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菊地 充, 金岡 大輝, 脇水 美千子, 武田 真梨子, 伊藤 友美, 松本 亮平, 高井 勇輝, 長島 絵未, 松永 篤 2020.10.06

「世界を拓くためにやろう」立場を越えた共感が生んだ力
NANDA会 受賞者インタビュー vol.2
「馬力賞」『つくばSTEAMコンパス』プロジェクト

2020年で創業20周年を迎えたロフトワーク。節目を迎え「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだ」を考える「NANDA会」を、オンライン上で実施しました。今回は、全25プロジェクトがエントリー。そのうち受賞した6プロジェクトの実施担当者にインタビューし、クリエイティブを創るマインドと姿勢を探るシリーズです。

今回は、「馬力賞」を受賞した「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトにフォーカス。プロジェクトを担当したPJメンバーと、NANDA会にファシリテーターとして参加した松本亮平に話を聞きました。


聞き手:ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター 高井 勇輝
ロフトワーク クリエイティブディレクター 長島 絵未
執筆: 北川 由依
編集:loftwork.com 編集部

48時間でリリース!「やったるで」精神と能動的なチームワーク

長島:「馬力賞」の受賞、おめでとうございます!早速ですが、受賞を聞いてどう思いましたか?

クリエイティブディレクター。「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトでは、つくばスタイル科授業プログラムの企画立案、モデル校での試行を担当。

武田:え〜!って驚きました。ロフトワークの中でもあまりないタイプのプロジェクトだし、みんなどこを気に入ってくれたんだろうと不思議でした。でも「馬力賞」の由来を聞いたら、私たちが頑張ったことが伝わったんだなと分かって嬉しかったです。

松本:賞の名前の案としては、他にも「やりま賞」や「作りま賞」などが出ていたよね。どれもチームの瞬発力を表した名前だと思いました。

金岡:火事場の馬鹿力というか、メンバーの顔を思い浮かべたら、みんな夏休みの宿題を最後の日にやったり、テストでも一夜漬けで力を発揮するタイプだろうなと思って(笑)。だからいくつかあった中で、「馬力賞」を選びました。

長島:プロジェクトの中で火事場の馬鹿力を発揮したのが、新型コロナウイルス感染症の広がりで、学校が休校になるタイミングだった。それが「NANDA会」で注目されるポイントにもなっていましたね。

菊地充:シニアディレクター。「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトではプロジェクトマネージャーを担当。

菊地:そうそう、学校が休校になることが決まってから48時間で、WEBサイト「つくばこどもクエスチョンオンライン」を立ち上げました。これはコロナ禍で休校になってしまった時間を使って、つくば市内の研究機関に所属する研究者と自由研究をしてみようという企画です。「つくばSTEAMコンパス」の活動を推進する一人でもある副市長が、休校が決まった段階でプロデューサーの脇水に直接相談してくれたところから始まりました。

長島:48時間でサイトの立ち上げって、時間もないしリスクや難しさも考えると、やらないっていう選択肢もあったと思うけど、迷いはなかったんですか?

菊地:ここはやるべきだって気持ちを信じて動きました。メンバーみんなが前向きに取り組んでくれて良かったです。

松本亮平:Layout Unit ディレクター。NANDA会にて「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトの当日のディスカッションをリード。

松本:完全にスコープ外の仕事だけど、プロジェクトには不可欠だからとチームとして猛スピードでアクションを起こしたところが、みんなから高評価を得たポイントでした。あと、ステークホルダー間で迅速に役割分担をして、各ポジションごとのイニシアチブが発揮されていたところも、評価につながっていました。

受発注の関係を超え、意義を共有しているから発揮できた「馬鹿力」

高井:有事の際に「やったるで!」と力が湧いてきたのは何でだろう?そう思えるだけの使命感や関心が元々あったんでしょうか?

プロデューサー。「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトでは、全体プログラムの企画に加え、各ステークホルダーとのエンゲージメントを高めることに従事した。

脇水:つくば市に限らず、社会的に意義のある取り組みになりそうだなと思っていて。未来の子どもたちのためにもやるべきだと思ったんです。イベントで子どもたちと関わって、目がキラキラしていたり「研究者ってこんなに面白いんだ」って感じてくれているのを体験していたから、感情移入しやすかったのはあると思います。あとは、市長と副市長の推進していることが明確で、彼らと一緒に取り組むことで、もっと面白いことができるし、世界が拓けるんじゃないかと思えるほど、関係性が作られていたのも大きいですね。

