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後閑 裕太朗, ケルシー・スチュワート, 木下 浩佑, 浦野 奈美 2021.06.22

世界90都市でSDGs実践の「第一歩」に取り組むワークショップ
「Global Goals Jam」とは?

2015年に国連で採択された、人間と地球が継続的に繁栄していくための目標、SDGs(Sustainable Development Goals,持続可能な開発目標)。近年ではビジネスシーンにおいても頻出のホットワードとなっています。

しかし、概念としてSDGsを理解できたとしても、いかに事業と接続するかという課題に向き合った際、具体的に何から始めれば良いのでしょう。企業としては判断が難しく、手探り状態にあるといったケースも多いのではないでしょうか。また、個人においてもSDGsに対する理解が十分か自信がない、どうやって実践していけばいいのかまるでイメージがつかない、という方も少なくないはず。

そのような方々に SDGs実践の「第一歩」として是非知っていただきたいのが、「Global Goals Jam」という取り組みです。

後閑 裕太朗

Author後閑 裕太朗(マーケティング)

群馬県出身。学生時代、雑誌制作やWebメディアの企画営業インターンを経て、クリエイティブな活動の種となる情報発信に関心を持ち、2021年に新卒でロフトワークに入社。以降、コーポレートサイト「Loftwork .com」内のマーケティングコンテンツの企画・編集やセミナーの企画運営を担当。複雑化する価値を社会に伝えるべく、さまざまな施策に取り組んでいる。

Profile

Global Goals Jam(以下、GGJ)は、デザイン思考を用いたSDGs実践のためのワークショップ。なかでも注目すべきは、誰でも参加可能という点です。SDGsやデザイン思考について深い見識がない人でも、独自のツールを使ってSDGs実践のプロセスを体験できます。

自ら語り、手を動かすワークショップとプロトタイピングを通じて、SDGsの概要を理解し、自分ごととして捉えるきっかけづくりが可能です。さらに、特定のテーマに関心の高い、もしくはアクションを起こしたいと考えている人たちのコミュニティとつながれます。

Global Goals Jam(GGJ)とは

では、GGJとは具体的にどのような取り組みなのか、まずはその概要から見てみましょう。

SDGsの目標は「2030年までに持続可能な開発目標を達成すること」。GGJは、この目標達成に向けた2日間の市民参加型ワークショップです。2016年、アムステルダム応用科学大学 Digital Society School と国連共同開発計画(UNDP)によって共同で創設され、UNDPの公式プログラムとして認定されています。

GGJではSDGsで提示されている17の目標の中から、開催地域ごとに3つのテーマが選ばれ、参加者たちは対象のテーマにおける課題解決のためのサービスを、計4回のデザインスプリント*の中でアイディエーションしていきます。

デザインスプリント:高速でプロセスを回すことで、アイデアを検証するプログラムのこと。GGJでは1つのスプリントを3〜4時間で実施し、リサーチからブレインストーミング、プロトタイピング、テスト、共有までを行う。

GGJの大きな特徴は、世界中で同時に開催されることにあります。2016年の初回は世界17都市で開催されていましたが、今では世界約90都市で同時に開催される、大規模なワークショップとなっています。このように世界各地で開催することで、各地域でのローカルな視点を掛け合わせることをねらいとしています。

そして、誰でも参加できるゆえに参加者のバックグラウンドも多様です。デザイナーやクリエイター、プログラマーをはじめ、研究者から小さな子供まで、幅広い年齢・立場の人々が参加。さらにはメイカー*やデザイナーを巻き込むことで、アイデアをアイデアのままで終わらせるのではなく、すぐにプロトタイピングを実行し、実装につなげやすい設計となっています。

また、オフィシャルプログラム以外にもスピンオフの取り組みとして、大学や企業におけるSDGs教育プログラムとしてコラボレーションイベントが開催されています。

メイカー:デジタル機器を用いて物作りをする個人の俗称。2010年にクリス・アンダーソンが自著『MAKERS』において、デジタルファイルやCAD、3Dプリンターなどを使ったものづくり(digital fabrication)の新しい潮流として「メイカームーブメント(Maker Movement)」を提唱したことに由来する。

世界同時に、多様なメンバーでのプログラムを成功させるポイントとは?

