FINDING
2020.10.13

日常の小さな変化が未来の当たり前を創造する。
変化の仮説を立てる3時間オンラインWSレポート

2020年、このような形で東京オリンピックが延期になることを誰が予想したでしょうか?世界は急激な変化を求められ、既存の常識がことごとく覆されています。未来を予測することが困難な今、多くの選択肢の中から「こうありたい」と思える未来を主体的に描き、新たな事業戦略を構築することはビジネスシーンにおいて急務と言えるでしょう。

ロフトワークは2020年7月28日、「脱未来予測」をキーワードに、「ニューノーマル時代の『自社の未来(意志)シナリオ』」と題したワークショップを開催しました。本記事では、ワークショップの狙い、そして実践内容を3つのステップに分けてご紹介します。

執筆:吉澤 瑠美
編集:loftwork.com編集部

 

「もしかしたら」からビジョンを再構築する

新型コロナウイルス感染症の影響により、社会生活のさまざまな場面で大きな変化を余儀なくされた2020年。常識が覆され、未来を見通すことが非常に困難になりました。しかし、そんな中でも歩みを止めず、企業として新しい価値を創造し提供し続けるにはどうすればよいのでしょうか。社会の変容を敏感に捉えつつ、主体性を持ってビジョンを更新していくとはどういうことなのか。そのプロセスを体感すべく、今回のワークショップを企画しました。

従来であればひとつの会場に集まって顔を突き合わせながらディスカッションするところですが、今回はZoomやMiroといったオンラインツールを活用し、ファシリテーター伴走のもと、リモートでのワークショップ開催を試みました。

オンラインワークショップのテーマは「未来(意志)シナリオをデザインする」。参加者は「都市生活」「食体験」「購買体験」という3つのうち、関心のあるテーマに基づいて4〜6名のグループに分かれます。そしてグループごとに3つのワークを行い「未来(意志)シナリオ」を作成。各自が自社で取り組む未来のアクションを描くことをゴールとしました。

全体進行はロフトワークのクリエイティブディレクター、伊藤望が担当。伊藤は「大切なのは確実な未来を予測することではなく、目の前の現象を主体的に観察し、未来の変化仮説を立てること」と話し、「もしかしたら」を模索し続けるマインドセットを持ち帰ってほしいと参加者にメッセージを贈りました。

日常に潜む、見えない「変化」――Step 1 現在の社会で起きていること

最初のワークは、「あなたの身の回りで最近起きたこと、聞いた話」を付箋に書き出すというもの。日常習慣に起きた小さな変化を拾い上げるワークです。ポイントは、一旦業務のことを忘れ、いち生活者として考えること。また、万人に当てはまらないエピソードでも構いません。意識や目的は変わらずとも、変えざるを得なかった行動はないでしょうか。あるいは、行動自体が同じでも、目的やモチベーションが変わったことはないでしょうか。

当事者の視点から身近な変化を書き出したら、今度は客観的な視点に移って分析を行います。なぜそのような変化が起きているのか、またその変化に伴って感じたことはあるか。付箋の色を変えて書き出します。

たとえば「食体験」のグループでは、外食の機会が減り、手の込んだ料理を自宅で作るようになったという声がいくつか挙がりました。食べるものの質や食事という行為に意識を向ける機会が増え、食の優先度が高まったという声が上がる反面、共同生活を送る人からは「顔を合わせる時間が急に増えて困惑している」という本音も。また、外食の機会が減ったことで「外で飲むビールがおいしい」と外食の価値を再認識したという意見も出ました。ひとつのテーマの中でも、立場や生活環境によって実に多様なコメントが交わされました。

ワークはオンラインツールをmiroを使用しました。テーマ「都市生活」チームのボード。

一部の流行が未来の「当たり前」になる――Step 2 これからの社会の姿

続いては、現在起きている変化をもとに、これからの社会に起こりうる「変化の仮説」を立てるワークです。現代社会における当たり前は、初めから大多数にとっての当たり前であったわけではありません。今となってはおなじみのiPhoneも、発売当初はほとんどの人が遠巻きに見ている状況でした。裏を返せば、現在の一部の人の行動が未来の当たり前である可能性もあるわけです。

この半年ほどで外食産業の守備範囲は一気に拡大し、テイクアウトやデリバリーサービスがスタンダードになりました。その一方で、手の込んだ料理を自作する家庭も増えています。Uber Eatsのようなインフラも普及したことを考えると、誰かの家庭のごはんが外食産業の一部としてデリバリーされる未来が到来するかもしれません。あるいは、自炊の割合が増えるとともに食材のまとめ買いや蓄積が起きると、常備菜や保存食のブームが到来する可能性も考えられそうです。

