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浦野 奈美 2020.09.08

FabCafe Kyoto 偏愛探訪 vol.2「京都 Orchest-Lab」
”成果を出すこと”から自由になることで生まれるグルーヴ感

こんにちは。FabCafe Kyotoの浦野です。FabCafe Kyotoでは、領域を横断した有機的なつながりや化学反応を仕掛けるため、「社会に役立つか」や「ビジネス化できるか」といった視点は一旦置いておいて、個人の偏愛や衝動を全力で応援するレジデンスプログラムをスタートします。

とはいえ、「偏愛」や「衝動」を中心に据えたレジデンスプログラムってどんな人をイメージしているのか、少しわかりにくいかもしれません。そこで、個人的な衝動をさまざまな活動に展開している、FabCafe Kyotoと関係の深い方々を紹介するインタビューシリーズを始めることにしました。

第1弾のedalab.さんにつづき、第2弾は、家電に眠る音を引き出し、電子楽器として蘇生させ、演奏するという活動を行っている、京都 Orchest-Lab(きょうとオーケストラボ)。エンジニアや音楽教師など、さまざまなバックグラウンドを持ったメンバーが集まり、家電楽器を作り、演奏しているという、この不思議なグループの活動について、コアメンバーの田中 秀樹さんと滝村 陽子さんにお話を伺いました。(ちょうど月に1回の集まりが背後で行われていて、電子音が絶えず鳴り響く環境でのインタビューとなりました)

家電の中に潜む音を探し出し、楽器として蘇生させる

── 元々、アーティストの和田永さんによる参加型プロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」があり、京都でも共感する人と活動を広げたいということでスタートした活動ですよね。今日本では、東京、日立、京都の3拠点で、それぞれ通称ニコスラボのみなさんが日夜家電を楽器にして演奏したり、時々和田さんや他のラボのメンバーと大規模なパフォーマンスをされたりしているようです。東京のメンバーも数名知っているのですが、みなさん、とにかく本当に楽しそうで、よくわからないけど思わず吸い寄せられていってしまう雰囲気があります。ライブもめちゃくちゃ楽しいですし。京都の活動は元々どういうきっかけで始まったんですか?

田中 京都 Orchest-Labは、2017年にはじめて和田さんによる体験会オープンミーティングがFabCafe Kyotoで開催され、そこに集まったメンバーからスタートしました。最初に和田さんがワークショップをしたんですが、古い家電を見て音が出るモンスターを妄想してスケッチし、大喜利してから作り始めるんですよ。最初の体験会の1ヶ月後にお釜ドライヤーがFabCafe Kyotoに運び込まれ、その3ヶ月後には、初の作品となる「釜鉾」ができました。同時に「リモエイラ」という楽器も別メンバーが作り、和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」~本祭Ⅰ:家電雷鳴篇~で最初のパフォーマンスをしました。

京都初の体験会の様子。中央が和田永さん。皆で手を繋いで電流を繋ぎ、ブラウン管テレビから音を出している。すごい盛り上がりを見せた。
和田さんが東京のニコスラボメンバーと開発した扇風琴。
「釜鉾」のお披露目となった和田永「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」~本祭Ⅰ:家電雷鳴篇~にて。

── 集まってから楽器の開発・パフォーマンスまですごいスピード感ですね!

滝村 そうですね。立ち上げ時は5,6人で活動してました。ただ、次第にメンバーに転勤や出産などがあって、作れる人が田中さんだけになってしまった時期がしばらく続いてしまったんです。 田中さんは衣料メーカーのエンジニアですが、私は仕事が教育やマネジメントサービスの提供で、実際に電子工作をしたり演奏することはできないので。

田中 そうですね。しばらくは、私が淡々と作っては和田さんに見せて演奏してもらったり、みたいな活動が続いていました。

── その頃開発したのがバーコードリーダーを改造した「バーコーダー」ですね!Maker Faire Tokyoで和田さんたちが演奏してバズったって聞いています。私も動画見ましたが、めちゃくちゃかっこよくて痺れました。そのあとアルスエレクトロニカでも演奏されて中南米とか海外からすごい反響があったらしいですね。

田中 そうみたいですね、嬉しいです。最初に作った「釜鉾」は、音は出るけど、楽器として演奏できるものじゃなかったんですよ。だから、ちゃんと演奏できるものが作りたいなあ〜と思って、ふとバーコードリーダーを開けてみたら、そこそこ音が取り出せたので、行けそうだなと。

── 「開けてみようかな」ですか…(笑)

田中 正確にいうと、音の出そうな信号を探すという感じですね。音を探すのって意外にアナログなんですよ。だから面白いです。

── なるほど…。全然意味わからないですが、ニコニコして説明されている田中さんを見ているだけでなんか楽しそうです!