GGJの理念は「Think BIG, Start SMALL, Act FAST(世界的な規模で考え、できることから小さくはじめ、早く行動に移す)」。では、このポリシーをどのように実践しているのでしょうか。そもそも、世界同時かつ多様なメンバーでワークショップをすることは、言葉にするのは簡単でも、プログラムとして成功させるのは容易ではないように見えます。ここからは、GGJのプログラムを成功させるための4つのポイントを紹介します。

フラットな対話を生み出す共通言語、”Jamkit”

参加者の多様性の輪が大きくなるほど、前提としてそれぞれが持っている知識・経験・文化は大きく異なります。すると、ワークショップの目的も議論内容もバラバラになり、アイデアがまとまらないリスクも高くなります。そこで、GGJでは「Global Goals Jamkit」というツールを用いています。

このキットが持つ役割は、いわば「共通言語」。GGJではデザイン思考のアプローチを通じた課題解決を図りますが、このキットがあれば仮にデザイン思考のやり方を知らなくても、自然とそのアプローチをなぞり、質の高いコミュニケーションを通じてアイデアを創発できます。

また、キットは誰にでも扱えるものなので、参加者の間で知識の有無によるヒエラルキーが生まれにくくなります。これによってグループワークショップで陥りがちな「立場の強い人の意見が採用されやすくなる」状態を避け、誰もが平等にアイデアを提案することができるのです。このJamkitの存在により、「誰でも参加できること」と「デザイン思考の活用」という両軸が整ったワークショップを実現しています。

ローカルからグローバルへ、アイデアをボトムアップ

世界の都市で同時に開催されるGGJ。しかし、決して世界全体で答えを完全に統一しようとしているわけではありません。ワークショップの3つのテーマは各都市の主催者が決めますが、地域によって文化も抱える課題も異なります。すると、仮に同じテーマを選んでいたとしても必然的に生まれるアイデアは千差万別となります。

GGJでは、このローカライズされたアイデアや新たな企画を尊重しつつ、他地域とアイデアをつなげていくことで、ボトムアップ式にグローバルな社会課題を解決することをねらいとしています。その手段として機能しているのが、GGJのSlackワークスペースです。世界中の参加者と運営者の計700人ほどが所属しているこのSlackでは、各地で生まれた成果やプロセスをオープンソース化し、ナレッジを蓄積しています。

このように、GGJのアプローチはローカルに限定することも、グローバルを画一的に捉えることもありません。いわばローカルとグローバルの相互作用によってSDGs達成を目指しているのです。

イベント後も、アイデアが生き続けるコミュニティ

ローカルな視座でみると、ワークショップを通じて参加者同士でSDGsの実装意識を高めあった結果、その地域で SDGsに取り組んでいるコミュニティに加わったり、新しいコミュニティが形成されたりすることもあります。メイカーやデザイナーを巻き込んだコミュニティは、長期的な開発や社会実装をも視野に入れることができます。こうしたつながりによって、「何をすればいいかわからない」という個人の悩みから、「みんなでこうしていこう」という集団の行動へと変化していきます。

このように、ワークショップの先にローカルなコミュニティが接続していることで、2日間で醸成されたアイデアや意識変容がイベント後も「生きる」仕組みになっているのです。

ひとりひとりの行動変容を促す

ただ、 SDGsについて議論するワークショップというと、どうしてもハードルが高いように思えます。有意義なアウトプットを出せる気がしないから、何が得られるのか明確でなく不安だから、という理由で敬遠してしまうこともあるはずです。

