセプトを紡ぎ出しました。
空間(オフィス環境の改善)、仲間(社員の意識改革 / 受け身ではなく一人ひとりが企画し提案できる人材の育成)、世間(若手人材の獲得 / 企業の認知を広め優秀な人材を地方に呼び寄せたい)、それぞれの課題を「間」にたとえ、それらをつなぐことを目指しました。
社員を巻き込み、「自分ごと化」させる仕掛け作り
働き方改革プロジェクトとして進めるにあたり、大事にしたのは「トップビジョンを社員一人ひとりに浸透させ、自分ごと化すること」。プロセスに社員を巻き込む仕掛けを入れ込みました。社員一人ひとりに「自分たちが空間を作っている」との自覚が生まれ、社員の意識改革にもつながりました。
<実施内容>
- 社長のメッセージの明文化
- 働き方を考えるワークショップ
- プロジェクトルームの社内設置
- 空間を使いこなすための手本となる有志チーム「SIP」の結成
「まだ見ぬ未来」を描くコンセプトづくりの重要性
プロジェクトによって、講堂はCODOという新しい空間に生まれ変わりました。空間に変化できる余白を残したCODOは、コロナ禍でもオフィス密度の軽減に役立ちました。東京支社の社員のサテライトオフィスとしても活用され、企業内コワーキングスペースとして有効であることが実証されました。不確実性のある時代だからこそ、オフィスを作る際に現在の課題だけでなく、先の未来を見据えたコンセプトづくりがより一層重要になってきます。
企業はこれまで出島的な場所としてコワーキングスペースを持ってきましたが、今後は全社を挙げた共創プロセスから生まれた空間がオフィスのコアになるのではないでしょうか。リモートワークで削ぎ落とされた後に残るものが、これからのオフィスに求められる本質的な機能になるのだと思います。
CASE2:コミュニティの多様性を育む
Layout Unitディレクター/QWS コミュニティマネージャーの宮本明里からは、2019年11月に開業した渋谷スクランブルスクエアの会員制の共創施設SHIBUYA QWSの事例をご紹介しました。
SHIBUYA QWSは「渋谷から世界へ問いかける可能性の交差点」というコンセプトのもと、常に問い続けることが次の価値を生み出す原点になると考えている共創施設。ロフトワークは、立ち上げから施設運営に関わっています。
新しい価値を生み出すための設計
多様性を受け入れる施設であるため、あえてペルソナを定めていないのが特徴です。しかし、人が集まるだけでは新しい価値は生まれません。提供できる価値とは何か?なぜ多様性が大事なのか?どうやって新しい価値を生み出すのか?を考えることが、空間とコミュニティ設計に求められます。
そこで、以下の5つの設計を実施しました。
1.適度なオープン性を持つ空間
壁のないエリアが3つあり、隣でどんな活動をしているのか、他のコミュニティが何をしているのかが透けて見えるようになっています。
2.多様性を受け入れる余白の設計
集まった人々が更新できる「余白」を空間とコミュニティ設計の中に組み込んでいます。日常活動エリアでも、イベント時はプロジェクターを投影して空間をハックすることができます。
3.多様な会員体系の設計
プロジェクトを支援するコミュニティ、新規事業担当のコーポレートメンバー、会員のプログラムやコミュニティづくりをサポートするパートナーや大学生との連携など、多様な会員体系を用意しています。
4.コミュニケーションツール
会員同士の自然な交流を誘発するツールを用意しています。プロジェクトの問いを記入したカードをテーブルに立てて活動することで、そのカードをきっかけに人々がつながることができます。出会う、磨く、放つのフレームに応じた会員向けのプログラムも用意し、提供可能なファシリティやイベントを設計しています。
5.場所の価値を引き出すためのオンライン設計
今春はコロナ禍を受け、リアルな場所こそ閉じていましたが、雑談やプロジェクトなどオンラインコミュニティでの活動は継続しました。オンラインで出会った人がリアルに出会ってプロジェクト化し始めています。
これからはオフィスにも共創機能が求められる
家でもどこでも仕事ができるようになった今、オフィスには「誰かと一緒に何かをする」ための機能が必要とされており、オフィスにもSHIBUYA QWSのような共創機能を持った空間が求められてくるのではないでしょうか。企業によって共創の形は違うので、どんな価値を残したいかという企業の意思が、次の働き方をつくるのだと思います。
CASE3:非接触時代のコミュニケーションの可能性
Layout Unitディレクター/100BANCH コミュニティマネージャーの加藤翼からは、東京・渋谷でパナソニック、カフェカンパニー、ロフトワークの3社で運営する100BANCHの事例をご紹介しました。同施設は2020年7月で開業から3年を迎えました。
100BANCHでは「未来をつくる実験区」というコンセプトのもと、35才以下の若者がファッションからビジネス、アートまで多様なプロジェクト活動を行なっています。3年前、パナソニック創業100周年のタイミングで「若者たちと一緒に意味のある場所を作り、次の100年の未来を作る人材を育てられないか」とお話をいただきました。23才で起業した創業者の松下幸之助のような人材を共に創っていくことに挑戦しています。3年間で596人のメンバーが参加し、178プロジェクトが生まれました。
コロナ禍で生まれた新しい祭りのカタチ
毎年1回、これまでに生まれたプロジェクトのメンバーと「ナナナナ祭」というお祭りを開いています。2019年は5000人ほどが来場。今年は9日間で1万人の集客にチャレンジしようと準備していましたが、コロナ禍を受けて一旦ストップしました。ナナナナ祭ではこれまで意図的に3密の共創空間をつくってきましたが、コロナによってその前提が崩壊。そこで、運営チームは「配信と配送を掛け合わせた次世代の祭」にチャレンジすることを決めました。
初のオンライン開催となったナナナナ祭の準備を進める中で、3つの「新しい働き方のインサイト」を発見しました。
1.ハード
空間(ハード)の可変性を大事にしてきたことが、3密を避けるための工夫につながりました。作業フロアでは周囲にあったラックを中央に集め、デスクを窓側に向けて個人作業スペースと換気を確保しました。
2.ハイブリッド
オンラインとオフラインをいかにして統合(ハイブリッド)するかを考え、新しい体制を整えました。その結果、地理的な制約を超えて国内だけでなく海外からも参加してもらうことができ、ダイレクトに顧客の声を聞くことの大切さも知りました。
3.コミュニティ
100年に一度の危機に実験しなくてどうするのかという「コミュニティマインド」が大きな推進力になりました。新しい挑戦をする際に、コミュニティの存在は後押しとなります。ニューノーマルな場所を支えるアブノーマルな試行錯誤こそ、コミュニティ設計に必要な要素かもしれません。
これからの「創造性を引き出す働き方と働く場」とは?
