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林 千晶 2019.10.07

#11 FabCafe Globalの育て方
(ドーナツの穴 ー創造的な仕事のつくり方ー)

全世界に10拠点、そのはじまり

今、「FabCafe」は世界10店舗にまで広がっている。2012年に、最初のFabCafeを渋谷につくってから7年。2013年に台北、2014年にバルセロナ、2015年にバンコクとトゥールーズ(フランス)、2016年に飛騨、シンガポール、ストラスブール(フランス)、2017年に京都、2018年にはモントレー(メキシコ)と、着々と店舗が増えている。すごいことだ。

ちなみに渋谷でFabCafeをオープンしたとき、決めていたことがある。「この事業はグローバルビジネスにしよう」。どう動けばいいのか、道筋がハッキリ見えていたわけではない。でも2店舗目は日本以外で、それだけは決めていた。

熱意あるプレゼンから、グローバル展開への道がひらけた

FabCafe Tokyoをオープンして間もないある日のこと。TEDx Tokyoに訪れた人たちが、「噂のカフェはここか」と訪ねてきてくれた。その中に、台湾で都市計画をやっているティム(Tim Wong)も含まれていた。彼はFabCafe Tokyoを視察し、熱のこもった声で私たちに言った。

「まさに僕がやりたかったこと。カフェの価値はコーヒーを出すことじゃない。コミュニティをつくることなんだ! FabCafeを台北にもつくらせてくれないか?」

ティムのプレゼンは素晴らしかった。正直、創業者の私たちより上手に、FabCafeの価値を言語化していた。「つくる」を、もう一度取り戻す。私たちは「消費者」である以前に、つくり手なのだ。私たちは、2店舗目のFabCafeを台北につくることにした。

そしてこの出店を機に、グローバル展開の話は次から次へと、するする進んでいくことになる。

私たちは「どこに出店したいか」と国や街を選んできたわけではない。実際「ぜひわが街にFabCafeを!」と数々のオファーもいただいたが、GOサインを出すことはできなかった。

FabCafeをグローバル展開するうえで大事にしてきたのは、「その街に誰がいるのか」。そして「その人はクリエイターの友だちが100人いるか」。ものづくりをする友人が100人いたら、お店一軒は維持できる。そんな考えのもと、ニューヨークでもロンドンでもなく、モントレーや飛騨にオープンすることができたのだ。

ビジネスは各国それぞれ、コミュニティや情報はオープンに

2店舗目をオープンした段階で、私たちは「Playbook」の作成に着手した。カフェ運営のルールやマニュアル、活動を制約する契約書ではない。FabCafeで生まれる“体験の価値”を、どう体現してもらうか。その根本的な部分をシェアするための資料である。

Playbookには、朝、昼、夜それぞれのシチュエーションで、FabCafeですごす人の「体験」をストーリーとしてつづった。どんなコミュニティと親和性が高いかも示している。これが、グローバルに価値共有したはじめての事例となった。

Playbookで示した体験価値が共通のものであれば、あとはそれぞれの国や街の文化によってローカライズされていけばいい。実際、建物のつくり方も、フードやドリンクのメニューも、運営の仕方も各国さまざまだ。それでいい。

ただ一つだけ、グローバルな運営ルールがある。それはコミュニティのつながりや情報をシェアすることだ。

各店舗で生まれた面白い取り組み、イノベーティブなアイデア、人との出会い。それらがFabeCafe Globalの中でシェアされ、海を越えたクリエイティブの流通につながっている。

次の挑戦――?

世界10拠点のFabCafeで培われたコミュニティをベースに、ロフトワークがさらにクリエイティブなしかけや、新たなビジネスをデザインしていきたい。まずはグローバルアワード「YouFab」を、次のステージへ。

林 千晶

Author林 千晶(ロフトワーク共同創業者・相談役/株式会社Q0 代表取締役社長/株式会社 飛騨の森でクマは踊る 取締役会長)

早稲田大学商学部、ボストン大学大学院ジャーナリズム学科卒。花王を経て、2000年に株式会社ロフトワークを起業、2022年まで代表取締役・会長を務める。退任後、「地方と都市の新たな関係性をつくる」ことを目的とし、2022年9月9日に株式会社Q0を設立。秋田・富山などの地域を拠点において、地元企業や創造的なリーダーとのコラボレーションやプロジェクトを企画・実装し、時代を代表するような「継承される地域」のデザインの創造を目指す。主な経歴に、グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会、「産業競争力とデザインを考える研究会」など。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す、株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)取締役会長も務める。

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