滝村 意味わからないですよね(笑)。ちなみにグループとしては、2019年のMaker Faire Kyoto 2019にブース出展して新規メンバー募集したんです。京都でのMaker Faireの1回目だったので、なかなかアクティブな人が多かった印象でした。

田中 あと、このとき集まったメンバーで良かったのが、エンジニアリングができて、かつ、電子音楽を演奏できる人が結構いたことです。僕は作る専門ですが、演奏もできる人がいると、感が働くので、色々とアイデアが広がっていくし、すぐ実装しちゃったりアレンジが進むので面白いです。

── そこから今のような活動になっていったのですね。今もずっと後ろでみなさんが色々やられていて、ピロピロ音がすごく気になっているのですが…、少し紹介していただけませんか?

田中 まずこれがタワーファンコーダーです。タワー型の扇風機を改造したものなんですが、電源を入れると、中にある縞模様が回るんですよ。そこにバーコードリーダーを当てて演奏するというものです。回転数を調整できるようにしてあるので、音を変化させることができます。そしてこれをギターケースに入れて持ち歩いています。

── ストラップもついてるし。ちなみに光ってるのは意味あるんですか?

田中 意味はないですね。音とは関係ないです。かっこいいですよね。あと、携帯用の小さいタワーファンコーダーも作っています。これらを5台くらい作って演奏しようということで、最近スタジオで練習し始めていたんです。

タワーファンコーダーを演奏するメンバー。いずれも光っている。
タワーファンコーダーを量産している様子
パフォーマンスに向けてスタジオで練習するメンバー

滝村 でもコロナでライブができなくなってしまったので、最近はオンラインで制作を進めながら、オンラインのイベントに向けて準備をしたり練習をしています。それに合わせてスキャナーを改造したスキャ線とか、スキャノン(スキャ線の派生楽器)、マウスを改造したマウスクラッチなども新たに開発されていますね。

2020年7月25日に、Maker Faire Tokyo/Kyotoのスピンオフイベントとして開催された「DIY MUSIC on DESKTOP」でのパフォーマンスの様子

田中 僕は作るだけの人だけど、初めて楽器を触る人や音楽演奏できる人が触ると新しい演奏方法やアレンジのアイデアがどんどん出てくるんです。だから今日みたいにリアルで会うのは大事ですね。集まるとアイデアが広がるので、その場でアレンジしたりして、どんどん新しい楽器や演奏法が生み出されていくんです。だから、アレンジを想定して材料をいっぱい持ってくるようになっていて、集まるたびに、皆荷物がどんどん増えてますね(笑)

── アイデアが即実装されていくんですね。セッションしてる感じ。だからさっきからめちゃくちゃ盛り上がってるのか。

滝村 ちなみに、私はエンジニアリングがわからないので、みんなが話していること全然理解できていないです(笑)

── そうなんですね。そうすると、この活動が続けられているのはやはり田中さんがいるからということなんでしょうか。

田中 いや、全くそんなことなくて。僕ひとりだったらこんなにいろんな楽器や演奏法は生まれていないと思います。そもそも楽しくないですね。今のメンバーもバックグラウンドはいろいろで、電機メーカー、家電メーカー、工業用センサーメーカー、ゲームメーカー、音響会社といった、エンジニアリングのバックグラウンドをもったメンバーもいるんですが、インディーズで音楽活動をしている方や、科学館の学芸員とか、大学で音楽教育を教えている教員とかもいるし、滝村さんは子ども向けの芸術教室を経営しています。「もっとこういう音が出たら面白いんじゃないか」とか、「こういう演奏ができたら参加者ももっと楽しめそうだ」とかのアイデアは、こういう多様なメンバーだから出てくるんですよ。子どもだって大歓迎です。

── なるほど、電子工作できなきゃいけないわけではないのですね。むしろ、そうじゃないほうが面白くなるんだ。じゃあ、私も入る余地ありますね!

