EVENT Report

“感性”で体感しムーブメントを起こしていくサーキュラーエコノミー
crQlr Summit 2023 JAPAN イベントレポート

循環型経済に必要な「サーキュラー・デザイン」を考えるコンソーシアム「crQlr」。循環型経済をデザインするプロジェクトやアイデアを世界から募集する「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)2022」の授賞式も兼ねて、審査員・受賞者をはじめとした実践者が、実際の現場から学び、つながり、意見を交わし、将来に向けたステップを考える機会をつくろうと、『crQlr Summit 2023 JAPAN「五感で学ぶ、地域に根ざしたボトムアップな循環型経済」特別ツアーイベント』を開催しました。

会場は石坂産業という産業廃棄物の中間処理を行う会社の敷地内にある「三富今昔村」。石坂産業が不法投棄のゴミの山から再生、保全した里山を活用した、東京ドーム4.5個分のサステナブルフィールドです。

本稿では、イベント当日の模様をダイジェストでお届けします。

執筆:野本 纏花
写真:鈴木彩
企画・編集:関井遼平(awrd.com編集部)、山口謙之介(loftwork.com編集部)

いざ、埼玉県入間郡三芳町へ出発!

参加者受付

参加者は受賞者や審査員、ロフトワークメンバーをはじめとしたサーキュラーデザインを実践されている方々が、総勢70名。企業・スタートアップ・アカデミア・アーティスト・メディア等、多様な方々が集まりました。大型バスに乗り込み、渋谷から約1時間半かけて、「三富今昔村」のある埼玉県入間郡三芳町を目指します。

三富今昔村に向かうバスの中で旅のしおりを読む参加者

この日は、石坂産業の資源再生工場見学ツアーや受賞者による音楽のデモンストレーションなど、盛りだくさんのプログラムが予定されており、旅のしおりを読みながら期待が高まります。 旅のしおりにもサーキュラーデザインが。紙の量を最小にするために、各所にWebページへのQRコードを貼り付けています。また、表紙に100%、本文ページに70%の再生紙を使用しています。

バス内でのアイスブレイクの様子

移動中のバスでは、参加者同士のアイスブレイクも兼ねて、サーキュラーデザインに関連したクイズや、「2022年に捨てた一番大きなゴミは?そのゴミはどこへいく?」をテーマに自分の行動とサーキュラーのつながりを考えるディスカッションを行いました。

石坂産業の本社ビルにてイントロダクションを行う工藤

石坂産業の本社ビルに到着。イントロダクションとして「crQlr Awards(サーキュラー・アワード)2022」のプロジェクトマネージャーを務めた工藤 梨央より、本日の流れをご紹介します。

参加者に語りかける小島

「私たちはつい正しいことばかりを追求してしまいがちですが、今日は『なんかいいよね』といった“感性”を大切にしながら、いろいろな体験をしていただきたい」とロフトワーク プロデューサーの小島 和人(ハモ)が語りかけます。

石坂産業からの施設の説明を受ける参加者

リサイクル化率98%の資源再生工場見学ツアー

資源再生工場見学ツアーで説明を受ける参加者

いよいよ資源再生工場見学ツアーのスタートです。石坂産業では「ゼロ・ウェイスト・デザイン」というビジョンを掲げ、不要となって捨てられたごみがまた新しい資源へと生まれ変わる産業廃棄物の中間処理を事業としています。その結果、現在は持ち込まれた産業廃棄物の98%を減量化・リサイクル化を達成している、とのこと。

施設内で稼働する重機をガラス越しに見る参加者

石坂産業では、工場の騒音などで近隣に迷惑がかからないよう、屋内に工場があります。また、工場内に入った運搬車両が外へ出るときに粉塵を撒き散らさないよう、建屋には二重構造の扉が設置されているほか、タイヤを雨水で洗浄する仕組みも用意してある徹底ぶりです。

工場の壁に植えられた植物について説明を受ける参加者

工場の壁には植物が植えられています。これも騒音を軽減するため。森の生態系に悪影響が及ばないよう、地域に根づく在来種の植物にこだわっているそうです。

手作業で仕分けする作業員

機械のみではなく、手作業で仕分けし分別することで、98%もの再資源化・リサイクル化率が達成できている、と言います。

再資源化された盛り土剤について説明を受ける参加者

石坂産業では持ち込まれた産業廃棄物から、さまざまな製品を再資源化しています。たとえば「NS-10」という盛り土剤。工事で道路を掘った穴を埋め戻す際に、バージンの山砂を使うのではなく、「NS-10」を使えば環境にも優しいですよね。こちらは国土交通省の建設技術証明を取得しており、多くの道路工事現場で利用されているそうです。

