EVENT Report

非接触時代における新事業・サービスアイデア創出の一手
オンラインアワードの効果とは

2020年8月5日、ロフトワークは事業創出や起爆剤としてのオンラインアワードの活用方法を紹介するイベント『リアルに集まれない!完全オンラインでも新事業・サービスアイデア創出に挑戦できる「アワード」のススメ』を開催。ビジネス機会創出を目的としたオンラインアワードの最新事例を紹介しながら、施策を成功を導くための視点と実践知を紐解きました。

登場した人

小島 和人 / ロフトワーク, プロデューサー

企業ブランディングからアワードまで幅広くプロジェクトを手がける。また、自身も現代美術家として、舞台演出や映像制作などを手がける。

金岡 大輝 / FabCafe LLP, FabCafe Tokyo CTO

FabCafe Globalのネットワークと連携し、ハッカソンの企画実施や国内外のクリエイターとの作品制作など、さまざまなプロジェクトを行っている。

小檜山 諒 / ロフトワーク AWRD CCO

ロフトワークが運営するプラットフォーム、AWRD CCOとして、ブランディングからマーケティング、コミュニケーション施策を統括。

未来の共創パートナーを発掘|ディスカバ流アワード

まず、オンラインアワードをビジネス創出に活かした2つの事例について、各プロジェクトの担当プロデューサーが紹介。はじめに、ロフトワーク 京都ブランチ プロデューサー・小島和人が、ディスカバリージャパンが主催した『ディスカバ流(る)アワード』を紹介しました。

世界220以上の国や地域でオリジナルのドキュメンタリー映像の配信を行う「ディスカバリーチャンネル」。世界各国で制作されたコンテンツが人気ですが、一方で、日本独自のコンテンツ開発・発信が課題でした。そこで、同社は将来の制作パートナーとなりうる映像クリエイターを発掘することを目指し、アワードを開催しました。

大きなロードマップの中で、アワードが達成するべき中間ゴールを定義

アワード設計における最も重要なポイントについて、小島は「アワードそのものを目的にしない」と説明します。ディスカバ流アワードの場合、まずはじめに「未来のパートナーと、日本らしい独自コンテンツを開発する」という大きな目的を設定した上で、ゴールに向けたロードマップを描きました。

その中で、今回のアワードの役割を「日本独自の切り口を持ったコンテンツとその作り手を発掘すること」と定義。軸を持つことで、審査員選定や応募作品の質底上げ施策の方針にブレが生じにくくなります。

今回は「まだ世に発見されていない、新種のサピエンス(人種)を発見せよ」というテーマのもと、映像アワードとしてはかなり短い1ヶ月間の募集期間で、23点もの応募を集めました。結果として、受賞作品は同チャンネルで最も視聴者数が多いプライムタイムで放映されるほど、クオリティの高い映像コンテンツとして仕上がりました。

グランプリ受賞作品「至高の紙を求めて -紙破り演奏家福井周一の挑戦-」
グランプリ受賞作品「至高の紙を求めて -紙破り演奏家福井周一の挑戦-」

事業創出に向けた機会探索|YouFab Global Creative Awards 企業賞

次に登場したのは、世界12都市に展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe(ファブカフェ)」 。FabCafe CTO 金岡大輝が、グローバルアワードを通じて新規事業創出に向けた機会探索を行った事例を紹介しました。

今年9年目を迎える「YouFab Global Creative Awards(以下、YouFab)」は、FabCafeが主催するグローバル・クリエイティブアワードです。開始当初は、デジタルファブリケーションをテーマにしたアワードでしたが、現在は広くテクノロジーを活かした現代アート作品を扱うアワードとして運営されています。

YouFab History
YouFab グランプリ受賞作品の変遷。3Dプリンターを使ったアート作品にはじまり、近年は、バイオテクノロジーを用いた作品も受賞。2019年は、テクノロジーとクリエイティブによって地域コミュニティに貢献する活動がグランプリに輝いた。

ライオンが未来の「人々の暮らし」に提供できる価値を問いかける

毎年YouFabでは、特別賞という形で企業賞を設定しています。これが、企業が機会領域を探るプロジェクトの中で、一つのエンジンとして機能しているのです。将来事業のための機会探索に、グローバルアワードがどのように活用できるのでしょうか。金岡は、2018年に行った、ライオン株式会社(以下、ライオン)とYouFabとの取り組みを紹介しました。

ライオンの課題は、現代の暮らしの変化や多様化に対応して、これからどんな新しい価値や思想を提示できるかを把握することでした。そこで、YouFabに参加することで、世界のクリエイターに問いを投げかけました。

YouFab2018 LION賞 テーマとステートメント

テーマの言語化と、テーマをさらに深める審査会の意義

金岡は、アワードのプロセスの中でとくに重要だったのは「テーマの言語化」「審査会でのディスカッション」だったと言います。

テーマの言語化について、ライオン賞のステートメントを作成する際に「現代」という文脈の中で、日本のみならず海外クリエイターに共感され、創作意欲を刺激するメッセージを紡ぐ必要がありました。LION賞のステートメントには、日頃からFabCafeの海外拠点のメンバーや、様々なクリエイターと対話しているFabCafeのメンバーの視点や思想が活かされています。

