サーキュラーエコノミーの実現の鍵は、時間軸・自分ごと化・巻き込み
crQlr Summit 2023 JAPAN トークセッションレポート
FabCafe Globalとロフトワークが 2021年8月に設立したサーキュラー・デザインを考えるコンソーシアム 「crQlr (サーキュラー)」が、サーキュラー・デザイン分野に特化したアワード「crQlr Awards」の第二回目を2022年に開催しました。本アワードでは、世界30カ国から131プロジェクトが集まり、53の企業や団体、スタートアップ、デザイナーが受賞者として選出されました。
2023年2月には「crQlr Summit 2023 JAPAN」と題し、授賞式を兼ねた参加型イベントを実施。会場となったのは、産業廃棄物の再資源化や環境教育活動に取り組む石坂産業が運営しているサステナブルフィールド「三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)」です。イベントには、受賞者をはじめ、審査員やサーキュラーエコノミーに関わる第一線のゲストが集い、資源再生の工場見学ツアーや審査員・受賞者・有識者によるトークセッション、音楽演奏、ネットワーキングがひらかれ、多様な人々がつながり、サーキュラーエコノミーに向けて新しい取り組みを共にスタートする一歩になりました。
本記事では、トークセッションの一部をお届けします。サーキュラーエコノミーの実現に向けて活動する実践者たちが語る、取り組みを通して得た気づきや実践のヒントとは?
執筆:佐々木まゆ
写真:鈴木彩
企画・編集:関井遼平(awrd.com編集部)、山口謙之介(loftwork.com編集部)
石坂産業が運営しているサステナブルフィールド「三富今昔村(さんとめこんじゃくむら)」で開催された、「crQlr Summit 2023 JAPAN」特別ツアーの様子はこちらからご覧いただけます。
話した人
crQlr Awards 2022 受賞者
- 松山 麻理 / 捨てない循環デザイン賞受賞『ぐるぐるRadish』
Brand Editor /オイシックス・ラ・大地株式会社 らでぃっしゅぼーや通販事業本部 販売企画室 - 青野 祐治 / ファストファッション再考賞受賞『まちのクローゼット』
株式会社PlayBlue CEO - 樋口 明彦 / ランドスケープ賞受賞『ASO-DEKASUGIガードレールプロジェクト』
九州大学大学院 工学研究院 環境社会部門 准教授
特別ゲスト
- 鳥居 希
株式会社バリューブックス 取締役/ いい会社探求
審査員
- 岩岡 孝太郎
株式会社飛騨の森でクマは踊る 代表取締役 CEO - 小川 敦子
ロフトワーク京都 アートディレクター
モデレーター
- 木下 浩佑
MTRL / FabCafe Kyoto マーケティング & プロデュース
受賞者が語る、目指すサーキュラーエコノミーの姿
MTRL KYOTO 木下(以下、木下) まずは、 ファストファッション再考賞を受賞された青野さんにお話を伺いたいです。
スタートアップのマーケティングという本業がありながらも、洋服染め直しプラットフォーム『somete』をはじめ、地域全体で衣類ロスを目指すアップサイクルコミュニティ「まちのクローゼット」など複数のプロジェクトを展開されています。2022年3月に会社を設立されていますよね。
高い熱量を感じるのですが、青野さんは各事業を通してどのような世界を実現していきたいのでしょうか。
株式会社PlayBlue 青野さん(以下、青野) アパレルロスの削減と地域産業の再活性化を目指しています。
日本では年間約48万トンの服が廃棄されていて、大型トラック約130台分の服が1日に処分されているんです。クローゼットの中で眠っている服がひとりあたり25枚もあるとも言われている。この衣類廃棄の問題に加えて、私が着目したのは地域の染色産業でした。化学染料の台頭や後継者問題により、藍染の文化は存続の危機にあります。この2つの課題に対して、なにかアクションを起こせないかと構想し、形になったのが『somete』です。洋服の循環のなかに“洋服の染め直し”を入れ込んだら、体験としても面白く、藍染文化のリブランディングにも取り組めるのではないかと考えました。
現在は服の染め直し・服の交換・服の回収と3つの軸を中心に、地域を舞台に、洋服の循環型経済モデルの確立に着手しています。
木下 文化を既存のあり方で維持するだけでなく、地域でコミュニティを作りながら循環のうねりを作ろうとされているんですね。
私たちの暮らしの基本である「衣食住」のうち、“衣”の領域を軸にプロジェクトを展開している青野さんに対し、“食”にフォーカスし、循環型経済の実現に取り組むのが、宅配ブランド「らでぃっしゅぼーや」を運営しているオイシックス・ラ・大地株式会社さんです。1980年代から「持続可能な社会の実現を目指す」という理念を掲げ、長年サステナブルな事業を手掛けられています。そのなかで、現在はどのような未来を描いているのでしょうか。
オイシックス・ラ・大地株式会社 松山さん(以下、松山)
