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浦野 奈美 2020.12.22

FabCafe Kyoto 偏愛探訪 vol.4「言志の学校」
ZINEに込める偏愛の塊。そしてそれは伝播する。

こんにちは。FabCafe Kyotoの浦野です。個人の偏愛や衝動を全力で応援するレジデンスプログラム「COUNTER POINT by FabCafe Kyoto」。このプログラムに関連して不定期で発信しているインタビューシリーズ「FabCafe Kyoto偏愛探訪」。個人的な衝動や偏愛をさまざまな活動に展開している、FabCafe Kyotoと関係の深い方々を紹介しています。

シリーズ第4弾は、「言志の学校」という、京都のカルチャーマガジンANTENNAとフリーペーパー専門の書店只本屋の2団体がタッグを組んで作った、フリーペーパーやZINEを制作するための学び舎。FabCafe Kyotoを会場として、これまで2期に渡って開催されてきました。(第3期は2021年の3月頃に開催予定とのこと。)インタビューでは、この言志の学校の運営を担当している、岩城玲さんと、参加者として熱量を持って参加されている山口斯さんにお話を伺いました。

最初にお伝えしておくと、今回、私はこのおふたりの話に感化され、インタビューの後ZINEを作りたい衝動が抑えられなくなり、人生初めてのZINEを作ることになったのでした(そのくだりはこの記事の1番最後にて)。結論から言うと、ZINE最高。何かクリエイティブなことがしたいな、とか、最近感性が鈍ってるなと思ったら、とりあえずZINEを作ったら色々開けてくると思います!ということで、おふたりのZINEへの偏愛を伺ったインタビュー、ご覧ください。

言志の学校

ANTENNA只本屋の2団体がタッグを組んで作った、フリーペーパーやZINEを制作するための学び舎。専門領域の異なるクリエイターたちが講師となり、参加者がZINEを作り、売ることにチャレンジしてきた。過去2期にわたってFabCafe Kyotoで開催されている。
https://fabcafe.com/jp/labs/kyoto/school-of-genshi/

「イケてる」デザインの元ネタが知りたいという欲求

── 言志の学校は、ZINEをつくるためのワークショップシリーズで、2018年に第1期、翌年に第2期を開催されていますね。ただ、岩城さんと山口さんは関わり方が少し違います。まずは岩城さんから、ZINEや言志の学校と出会ったきっかけを教えていただけますか?

岩城 本職は出版社で雑貨などのWEBデザイン・マーケティングを担当しています。只本屋でもWEBサイトなど細々と担当しています。過去にライターとしてフリーペーパーの記事も連載していました。元々かっこいいグラフィックデザインに興味があったので、高校時代から日々フリーペーパーやフライヤーは研究していました。中高生は雑誌をたくさん買えないですし。でも大学に入ってギャラリーに行くと、みたこともないお洒落なフリーペーパーがあって魅了されたんですね。グラフィックデザインも勉強したかったので、大学で自主活動としてフリーペーパーを作る部活に入ったんです。その時に只本屋の代表の山田さんと出会い、只本屋を一緒に立ち上げ、その流れで言志の学校の運営にも加わることになったんです。

── フリーペーパーやZINEって、主義主張が強い方が作っているイメージが勝手にあったんですが、モチベーションは色々なんですね。岩城さんにとっては、かっこいいデザインをインプット/アウトプットする場所だったのか。

岩城 私の場合は、かっこいいフリーペーパーとか見つけると、その元ネタを知りたい!という欲求が強いですね。

── 元ネタ?

岩城 たとえば、似たような食器が流行ったりするじゃないですか。でも一番最初のものはなんなのか。その原型や元ネタがあるはずで、それが知りたい。元ネタを知っているのが1番かっこいいんじゃないかな、みたいな(笑)あの監督、本当はあれを作ってたんだぜ、って言いたい(笑)企業とかが作ったフリーペーパーとかもすごくかっこいいデザインがあるんですが、1番最初はすごいお洒落なクリエイターが作ってたと思うんですよ。

── ほお!でもなんでそこまで元ネタにこだわるんですか?