また、審査会のディスカッションでは、応募作品をきっかけにライオンの社員と有識者の間でテーマに関する濃密な意見交換ができました。ライオンのプロジェクト担当者からは、審査会で話されたことが「中長期的なビジョンを考える上で礎になった」というコメントも頂きました。

「中間地点」としてのアワードのゴール設計が肝要

2つの事例を通じてオンラインアワードをビジネスに活用するためのヒントをお伝えした、本イベント。クロージングでは、プロデューサー 小島が新規事業創出においてアワードを活かせるポイントを、以下のようにまとめました。

  • 機会領域探索:アーティストの作品・視点を経由して、まだ発見されていない新しい価値を見つける。
  • 自社のビジョン更新:自社の世界観を再構築するきっかけとして、アワードを通じて新たな外部パートナーを得る。
  • コミュニティの起爆剤:ユーザーコミュニティを創出するきっかけ。または既存コミュニティを盛り上げるための起爆剤として。

アワードは、あくまでゴールに到達するための一つの手段。事業創出という長い道のりの中でどんな役割を担うのか、明確に目的を定義して挑む必要があります。これが、アワードのテーマや目標、ターゲット、募集方法などの設計にも関わるポイントであり、アワードそのものの成功を左右します。

さらに、登壇したメンバーからは、以下のようなコメントもありました。

アワードやコンテストをやること自体が楽しいので、終わったときに『楽しかったね、よかったね』で終わりやすいんです。そうならないよう、仮説でもいいので目的・目標は予め設定しておくことが大切です。(小島)

アワードは自動販売機ではありません。募集をすれば何かしら作品は集まるけれど、本当に有用なものが集まるかどうかは設計次第。(小檜山)

クリエイターには風呂敷をたたむのが得意な人もいるし、広げるのが得意な人もいます。受賞したから、『じゃあお願いします』とするのではなく、アワードの設計段階でどの範囲でクリエイターにコミットしてもらうかを考えておく必要があります。(金岡)

アワードを一時的な「お祭り」として盛り上げるだけでなく、中長期視点から戦略的に目的を定義すること。そして、テーマ設定からコミュニケーション、募集施策、審査員のアサイン、終了後の受賞者との関係にいたるまで、ゴールに向けて緻密に設計することで、アワードは着実に成功につなげることができます。

ビジネス創出に向け、アワードをやるべき2つの理由

ロフトワークは、クリエイティブの力でビジネスを加速させるためのオンライン・プラットフォーム「AWRD(アワード)」を運営しています。ロフトワーク AWRD事業 CCO 小檜山諒が、AWRDを活用したビジネス創出プロジェクトの特徴を紹介しました。

オンラインからリアルまで、オープンコラボレーションを促進する 「AWRD」

「AWRD」は、Web構築やシステム開発などの工程を入れることなく、オンライン上でアワードの告知から作品応募、審査、受賞発表まで、オンラインアワードの全プロセスをワンストップで実施・運営できます。

AWRDを利用することで、運営のコストやリソースをアワードのゴールに向けた具体的な施策に集中させることができます。

>>ビジネス創出のための、3つのAWRD活用モデル

AWRDで開催されるアワードの大きな特徴は、その多くがクリエイターを参加ターゲットとしていることです。事業創出においてクリエイターを巻き込むメリットは、大きく2つあります。

1.「形にする力」によって、開発スピードを上げる

クリエイターは、自身の手で質の高いプロトタイプを制作できるので、プロトタイピングから検証までをスピーディに進めることができます。また、実際に触れることができるプロトタイプによって、検証プロセスの精度も高まります。

2.アート思考で、「ありきたりなアイデア」を回避する

デザイン思考や論理思考は他者を納得させられるものができる一方で、まったく新しいアイデアが生まれづらいです。他方、アート思考は作り手個人の思いから端を発するため、ありきたりなアイデアに着地することを回避できる可能性が高いです。特に、他社に先んじて新しい価値を生み出したい事業創出においては、クリエイターとの共創は有効なアプローチといえます。

いかがでしたか? 未来に向けた価値創造の取り組みを再始動・ドライブさせるためにオンラインアワードに挑戦してみたい方は、ぜひ、お気軽にロフトワークにお声がけください。

お気軽にご相談ください

ロフトワークでは、オンラインミーティングでプロジェクトに関する気軽なご質問や意見交換ができる、個別相談会を実施しています。

  • 新規事業創出を担当しているが、コロナ禍によってこれまでの取組みが休止してしまっている
  • 外部パートナーとの共創の取り組みに力を入れていきたいが、なかなか具体的なプロセスに進まない
  • 自社事業のロードマップを刷新したいが、何から始めればいいのか

など、お悩みや課題をお伝え下さい。ロフトワークの豊富なプロジェクト事例をご紹介しながら、ざっくばらんに意見交換をさせていただきます。複数名でのご参加も対応いたします。

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