FINDING
2020.09.07

FabCafe Kyoto 偏愛探訪 vol.1「edalab.」
植物をとおして模索するコミュニケーション

こんにちは。ロフトワーク/FabCafe Kyotoの浦野です。FabCafe Kyotoでは、領域を横断した有機的なつながりや化学反応を仕掛けるため、「社会に役立つか」や「ビジネス化できるか」といった視点は一旦置いておいて、個人の偏愛や衝動を全力で応援するレジデンスプログラムをスタートします。

とはいえ、「偏愛」や「衝動」を中心に据えたレジデンスプログラムってどんな人をイメージしているのか、少しわかりにくいかもしれません。そこで、個人的な衝動をさまざまな活動に展開している、FabCafe Kyotoと関係の深い方々を紹介するインタビューシリーズを始めることにしました。

第1弾は、植物をとおして、新しいコミュニケーションの形を模索している、edalab.の前田裕也さん。FabCafe Kyotoとの出会いや独自の表現の裏にある想い、また、彼の多岐にわたる活動のモチベーションを伺いました。

アイデアがぶつかり合って生まれた新しいハーバリウムのかたち

── 前田さんは、今ではFabCafe Kyotoでのイベントやプロジェクトでお仕事をご一緒したり、カフェでお客さんを迎える花のアレンジも手掛けていただいているわけですが、FabCafeとの最初のきっかけをおしえてもらえますか?

前田 2017年秋頃、Facebookで作品のプロトタイプの写真を掲載して、これを100本くらい作りたいなあと呟いたら、「じゃあうちで個展やろうよ」って寺井さん(FabCafe Kyotoの運営責任者)が声をかけてくれて、展示会をすることになったのが最初です。

── それが、「百の植物片-京都で採集された植物の肖像-」ですね。

前田 はい。この展示の面白いところは、京都の街中を僕がフィールドワークして植物を採集して、その座標をそれぞれの植物を入れた保存液の瓶に刻印して、観賞する人々がGoogle Mapで確認できるようにしたんです。アイデアはあったんですが、ちゃんと個展するとなったらコンセプトや見せ方をクリアにする必要があって、FabCafeで寺井さんや木下さん(FabCafe Kyotoのコミュニティマネージャー)に相談しながら、ブラッシュアップしていったという感じですね。

FabCafe Kyotoとの最初のコラボレーション企画となった展示「百の植物片」では前田さん自身が京都市内で自生する植物を採集し、自生していた場所の座標軸をボトルにプリントして展示した。

── 京都に自生する植物の標本集なんですね。なんでそんなことしたいと思ったんですか?

前田 アンチカルチャーですね!当時、主に女子の間でハーバリウムというのが流行っていて。ガラスの容器に保存液と植物を入れて花を楽しむものなのですが、一般的なハーバリウムって、大体カラフルな花が入ってて、雑貨屋に売っている、若い女の子たちの間の可愛らしいファッションやインテリア的な存在なんです。でも、ハーバリウムって直訳すると植物標本という意味なので、こういう一般的なハーバリウムって標本の体をなしてないんですよ。もっと原点に立ち返った形を作ってみたいなと思ったんです。

── アンチカルチャーですか。原点に立ち返るというのがモチベーションなんですか?

前田 僕は植物をコミュニケーションのツールとして捉えているので、標本という形と、座標を伝えるというのは、植物を通してコミュニケーションが生まれていると思うんですよ。

美しさを押し付けず、ありのままを面白がりたい

前田 そもそも花って「ありがとう」って言いながら花束を渡したりするみたいに、一般的にもコミュニケーションツールだと思うんです。でも、僕の中で気をつけていることは、あまり花に特定の意味を持たせたくないというのはありますね。花言葉とか、見立てとか。たとえばトゲトゲした花があったとして「ストレス」みたいなタイトルを付けたくない。それって花でやることなのべきことかなって思っちゃうんですよね。もっと花そのものを見てもらってコミュニケーションになったらいいなというのはありますね。

── こちらが感じていることを押し付けないってことですね。相手がどう思うかは相手に任せることでコミュニケーションを生んでるんですね。たしかに、会話だって、お互いの価値観を押し付け合わない方がいいなあ。私、生け花をかじっていたこともあるんですが、生け花ってまさに「見立て」で風景を表現するじゃないですか。前田さんが見立てがあまり性に合ってないというのがすごく気になるんですが、そのあたり、もう少し教えていただけませんか?