高井:それだけクライアントと対話を重ねてきたってことですね。

伊藤:うん、「自分が子どもの頃につくば市のような環境があったら人生変わっていたかもしれない」と思えるほど、良いプログラムだと思っていたし、自分ごとになっていました。だからコロナはアクシデントだけど、チャンスに変えようって。「つくばこどもクエスチョン」をオンラインで広く届ける機会になると思ったんです。

テクニカルディレクター。「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトでは、Webプラットフォーム構築におけるテクニカルサポートを担当。

長島:クライアントの先にいる、子どもたちや研究者の姿が見えていたのは大きいですね。

金岡:実は僕は元々教育にはあまり興味がなくて…。でもプロジェクト1年目で僕が企画した2日間のワークショップに、不登校の子どもが参加してくれて、その子の表情がありありと変わっていくのを側で見て、自分が設計したもので変わる人が生まれるんだって、転機になって。研究者の中にも、毎日家と研究所の往復で、他の研究者との繋がりもないと嘆いていた人が、「子ども達と触れ合えて、すごい楽しかった」と喜んでくれて。自分がやっていることは正しかったんだって、モチベーションになりました。

高井:子ども達だけではなく、研究者にも変化があったんですね。

金岡:コミュニティを作るって人を集めて終わりになりがちだけど、そこで新しい発見や活動が生まれていくプロセスを体験できたのは面白かったですね。ワークショップの後、多種多様なバックウグラウンドを持つ研究者の飲み会を開催したら、異様に盛り上がったんです。研究所って容易に外部の人を入れられないし、他社と話す機会もほとんどない。でも僕らは外部の人間だから、空気を読まずに誘えちゃう。飲み会の場で、新しい開発アイデアが生まれたり、研究者が子どもにロボットで遊ばせたりしている風景をみて、ちゃんとコミュニティになれば小さくても化学反応を起こせるんだと証明できたと思います。

高井:自分たちの行動が、世の中を変えていくことに繋がっている実感を得られたんですね。

松本:メンバーそれぞれがプロジェクトにとことん共感する姿勢を持つことが、「馬力賞」を生むベースになったんですね。

ロフトワークは意義を共有し、熱意を引き出すファシリテーター

長島:最後に、ロフトワークのクリエイティブのポイントがどこにあるか、「NANDA会」を経て気づいたことがあれば教えてください。

菊地:総じてはコミュニケーションに尽きると思います。
分解するなら、一つ目は前提を疑うこと。「この行いは本当に正しいのか」と違和感を放置せずに、常に腹を割って議論してきました。
二つ目は、多角的な視点で捉えることでしょうか。
社会の視点、行政の視点、子どもたちの視点、保護者の視点、研究者の視点…それぞれにとって意味や意義がある状態にするにはどうすれば良いか?視点が欠けたり偏りが生れないように、メンバーとディスカッションの上で進めていきました。

高井:一方向に良い顔をするのではなく、関わる人みんなにとって意味や意義のあることを真摯に取り組んでいったんだろうということは話から伝わってきたし、行政の仕事は特にそうした公共性は大切だなと思います。

武田:三つ目は、ロフトワークがいい意味で当事者になりすぎないポジションにいること。当事者ではない立場で中に入っていくから、立場の弱いステークホルダーが本当はやりたいと思っているけどできていないことを「やろうよ!」って言えちゃうんですよね。今回のプロジェクトも、行政や教育委員会の偉い人が大勢いる中で、もし私が教員だったら提案できなかったはず。そこを軽く飛び越えてしまうのは、ロフトワークの絶妙な立ち位置にあると思います。

金岡:今回はロフトワークとFabCafeがうまく生かし合えたプロジェクトでしたね。FabCafeはロフトワークよりも、長期プロジェクトは苦手でプロジェクトマネジメントも弱いけど、クイックに回していくとか異分野の人をつなげるとかは得意。行政、研究者、子どもたち、保護者など、異なるバックグラウンドを持つ人たちをいかにフラットな関係で、同じ方向を向いてもらうかがポイントだったと思うんですが、飲み会やワークショップではそのプロデュースがうまくできたと思います。カフェというスペースの根底にある、あらゆる人を受け入れてつなげていく役割を果たせたかな。

FabCafe Tokyo CTO。「つくばSTEAMコンパス」プロジェクトでは、体験型科学教育イベント「つくばこどもクエスチョン2020」の企画/運営を担当。

長島:「つくばSTEAMコンパスプロジェクト」はこれで終わりではなく、新たなチャレンジも始まっているんですよね。このチームなら、教育のニューノーマルを作れそうな予感がしています。これからも楽しみです!

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複雑な世界で未来をかたちづくるために。
いま、デザインリサーチに求められる「切実さ」を問い直す