ライオン株式会社 PROJECT

グローバルアワード「YouFab」からつかむ、
新規事業創出の種

Background

「今日を愛する。」がコーポレートスローガンのライオン株式会社。1918年の設立以来、120年以上にわたって日々の生活を支えるプロダクトを製造しています。

20181月、ライオンの研究開発本部内に製品開発をする研究所ではなく、新規事業を生み出す研究所としてイノベーションラボが設立。歯磨き粉や洗剤といった100年以上前のイノベーションが継続してライオンのビジネスのコアになっていることへの危機感がその設立の経緯です。

ロフトワークとイノベーションラボはその設立当初からプロジェクトをスタート。イノベーションラボのコンセプトづくりや、リサーチを通じたライオンの新しい機会領域の設定を行いました。

さまざまな境界の繋ぎ目が「溶けあう」、これからの社会とわたしたちの生活

加速度的に変化している私たちの働き方や暮らし方の少し先の未来は、20世紀に引かれたライフプランから今後さらに多様化していくことが予想されます。会社組織と個人の関係性、仕事と家事と自分事、学びと遊び、パブリックとプライベート、デジタルとリアルなど、さまざまな境界の繋ぎ目が「溶けあう」社会ではどのような体験を求め、日々を過ごしていくのでしょうか?

イノベーションラボが設定したプロジェクトコンセプトは「MERGE ─ 仕事と暮らしが溶けあう未来」。このコンセプトをもとに、YouFab2018でライオン賞を創設。 世界中のアーティストから作品を募集すると同時に、関連イベントを通じたコンセプトのプロモーションや、バンコクでアーティストとの共同リサーチを実施しました。

プロジェクト概要

  •  支援内容
    • グローバルアワード「YouFab」の仕組みを使った新規事業創出・クリエイター共創プロジェクトの戦略づくり
    • FabCafeの国内・グローバル拠点を利用した現地アーティストとの共同リサーチの設計・実施
  • プロジェクト期間
    2018年6月〜2019年3月
  • プロジェクト体制
    • ライオン株式会社 イノベーションラボ https://www.lion.co.jp/ja/company/rd/innovation/lab/
    • プロデュース:柳川雄飛
    • プロジェクトマネジメント:石塚千晃
    • ディレクション:金岡大輝、鈴木真理子、Kelsie Stuwart
    • イラストレーション、ロゴデザイン:野中聡紀 http://t-nonaka.jp/
    • バンコクリサーチのディレクション:Kalaya Kovidvisith(FabCafe Bangkok)、金岡大輝
    • バンコクリサーチのコラボレーションアーティスト : Chef Van, Saran Yen Panya,
      Kanit-tha Nual

About YouFab

YouFabとは?

FabCafeが主催するグローバルアワード、YouFab Global Creative Awardsは「ものづくり」や「メーカーズムーブメント」といった文脈を内包しつつ、既存の製造業と個人の関係性といった初期の構造を超えて、「なぜ作るのか」、「どう、現状のオルタナティブを考え続けるのか」といった問いに挑戦するアワードです。

7年目の開催となったYouFab2018のテーマは「Polemica!!」。スペイン語で「議論」とか「喧々諤々」といった意味です。世界中から、議論を巻き起こす問いを世に示す作品を募集しました。

「仕事と暮らしが溶けあう未来」を探る

YouFab2018ではライオンとのコラボレーションで特別賞「ライオン賞」を設置。これまでにあったような企業協賛の仕組みを超えて、アワードという仕組みを通じ、世界中のクリエイティブ層と作品を通じて対話することで、ライオンが取り組む新規事業における新しいアイデアのタネを探りました。このレポートでは、ライオンとYouFabのコラボレーションを振り返ります。

YouFab2018 ライオン賞 MERGE- 仕事と暮らしが溶けあう未来

MESSAGE 
ライオンは「今日を愛する。」というスローガンを掲げ、創業127周年の今を進んでいます。そして、我々が今目指しているのは、これまでの当たり前を‘REDESIGN’し、未来の習慣を作り出していくことです。

10年後の世界、「MERGE – 仕事と暮らしが溶けあう未来」では、どんな生活が待っているのでしょう?皆さんと一緒に未来を描き、共に創り出していくことを楽しみにしています。

Process

Keypoints

アワードの仕組みを使ったクリエイターコラボレーション

プロジェクトは2018年6月からスタート。「MERGE」というリサーチから飛び出した、いわば”ナマモノ”の言葉を翻訳して展開し、作品募集の際のメッセージ作りからスタート。同時に、審査基準の言語化や受賞者との将来的な共創についても見据えて準備を進めました。作品募集はロフトワークのアワード運営サービス「AWRD」を使用。プラットフォームを利用した、クイックなアワード運営が可能です。