広い資源再生工場内を眺める参加者

石坂産業には1日約300台のトラックが産業廃棄物を運んできます。工場内でさまざまな処理を行って原料ごとに選別した後、リサイクルできずにそのまま最終処分場に持っていくものは、300台のうち、わずか1台分だけだと言います。

天井の採光窓から明るく照らされる資源再生工場内部

工場の建屋内には自然の光が差し込みます。基本的に電気を使わずに済むよう、明かり取りの窓が設けられているのです。ちなみに石坂産業で使用している電気の40%は、外に埃を撒き散らさないようにする集塵機を動かすため。集めた埃は「RPF」という固形燃料へと生まれ変わり、製紙会社などで活用されています。

里山を散策する参加者

三富今昔村の里山も少し回ることができました。 冬期は里山の落葉樹の落ち葉が積もります。この地の文化として落ち葉かきをし、落ち葉を堆肥にして畑の肥料にします。また、レストランなどから出た野菜ゴミを鶏にあげることで、おいしい卵が産まれ、それがレストランの料理として提供されています。

ランチを楽しむ参加者

資源再生工場見学ツアーの後は、三富今昔村にてお楽しみのランチタイム。石坂産業の自社農園である石坂オーガニックファームで採れた、新鮮な野菜を取り入れたお弁当をいただきました。

ランチ会場で見学ツアーの感想を話し合う参加者

資源再生工場見学ツアーを通じて、環境や近隣住民への配慮を徹底しながら、サーキュラーエコノミーを実践されている石坂産業の先進的な取り組みを目の当たりにした参加者のみなさん。「素晴らしかったね!」と会話が弾みます。

ランチに配布されたお弁当

食べた後は、割り箸や紙の弁当箱などは再資源に、食べ残しは鶏の飼料として分別されました。

サーキュラーエコノミーの実践者とともに語り合うトークセッション

バリューブックス 取締役 鳥居 希さんによるKeynoteの風景

午後のプログラムはバリューブックス 取締役 鳥居 希さんによるKeynoteからスタートです。古本の買取と販売を行なっているバリューブックスには、ユニークな仕組みがいくつもあります。

たとえば「charibon(チャリボン)」。本の買取代金をサポートしたいNPOや大学に寄付できる仕組みです。そこから生まれた寄付金額は、なんと6億5,000万円にものぼるそう。

もうひとつが、バリューブックスの実店舗「BOOKS & CAFE NABO(ネイボ)」です。NABO(ネイボ)とは、デンマーク語で”隣人”の意味。バリューブックスが本社を構える長野県上田市の人たちが本を触れ合う場をつくりたい、バリューブックスの世界観をお客様に直接伝える場をつくりたい、という想いで2015年にオープンされました。

バリューブックスには古本が毎日約2万〜3万冊届きます。そのうち半分は次の読み手に販売されますが、残りの半分はさまざまな理由で買い取ることができず、古紙回収に回すしかない状況で、「できる限り、リサイクルに回す本を減らしたい」と考えていました。 その中で、長く読み継がれ、リユース率の高い本をつくる出版社の存在に気づきます。そこで、それらの出版社の本について、買い取った古本の売上の一部を還元する「VALUE BOOKS ECOSYSTEM」という取り組みを2017年に始めました。「本を本のまま活かしたい」という想いから、「捨てたくない本」プロジェクトを始動。この中では次の4つの活動が行われています。

捨てたくない本プロジェクト | 発表スライド
本だった紙、本だったノート | 発表スライド
  • Valuebooks Lab … 捨てたくない本を中古販売価格よりもさらに安い価格で販売するアウトレット本屋。
  • 古紙になるはずだった本 … バリューブックスの想いに賛同した無印良品の13の実店舗で、バリューブックスでは買い取れなかった古本が販売されています。
  • ブックギフト … 地域の幼稚園・保育園、学校、病院、老人ホームといった本を必要とするさまざまな施設に本を寄贈しています。
  • VALUE BOOKS ECOSYSTEM … 長く読み継がれる再販率の高い本をつくる出版社に、売上の一部を還元しています。
  • 本だったノート … 古紙回収に回すはずだった一部をアップサイクルしてつくったノート。本だった紙を使っているので、本だったときの名残が残っていることも。印刷に使用するインクも、捨てられる予定だった「廃インク」を使用することで、1冊1冊が異なる特色を持った世界で1つのノートになっています。
オイシックス・ラ・大地の松山 麻理さんが参加者に向けてプレゼンテーションする姿

