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加藤 修平, 加藤 大雅, 高井 勇輝, 長島 絵未, 松永 篤 2020.09.09

「社会を良くする仕事しかしない」信念と覚悟
NANDA会 受賞者インタビュー vol.1 「ムーブメントメイキング賞」
『中小企業のデザイン経営』プロジェクト

2020年で創業20周年を迎えたロフトワーク。節目を迎え「ロフトワークのクリエイティブってなんなんだ」を考える「NANDA会」を、オンライン上で実施しました。今回は、全25プロジェクトがエントリー。そのうち受賞した6プロジェクトの実施担当者にインタビューし、クリエイティブを創るマインドと姿勢を探るシリーズです。

第一回目は、「ムーブメントメイキング賞」を受賞した「デザイン経営をモデル化する」プロジェクトにフォーカス。チームリーダーとして苦しみながらも中小企業の経営者の皆さんに向けて意義深いガイドを示した加藤修平と、NANDA会にファシリテーターとして参加した加藤大雅の加藤コンビに話を聞きました。


聞き手:ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター 高井 勇輝
ロフトワーク クリエイティブディレクター 長島 絵未
執筆: 北川 由依
編集:loftwork.com 編集部

加藤 修平

Author加藤 修平(クリエイティブディレクター)

ケープタウン大学サステナビリティ学修士。アフリカ地域での鉱物資源開発に伴う、周辺コミュニティへの影響調査をエスノグラフィ調査手法によって実施。また、同大学内Hasso Plattner Institute of Design Thinking (通称d-school)において、デザイン思考コーチとして学生、社会人の指導を行う。過去に携わった案件は、民間金融機関内にて、多部署横断型のチームを率いて新サービスの開発及び、デザイン思考の社内への浸透を促すためのプロジェクト等多数。

Profile
加藤 大雅

Author加藤 大雅(クリエイティブディレクター)

国際教養大学在学中、学内外で映像制作を行った経験からチームでものづくりをする楽しさを覚え、卒業後映像制作会社でPMとして働く。その後、映画やアニメの海外展開や制作会社の経営力向上を支援する経済産業省事業に携わる中で、想いの強さだけで作品を完成・流通させることはできないと感じ、その洗練と伝播、つまりトータルでプロデュースできる人材を志す。これは映像業界に限ったことでないと気づき、想いを伝えるデザインやブランディングに携わるべくロフトワークに入社。スタジオジブリと村上春樹が好き。いつか秋田に帰りたい。

高井 勇輝

Author高井 勇輝(クリエイティブDiv. シニアディレクター)

早稲田大学卒業後、Web広告のアカウントプランナーとして様々な業種に向けて提案・ディレクション・運用・納品までを4年担当。2012年、「プロジェクトデザイン講座」への参加をきっかけにロフトワークに入社。Webディレクションをはじめ、企業の新規事業創出支援や空間ディレクション、アートプロジェクトなど、オールラウンドに幅広いプロジェクトを手がける。答えのない新しいものを作る際に、曖昧な部分も含めて大枠を捉え、ファシリテーションしながら推進するのが得意。

長島 絵未

Author長島 絵未(バイスMTRLマネージャー )

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。広告制作会社を経て、2017年ロフトワークにディレクターとして入社。Webや映像などのデジタルコミュニケーションから空間デザイン、組織改革プロジェクトなど、多岐にわたるプロジェクトを担当。現在は、素材起点のイノベーションを支援するMTRL事業部に所属し、化学メーカーや素材メーカーをクライアントとしたプロジェクトを推進。サーキュラーエコノミーとサステナブル素材に関わる仕組みのデザインと実践を行なっている。

Profile

「分からないなりにやってみよう」が新しい道をひらく

高井:加藤くんは、デザイン思考のエキスパートとして南アフリカ在住時代からさまざまなプロジェクトをリードしてきた経験があるよね。社会に向けてあるべき形を提示するという経験はどうだった?