岩城 デザインはすべて何か元ネタがある、という前提があるとして、そんなとき、パクリをパクるより、元ネタをパクる方がいいじゃないですか(笑)私はこの元ネタを知っていて、あえてオマージュしてるんだぜ!って。でも一方で、プロはそういう元ネタを軽やかにカッコよく洗練させちゃうから、かっこいいなあって思いますよね。

── おお、そこはかっこいいな、なんですね(笑)

岩城 そうですね(笑)でも、完成度が1から10まであるとしたら、プロが作るものは10の完成形なんですよね。読みやすいし、洗練されている。でもこういう完成されたものって逆にどこでも手に入る。逆に、個人で作られているものは、どこで手に入るか分からないし、なぜこれを作ったんだ…!ていうものに出会える。そういうものこそ体験価値を感じます。

── なるほど〜面白いですね。理解できないものへの飽くなき興味というか、それらが新しい価値観や自分の感度を広げてくれるというか。

「完成されたものって逆にどこでも手に入る。逆に、個人で作られているものは、どこで手に入るか分からないし、なぜこれを作ったんだ…!ていうものに出会える」と話す岩城さん

ZINEは一方的なラブレター。

── 山口さんは参加者として言志の学校を受講されてるそうですね。それに、山口さんが作られるZINEはどれもすごく凝ったデザインで個性的です。山口さんはどういう経緯でZINEを作り始めたんですか?

山口 私の場合、言志の学校に入る前に、あしすむという季刊のZINEを初めて作っていたんです。私は日本語が好きなので、日本語の勉強がしたくて始めたもので、自分が勉強したことをクイズにしたりして載せたり。自分のためにやったものですね。たとえばこれは万葉集の中の桜の詠まれ方を色々まとめています。

山口さんが日本語を勉強するために作っていたというZINE「あしすむ」。彼女が調べたことが、まるでレポートのように詳細にまとめられている。

岩城 文字サイズ!辞書レベルですね(笑)

── ほんとに(笑)じゃあ、こうやって好奇心を持って調べたことや好きなものを他の人と共有するためにZINEにしたってことですか?

山口 いや、共有は別にどうでもよくて…。

岩城
 あ、そうなんですね(笑) じゃあなんでZINEという形にしてるんですか?人に見せないレポート的なもののほうが捗りそうなイメージですが。

山口 でもレポートってやらなくなっちゃうんですよ。

── なるほど。ちなみにこのZINEは誰にも見せず自分で愛でてたって感じですか?

山口 いえ、友だちに配りまくりました(笑)なんていうか、「元気だから」みたいな。私にとってのZINEは一方的なラブレターなんです。お返事はこないラブレター。それに、自分の話を延々とするより、制作物があったほうがいいじゃないですか。

── ラブレター!なるほど、、内容について全部理解してもらうことを意図しているというより、「私はこういう人間です」って自己紹介しているような感じですかね。わかるような、分からないような…。

共有じゃなくて、ラブレター。今ならわかる。これは作った人にしか分からない感覚だと思う。

皆で作ることで、表現の幅を広げ、同時に自分の真髄に迫ることができる

── 言志の学校では、企画や印刷など、さまざまな専門分野を持っているゲストの方々からのインプットを踏まえて、実際に自分たちでZINEを作ることに挑戦するという企画ですよね。山口さんは、それまでもご自分で作れていたのに、どうしてこの企画に参加されたんですか?

山口 それまでは我流だったので、もっと色々なスタイルや作り方を見てみたかったんです。でも参加してみると、同時に自分の真髄に迫っていくというか、自分の進む道を他の人は歩いていないと改めて確認するという効果もありました。

岩城 たしかに、言志の学校に参加される前も後では明らかに作るものが変わってきましたよね。斯さんらしい雰囲気は変わらずあるのですが、ビジュアル的に誰にとっても読みやすく、興味を持ちやすいものに昇華されていっている感じがします。

── さまざまな領域のプロからのインプットで表現の幅を広げつつ、同時に自分自身の真髄にも迫りながら、1番自分が伝えたいものを際立たせていくという場所だったということですね。というか、山口さんの作品、めちゃくちゃ綺麗だし、どんどんドラマチックになっていっていますね。

山口 以前より紙が好きになりましたね。講師にきてくださったレトロ印刷JAMさんが独特な紙をいろいろ取り扱われているので、その影響もあると思います。

山口さんの作品は、どれも封が閉じられている。そして、さまざまな紙が使われていて、とにかく美しい。写真はタバコを模して作られた「閑」。タバコのような小さな筒を広げると、ひとつひとつ異なる詩が書かれている。ロマンしかない。
開ける前からワクワクが止まらない。

ZINEは溢れる偏愛や個性を拾ってくれる存在

── 言志の学校の活動で印象的なことって何かありましたか?

山口 とにかくメンバーが個性的なんです。たとえば、「私は牡蠣です」という人とか、「私は蓮根です」という人もいたり。

── ん?