今も昔も変わらず暮らしの延長線上で、生活者がサステナブルな活動に気軽に参加できる世界を作りたいと考えています。食は365日、誰しもが関わることですが、「サーキュラーエコノミー」と聞くと、とたんにややこしさや窮屈さを感じてしまう。でも本当はそんなに難しいことではないんですよね。「自分たちの心地よさを維持しながらも取り組めるんだ」とお客様に感じていただけるような事業や仕組みをこれからも作っていきたいです。そのために、新しい取り組みにも積極的に挑戦しています。
捨てない循環デザイン賞を受賞した『ぐるぐるRadish』では、食材にフォーカスした取り組みに加えて、新たに食器の循環にも着目しました。陶磁器を作るための陶土や陶石は枯渇性の資源と言われていて、無尽蔵に掘り出せるわけではなく、限りある資源です。生分解されないので、廃棄する場合は埋立地に送るしかない。そこで、既存の宅配サービスのスキームに、再生陶土を使った器の販売と不要になった食器の回収を組み込み、陶磁器のリサイクルシステムを構築しています。
毎年の積み重ねから100年先を育む
木下 限りある資源の陶土に対し、植林や間伐など人が介入できる余地もあるのが森林資源ですよね。樋口さんは日本各地に多く残っている巨木となってしまったスギの未活用に着目し、ガードレールの素材として使用する『ASO-DEKASUGIガードレールプロジェクト』に取り組まれています。
そもそもなぜ、資源として利用できるはずのスギがこんなにも余ってしまっているのでしょうか。
九州大学大学院 准教授 樋口さん(以下、樋口) 戦後、使いすぎた木を取り戻そうと、国策で、造林を推進したからなんです。その際に、たくさんのスギ・ヒノキが各地の山に植えられました。
当時植えた木が成長し、資源として使えるようになった70年後の現在、蓋を開けてみたらどうでしょう。海外から輸入する安価な木材が重宝されてしまって、資源として利用できるはずの日本の木は使われず、山に残ったままになってしまっているんです。
木下 まさに、SDGsの目標12にある『つくる責任つかう責任』が問われていますね。二の舞にならないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。
株式会社飛騨の森でクマは踊る 岩岡(以下、岩岡) 短期的な視点にくわえて、100年単位で森林の活用を考えていく必要があると思います。
今、私の取り組む飛騨の森で資源として使える木は、70年前の人たちが100年後の未来でどのように森が活用されていくとよいかを考えて植えられたものなんですよね。当時の人々が意思をもって手掛けてくれた森を、毎年資源として享受できるような安定的な運用を目指せば人と産業と自然の回復力のバランスが保てると思っています。
今日見学させていただいた石坂産業さんは森の回復を長期的に考えながらも、一年ごと恩恵に預かれるように、20年に一度は木を伐採して、微生物を動かしながら手入れをしていく。というのを聞いて、まさに飛騨の森でやりたいことを実践されていてとても感心しました。
プロセスを開示して自分ごと化のきっかけをデザインする
木下 先ほどみなさんには、本イベントの会場内にある資源再生工場を見学していただきました。最先端のリサイクル技術を目の当たりにしていかがでしたか。
松山 蛇口が再資源化されていく様子を拝見し、「そこまで分解しなきゃ資源として利活用できないのか」とハッとさせられましたね。私たち作り手は、ついつい作りたいものだけに目を向けてしまいますが、それだけではいけないと痛感しました。作る側の責任として、使い終わったものをどのように再生させていくのかまで考えなければいけないですね。
ロフトワーク 小川(以下、小川) そうですよね。以前、製造業の集積地である東海エリアを舞台に「サーキュラーエコノミー推進〈知財活用〉プロジェクト(以下、東海サーキュラープロジェクト)」を担当していたんです。そこで実感したのが、使い終わった資源の行方について、まだまだ議論の余地があるなということです。リジェネレーション(※1)を成し遂げるには、全てのバリューチェーンで目的が一致する必要があり、循環という知を共有し合うことが重要になってくると思います。今回の工場見学のように、作ったものがどのように分解され、再生されていくのか、生産者側となる製造業は見ておくべきかもしれませんね。
※1 リジェネレーション … 再生し続けること
木下 百聞は一見にしかずで、自分が知っている気になっていたことに気づきますよね。現場を見ることで、再資源化の解像度が変わってくると思いました。
青野 サービスを運営する身としては、サービスに関する情報を積極的に開示していくことの大切さを改めて実感しました。「ここまで見せてくれるのか」と驚くくらい、透明性の高い工場見学でした。お客様に「循環型経済の実現に向けて取り組んでいます」といくら言葉で伝えても、そこに強い課題意識や興味がない人にとっては遠い世界の話となってしまう気がしていて。
自分たちの取り組みを一方的に伝えるのではなく、自分ごと化してもらいやすい形に見せ方を変える必要があると思います。『somete』だったら、どんな職人が携わっているのか、サービスを利用した人と染めた服にはどんなストーリーがあるのかなど関わってくれた人について一歩踏み込んだコンテンツを用意する。どのような工程で服を染めるのか、プロセスの開示も重要ですね。