後半のクロストークでは、登壇者が参加者からの質問に答えました。モデレーターはロフトワーク マーケティングの伊藤亜由美が務めました。
共創の先に目指す未来を明確にする
伊藤亜由美(以下、伊藤):共創スペースで本当に共創できているのか知りたいというご意見をいただきました。実際に共創できているのか、共創を実現するためには何が必要か、教えてください。
加藤翼(以下、加藤):共創の先に何を作りたいのかが明確であること、コミュニティのビジョンに落ちているかが重要です。100BANCHであれば「100年先の未来を創る」というコンセプトに共感し、モチベーションが湧いた人が集まっている。「とりあえず実験しようよ」が口癖になるくらいマインドに落とし込まれています。
宮本明里(以下、宮本):そもそもコワーキングスペースと共創施設の違いは、前者は空間のシェア、後者は活動のシェアではないかと考えています。どんな活動をシェアするのかが重要で、一口に共創と言っても企業の考えによって意味が変わってくるため、そこを定義することが大切です。
松本亮平(以下、松本):共創というと言葉の意味が広いので、少し整理してみると良いかもしれません。例えばQWS、100BANCHは実際に外部との共創にチャレンジしている具体例で、企業の部署内で共創するパターンもあります。
加藤:共創を定義する時に大事なのは、実際にやっている側が共創だと思っているかどうかです。IではなくWeを主語にみんなで取り組み、みんなの価値につながっていれば、共創と言えます。コミュニケーションも大事で、コミュニティマネージャーや運営側が設計して進めなくてはいけません。
高橋卓(以下、高橋):鈴与さんの例を挙げると、共創施設をつくる前に、まずは空間をシェアするところから始めました。コミュニティチームのSIPは、共創施設でいうコミュニケーターやコミュニティマネージャーの卵と言えるかもしれません。黙っていたら使わないので、使ってみせるところから始めました。それぞれのフェーズに合わせた共創のステップがあるのではないでしょうか。
必要なのは「箱」の柔軟性
伊藤:未来のオフィスのあり方を知りたいという声も届いています。現状では、コロナ禍を受けて急場しのぎでリモートワークを導入した企業もあると思いますが、コロナに関わらず、これからオフィスはどのように変化していくのか、みなさんの意見を聞かせてください。
高橋:都内のテレワークの導入率は約7割ですが、出社率にばらつきがあり、完全にリモートにはならないのではないかと考えています。そこを前提に未来のオフィスのあるべき姿を考えると、「オフラインで何をしたいのか」によってチューニングされるのではないかと思います。
松本:企業の本拠地はミュージアム化していくのではないでしょうか。ショールームではなく、機能が凝縮されていて、そこに行けば企業が伝えたい価値が分かる場所です。企業によっては、一番提供したいものをユーザーに試してもらう場所になるかもしれません。企業の特色が詰まったミュージアムが多数できてくると面白いですね。
宮本:オフィスはなくならないと思います。QWS、100BANCHの事例の中で空間をいかに更新できるかが重要だと伝えましたが、これから先は「箱」そのものの柔軟性が必要になってくると考えています。大きなオフィスを構えるより、箱を分散させたりして箱自体を更新しやすい状態にしていくのではないでしょうか。
高橋:業態、業種によって、不確実なものに対して動き続けるのは難しい企業もあると思います。鈴与さんの場合、清水港で物流の仕事をしているため、港近くのオフィスをなくすのではなく、アップデートする選択をしました。「未来にこうありたい」という自分たちの強い意思を持ってオフィスを構えることが重要です。
伊藤:社会に訴求したい価値は、企業や自治体によって異なると思います。それぞれの価値に合わせたワークスタイルや空間を、ロフトワークもぜひ一緒に考え、共創していけたらと思います。本日はありがとうございました!
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