加藤(修):正直に話してもいいですか?最初、代表の林から「デザイン経営をモデル化する」とお題をもらった時に、意味分かんないし面倒だなって思ったんです(笑)。2018年に「デザイン経営宣言」が出てから、ロフトワークの中でも一つの視点として広がりつつあるけど、僕は概念としては理解しても、どのようなインパクトをもたらすものなのかは理解できていなかった。
だから「やらない」選択肢もあった。でも分からないなりに「やってみよう」と僕自身も一歩踏み出したんですよね。道を示そうとした姿勢を評価してくれたことを嬉しく思いました。

左:加藤 修平 右:加藤 大雅

高井:プロジェクトのスタート時にそんな葛藤があったんだ。

加藤(修):NANDA会では「ムーブメントメイキング賞」という名前をもらったんだけど、一歩踏み出した先のイメージまで含まれている印象を受けました。デザイン経営という言葉は、僕が世に生み出したわけでもなく、実践者でもない。だけど本プロジェクトでは、定義づけしモデル化したことで、デザイン経営に取り組む企業の共通言語を作れたと考えていて。報告書を作って終わりではなく、これをベースに世の中に広がっていくところまで意味が含まれているところに、しっくりきました。

高井:ロフトワークの仕事の多くはWEBや冊子などのアウトプットが中心だけど、プロデューサーやディレクターは、必ず経営の視点を取り入れているはず。だけど「デザイン経営」という言葉は僕たちにとっても新しい概念だったから、担当者それぞれの解釈に委ねられていた。それが今回のプロジェクトで明文化できたことが、クリエイティブで価値のあるものだと、評価につながったんだろうね。

加藤(修):「デザイン経営って何だ?」がスタート地点だった。だからきっと社内でも必要とされているはずだと考え、企業経営者をターゲットにおきながらも、ロフトワークのプロデューサー・ディレクターのみんながこのレポートを使って、デザイン経営の価値を伝えることができる、って置き換えてみた。
ロフトワークでは、プロデューサーが案件化してディレクターが実際のプロジェクトを動かしていく。もしディレクターが案件に共感できないと、下請け的なスタンスになり仕事が面白くなくなってしまう。だからこそ、デザイン経営の視点を共通言語として持ち、プロデューサーとディレクターがビジョンをぶつけ合いながらプロジェクト化していく道を示したいと思いました。

加藤(大):デザイン経営自体が新しい概念だから、デザイン経営って言っても何か分からないし、プロデューサーもクライアントに伝えづらかった。メンバーにあんまり伝わりきっていなかったこの概念が、報告書を読んでなんとなく腑に落ちたんです。ロフトワークとしても重要度の認識やイメージがバラバラだった概念がきちんと明文化されたところが、すごくクリエイティブだと感じました。

プロジェクトを導くために、「スタンス」を決める勇気を持つ

高井:まさにその狙い通り、ロフトワーカーに絶賛されるプロジェクトになったわけだね。プロジェクトを推進する上で、重視した点は何だった?

加藤(修):自らがデザイン経営を担うデザイナーだと仮定して、リサーチに臨んだことですね。「ただ時間ください」という依頼はしたくなかったから、自分だったら何を提案できるかを考えながらインタビューに取り組みました。

デザイン経営ってなんだ?っていうところから始まったけど、クリエイティブってどれも、「スタンス」を取るってことだと思うんです。一旦これだろ!っていうものを出してみて、違うだろっていう人もいれば、そうだねって共感してくれる人もいる。どちらがいいでも悪いでもない。仮説を立ててフィードバックをもらって反映する。それに徹することが、新しい価値の発見につながると思います。
デザイン経営宣言の時の目的「企業競争力の向上」をロフトワークが言うんだったら何だろうって考えて、「経営者のビジョンが文化を作る」にしてみた。そこから自分がその企業の経営者だったらどう考えるか、憑依させながら仮説を立てていきました。すると、「これがデザイン経営なのかな?」と見えてきました。

高井:一昔前は答えのあるプロジェクトを扱うことが多かったけど、デザイン経営のようにビジョンや文化を作るプロジェクトには、答えがない。答えを探しにいくと、クライアントと一緒に迷子になってしまう。だからディレクターには、「僕はこれが正しいと思う」「やってみる価値がある」と言える決めの強さが大切になりそうだね。

加藤(修):そう。デザイン思考のフレームワークで仮説を立てた上で、自分たちも一緒にやってみようと一歩踏み出す勇気を持つことが大事だと学びました。

高井:良いプロジェクトは、ロフトワークとクライアントが対峙するのではなく、課題や未来など同じ方向を向いているものに多いよね。そういう意味では、クライアントの中にある情熱や意思を見つけて後押しする、クライアントのコーチのような存在かもしれないね。

加藤(大):そうですね。これからはデザイナー的なポジションで、経営者と一緒に長期的に関わっていくケースが増えていくと感じています。

高井:生活者目線というか、プロの素人でありながらと、デザインとクリエイティブのプロとして、「本質的にこうすべきだと思うよ」っていうのを経営者とスパーリングしながら、バイアスに関係なく、正直に、誠実に言うっていうのがロフトワークの役割な気がする。

プロジェクトマネジメントは「新しい意味」を生み出すための手段

高井: 話は変わるけど、クリエイティブとプロジェクトマネジメントって、現場ではどのようにリンクしていると思う?