イベントを通じたオープンなディスカッション

キックオフイベントではYouFabの新旧審査委員長が登壇。YouFab2018が、いまの世にとうべき作品についてハイコンテキストな議論が繰り広げられました。
田中浩也(写真左:慶應義塾大学 SFC研究所 所長, 環境情報学部 教授) /若林恵(写真右:YouFab2018審査委員長, 編集者, 元WIRED日本版編集長)

今回の試みでは、YouFabライオン賞に関連したトークイベントやワークショップも開催。ライオンが世に問う 「MERGE」についてオープンなディスカッションを通じて、少し先の未来のそれぞれの暮らしについて、様々な文脈を照らしながら考えを巡らせました。

ワークショップでは、「MERGE」というテーマをもとに、2030年の少し先の暮らしについてディスカッション。

FabCafeの海外拠点を活用したリサーチ

日本でのリサーチで得た、キーワード「MERGE」。では、広くアジアに目を向けたとき、日々人びとはどう暮らし、働いているのでしょうか。リサーチの拠点はFabCafe Bangkok。2014年にオープンした3つ目のFabCafeです。

リサーチではバンコクに暮らし働く3人のペルソナに密着。そこにバンコクの現地のアーティストもチームにジョインし、2泊3日の合宿形式でプロダクトのアイデアを練りました。リサーチの目的は2つ。1つ目は、海外における「MERGE」を探ること、2つ目は、イノベーションラボにおける今後のアーティストとの共創プロジェクトに向けてのプレワーク。チームに分かれ、イノベーションラボメンバーとアーティストがタッグを組みリサーチを行いました。

Van(左)タイに古来から伝わる伝統的な民間療法にヒントを得た食材や調理法に現代的なアレンジを加え、独創的なタイ料理に挑戦し続けている。バンコクに複数のレストランを展開し、タイのグルメシーンを牽引する注目のシェフ。食や健康を自身の生き方にも投影する独自の強い思想を持つアーティスト。
Kanittha(右上)テキスタイルアーティスト。ファッションとしての織物だけではない、幅広いデザインを通じた織物の可能性を模索している。
Saran(右下)プロダクトデザイナーとしての知見と、ストーリーテラーとしてのテクニックを交えて、鋭い分析に基づく課題解決型のデザインを得意とする。グラフィックデザインからファーニチャーデザインまで、国内外の有名ブランドとのコラボを精力的に行なっている。

アーティストと一緒にペルソナに1日密着して、バンコクにおけるMERGEを探りました。世界10拠点に展開するFabCafeを通じて、それぞれの都市のローカルなアーティストやクリエイティブクラスターとタッグを組みながら現地でのプロジェクトやリサーチをクイックに行えるのもFabCafeの海外ネットワークの大きな魅力の一つです。

バンコクでのリサーチプロジェクトの記録ビデオ

バンコクに身を置いて見えてきたのは、日本のリサーチは全く違うペルソナのマインド。日本でのリサーチを踏まえ飛び出した世界で、自分たちのテーマを一度立ち止まって考えるとてもいい機会になりました。

日本人の方々をインタビューしてまとめた「MERGE」という世界感。一方でその定義づけ自体が、チームの中での常識になってしまっている部分がありました。テーマを決めて、かたちにして置くと、自分なりの解釈がみんなの常識になっていると思ってしまうこともあります。日本の常識の中ではない海外の地で「MERGE」というフィルターを取って、自分たちの取り組みを客観視することができたのは、非常にいい気づきでした。 ── ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平

世界各国から集まった作品を通じた機会領域の模索

ライオンチームとYouFabチームで何度も打ち合わせを重ね、その審査基準や審査の方向性を議論。数々の作品と、そのバックグラウンドとして示される未来の暮らしをひとつずつ想像しながら、作品審査を行いました。

ライオンチームも含めた審査員同士の本気の意見がぶつかり合い、喧々諤々のディスカッション。社内のディスカッションだけでは到達できなかった貴重な議論がいくつも巻き起こった瞬間でした。

LION AWARD

ライオンが選出した作品

「Hack the Natural Objects.」

YouFab2018 ライオン賞に選ばれたのは、ガダラによるプロジェクト「Hack the Natural Objects.」で生まれた石型のインターフェイス。“自然物”にセンサーなどの人工的な機能を組み込み、傾きによって音量や明量などのアウトプットをコントロールします。自然と人工が“MERGE”する日常、というコンセプトをプロトタイピングした作品です。

選出の経緯

何でもなく、いつもそこにあるもの。いつもは見逃しているもの。自然が創り出した造形。実は私も自分で木を削りだしたキーホルダーを30年以上使っています。

使い続けていながらも、その手触り感や愛着を忘れていました。この作品の、自然の造形を活かし、人工的な機能を付けることにとても共感するとともに、この世界がもともと持っている自然とヒトが作ったものとのMERGEという、僕たちが持っていなかった概念に改めて気づかせてもらいました。──ライオン 研究開発本部イノベーションラボ 所長 宇野大介