しかし、GGJではアウトプットの品質の良し悪しは大きな問題としていません。むしろ、重要なことは参加者自身がテーマ課題について主体的に考え、手を動かしながらアイデアを形にする経験そのものにあります。これは、ニュースを通して知るだけでは実感できない「手のひらサイズのSDGs」であり、この経験を通して、自分・自社の場合はどうするか、と自分ごととして考え、実践していく。その行動変容こそがGGJのねらいです。

さらに、キットを用いた思考法はデザイン思考のアプローチそのものであるため、ワークショップを通じて手を動かすことが、結果的にデザイン思考のトレーニングにも繋がっています。

GGJ TokyoとFabCafe

FabCafeは、2017年からGGJ Tokyoのオーガナイザー(主催者)となり、2018年からはFabCafe Tokyo CCOのケルシースチュワートがその運営を担当しています。また、オフィシャルプログラムの企画・運営を行うだけでなく、東京近郊のエリアでサステナビリティについて考え、行動を起こす人々とのコミュニティを形成しています。

FabCafeにはレーザーカッターや3Dプリンターといったツールがあり、ワークショップ内で提案されたアイデアを、その場ですぐプロトタイピングできます。アイデアをアイデアのままで終わらせない、まさにGGJの「Act Fast」の姿勢を実践できる環境が備わっているのです。さらに、GGJ主催団体では世界初の取り組みとして、FabCafeの関連サービスであるオンラインプラットフォーム『AWRD』を通じて、GGJのワークショップから生まれた60以上のアイデアをオンラインで共有しています。アイデアをオープンソース化するうえで、ロフトワーク自身が持つコミュニティを活用しています。

https://awrd.com/award/ggj-tokyo2019/works

このように、FabCafe自体がアクションを醸成する場として常に機能していることで、 GGJを一過性のワークショップではなく、実装やコミュニティ形成まで接続可能な、 プロジェクトの起点とすることまで引き上げているのです。

過去のGGJ Tokyoで実際にビデオプロトタイプが作成された「YOLO Truck」。
SDGsの目標の一つ、「持続可能な都市とコミュニティ」をテーマとしたYOLOトラックは、さまざまなプロジェクトや社会実験に関わるイベントの現場に赴き、コミュニティが環境衛生問題を解決する際のサポートを行うトラック。大気汚染データを収集し、無料の大規模な公共データベースにアップロードするYOLOアプリというツールなどが搭載されています。

国内・国外での取り組み

GGJのグローバルな思想に共鳴するように、FabCafeによるGGJの取り組みは、東京に限らず他拠点でも始まっています。FabCafe Kyotoでは、2018年から京都産業大学情報理工学部伊藤慎一郎 研究室 とともにGGJ Kyotoをスタート。さらに同年、FabCafe HongKongでもGGJ  HongKongが開催されました。

直近のGGJであるGGJ 2020でも、FabCafeは東京・京都・香港の3拠点でのオーガナイザーを務め、完全オンラインの新たな形式でワークショップを実施。オンラインゆえの負担を考慮し、雑談やヨガの時間を設けるなど、柔軟な企画運営を行いました。

特に京都では、オンラインの特性を活かし京都産業大学 情報理工学部 伊藤慎一郎 研究室・九州大学大学院芸術工学院との共催で、両地域を結ぶ「GGJ Kyoto × Fukuoka」を開催。本イベントではプロジェクトオーナー制を採用し、既存の取り組みからGGJのテーマに関連した「問いかけ」を募集、課題解決のためのアイディエーションを行いました。

まずは、参加してみましょう

GGJは、SDGsを自分ごとにするための工夫が詰まったプロジェクトです。SDGsという概念に対して、自分がどうコミットするのか今は想像がつかないという方でも、ワークショップに参加してみることで、いずれ事業につなげていくための「第一歩」につながるはずです。

 SDGsは、ただ情報を眺めているだけでは達成されません。ワークショップとプロトタイピング、そして熱意あるコミュニティとのつながりを通して、SDGsをぜひ自分の肌で感じてみてください。

FabCafeでは、GGJ Tokyo・Kyotoのオーガナイザーとして、皆様のご参加をお待ちしています。

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