FINDING
岩沢 エリ 2022.07.13

どこにでも育つ雑草は、この世に存在しない。
岩沢エリが見つけた、土壌とクリエイティビティの相関性


「クリエイティブ」や「クリエイティビティ」といった言葉が本質的に抱えているものとはなんだろう? なんらかのモノをつくる仕事をする人であれば、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。本連載「Loftwork is…」では、ロフトワークのリーダーたちに、各々の考える「クリエイティビティとは何か」を尋ね、その多様な解釈を探索していきます。

連載第3弾は、2022年4月からCulture Executiveに就任した岩沢エリさんが登場。

 

岩沢さんが学生時代に描いていたキャリアは、ジャーナリストとして活躍すること。世界に散在する赤黒い景色を自分の目でとらえ、それらを発信することで、より良い世界を作ることに貢献する将来を描いていました。

しかし、現在は、クリエイティブを主軸に事業を展開するロフトワークの旗振り役を担っています。

今年で​​創立22周年を迎えたロフトワークは、新たなCIに“We belive in Creativity within all”を掲げ、ロゴのリニューアルも行うなど、新しい未来へと歩みだしました。今年4月には「エグゼクティブ制度」 を新たに設置し、3名がExecutiveに就任。そのひとりが、マーケティングリーダーも兼任する岩沢さんです。

岩沢さんは言います。「新生ロフトワークを耕していくこれからの時間は、ジャーナリストを志していた当時の自分が抱いていた欲求そのものです」。

いったいどのようなきっかけで、岩沢さんはロフトワークの門を叩いたのか。そして、岩沢さんが考える「クリエイティビティ」とは、どのようなものか。

彼女の物語を紐解いていくと、フィリピンのスラム「スモーキー・マウンテン」での、ひとつの出会いにたどり着きました。

執筆:オバラ ミツフミ
撮影:村上 大輔
編集:小山内 彩希
企画・取材・編集:くいしん

「キャリアの漂着点」としてのロフトワーク

—— 岩沢さんは、ロフトワークに入社する以前から、いわゆるクリエイティブ業界で働いていたのでしょうか。

学生時代に制作会社でアルバイトを経験したことはありましたが、それくらいです。クリエイティブに対する興味はずっと持っていましたが、クリエイティブ業界の出身ではありません。

—— では、どのようなきっかけでロフトワークに?

説明すると長くなるのですが、一言でいうなら「漂着」したんですよね。

卒業と同時にマーケティング領域で会社を立ち上げ、その後はIT関連の会社で働いたり、ビルの管理会社で働いたり、これといった目的もなく職場を転々としていました。

 

—— つまり、現在のキャリアは、まったくもって想像していなかったんですね。

計画性などまったくなく、「気がついたらここにいた」という感じです。

実際、どのような仕事をするかも分からぬまま、ロフトワークにやってきました。入社して、「ここに座ってね」と言われた席が、マーケティングの部署だったんです。

—— そもそも、学生時代にはどのようなキャリアを描いていたんですか?

起業をする以前は、ジャーナリストを志していました。幼い頃から、知的好奇心が強いタイプだったんです。

例えば、テレビで海外の紛争や貧困問題を目にしても、自分の目で見たわけではないので肌触りがない。「かわいそうだ」とは思うけれど、本当にかわいそうだと思っているのかは、分からない。

それが、どうしても気持ち悪くて。

世界の姿を自分の目で見たかったし、できることがあるなら、自分の手で貢献したかった。当時の私にとって、それを実現できる手段が、ジャーナリストになることだったんです。

—— 最終的に、ジャーナリストになるのではなく、起業を決めたのはどうしてですか?