木下 資源再生工場では、学びたい内容や対象者別に見学コースが設けられていて、情報の開示方法に柔軟性がありましたね。自分たちの事業に真摯に向き合っているからこそ、裏表なく取り組みをオープンにできるのだと思います。
多種多様な人を巻き込み、持続可能な活動に育てる
木下 バリューブックスさんは従来の古本買取・販売にとどまらず、様々な人を巻き込むような仕掛けを作りながら、お客さんも一緒になって本の循環を作っているような印象を受けます。
個人が循環の輪に参加しやすい仕組みをいくつも企画・運営されているのはなぜなのでしょうか。
株式会社バリューブックス 鳥居さん(以下、鳥居) できるだけ多くの本を売っていただいたり、寄付してもらったりしたいんです。私たちの事業は、買取と寄付で集めた本を、インターネットで販売することです。本を必要としている人や場所に届けていくためには、より多くの本を集める必要がある。
でも、たくさんの本が集められればそれでいいのかというとそうではなくて、本の持ち主が「バリューブックスだからこの本を委ねたい」と気持ちよく思ってもらえるような、情緒的な繋がりのある関係性を築いていきたい。だからこそ、参加してくださった方が面白いと感じてもらえるような企画や運営方法を模索し続けています。また、ビジネスパートナーとは、誰かだけが損をしない形であることも重要視しています。
木下 より良い信頼関係が築けると自ずとビジネスも回っていきますよね。
樋口さんが取り組んでいる『ASO-DEKASUGIガードレールプロジェクト』は、toC向けのプロジェクトとは違い、行政や森林組合を巻き込んでのプロジェクトですよね。関係者を巻き込む際に、意識していることはありますか。
樋口 行政を説得する際には、アンケートなどの調査を通して計画の実現性を担保し、予算も明確にします。
森林組合へは、第三者の声を届けることが重要です。組織の構造上、仕方ないことなのですが、新しいことをやろうとすると敬遠されることも少なくありません。でも、当たり前のことだと思います。日々大切な森を管理しながら、生産する量を厳しくコントロールしていますから。新たな挑戦は計画を狂わせてしまう可能性が高い。当然、私のプロジェクト案も当初はなかなか受け入れてもらえませんでした。それが、今回アワードを受賞し、第三者からも評価されたことで、プロジェクトへの信頼度が増し、新しい取り組みに対してポジティブになってくれたんです。「何か一緒にできないか」と提案してくれるようになりました。
木下 最後のトピックになりますが、小さくてもいいから循環モデルを社会実装しようとしたときに、悩むのがどのくらいの関係人口を想定してプロジェクトを実施するかだと思います。「東海サーキュラーエコノミー推進〈知財活用〉プロジェクト」ではどのように考えていましたか。
小川 これはあくまでもひとつの回答ですが、500人ぐらいの最小単位の循環からやってみることだと思います。はじめから大きな循環でやろうとし過ぎると、途端に、CO2の問題などリニア型経済で起きたことと同じ問題にぶち当たります。
まずは、実証実験のレベルで、小さな循環からビジネスモデルをつくり、徐々に、500人レベルの循環がいくつか並行して地域内で行われるようにする、そして、無駄を省きながら、徐々に大きな循環構造へと移行していく。プレイヤーとしては、企業だけではなく、生活者も同時に仕組みの中に巻き込んでいくことで、循環社会として成り立っていくという点も重要な視点になってくると思います。
木下 スモールスタートはよく聞く話かもしれませんが、実践できているところは案外少ない気もします。だからこそ、一歩を踏み出す価値があるのかもしれませんね。
今回の議論を通して、サーキュラーエコノミーを推進していくには3つの鍵「時間軸」「自分ごと化」「巻き込み」が重要だと考えます。
まず、「時間軸」。短期・中長期で循環のロードマップを描くことで、今を生きる私たちだけでなく、次世代やその次の世代が資源の再利用によって生まれるであろうビジネスチャンスの恩恵を受けられたり、資源の枯渇を避けられたりする可能性が高まります。
ただ、これまでの大量生産・大量消費の経済圏に慣れていると、新しい取り組みや考え方を受け入れづらいと思う人もいるでしょう。そのように壁を感じている人たちに対して、私たちは「自分ごと化」できるような機会を積極的に作っていく必要があります。そのためには意思決定のプロセスを開示するなど情報の透明性を高め、関心を集められるようなかたちに情報を編集していく。そして多様な仲間を「巻き込ん」でいくには、大義名分だけでなく、参加者が面白がるような仕組みや体験のデザインも重要です。
これらこの3つの鍵を大事にしながらも、最初から完璧を目指さず、小さく実行と改善を繰り返し、大きな動きを作っていく。すると、気づいたときにはサーキュラーエコノミーの実現に少しずつ近づいているのかもしれません。
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