加藤(修):プロジェクト開始時に僕がPMとしてゴール設定してたんだけど、千晶さんから「もっとできる」ってゴールをずっと遠くにおかれたんだ、プロジェクトの途中で(笑)。仕方がないからその遠いゴールを目指したんだけど、実はそのゴールが200メートル先なのか、1000メートル先なのかをわからないまま走っていた。それもあってレポートのまとめにはとても苦労をしたけど、成果物はみんなが評価してくれました。
ディレクターは、プロジェクトの計画から実行まで、みんなの熱意や思いをきちんと吹き込んでいく必要がある。そういうふうにクリエイティブとプロジェクトマネジメントはリンクしている。

高井:ロフトワーカーは意外と泥臭いのも好きかもしれない。時間や思いをかけたプロジェクトであることは、不思議なもので伝わるよね。
プロジェクトマネジメントが破綻しないことは大前提としてあるけど、あくまでも手段。意味や意義のある真のゴールをロフトワーカーは分かってくれたと、僕も感じた。そこを共通認識として持っている集団って、なんかいいよね。

加藤(修):今回のプロジェクトはプロセスは全く美しくなかったけど、ロフトワークのディレクター個人の思いをどう反映させていけばよいのか、プロジェクトマネジメントの指針の一つとなったんじゃないかと思います。

高井:まさにムーブメントメイキングだね。

加藤(修):ロフトワークはプロジェクトマネジメントを売りにしているけど、進行管理がその本質じゃない。プロジェクトマネジメントは、新しい意味を作るところにこそ機能する。そこが共通しているからこそ、泥臭いプロジェクトも評価してくれるのかもしれないですね。

小さな試みから、意義や意味を広げ、つくっていく

高井:「NANDA会」では25のプロジェクト発表があったけど、ここがロフトワークのクリエイティブに気づきはあった?

加藤(大):実は、僕はロフトワークに入ってまだ1年ちょっとだけど、ロフトワークのクリエイティブには多種多様な形がある中で、いくつかの類型があるんだろうなっていうのが分かりました。相関関係があるいくつかまとまりみたいなものが自分の中で浮かび全体像が見えてきた気がするけど、それは生態系のようだとも思いました。

加藤(修):小さなプロジェクトからスタートし、フェーズを経て大きなプロジェクトに成長するプロセスに、ロフトワークらしさを感じました。最初から大きな予算を任されるのではなく、小さいところから始めて育てていくプロジェクトも多いですよね。
それは一緒にやっていく中で、プロジェクトの意義をしっかり共有できているからだと思う。
クライアントと一緒になって、社会的に意味があるというところまで広く考えていくことができるところがロフトワークのいいところだなって思った。

高井:クライアントと共に、世の中への意義や意味を考えながら、プロジェクトを大きくしていくプロセスにこそ、デザイン経営の視点は活かせそうだね。

責任があるから、「意味がある」と信じきれない提案はしない

高井:最後に、今後どんなことにチャレンジしたいか聞かせてください。

加藤(大):ビジョンやコンセプトなど、企業の根っこを作るところに注力していきたいです。それらを元にアイデアを出すのが得意な人たちと連携しながら面白い物事を生み出し、社会に働きかけていきたいです。

加藤(修):僕は今回のプロジェクトのように、リサーチから入って手触り感のある仕事をしていきたい。リサーチはインタビューさせていただいた企業や人の生活をより良くする責任が伴うし、そうでなければ、インタビューはしない方がいいくらいに思っている。それくらいの覚悟をして、意味があると信じられることを提案し、実行していきたい。

高井:確かに、今回の報告書からは背負っている感じが伝わってきた。加藤修平が主語になり、デザイン経営を導入する意味をどう考えてたか見えた。それが、評価にも繋がったんだね。

加藤(修):背負わないと、最後のサジェスチョン(示唆・提案)が嘘になってしまうから。リサーチをまとめて終わりではなく、経営者に憑依して考えたことを提案することこそ、ロフトワークがリサーチに見出していける価値なんじゃないかと思います。

高井:クライアントにとって本当に「意味がある」とディレクターが信じきれないと、サジェスチョンは出せないよね。まさに、デザイン経営的な視点が活躍するフィールドになりそう。

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