ジャーナリストになるつもりで、よく海外を旅していたんです。そこでの出会いがきっかけで、夢をあきらめてしまいました。

フィリピンのスモーキー・マウンテンというスラムを訪れたときのことです。子どもたちが自然発火しているゴミの山に登り、そこでゴミを拾って、生計を立てている光景を目の当たりにしました。

「なにか貢献できたらな」という気持ちを抱いたそのとき、そこで暮らす子どもたちを支援するNGOの代表の方に、「ずっとわたしたちを支援し続けられますか?」と問われたんです。

腰を据えて支援をするつもりがない人のサポートは、かえって迷惑になることもあると突きつけられました。

「なにか貢献できたらな」という気持ちを持ちつつ、それを一生続けられる覚悟がない自分の心を見透かされたようで、ハッとしました。

—— 「自分の仕事は、ここにはない」と?

もちろん、彼らの助けになるようなことがしたいという気持ちはありました。でも、それを一生続けられるかと言われたら、素直に首を縦に振れなかったんです。

そこで夢を失った私は、そのときどきで最も好奇心が引き付けられる場所に身を置くことに決めました。学生時代の私にとって、ジャーナリストの次に関心が高かった選択肢が起業だったので、会社を立ち上げたわけです。

 

ロフトワークで、好奇心を“自家発電”

—— では、現在ロフトワークで働く岩沢さんにとっては、いまのところここが「最も好奇心が引き付けられる場所」ということでしょうか。

間違いなくそうです。

じつは、「最も好奇心が引き付けられる場所に身を置くことに決めた」とはいっても、ロフトワークに入社するまでは、余裕のない日々を送っていました。

起業した会社を畳んで職を転々としている時期には、殺伐とした人間関係をたくさん見てきたし、裏切られたと感じるようなこともたくさんありました。ポジティブな気持ちで好奇心を満たせずにいる時間が続いたんです。

一方、ロフトワークは、私にとって「自分や周りの人たちの未来を考えられる場所」でした。社外の人と積極的に関わって、「一緒にこんなことしたらおもしろいんじゃないか」と何かを企みたくなる気持ちも、今までのキャリアの中で一番湧いてくる場所です。

私の主務はマーケティングなので、直接的にプロジェクトに関わる機会は多くはありません。それでも、組織にあふれるクリエイティビティを感じられるし、私自身もそれを発揮できていると感じます。

だから、飽きることがなくて、私のキャリアの中で最も長い期間在籍している企業になっているんです。

—— 岩沢さんがロフトワークの中でとても満たされ、未来のことを考えられるようになったのはどうしてですか?

どんなときも「これからどうしようか」という、未来についての議論と実験がなされているからだと思います。前向きなエネルギーが充満しているゆえに、いつだって好奇心を自家発電できるんじゃないかと。

というのも、以前と現在の私は、それほど変わっていなくて。違いがあるとするなら、ただ「前向きな意志」があるかどうかだけです。

これまでクリエイティブの業界に身を置いてきたわけでもないですし、仕事を転々とする中で、正直自分がクリエイティブな人間だと信じきれていませんでした。そんな私が、いまは「クリエイティビティを発揮できている」と感じるのは、ひとえに環境のおかげなんです。

クリエイティビティと環境の相関性

—— クリエイティビティを発揮できるかどうかは、環境によって変わるということですか?

私はそう思っています。

少し話は変わるのですが、私はライフワークで「土壌の研究」をしています。昨年は、三重県の有機農家さんを月に2回ほど訪ね、堆肥のつくり方を勉強していました。その中で、環境とクリエイティビティの結びつきを強く感じる機会があったんです。

—— ……というと?

堆肥をつくるときって、生ゴミや牛糞、落ち葉などに、もみ殻や米ぬかを加え、適切な水分量と空気にしながら混ぜるんですね。すると、翌日には好気性の微生物が元気に活動をはじめます。外から火を付けたわけでも、ガスや電気で温めたわけでもないのに、湯気が立つほど高温になるんです。

なぜこうした現象が起こるのかというと、特定の条件が揃ったことで、微生物が持つ本来の力が発揮されるからです。ただなにもせずそこに生息していただけでは、こうはなっていなかった。そう考えると、環境を整備することの重要性を強く感じます。