ポイントは、いきなりサービスや事業といったアイデアに着地させるのではなく、社会現象を描くこと。必ずしも現実的なこと、正しいことでなくても構いません。現在の個人的なアクションを多くの人が実行する未来を想像し、そこで起こる「かもしれない」社会の流行や潮流を書き出します。

未来の社会にどう貢献するか――Step 3 ビジョン(=社会に対する態度)

最後のワークは、変化をもとに未来のシナリオを書くというもの。ここまでのワークでメンバーと共有した社会の変化の中から関心のあるものをピックアップし、起承転結のストーリーボードを使って物語(シナリオ)化していきます。シナリオを書くメリットは、思考を整理する上で前後関係を明確化しやすいこと。また、思いも寄らない仮説も、物語形式にすることでプロジェクトの垣根を超え広く他者に伝わりやすくなります。

今回のストーリーボードでは、起承転結それぞれの概要をワンフレーズで書き、箇条書きで詳細にブレイクダウンするという手法をとりました。「起」「承」「転」までで社会の変化を描けたら、自社の持つアセットと照らし合わせ、「結」で自社の社会に対するアティチュードを考えます。自分たちは何をするべきなのか、つまり「結」の部分が今後のビジョンの種になるわけです。目先の利益に走らず、価値貢献の視点で考えることがポイントです。

予測できない未来に自社が提供できるものは?三者三様の未来ビジョンに興味津々

すべてのワークを終え、最後にアウトプットの全体共有を行いました。印象的だったシナリオをいくつかご紹介します。

デジタルデバイスの開発会社に勤めるEさん。従来の組織は立地を重視しつつ、従業員数に合わせてオフィスを確保してきましたが、昨今のリモートワーク導入の流れを鑑みると、オフィスの機能や在り方を問い直す岐路にあると指摘します。社員それぞれが全国の拠点をベースに最適な場所を選定し、土地に応じた制度や働き方をデザインするという形で、組織単位ではなく個人単位でオフィスの価値を定義するモデルケースを社会に打ち出していくビジョンを提案しました。

「移動しないどこでもドア」というコンセプトを提唱したのはIT企業に勤めるIさん。これまでは行きたい場所には物理的に移動することが前提で、その体験に価値があるとされてきました。しかしそれが容易に叶わなくなった今、移動という概念が希薄になり、事実としてこのイベントのように遠隔地の体験をオンラインで得られる場面が増えつつあります。オンラインが存在感を獲得すると同時に、リアルの価値も再認識され、オンラインとオフラインがよりシームレスにつながるというビジョンには説得力を感じました。

プロダクトメーカーに勤めるWさんは、在宅勤務を機にこれまでの生活を振り返り、食事の時間を主体的にコントロールできていなかった自分に気がついたと言います。食や健康に対する意識の高まり、そして生活時間の主体的なコントロールに注目が集まる未来を想像し、食と時間をつないで記録することでより豊かな生活を提供するサービスの可能性をビジョンとして共有しました。

参加者は自身のグループ以外のプレゼンテーションにも興味津々。盛り上がるあまり予定時刻を過ぎてしまいましたが、コメント欄で質問や感想を発信したり、他の参加者のワークシートを閲覧したり、各々時間の許す限り未来シナリオの描き方について考えを深めているようでした。

この未来シナリオを描くワークショップは、好評につき10月に再演が決定しています。前回参加できなかった方、本レポートを見て関心を持たれた方はこの機会にぜひご参加ください。

2020年10月22日 オンラインWS再演が決定

ニューノーマル時代の自社未来「意志」シナリオワークショプ

ありえない未来が現実になった今。 企業に必要なのは、多くの視点でありえる未来を考察し、自らありたい未来を描くこと。今回ロフトワークはオンラインで「自社の未来(意志)シナリオのデザイン」ワークショップを開催します。前回7月に開催した同様のワークショップが好評だったこと受け、この度再演します。

こんな人におすすめです

  • 変化に対応する組織文化に刷新する方法や研修企画を探している方
  • 新規事業創出の機会領域を検討している方
  • 「自社が目指す未来像」をつくりなおしたいと考えている方
  • オンラインでのデザインワークショップを体験してみたい方

オンラインWS詳細ページ

Keywords

Next Contents

The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」