
最近気づいていないことは何か? ー多元世界探訪記
HELLO、WORLD“S”!!
ロフトワーク Culture Executive の岩沢エリが、各地で出会う実践者や現場から「社会の新しい兆し」を持ち帰り、これからの時代を読み解くヒントをお届けする連載をはじめます。
社会の“当たり前”が揺らぐ今だからこそ、私たちは、一つの価値観や世界の常識に縛られるのではなく、価値観や慣習、文化そのもの(あるいは、種や生態そのもの)が異なるような多元的な世界に目を向ける必要があると感じています。そこにこそ、まだ見ぬ「たくさんの未来」が広がっているのではないか。
「最近気づいていないことは何か?」を合言葉に、これまで見過ごしていた世界に改めて出会い直す。そして、いろんな世界がまるごと、楽しく、健やかに、生き延びていくための道を探す旅を、ここから始めてみようと思います。
What haven't you noticed lately?(最近気づいていないことは何か?)
こんにちは、岩沢エリです。今回はじめる連載のタイトルに拝借した「What haven’t you noticed lately?(最近気づいていないことは何か?)」は、私が学生時代に出会った言葉です。大学でメディア論を学ぶ中で、メディア研究のパイオニアであるマーシャル・マクルーハンを知り、彼に関する書籍をいくつか手に取る中で出会った一節でした。以来、今も大切にしている言葉の一つです。
あたりまえなのだけど、私たちはこれまでに「気づいた」ことにしか、気づけていません。「見えた」ことしか見えていないし、「感じた」ことしか感じられていない。どんなに世界が広く、大きく、深く、複雑でも、「気づいた」「見えた」「感じた」と、知覚できた領分が、“私”の世界の全て。それ以外は未知であり、あるいは存在すらしてないも同然です。
当然ながら、わたしが捉えている世界と、これを読んでいるあなたが見ている世界もまた、全く同じではありません。それはつまり、人の数だけ、いや、生き物の数だけ、あるいは生き物ですらない存在の数だけ、世界があるとも言えるでしょう。
それぞれが生きる世界は、これまでの環境や歴史、風土や文化、そして偶然によって形づくられます。そして、共通の言葉や価値観を通じて、お互いの世界が少しずつ重なりあい、接続していく。次第に社会と関わる中で出会う、同じ属性や近しいなにかに、「同じ学校の出身」「○○市の出身」「社会人らしさ」「日本人らしさ」といった共通点にラベルを貼ってみたり、同じ世界で生きるための共通のルールを設けるなどして、それぞれの世界をすり合わせ、“わたしたち”がいきる世界をつくりあげてきました。
それはしばらく、揺るがないひとつの世界をうまくつくってきたようにも思えました。
一方、年々地球規模の問題や国々の対立は深刻化し、あちこちで社会的・環境的な機能不全に陥っています。うまくいっていたように見えた、わたしたちが共通して信じてきた世界は、きわめて一部の論理や合理で構成してきてしまったのかもしれません。
わたしたちは、もう一度、私の世界がいかに限られた世界かを自覚し、隣りの違う世界がたくさんあること。すなわち、「いま気づいていないこと」の存在に目をむけ、耳を傾け、足を運び、対話を試みるとからはじめるのが必要なのではないでしょうか。
HELLO、WORLD“S”!!
これから、たくさんの世界たちに出会う旅へ出てみたいと思います。

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