EVENT Report

地方と都市がシームレスに混ざり合う未来を目指して
「地方と都市の新たな関係性を探るオンライン討論会」開催レポート[第五回]

これまで二項対立で語られることの多かった「都市」と「地方」の関係性が、コロナ禍を契機に変わりつつあります。この先、都市と地方の関係性は、どう再構築されていくのでしょうか。

多彩なゲストを迎えてディスカッションを重ねるシリーズイベント「地方と都市の新たな関係性を探るオンライン討論会」、最終回となった第五回のテーマは「地方+都市のイノベーション(入山章栄)」。

早稲田大学大学院 教授 入山章栄先生をスペシャルゲストに迎え、本イベントの共催企業である株式会社日建設計 取締役 奥森清喜さん、パシフィックコンサルタンツ株式会社 取締役 後藤剛之さん、そして林千晶(ロフトワーク 共同創業者)の4名で、第一回〜四回の議論を振り返りつつ総括します。

執筆:野本 纏花

▲各回で行われてきた議論の内容を大判サイズのパネルとして会場に設置しました。

不確実な時代における、まちづくりに必要なものとは

:まずは後藤さん、過去4回のイベントを振り返って、どんなことを感じたか、聞かせていただけますか?

後藤:ひとつのポイントとして、コロナ禍やウクライナ情勢といった「不確実な時代のなかで、いかに持続可能な社会にしていくか」という点が挙げられます。そこでは単に経済を回すことだけではなく、QOLや文化や自己実現といった、幅広い意味での“生業”について考えなければならない。そしてもうひとつのポイントが、「まちを構成するさまざまなレイヤーを俯瞰して全体最適を図る必要がある」という点です。まちづくりに関わるステークホルダーを巻き込みながら、生業として成立できなければ、持続可能な社会に向けたコミットができませんから。

入山:人とビルしかない都市と違って、地方には自然の多様性がありますからね。まちが小さいからこそ全体を描けるという利点もあります。けれども、地方のアセットは点在している。そこでデザイン思考などの考え方を活用して、全体をつないでいくのは重要なことだと思います。

とはいえ、不確実性が高いなかでは、後藤さんや奥森さんが手がけてこられた都市開発のように、「ドンッと投資をして、がっつりデザインして、一度つくったら何十年も動かしません」というこれまでのやり方は使えなくなる。レジリエンスを持って柔軟に変化するデザインをしていかなければなりません。その辺りは、どうお考えですか?

奥森:まさに、そうなんです。僕はそれを“しなやか”という言葉で表現しているのですが、過去4回のイベントでも「都市と地方の関係性を、互いを補い合うものへと流動化していかなければ、不確実な時代に対応できない」と議論がされてきました。では、どうやって流動化させるのか。我々のような都市に住む人間も、地方へどんどんアイデアやデザインを持ち込んで、地域の方と一緒にイノベーションを起こしていけたらと考えています。

入山:素晴らしい。“しなやか”という言葉、めちゃくちゃいいですね。

“都市”も“地方”も概念でしかない

入山:僕が個人的に気になっているのは、「そもそも“都市”と“地方”って、何なのか」ということです。第一回のイベントでも議論されていたようですが、僕としては、都市も地方も概念でしかないと思っている。概念は大事だけど、概念は物事を分けてしまうんですよ。男と女もそう。男と女という概念があるから、男と女が分断されて、その2つしかないかのように誤解されてしまうんです。同様に、都市と地方もただの概念でしかないのだから、都市と地方がシームレスになるといいですよね。

:もちろん、そうなんです。とはいえ、地方に住んでいる人からすると、「いやいや、東京の人にそう言われてもね…」という思いがあるような気がしていて。私自身は、都市と地方で分けるつもりなんて全然なかったんだけど、実際、地方に行ってみると、感覚の違いを感じたのも事実。例えば、初対面の人と挨拶をした時に、何をしている人なのかさえ、聞いてもらえない。地方だと私くらいの年齢の女性は、家事をしているのが当たり前だから。