岩城 偏愛がみんなすごいんですよね(笑)

山口 そうですね。だから、ZINEって、そういう溢れる偏愛や個性を拾ってくれる存在としてすごくいいなと思うんですよね。本って、ちゃんと流通していて、読む人が明確に想定されているようなイメージがあるんですが、ZINEはそれぞれの感情を慈しむ媒体として、軽やかに存在しうるというか。

── 「個性を拾ってくれる」って素敵な言葉。でも、ZINEってみなさん何モチベーションで作ってるのかすごく気になります。

山口 言志の学校でもみんなモチベーション迷子になってましたね。そもそもZINEって作る目的を作りづらいですし。でも色々な講師の方々がさまざまなアプローチを教えてくれたのは面白かったです。頭の中を出しきって、好きなものと逆のものをつなげてみたときにどんな表現が生まれるかワークしてみるとか。

岩城 偏愛や想いを持ち寄っても、ワークを重ねていくたびに、最終的にZINEに落ちていかない方もいらっしゃいましたね。 

── 企画の学校って感じですねー!

岩城 そうですねえ、、でも言志の学校は、みなさん独自の想いとか、好きなこととか、世界を形にしたいという想いを応援する場であれたらなあと思ってます。

言志の学校は毎回呼ばれる豪華な講師陣も特徴。
企画、編集、ライティング、印刷など、それぞれの専門領域から、偏愛を形にするためのヒントを伝授する。

自分を開放しつつ、間口を広げることはできる

── 素敵。水を指すようですが、言志の学校って、そういう個々の偏愛を表現する場として、表現方法の幅を広げ、間口を広げていく活動でもあるのかなと思うんですが、それによって、個性が薄まっていくことは心配になったりしませんか?

山口 うーん、どうですかね。たとえば、私も、読みやすい文字で印刷はしているんですが、読めても今一つ理解できない文章は、書いているんですよ。

── (一同爆笑)

山口 たとえば、私が作ったこのZINEの文章を読んでください。意味がわからないですよね。それでいいんです。自分のためだけの表現を残しながら、間口を広げるという工夫は、できないことではないなと思うんですよ。紙やデザインなどに、見たいと思わせる別の要素を入れるとか。

── たしかに。読めなくても世界観はむしろ強く伝わってくる。自分の偏愛を愛でることと人とのコミュニケーションの間を紡いでいるような活動なんですね。

意味は分からないけど読みたくなる。開きたくなる。山口さんのZINEにはたしかにそういう魅力があった。

今まで名前がなかった文化に名前が付いたのが、ZINE。

── めちゃくちゃ今更なんですが、そもそも、ZINEってなんなんでしょう。こんなこと言うの恐縮なんですが、私人生であまりZINEという文化に触れずに来てしまっているところがあって。面白いと思ったものを買うことは数回ありましたが。個人的に出版している小冊子ってことですよね。特に京都ではZINEの文化を強く感じる気はするんですが。

岩城 今私たちが言っているZINEは、日本独自で広まった文化みたいですね。もともとはアメリカのアーティストが自分のポートフォリオを配ったのが始まりらしいんですけど、日本ではそこに止まらず、皆が伝えたいものとか愛をもっているものを表現したり、シェアする方法になっていますね。

── なるほど、日本で独自に広がっている文化なのか。

岩城 ZINEって今まで名前がついていなかった文化に名前が付いたみたいなものだと思うんですよね。

── めちゃくちゃ素敵ですね。超個人的な想いとかその人独自の「好き」を表現する方法として、皆がチャレンジできるZINEという存在があるんですね。誰かのための文章とか、目的とかは一旦おいておいて、好きなんだ!を表現しろと言われてもなかなか難しい。その方法としてZINEがあったのか。いやーーーー、なんか、おふたりのお話聞いてて、私も作りたくなってきてます!!

岩城 ぜひ作ってみてください!ちなみに、第3期も近々企画しようとしているんです。第1期、2期はかなり自由度が高かった故に初めてやる人にはすごく難しい作業だったんですが、もう少しテーマや制限があった方がいいかなあとも思ったりしています。まだ企画中ですが。

── 山口さんほど出したいものがあって、普段からやっている方はすぐできるけど、そもそもそういう活動に慣れていない人にとっては大変な作業なんですね。いや〜〜〜〜〜、ZINEという言葉ひとつとっても、そのあり方は色々あって、めちゃくちゃ深い。

岩城 ここ2人の間でも認識割れてますからね!(笑)

山口 ひとつあえて言うとしたら、私としては、自分の作品をみてもらうことで、「何か熱い想いや偏愛を出す場所としてZINEっていうのもあるかも」って、思ってくれる人がいたらうれしいなあと思います。

── はい!めちゃくちゃ思ってます!山口さんの作品の美しさと愛情に触れて、言葉にできないけれど、心が揺さぶられているし、私も何か出したい!という欲求が溢れ始めています!!!!!!