前田 生け花もそうですが、植物の世界って「見立て」ということをよくしますよね。見立てにも色々ありますが、僕に関していうと、花そのものを何かに見立てたり意味を付けることに、最近違和感を感じているんです。

このあいだ、友人が生け花の教室に行ってきてその作品を見せてもらったんですが、見せたい花や葉だけ残して、他の葉やつぼみや花を切り落としていたんですね。僕も生け花のスキルには興味があったので、真似して試してみようとしたんです。それで、たまたま庭に綺麗なモミジがあったので取ってきてきて生けようとしたんですが、そのモミジは葉が多くてモサモサしてて可愛いくなかったんですね。でも、次第にこのモミジの可愛いところをなんとか見つけ出そうという思い自体がなんだかおこがましいような感覚になってきて。植物の自然の状態をそのまま提出するのでは自分の作品とは言えないから、葉をほとんど落としてでも自分の見つけた可愛さを提示しようとする努力って、もはや自分を提出しようとしているようなものだなあと感じたんです。

── たしかに…。

前田 以前とある記事を読んだ時に、「ある新聞社が記事を書く時にストレートに事実を伝えず、角度を付ける」ということが書いてあったんです。角度をつけるというのは、その出版社の社風に沿わせて記事を編集するということですね。

── 取材して聞いたことをそのままを載せるのではただの記録でしかないですもんね。このインタビューもそうなると思います(笑)

前田 正当性があればいいと思います。でも事実を歪めてしまってはいけないよね、という記事だったんですね。それで、先ほどのモミジの葉を落としながら、この記事を思い出して、「ああ、今めっちゃ角度を付けてるなあ」って思ったんです。この角度の付け方というのは、先ほどの新聞社で言うところの「ストレートでは伝えられない事実」なのかもしれないなあと。

2019年からは、FabCafe Kyotoのフラワーアレンジメントを担当しているedalab.。毎回、つい触りたくなるような、なんだろうこれ?と見るものの好奇心をくすぐる展示を作成している。

そもそも自然に生えている花の美しさを100とするなら、切り取った瞬間に減点されてしまうと感じていて、他になにをしたところでそれ自体は100には戻らないような感覚があるんです。だから、別の領域から花を捉えて新しい表情が獲得できると面白いのかなと考えています。

── 面白いですーーー。私いまでも印象に残っているのが、前田さんのテッセンの使い方で。テッセンって、紫色の綺麗な花の状態のものはよく見るし、色々な場所で使われているのを見ますが、前田さんはあえて花じゃなくて綿毛の状態のテッセンにフィーチャーして展示をしていたのがすごく面白くて感動したんです。テッセンの綿毛ってあの時初めて見ました。テッセンに限らず、前田さんて、ちょっとマイナーな植物だったり、枯れていく様子とかも敢えて見せますよね。それってなんでなんでしょう。

前田 百の植物片の展示の後に、漫画「へうげもの」の展示イベントに呼んでもらったことがあったんですが、この世界観に共感したことが「割れてても器として再利用する」という感覚です。僕も、腐ったり枯れた花に利用価値や面白い部分を探すというのをずっとやっていたので。このイベントでは、そういう感覚に共感した別領域の者同士で表現を模索して、FabCafeで展示させてもらったんです。

漫画『へうげもの』公式スピンオフイベントとして、2018年5月25日〜5月28日の4日間開催された展示企画。さまざまな企業やクリエイターが共創することで、テクノロジーと工芸の新しい表現を実験した。
“コンプレックスと欠損”をテーマにFabCafe Kyotoを拠点として制作を行う革屋、壁屋、花屋、足つぼ師、舞台作家の異種混淆デザインチーム「清濁アセンブル」の一員として参加したedalab.。花器を独自に解釈した作品が展示された。

── 「枯れていく花」でいうと、2019年のMaterial Meetup vol.3では、ドイツのデザイナーユニットのStudio B Severinの枯れた花の色をとって3Dプリンターで作られた器にも花を生けてくれましたね。それがきっかけでまた来年一緒に彼らと展示企画をしようという話も、今まさにしています。これもぜひ実現させたい楽しみな企画です。

Material Meetup vol.3では、ドイツのデザイナーユニットのStudio B Severinが制作した花器に花を生けた。

植物×カクテル、植物×ホテル、植物×茶湯。人が繋がり、新しい表現が生まれていく

── 百の植物片の展示がきっかけで、他の展示や企画に広がったというのは、私たちとしてもめちゃくちゃ嬉しいです。他にも広がったプロジェクトとか企画ってありましたか?