続いてのプレゼンターは、「crQlr Awards 2022」で「捨てない循環デザイン賞」を受賞されたオイシックス・ラ・大地の松山 麻理さんです。有機・低農薬野菜、無添加食材などの定期宅配サービスを提供する「らでぃっしゅぼーや」を展開している同社では、1988年の創業以来「持続可能な社会の実現」を理念に掲げ、2001年には生ごみを乾燥資源として循環させる「エコキッチン倶楽部」をスタート。さらに2022年10月からは「ぐるぐるRadish」というサーキュラーエコノミー推進のプロジェクトが開始しています。 「ぐるぐるRadish」の軸となっているのは次の3つです。

  • リジェネラティブ ... 家庭の生ごみを環境保全型農業に取り組む生産者の畑に還元する「乾燥資源の循環」、廃食器を再生陶土として活用する「食器の循環」、不要な衣類を再生繊維に変える「衣類の循環」を実施。
  • サーキュラー ... 洗剤や紙類などの消耗品は、リサイクル・アップサイクル原料を活用した製品、排水後の生分解性の高い製品を提供する。
  • リユース&リペア ... 梱包資材のリユースや、「包丁研ぎ」「布団丸洗い」などのメンテナンスサービスを提供する。

「私たちのブランドのテーマは『暮らしに、心地よい循環を』。サーキュラーエコノミーを続けていくためには“心地よさ”が大事だなと考えているので、これからもお客様が心地よく続けられるサービスをつくっていけたらなと思っています」(松山さん)

Play BlueのCEO 青野さんが参加者に向けてプレゼンテーションする姿

続いてのプレゼンターは、「crQlr Awards 2022」で「Rethink Fast-fashion Prize(ファストファッション再考賞)」を受賞されたPlay BlueのCEO 青野さんです。

青野さんは、日本で年間33億着、総量にして約50万トンも生じている衣類ロスの問題をアップサイクルによって解決し、地域の循環エコシステムをつくりたいという想いから、“服の循環を生み出す”アップサイクルコミュニティ「まちのクローゼット(まちクロッ)」を立ち上げました。

「まちクロッ」はまだ立ち上がったばかりだと言いますが、2022年夏には群馬県高崎市でコンセプトストアを約2か月間出店。Color(服の染め直し)、Trade(服の交換)、Pass(服の回収)などを中心に活動を行いました。

「期間中、約1,000着の服を回収させていただいたところ、状態の良い服がほとんどでした。今後みなさんと共創しながら、この活用先を考えていきたいと思っています」(青野さん)

九州大学大学院 工学研究院 環境社会部門 准教授の樋口 明彦さんが参加者に向けてプレゼンテーションする姿

最後のプレゼンターは、「ASO-DEKASUGI GUARDRAIL Project」で「ランドスケープ賞」を受賞された九州大学大学院 工学研究院 環境社会部門 准教授の樋口 明彦さんです。

通常、土木の仕事は、災害が起きた後や災害が起こりそうなところに、コンクリートの建造物をつくるものです。しかし景観を専門にされている樋口さんは、災害発生時にしか役に立たない建造物に手を加えることで、“見る人の心を和ませる”などの新たな付加価値をつけられないかという研究をされています。

そんな樋口さんが今回のプロジェクトでフォーカスしたのは、“デカスギ”と呼ばれる樹齢70年のスギの巨木。デカスギはその名の通り、デカすぎて建築材として活用するには効率が悪いばかりか、炭素吸収力もほとんどなく、売れることもありません。

そこで樋口さんが出したアイデアが、デカスギを使ったガードレールをつくること。ガードレールは鉄でできていますが、鉄は1トンつくるために2トンのCO2が排出されてしまいます。これをデカスギでつくったガードレールに置き換えると、CO2を排出しないだけでなく、1kmあたり20トンのCO2に相当する炭素をその中に蓄えることができます。しかも温かみのある木製のガードレールは、見る人の心も和ませます。