滝村 もちろんです!

インタビューを行った日も、メンバーがそれぞれ作ってきた新しい楽器を披露したり、演奏を試したり、試行錯誤を繰り返していた。
スキャノンの演奏法を試行錯誤するメンバーのみなさん。

仕事の「タブー」に全力で取り組む

── いつも思うんですが、ニコスラボのみなさんって、どの地域のチームもなんか本当に楽しそうですよね。演奏会の前は徹夜とかして死にそうになってたりするけど、それでもニコニコして嬉しそうで(笑)。だって、大人たちは仕事だけでも疲れ果ててるじゃないですか。なのに、なんでみなさんこんなに本気で、しかも無邪気にこの活動に取り組んでいるんですか?

田中 仕事以外で共通の技術の話ができることも面白いですし、皆が得意な部分を生かして世の中に出していくというのが楽しいですよね。でも何より、作ったものが使ってもらえて喜んでもらえるというのが嬉しいです。普段私たちが作っているものって、世の中に出ていかないものの方が多いんですよ。それに、もし商品化されても、それが使われる様子って見ることはないんですよね。

滝村 普段仕事してても、なかなかみなさん、すぐにお客さんのリアクションってもらえないじゃないですか。ニコスの活動って、何かを作った時にチーム内でまずリアクションがある。そのあと定期的にお客さんに演奏する機会があってまたリアクションが得られるんですよね。それがやる気に繋がってるんじゃないかなと思います。

田中 バーコーダーも、演奏する人やシチュエーションに応じて全然違う見せ方とか演奏の仕方をしているので、本当に面白いですよ。

── なるほど。リアクションが得られたり、自分だけではコントロールできないセッションからこそ生まれる「ワオ!」が常にあるんですね。あと最終的にできあがるものが楽器というのも最高ですよね。評価ではなくて、楽しむというのが目的というか。

滝村 そうなんですよ。みんな常に祭を待っている子どものような気持ちなんじゃないですかね(笑)

2020年8月22日にDOMMUNEで開催された電磁盆踊りにて。京都 Orchest-LabもFabCafe Kyotoから参加。各の楽器を演奏しながら「電電音頭」で盛り上がった。

── でもすごいのは、仕事じゃないのに、すごいクオリティのものがたくさん開発され続けていて、熱量が下がらないじゃないですか。私だったらプレッシャーがないと何も進まなそうです(笑)

滝村 その話でいうと、むしろこの活動が仕事と直結していないからできるんじゃないですかね。お金と繋がっちゃうと、リワードとしてお金を求めちゃうじゃないですか。お金じゃないものがリワードだったからこそ、こういう活動が成り立っているんだと思います。あと、仕事でやろうとすると色々縛りがありますよね。これしちゃいけないとか、細かいやり方が決まっているとか。そもそも、「中古家電を改造する」というのは、仕事ではみなさんタブーなんですよ。そういう規制から開放されるというのも大きいですよね。

田中 ちなみに定期的に発表の場があるのでいい意味でプレッシャーはありますよ。ただ、イベントが決まった段階でいきなり開発しようと思うとキツいじゃないですか。だから普段からコツコツ活動してるんです(笑)ただ、何ができあがるかわからないもを作っているので、仕事みたいに目標を決めて作るものとは違うんですよね。

── なるほどなあ。新しいものを作ろうとする時は、やっぱり遊び心大事ってことですよね。なんか染み入ります。ちなみに、FabCafe Tokyoでも以前、夜な夜な大人たちがデジタル工作機械を駆使してミニ四駆を作って、競争させるグループが活動していたんですが、これも、普段はカーデザイナーをしているような方々が本気で「普段やっちゃいけない」に取り組んで、どんどんいろんな人や企業を巻き込んでいたんですよね。京都 Orchest-Labには、彼らと同じグルーヴ感を感じます。

FAB RACERS

ミニ四駆を愛する大人がFabCafeに夜な夜な集まり、理想のミニ四駆を追求するという部活動が出発点となり、自治体や企業を巻き込んで大きなムーブメントに発展しています。メンバーの中には、大手自動車メーカーのカーデザイナーなどもいて、プロの技術をベースに本気で遊ぶ活動が、年齢・性別・業界を超えて共感を呼び、活動が広がっています。
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「楽しい」で探究心をくすぐると、社会は変わると思う

── 今後のビジョンって何かあるんですか?