岩城玲さん(左)、山口斯さん(右)、私(中央)。夢中になって話していたら、気がついたらカフェの閉店時間を大幅に過ぎていた…。

番外編:偏愛は伝播する

張り切って日英の2種類作ってしまった。私の人生初ZINE「36才の私とジュラシックパーク」または「Me at age 36 and Jurassic Park」。自分で書いたイラストを3歳の息子に渡し、上から色鉛筆で落書きさせたらいい雰囲気が出た。もう愛おしさしかない。

今回のインタビューは、私自身も影響を受けてしまいました。この時のおふたりの話を伺って大きく感化されてしまい、インタビューのあと、人生初めてのZINEを作ることに。私の人生において、ZINEを作ろうと思ったことは一度もなかったのですが、おふたりの話を聞いて、どうしてもやってみたくなりました。私がつくったのは1994年の名作映画「ジュラシックパーク」の心の残ったシーンをスケッチして感想を書いた、ただ自分の「好き」を込めた、意図や目的を持たないもの。

やってみてわかりました。これは楽しい。久しぶりに自分が解放され、自分という存在を認識する感覚を覚えたと同時に、山口さんがインタビューで「ZINEは私にとって一方的なラブレターなんです」と言っていた気持ちも、その時は正直ピンときていなかったのですが、今ならわかります。自分が愛しているものを中途半端に一般化したり取り繕わず、大切に形にして、それを手渡しでプレゼントする。これはラブレター以外の何でもないなと。きっと同じものをデジタルデータでメール添付しても、こういう気持ちは得られないと思います。ZINEが紙である理由も分かったような気がしました。

印刷をしてくれたのは、京都の印刷会社「修美社」さん。代表の山下さんは言志の学校にも講師で登壇されていた。
紙選びも楽しい。手渡しするメディアってやっぱりいいなあと実感。
山下さんと従業員の方。できた印刷物を受け取る時のドキドキ感と高揚感。
映画を見ながら夜な夜な書いたイラストをイラストレータでレイアウトするのも楽しかった。
山下さんの指導のもと行った初めての面つけ。

そして、さらにすごいのは、私がこのZINEを作ろうと思った頃から、自分の感性のチャクラが開いたというか、日々の出来事を絵にしたり、造形物にしたり、言葉にすることが楽しくて仕方なくなったんです。ZINEを作ったことが、日々の生活の中でいつの間にか埋もれていた私の創造性を躊躇なく出せるきっかけを作ってくれたというか。なぜそうなったかというと、おそらくこのZINEには作る目的がなかったから。誰かのためではないし、何にも役に立たない。少なくとも、作る前にそれを意図していない。でも、そういう気持ちを「どうせ役に立たないし」という気持ちで止めてはいけなくて、結果はあとで考えればいいから、何か衝動があるなら、とりあえず作ってみたらいい。まさに、COUNTER POINTでやろうとしていることを自分自身で確認できた体験でした。

それに、ZINEを作ったことで、古い友人や離れた場所にいる人と再び繋がりました。これはクセになってしまいそう。みなさんも、最近創造的なことできてないなと思ったら、まずZINEを作ることを強くおすすめします!!

偏愛や衝動を中心に据えたレジデンスプログラム「COUNTER POINT」

FabCafe Kyotoでは、好奇心と創造性に突き動かされた不可思議なプロジェクトのための、プロジェクト・イン・レジデンス。いつか取り組んでみたいと思いつつ、ついつい普段の仕事や生活の中で後回しにしてしまっているものや、強い好奇心を持っていても、それを実行に移す理由や意義を見出せずにいたもの、ありませんか?実はそういうものこそ、今取り組むべきものなのかもしれません。ぜひこのプログラムを使って私たちと一緒に実験してみましょう!興味のある方は、ぜひこちらからお申し込みください。

FabCafe Kyotoのプロジェクト・イン・レジデンス

「COUNTER POINT」詳細・お申し込み (第3期メンバー応募締め切り:1/15)

浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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街の緑、食品ざんさ……都市の「分解」を可視化する。
「分解可能性都市」展示レポート