#11 FabCafe Globalの育て方
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)
全世界に10拠点、そのはじまり
今、「FabCafe」は世界10店舗にまで広がっている。2012年に、最初のFabCafeを渋谷につくってから7年。2013年に台北、2014年にバルセロナ、2015年にバンコクとトゥールーズ(フランス)、2016年に飛騨、シンガポール、ストラスブール(フランス)、2017年に京都、2018年にはモントレー(メキシコ)と、着々と店舗が増えている。すごいことだ。
ちなみに渋谷でFabCafeをオープンしたとき、決めていたことがある。「この事業はグローバルビジネスにしよう」。どう動けばいいのか、道筋がハッキリ見えていたわけではない。でも2店舗目は日本以外で、それだけは決めていた。
熱意あるプレゼンから、グローバル展開への道がひらけた
FabCafe Tokyoをオープンして間もないある日のこと。TEDx Tokyoに訪れた人たちが、「噂のカフェはここか」と訪ねてきてくれた。その中に、台湾で都市計画をやっているティム(Tim Wong)も含まれていた。彼はFabCafe Tokyoを視察し、熱のこもった声で私たちに言った。
「まさに僕がやりたかったこと。カフェの価値はコーヒーを出すことじゃない。コミュニティをつくることなんだ! FabCafeを台北にもつくらせてくれないか?」
ティムのプレゼンは素晴らしかった。正直、創業者の私たちより上手に、FabCafeの価値を言語化していた。「つくる」を、もう一度取り戻す。私たちは「消費者」である以前に、つくり手なのだ。私たちは、2店舗目のFabCafeを台北につくることにした。
そしてこの出店を機に、グローバル展開の話は次から次へと、するする進んでいくことになる。
私たちは「どこに出店したいか」と国や街を選んできたわけではない。実際「ぜひわが街にFabCafeを!」と数々のオファーもいただいたが、GOサインを出すことはできなかった。
FabCafeをグローバル展開するうえで大事にしてきたのは、「その街に誰がいるのか」。そして「その人はクリエイターの友だちが100人いるか」。ものづくりをする友人が100人いたら、お店一軒は維持できる。そんな考えのもと、ニューヨークでもロンドンでもなく、モントレーや飛騨にオープンすることができたのだ。
ビジネスは各国それぞれ、コミュニティや情報はオープンに
2店舗目をオープンした段階で、私たちは「Playbook」の作成に着手した。カフェ運営のルールやマニュアル、活動を制約する契約書ではない。FabCafeで生まれる“体験の価値”を、どう体現してもらうか。その根本的な部分をシェアするための資料である。
Playbookには、朝、昼、夜それぞれのシチュエーションで、FabCafeですごす人の「体験」をストーリーとしてつづった。どんなコミュニティと親和性が高いかも示している。これが、グローバルに価値共有したはじめての事例となった。
Playbookで示した体験価値が共通のものであれば、あとはそれぞれの国や街の文化によってローカライズされていけばいい。実際、建物のつくり方も、フードやドリンクのメニューも、運営の仕方も各国さまざまだ。それでいい。
ただ一つだけ、グローバルな運営ルールがある。それはコミュニティのつながりや情報をシェアすることだ。
各店舗で生まれた面白い取り組み、イノベーティブなアイデア、人との出会い。それらがFabeCafe Globalの中でシェアされ、海を越えたクリエイティブの流通につながっている。
次の挑戦――?
世界10拠点のFabCafeで培われたコミュニティをベースに、ロフトワークがさらにクリエイティブなしかけや、新たなビジネスをデザインしていきたい。まずはグローバルアワード「YouFab」を、次のステージへ。
【連載目次】「ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー」
- #00 はじめに
- #01 デザインとクリエイティブ
- #02 付箋と民主主義
- #03 デザインは、量より質?
- #04 「わからない」が面白い
- #05 場が働き方をつくる
- #06 折り紙付き採用
- #07 合宿のススメ
- #08 その人にしかできない仕事を
- #09 きっかけは他者にある
- #10 FabCafeのつくり方
- #11 FabCafe Globalの育て方
- #12 飛騨の森でクマは踊るか
- #13 2020年代を生きるということ
- #14 ロフトワークの未来、どうしていこう?
- #15 ダイバーシティとどう向き合う?
- #16 「プロジェクトマネジメント」の技術をどう伝える?
- #17 「人とのつながり」をどうつくる?
- #18 おわりに
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