FINDING
小川 敦子 2020.12.22

これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。
vol.1めぐりの回復

めぐる めぐる

“もし、私たちが、人間性にあふれた世界に存在することができれば、一体何を実現できるだろう。”

(『ティール組織』フレデリック・ラルー著, マーガレット・ウィートリー&マイロン・ケルナー=ロジャーズ「もっとシンプルな方法」より著者抜粋, 鈴木立哉訳, 栄治出版社, 2018年)

連載企画「めぐるめぐる」について

いろいろなことが根底から覆された、2020年。「私たちは、一体、どこに向かっていくのか」。一人ひとりが「今」と「これから」を問い直す時期に来ています。

このパンデミックによって、最も変化を強いられたのは、人と人とのコミニュケーションのあり方でしょうか。直接会って、人と人との温度感を感じながら直接対話することがままならなくなり、それは、私たちの心のあり様にも、生き方にも、大きな影響を与えました。

個人としてはもちろんのこと、組織というチームをどのように維持していくのかという問題にも、それぞれの企業が直面せざるを得なかったと思います。

コミニュケーションを大前提とする、ひとつの集合体としての企業・組織をこの状況下で、どうやってチームとして、まとめていくのか組織をマネジメントしていくのか組織力をどのように上げていくのか

また、逆説的にはなりますが、そもそも円滑なコミニュケーションを社内で取ることが出来ていたのだろうかコミニュケーションの取り方そのものを見直したチームリーダーの方々、人事担当者の方々も多かったのではないでしょうか。

この連載は、「これからの組織のあり方を共に考える。共に創る。」をテーマに、全6回に渡りお届けいたします。連載を担当するのは、ロフトワーク京都のプロデューサー小島和人とアートディレクター小川敦子です。それぞれが中小企業を中心に、ブランディング、新規事業立案、イノベーション改革という命題に応え、クライアント企業と共に並走してきた2人です。

変化はチャンスと捉え、ぜひ、私たちロフトワークと共に、これからの新しい組織ブランディングーインナーブランディングについて考えてみませんか。

1回目の連載の担当は小川です。組織を創ることは、チームでひとつの「道」を創るようなもの、だと思っています。

Illustration:サン

小川 敦子

Author小川 敦子(アートディレクター)

ロフトワーク京都 アートディレクター。1978年生まれ。百貨店勤務を経て、生活雑貨メーカーにて企画・広報業務に従事。総合不動産会社にて広報部門の立ち上げに参画。デザインと経営を結びつける総合ディレクションを行う。その後、フリーランスのアートディレクターとして、医療機関など様々な事業領域のブランディングディレクションを手掛ける。そこにしかない世界観をクライアントと共に創り出し、女性目線で調和させることをモットーにしている。2020年ロフトワーク入社。主に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を軸としたコーポレートブランディングを得意領域とし、2021年より経産省中部経済産業局、大垣共立銀行が中心となりスタートした、東海圏における循環経済・循環社会を描く「東海サーキュラープロジェクト」のプロジェクトマネージャーを担当。

Profile

関連記事:連載 めぐるめぐる

vol.1 めぐりの回復

これからの組織のあり方について考えたとき、ぼんやりと頭に浮かんできたのは、岡倉天心の「茶の本」だった。

「茶の本」は、東洋文化の背景にある「茶の心」について、欧米の知識人に向けて、分かりやすく伝えるために平易な言葉で書かれたものだ。非常に奥が深く、一つひとつの言葉から多様に解釈することができる。茶心を通して、天心が本当に伝えたかったことは何かーページを開くたびに感覚が刺激され、イマジネーションが掻き立てられる。

「茶の本」には、「現代に失われた人間性を取り戻す」という壮大なテーマが根本にある。茶道という「道」を通して、他人に対する思いやりの深遠さ、社会秩序の観念、生き方を学ぶ。一杯の茶を通して、それぞれの不完全さを認め合い融合する。一碗の中で人間性が調和し合う。

 “ The cup of humanity = 人間性の一碗 ”  

ありのままに受け入れ合い、認め合うことで、「道」がつくられていく。一杯の茶をヒューマニティーと表現し、人間の心にこそフォーカスを当てた、天心。これだけの美意識の持ち主が、「技より精神、技術よりも、人そのものに感動する」と言い切ることに、私はいつも深く感動を覚えるのだ。

あらゆる価値観をどのように一体化していくのか-。

組織をつくることは、「道」をつくることでもある。あらゆる人の想いも、願いも、苦しさも、人生も、それぞれの物語をつまびらかにしながら、全てを受け入れ、調和していく。不完全さを受け入れ合い、認め合い、めぐりを取り戻す。

そして、調和の中から共通する文脈を探り当て、ひとつの方向に向かって、チームで歩んでいく。歩みの先には、一本の「道」がある。

組織って、そもそも、何なんだろう?

この連載を始めるにあたり、手探り状態で行き着いたのが、岡倉天心の「茶の本」でした。

今でこそ、禅やマインドフルネスという言葉が企業人の間で当たり前のように飛び交うようになりましたが、「茶の本」が書かれたのは、今から約100年以上前のこと。「茶」を通じて、禅のおおもとにもなった「道教ータオの精神」について書かれており、天心の調和の精神に満ちた世界が繰り広げられています。世界各国でもいまだに大きな反響を得ており、それぞれのマインドにも深く影響を与えています。(原文は英語で書かれています)

この本が書かれた背景にあるのは、第一次世界大戦後の社会。西洋的な合理主義と東洋的なスピリットの世界が真っ向から対立していた時代です。対立ではなく、調和する。認め合う。「人間性の一碗」という言葉には、西洋の良さも、東洋の精神にも非常に理解が深かった天心だからこその「平和への願い」が現れています。

組織を本当の意味でまとめ上げていくには、戦略的なビジョンを創るよりも前に、それぞれが納得のいくまで話し合い、お互いを知り、認め合うことで「心の価値観ーマインドアイデンティティ」を共通の認識として確認し合うことです。社内での共感を得ることが出来なければ、どんなに新しい事業を産み出そうにも、机上の空論になってしまう。

まずは、チームのめぐりを取り戻すことがとても大切です。

次回は、具体的にチームのめぐりをどうやったら取り戻すことができるのかについて、お届けしたいと思います。

*参考文献
『茶の本』岡倉天心著, 立木智子訳, 淡交社, 1994年
『ティール組織』フレデリック・ラルー著, 鈴木立哉訳, 英治出版, 2018年

Member

小川 敦子

株式会社ロフトワーク
アートディレクター

Profile

小島 和人(ハモ)

株式会社ロフトワーク
プロデューサー / FabCafe Osaka(仮)準備室

Profile

Keywords

Next Contents

The KYOTO Shinbun’s Reportage
京都新聞論説委員が見る京都ルポ「課題の価値」