ライオン賞のテーマ「MERGE- 仕事と暮らしが溶けあう未来」は、懐が広く、多様なアイデアを受け入れられる土壌、これが本アワードを通じて感じたことである。10年後の2027年の生活を想定してテーマを置いているが、今から10年前はスマートフォンの普及前夜に当たる。この10年間の変化を考えれば、次の10年の暮らしや働き方がいかに多様性に富むかが分かる。

応募作品に自然との調和をコンセプトにしたものが多くみられたのも、10年単位で変わりゆく大きなうねりのようなものを感じた。我々が選んだ「Hack the Natural Objects.」は、自然物が持つデザインを活かしながら、機能を付与して生活に溶け込ませるというものである。生活の中で多様な接点を持つライオンだからこそ、製品としての機能美だけでなく、いかに自然に、いかに違和感なくよりよい暮らしを実現していけるのか、という問いを提示してもらえたと感じている。さて、この難解な問いにどのように応えようか。──ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平

「TRUSTLESS LIFE」

もうひと作品、ライオン賞選外佳作として受賞したのは加藤明洋さんの「TRUSTLESS LIFE」。この作品は、近未来にブロックチェーン技術が実現するであろう未来の社会を、人と人とが対面でプレイするボードゲームとして表現することにより、多くの人々がその可能性と課題を想像できるゲームです。

選出の経緯

ブロックチェーンのような、最先端で難解な故に得体のしれないデジタル技術を、手触り感のあるボードゲームに仕立てた点、更にボードゲームながらもスマホを駆使してゲームを進める仕様に、大いに興味を持ちました。見た目の完成度の高さ、ヘキサゴンを使ってボードゲーマーの心をくすぐりつつ、ブロックチェーンによる社会の変化を実感させてくれそうなところが、とても気に入っています。今回のYoufabにて、様々なコミュニケーションの形を見せていただきましたが、この作品もまた違ったコミュニケーションの体験が出来そうです。何はともあれ、一度これで遊んでみたいですね。──ライオン 研究開発本部イノベーションラボ 所長 宇野大介

今後、ヒトの価値は何によって測られるのだろうか?これが「Trustless Life」に刺激された私の感情である。このゲーム上では、肩書や生まれは関係なく、活動実績とスキルで評価され、行動が制限される(できることが増えると表現したほうが好ましいかもしれない)。社会全体に適応されるルールは一つであり、ログは分散型で管理される。ブロックチェーンを通して未来を見ると、この世界も一つの答えであるとは思う。一方で、過去の行動記録から信用によって評価するのではなく、未来への期待や可能性を信頼という形で評価する世界を「MERGE」を通じて創り出してみたいものである。──ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平

YouFab 2018 授賞式

プロジェクトの締めくくりには授賞式および受賞作品展を開催。海外からも受章者が駆けつけ、世界中のアーティストが一堂に会しました。会場は築91年の歴史的洋館 「kudan house」。テーマとして設定した未来の解釈をアーティストに問う。そしてその作品を通じて未来をみる。その試みはどのようなものだったのでしょうか。

100年後のライオンの姿やその時の暮らしを考える時、短期的ではなく、中長期的にコミットメントするためのビジョンを考える上ですごくいい礎、というか”置き”としていい材料になっている。イノベーションラボがライオンという組織の中でどう立ち回るんだっけ?という時にすごく意味のある問いだてをすることができました。

また、YouFabや関連イベントを通じてMERGEというテーマをオープンに世に示すことによって、様々な人とオープンにディスカッションできる状態それ自体が、非常に意味のあることだと思います。 ── ライオン イノベーションラボ 主任研究員 藤村昌平

ライオンの社内イノベーターに聞く「新規事業のアイデアを自創できるチームづくり」への挑戦

2018年5月25日に、「新規事業のアイデアを自創できる組織・チームづくりの秘訣」をテーマにイベントを開催。先行事例として、ライオン株式会社を含めた3社の取り組みをご紹介しました。

組織が「当たり前」にどのように気づき、変わっていくのか。ライオン株式会社研究開発本部、イノベーションラボで活躍する藤村昌平氏と、同社とのプロジェクトを担当したクリエイティブディレクターの原 亮介、プロデューサーの柳川 雄飛の3名で紐解いていきます。
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Impact

22カ国

3ヶ月で応募のあった国数

71作品

3ヶ月で応募があった作品数

Member

柳川 雄飛

柳川 雄飛

石塚 千晃

石塚 千晃

株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター / BioClub

金岡 大輝

株式会社ロフトワーク/FabCafe LLP
FabCafe Tokyo COO 兼 CTO(事業責任者 兼 最高技術責任者)

Profile

鈴木 真理子

株式会社ロフトワーク
Public Relations/広報

Profile

ケルシー・スチュワート

株式会社ロフトワーク
Sustainability Executive/FabCafe チーフコミュニティオフィサー(CCO)

Profile

Kalaya Kovidisith

Kalaya Kovidisith

FabCafe Bangkok
Founder

Activity

Keywords

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窒素問題の理解促進にむけて
複雑な課題を捉える、システム思考を使ったワークショップ