—— 土に中でうごめく微生物の姿に、環境とクリエイティビティの相関性を見出されたと。

また、どこにでも生えているように思える雑草ですが、これもどこにでも生息できるものではありません。成長するには土壌との相性が非常に重要で、そこら辺に生えている雑草を家の庭に植えても、すくすくと育つとは限らないのです。

そう考えると、ロフトワークは、いうなれば“土壌”だなと。

土の中でうごめく微生物たちの姿は、まるでロフトワークで働いている私のようでした。ポジティブなエネルギーが充満する、ロフトワークという土壌があったから、私は変化することができ、クリエイティビティを発揮できるようになったんです。

個人が変わり、社会が変わり、課題を期待に変えていく

—— ロフトワークは、日本や世界の課題、未来を考え提示を担う役割として、3名の執行役員就任を発表しました。岩沢さんは、ロフトワークの文化の発展と発信を受け持つ「Culture Executive」を担うそうですが、今後どのようにロフトワークを発展させていくのでしょうか。

これまで、ロフトワークでの私の役割は、ここで生まれる新たなプロジェクトが、社会に対してどのような価値を生み出すのかを伝えることでした。

もちろんこれからも、その役割を果たし続けることは変わりません。それに加えて、今後はロフトワークを、会社というより、クリエイティビティが花ひらく交流地点にしたいと思っています。

先の話でいえば“土壌”であって、そこに集う人たちが、前向きな意志で社会を変えていく場所にしたいんです。

「Culture」という言葉は、「耕す」を意味するラテン語「colere」に由来しています。「Culture Executive」という肩書だけを見れば、私は、ロフトワークという土壌を耕していく立場です。

ただ、土壌の耕作者としてのスタンスを取るつもりはありません。私たちメンバーも土壌における微生物であって、クライアントやクリエイターと、互いに芽を育み合っていく。そんな拠点にしたいと思っています。

—— 場を提供するだけでなく、関係性を超えて、お互いに刺激し合うと。

私たちは「誰しもが創造性を持っている」と信じていますが、置かれる環境によっては、それを発揮できない人がいるのも事実だと思います。これは、私自身の経験からも言えることです。

逆をいえば、創造的な環境に身を置くことさえできれば、人は誰でも創造性を発揮するチャンスがあると思っています。

「なにが起こるか分からないけれど、なにかが起こる気がする」という期待を抱き、ロフトワークに依頼をくださるクライアントのみなさんの期待に応え続けられたのも、創造的な環境に集った、多様性にあふれたメンバーが、想像もできない化学反応を生み出し続けてきたからです。

これからは、そのロフトワークの真髄を、さらに磨いていきたいと思っています。

従来の会社像にとらわれる必要性はないし、どのようなメンバーが在籍してもいいし、クライアントを巻き込んでもいい。

本当に「ただひとつの土壌」として存在しながら、お互いを刺激し合い、まだ誰も知らない化学反応を生み出し続けるつもりです。

正直、これからのロフトワークがどうなっていくのかは、私にも想像ができていません。

でも、ここから生まれる化学反応が、みなさんの景色をポジティブに変えていくことだけは、確信しているんです。

おわりに

ジャーナリストを志していた岩沢さんの夢は、スモーキー・マウンテンでの出会いによって、一度失われてしまいました。

それでも岩沢さんは、「新生ロフトワークを耕していくこれからの時間は、ジャーナリストを志していた当時の自分が抱いていた欲求そのものです」と言います。

いったい、なぜか。

それは、「蓋をしてしまいたくなる事実でも、自分の目でとらえ、​​自分の手で解決していく」という、彼女の持つ好奇心が刺激され続けているからです。

スタイルを変えても、信念は貫く。そんな岩沢さんがリードするロフトワークという“土壌”に足を踏み入れれば、解決が不可能に思える課題も、くすぶったまま解放されない個人のクリエイティビティも、すべてがいい方向へと変化していくような気がしました。

【連載】LWリーダーインタビューシリーズ「Loftwork is... 」

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