入山:そこに住む人たちにとっては、それが常識なんでしょうね。常識も概念であり、幻想なんですけど。常識は脳を楽にするためにあるものなんです。常識だと決めつけた瞬間に、考えないで済むようになるから。常識なんてないと理解していて、多様性を受け入れる感受性の高い人がいるところだと、交わりやすいですよね。

後藤タンザニアの話でもありましたよね。国民全体が同じような常識を持っていれば、都市も地方も行き来できる。タンザニアでは、都市の親戚のところで出稼ぎをして、そこで得たお金を地方に持ち帰ってビジネスをする、というのを繰り返しているそうです。

第二回のイベントに登壇されたバリューブックスの鳥居さんも、コエドブルワリーの朝霧さんも、今は地方で活動されているけれど、東京にも長く住んでいたから、どちらか片方の常識に囚われていないという共通点がある。そういうやわらかな考え方を持つのは、大切なことかもしれませんね。

入山:いい意味で“よそ者”なんですよね。地方にずっと住んでいると当たり前になりすぎて、自分達の個性に気づくのが難しいですから。よそ者だからこそ気づけることって、絶対にあるはずなんです。

“よそ者”だからこそ果たせる役割

:地方に入っていくときにフラットな関係性をつくるのって、難しいなと思うんです。こちらは都市とか地方とか関係ないと思っているし、フラットに話そうと気をつけているんだけど、どうしても地方の人は謙遜してしまう。入山先生は地方に入るときに、どんなことに気をつけていますか?

入山:僕は京都市のアドバイザーをしているけれど、「絶対に3年くらいでやめる」と宣言しています。自走できるようになってもらわないと、僕依存になったらフラットな関係じゃなくなってしまうから。終わりをつくっておくことは、すごく大切だと思います。

:なるほど!

入山:これってまさに、これからの資本主義社会の課題なんですよ。なぜかというと、株式会社はゴーイング・コンサーンで、永続的に成長して株主にリターンを返し続けることが求められているから。終わっちゃいけないルールになっているんですよ。でも本当は終わったほうがいい。生物はいつか死ぬのが自然の理なのに、法人だけが死んではいけないというのは、最大の矛盾だと思うんですね。

:たしかに。

▲各回で行われた議論の中からポイントを抽出し、整理・分析することで、総括を試みました。

入山:もっといえば、まちだって終わってもいいと思っている。役目を果たしたなら、自然に還したほうがいいところだってあるはずなんです。どんなにあがいても、日本中の全部のまちが延命できるわけじゃない。とはいえ、土地を愛している人がいるから、終わらせるのはすごく難しいのはわかっているんですけどね。後藤さんは、どう思われますか?

後藤:現実問題として、すべてのまちを延命させるのが無理だというのは理解できます。そこにちゃんと向き合わなければならないということも。

:多くの自治体が人口をKPIに置いているじゃないですか。でも人口が減っていくのは避けられないんだから、よっぽどのことがない限り、これからずっと未達になるのが明らかなKPIを持ち続けていても、仕方がない。むしろ、KPIを変えるべきだと思いますね。

入山:これから日本の人口はどんどん減っていくけれど、世界で見ると、人口はすごく増えていくんですよ。世界中から人を集めてくるような考え方があってもいいのではないかと思います。

奥森:地方に魅力を感じて足を運んでくれる人を増やすには、やはりよそ者の視点で個性を見つけていくことが大切になりますね。

地方自治体ができないことを民間企業が補完する時代へ

:先日、北海道の中川町へ出張に行ったときに、行政の方が教えてくれたんですけど、中川町はどれだけ地域の中で経済を回しているか(地域経済循環率)を調べたところ、4割程度に留まっていることがわかったそうなんです。農産物も海産物も東京に集まるようにデザインされてしまっていて、たとえ北海道で生産していても、物流として東京経由になってしまう。これは中川町だけの話ではなくて、多くの地方が抱えている課題だと思うんです。都心中心に構築されたモデルをどう崩していくのかを考えなければいけない。入山先生は、どうしたら変えられると思いますか?