「阿蘇のガードレールだけでも160kmあり、これらをすべてデカスギに置き換えると3,500トンもの炭素を蓄えることができます。日本中で実現できれば、もう計り知れない量ですよね。まだ行政から予算が下りなくて実現できていないのですが、今回の受賞を追い風にして、実現につなげていきたいと企んでいます」(樋口さん)

その後、プレゼンターと、crQlr Awardsの審査員を交え、トークセッションを行いました。

参加者同士でのディスカッションの様子

トークセッションの後は、近くにいる参加者同士で、意見や感想を交換しました。サーキュラーエコノミーを実践されている方たちのお話に大いに刺激を受けたみなさん。その表情から、真剣さがうかがえます。

いくつかのグループに別れ話し込む参加者の様子

創作楽器の音色とともに楽しむネットワーキング

みらい楽器ラボの原 創平さんが自作の楽器を奏でる様子

その後は、「crQlr Awards 2022」で「Upcycle Sound Prize(アップサイクルサウンド賞)」を受賞されたみらい楽器ラボの原 創平さんによる音楽演奏です。さまざまな廃品から新しい音色や機能を持つ楽器を生み出す楽器発明家の原さん。「これは何からできているでしょう?」とインタラクティブにクイズを出しながら、演奏を披露してくれました。

くつろいだ様子で演奏を楽しむ参加者

焚き火を囲みながら、創作楽器から奏でられる音楽に耳を傾けます。

楽器を実際に触り、音色や仕組みを楽しむ参加者

さまざまな創作楽器を実際に触ってみる参加者のみなさん。

食べ物や飲み物を片手にネットワーキングする参加者

続いては、屋内に移動してネットワーキングの時間です。

用意された色とりどりの野菜を使った軽食の数々
ハーブティーやオレンジジュース

「スモークサーモンのフレッシュハーブ」や「彩りサラダ」など、石坂オーガニックファームの野菜も取り入れた目にもおいしい軽食やドリンクを楽しみながら、語り合います。

焚き火の側で語り合う参加者の様子

サーキュラーエコノミーの実践者同士が知り合い、1日の感想や今後の共創について、意見を交わします。

ELECTRONICOS FANTASTICOS!の和田永さんが扇風琴を奏でる様子

その傍らではELECTRONICOS FANTASTICOS!さんによる演奏も。アーティスト/ミュージシャンの和田永さんを中心に70名近いメンバーが参加するこのプロジェクトでは、役割を終えた電化製品が新たな電子楽器へと蘇生させられています。 扇風機をFabCafeも活用しながら改造し、楽器に蘇生した「扇風琴(せんぷうきん)」を和田さんが弾きこなす姿に、参加者が息を呑んで聞き入り、大変盛り上がりました。

ロフトワーク Sustainability Executive/FabCafe COOのケルシー・スチュワートが参加者に挨拶する様子

クロージングでは、ロフトワーク Sustainability Executive/FabCafe COOのケルシー・スチュワートがご挨拶しました。「石坂産業と三富今昔村を初めて訪れた際に、サーキュラーエコノミーに取り組む皆様に、絶対にここに来て体験していただきたい!と思いました。今後もサーキュラーエコノミーに向けて共創していきましょう!」

ロフトワーク代表取締役社長の諏訪 光洋が参加者に語りかける様子

そしてロフトワーク代表取締役社長の諏訪 光洋からの言葉です。「日本人は真面目だから、環境問題に取り組もうとすると定量的なアプローチになりがち。だけど、やっぱり“感性”とか“どうやって巻き込んでいくのか”といった定性的なアプローチもすごく大切なものだと、今日改めて感じました。ご参加いただいたみなさん、ありがとうございました」。

パンのお土産を手渡す様子

参加者の方々とまだまだお話し足りないなか、名残惜しそうに会場を出るみなさん。最後に、石坂オーガニックファームでつくられたパンのおみやげがサプライズで手渡されました。

帰路につくバスの中から見えた夕暮れの空

五感をフル活用しながら、全力でサーキュラーエコノミーを体感し、自身がその「主体」であると改めて実感した、あっという間の1日。 この場で出会った多様な実践者とつながり、新しい取り組みを共にスタートする一歩になったのではないでしょうか。

参加者全員で撮影した集合写真

ダイジェストムービー

「crQlr Summit 2023 JAPAN 特別ツアー」ダイジェストムービー

Cinematographer / ロフトワーク クリエイティブディレクター:黒沼雄太

Related Event