前田 最近だと、新しくできるホテルの客室のアートピースを作るプロジェクトも一緒にさせてもらいましたね。あと大きいのは、セキネモトイキさんとの出会いでしょうか。彼は、ドリンクディレクターという肩書きで、クラフトジンとボタニカルカクテルの研究所、nokishita711の代表などをしていて、文字通り、色々な植物やお酒を組み合わせて新しい味を実験し続けている方です。百の植物片の展示の後に、植物が入っているアルコールランプを作るとか、ワークショップ企画とかしたら面白いんじゃないか?と寺井さんと木下さんと話してて、彼らからもしかしたらセキネさんと一緒にやったら面白そう!と紹介してもらったんです。それがきっかけで、ALCOHOL-LAB.というシリーズのイベントを開催しました。そのあとセキネさんとは正式にユニットを組んで「飲む植物園」というプロジェクトを始め、いまでも一緒に活動しています。

アルコールラボの様子。毎回多くの人で賑わった。
さまざまな植物とジンを組み合わせてオリジナルの味を作るというワークショップ。

── 百の植物片の展示がきっかけで、他の展示や企画に広がったというのは、私たちとしてもめちゃくちゃ嬉しいです!どうしたら、そういう活動って広がっていくんでしょう。

前田 やっぱり「それ面白いですねえ」って言ったら、とりあえず実行に移すってことじゃないですかね。意気投合したり、それいいねってなることはたくさんあると思うんですが、「そのうちやろうね」ってなっちゃうと絶対やらないですよね。

── いや本当にそうですよね。成功するかどうかは問題じゃなくて、とりあえず動いてみるってことですよね。それにはネタが必要。そのためのプロジェクト・イン・レジデンスなんですよ〜、ありがとうございます!

前田 実は僕も今レジデンスで具体的にやってみたいことがあるんですよ。今写真集作りたいと思っていて。その撮影をここでしたい。(カフェの中央の壁を指差して)その辺で。常に人がいる空間だと集中してものづくりできるんですよね。

── おお、早速ありがとうございます(笑)では、そのお話は別途詳しく話しましょう!レジデンスに入る人がedalab.とコラボする日が来たら嬉しいです!

偏愛や衝動を中心に据えたレジデンスプログラム「Counterpoint」

FabCafe Kyotoでは、好奇心と創造性に突き動かされた不可思議なプロジェクトのための、プロジェクト・イン・レジデンスを開始します。もし今「これ、すごく面白いんだけどきっと社会にとって役立たないかも」と思っていることがあったら、まずは私たちとシェアしてみませんか?興味のある方は、ぜひこちらからお申し込みください。

浦野 奈美

Author浦野 奈美(マーケティング/ SPCS)

大学卒業後ロフトワークに入社。渋谷オフィスにてビジネスイベントの企画運営や日本企業と海外大学の産学連携のコミュニティ運営を担当。2020年にはFabCafe Kyotoのレジデンスプログラム「COUNTERPOINT」の立ち上げと運営に従事。また、FabCafeのグローバルネットワークの活動の言語化や他拠点連携の土壌醸成にも奔走中。2022年からは、自然のアンコントローラビリティを探究するコミュニティ「SPCS」の立ち上げと企画運営を担当。大学で学んだ社会保障やデンマークのフォルケホイスコーレ、イスラエルのキブツでの生活、そして、かつて料理家の森本桃世さんと共催していた発酵部活などが原体験となって、場の中にカオスをつくることに興味がある。

Profile

Next Contents

街の緑、食品ざんさ……都市の「分解」を可視化する。
「分解可能性都市」展示レポート