入山:僕はこれからもっといろいろなスタートアップが出てきて、民の力で変えていけることがたくさんあると思っています。北海道でいうと、僕は生活共同組合コープさっぽろの理事をやっているのですが、この企業は相当おもしろい。生協は組合員が出資している組合組織じゃないですか。民間企業なんだけど、株式会社ではない。だから、“組合員=地域住民のお客様”のことだけを考えればいいわけです。

:私も数年前にニューヨークに行ったときにPark Slope Food Coopを見て、「コープってなんておもしろい仕組みなんだろう!」と思っていました。

入山:コープさっぽろはすごいですよ。例えば、学校給食の配食事業。北海道は行政単位が小さいので、給食を賄うのが大変なんです。各校の厨房で作っていると、ものすごくコストがかかる。でもコープさっぽろはセントラルキッチンを持っていてお惣菜を作っているし、宅配ビジネスをやっているから北海道全域の流通網もある。それで北海道の地のものを使ったおいしい給食を、各校に毎日届ける配食事業を始めたんです。こんなふうに、民だけど公共性を持った組織が、官にはできないところを補完していくような関係性が、これからもっと出てくるだろうと考えています。ちなみに、第四回のイベントに登壇されたニールセンさんが住んでいるデンマークも、小売で一番大きな企業の一つはコープですからね。都市と地方が相互補完関係にある北欧型の社会を目指すなら、もっと生協モデルを発展させるべきではないかと。

▲第五回目イベント中に出来上がった、本シリーズの総括。

行動することでしか未来は変えられない

:そろそろ終わりの時間が近づいてきました。最後に、ひとりずつ今日の感想をお聞かせいただけますか?

奥森:都市の視点を持った我々の専門性を活かしながら、生協のような新しい共同体として都市と地方の新たな関係性をデザインしていくために、まずは地方の豊かさを自分ごととして実感するところから始めていきたいですね。都市と地方が概念であるならば、それを乗り越えた先にシームレスにつながり合える未来があると信じています。

後藤:これまでは地方と単にコラボレートするようなイメージを持っていたのですが、もっと深く入り込んでインテグレートする必要があるのかなと感じました。そして、従前は企業のアセットとしてヒト・モノ・カネがあると言われて来ましたが、これから大切になるのはヒト・チエ・タネ(資源)の掛け合わせだと思うんです。企業として成長し続けなければならない十字架を背負いながらも、都市と地方の関係性という難題にもしなやかに向き合っていきたいと感じました。

入山:今回のイベントシリーズを通じて、都市と地方の関係性を変えようと動き始めている素晴らしい方々がこんなにいらっしゃることを知れたのが、何よりも大きな学びになりました。“経路依存性”と言って、企業も社会も、過去の蓄積で今があるから、いろいろなところに既得権益の塊がたくさんあるし、みなさん自分の愛するものを守りたい想いが強いから、一気に何かを変えることはできません。それでも前へ進めようとするときに大事なのは、行動です。とにかくやってみる。全体最適を描くと言っても、最初から答えはわかりませんから。いろいろなプレイヤーが一緒になって、少ない予算でもいいから、行動を始めてみることが大切だと思います。

奥森:ぜひ視聴者のみなさんも一緒に実行へとつなげる組織を立ち上げましょう。

入山:いいですね!

:全5回のイベントシリーズはこちらで終了です。これからも、乞うご期待ください。みなさん、ありがとうございました!

オンライン討論会の他レポートはこちらからご覧ください。

「地方と都市の関係性はどのように再構築されていくか」について議論した全5回のレポートサマリーは、以下のプロジェクトページにまとまっています。

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