田中 部活なので大きいことは全然考えてないんですけれど、そろそろ新しい原理の音の出し方を見つけていかないとと思っています。活動が進むにつれて、どんどんハードルが上がっているんですよ。思いがけないものから音を取り出したいなあと思っています。

滝村 私は作る側ではなく、活動の運営を担当しているので、作ったものをより多くの人に体験してもらう場を考えたいですし、このものづくりの場をどう続けられるかを考えていきたいと思っていますね。たとえば、青少年や科学や技術に苦手意識があったり、興味がなかったり、触れる機会が無い人たちにもっと触れて欲しいですね。そうすることで、ものづくりの楽しさを伝播させていきたい。

もっといったら、この活動が社会とか教育の形を変えるきっかけになるといいなとすら思っているんです。なぜならこの活動って人生の間口を広げるきっかけになれると思うんです。私はずっと教育とか人材育成に関わる仕事をしているのですが、人が色々なものに興味を持ったり、視界を広げられるのって、18歳くらいまでの若い限られた時間に、いかに好奇心を触発されるような体験ができたかだと思っていて。そういう活動を見たり、経験したりするこどもや若者が増えたら、社会って変わるんじゃないかと思うんですよね。京都 Orchest-Labの活動を通して、「楽しい」から世界が広がることを子どもたちに見てもらいたいです。

「楽しい」から世界が広がることを子どもたちに見てもらいたいと語る滝村さん(中央)

── 具体的にどんな点で面白いことを若者たちに見せてあげられるんでしょう?

滝村 ひとつは、一般的にダメと言われていることに取り組めることですね(笑)。家電には「危ないから分解しないでください」って書いてあります。でも専門知識があればできるし、逆にいうと、普通はできなさそうなことでも、知識を得ておけば、楽しいことがいろいろできるってことですよね。

田中 あと「楽しい」という感覚から入ったら、これはどうなっているんだろう?という探究心に繋がって、結果的に科学や技術が楽しくなって勉強したいってなったら素敵ですよね。

滝村 本当に。好きの原点をどう作るのかというのは本当に大事なんですよね。「好き」と「つらいけど前進する」が繋がった活動でないと、人生って充実しないんじゃないかなと思うのですが、ニコスの活動の原点ってそれなんですよね。

── 押し付けじゃないですしね。それに、大の大人が家電の改造に夢中になっている背中を見せるというのも良さそうですね(笑)

滝村 そうですね(笑)。辛いけれど楽しそうな大人を見せること自体も大事ですよね。あーしろ、こーしろとかいう大人じゃなくて(笑)。

田中 そういう点では、本当にみんな子どものように無邪気で必死ですね(笑)。

── ちなみに、さっき滝村さんがおっしゃっていたものづくりの楽しさを伝播させたいというお話に関連して、今度FabCafe HongKongと連携してニコスラボ香港も立ち上げようという話が進んでいるんです。FabCafeのグローバルネットワークも一緒に、今後も各地のニコスラボの活動ともっと化学反応を起こしていけたらいいなと思います。

田中 おお、そうなんですね!その土地らしい音が生まれていったら面白そうですねー!

偏愛や衝動を中心に据えたレジデンスプログラム「COUNTER POINT」

FabCafe Kyotoでは、好奇心と創造性に突き動かされた不可思議なプロジェクトのための、プロジェクト・イン・レジデンスを開始します。もし今「これ、すごく面白いんだけどきっと社会にとって役立たないかも」と思っていることがあったら、まずは私たちとシェアしてみませんか?興味のある方は、ぜひこちらからお申し込みください。

FabCafe Kyotoのプロジェクト・イン・レジデンス

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浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

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