FINDING 柳川 雄飛 2020.10.29

ワーケーションは、どこで働くのが一番効率的で幸福かを考えた結果
――人生100年時代に解放される新しい働き方とは

日常から離れて仕事に勤しむ。文学界を彩った昭和の文豪たちが「缶詰」といって旅館にこもり、原稿を書き上げたそのワークスタイルが、今大きくアップデートされてビジネスパーソンに取り入れられています。「ワーケーション」です。

「work」と「vacation」を合わせた造語である「ワーケーション」のプログラムが、この秋よりロフトワークと富士吉田市、富士吉田市のゲストハウスSARUYA HOSTELの共同プロジェクト「SHIGOTABI」としてスタートします。今回は、そのプログラムを紐解くコンテンツシリーズの第一弾として、働き方や働く場所の調査・研究を行う関西大学の松下慶太教授に、同プロジェクトのプロデューサー 柳川雄飛がお話を伺いました。

コンセプトは「追加」ではなく「重ねる」

――「SHIGOTABI」プロジェクトが行われる富士吉田には素晴らしい景色があり、ゲストハウスに宿泊しながら仕事をし、たまにハイキングなどのアクティビティも楽しんで……という働き方ができます。ただこれは初めて出てきた話ではないと思っていて、新型コロナで「移動」の価値が変わった今改めて、観光とは少し違う文脈で「地域」への注目が集まっている気がします。そもそもワーケーションとはいつ頃からどう話されてきたのでしょうか?

松下慶太(以下、松下) ワーケーションが語られる文脈の大きな変化は、モバイルPCの登場によって起きました。仕事場が物理的に制限されなくなり、2000〜2005年頃にかけてオフィスではない場所で働く「ノマド」と呼ばれる人たちが出てきました。ワークスタイルでいうとそうした「ノマド」、都市で働く場を「コワーキングスペース」、そして都市ではなく快適であったり、エクストリームな場所――国立公園やリゾート地のような場で働く様式が「ワーケーション」。そんな言葉で表現されるようになりました。

でも実践者自身が名乗っているわけではなく、2015年に経済紙「The Wall Street Journal」で「workation」という単語が出てきた。メディアが彼らをそう呼称したんですね。当事者にとっては単にライフスタイルだけど、周りからするとワークスタイルとして語られだしたわけです。

――オフィスを構えず自宅やカフェで作業しているような、これまで生活と地続きな働き方をしていた人のワークスタイルが変化した、ということでしょうか?

松下 そのタイプは言うなれば「都市型のノマド」で、「コワーキングスペースで働く人」と捉えます。今日のテーマである「ワーケーション」はあくまでもバケーション(休暇)との組み合わせです。欧米の休暇って何週間もありますよね。ワーケーションの極端な例は、欧米人が長期間東南アジアを巡りながらマーケティングの仕事をするようなスタイル。コワーキングスペースの広がりは背景としてはありますが、都市部のコワーキングとは別の文脈のものと考えてもよいでしょう。

今までも、出張前後に休みを合わせてとることを、出張(Business)と休暇(Leisure)をあわせた「ブリージャー(Bleisure)」と呼ばれるものがありました。そのコンセプトは仕事に休暇を「追加」することですが、ワーケーションは仕事と休暇を「重ねる」というのがひとつのポイントですね。
私は、ワーケーションのことを「休暇中に仕事をする、あるいは仕事を休暇的な環境で行うことで取得できる休み方であり働き方」と捉えています。個人が休暇中にリモートワークやテレワークをする「Work in Vacation」と、企業やチームで非日常空間に移動して合宿や研修を行うような「Vacation as Work」に分類しています。

“コミュ力”に関係なく創造性を発揮できる場

――ロフトワークは、クライアントと集中して議論を進めることが必要な時は、合宿形式でワークショップをしたりプロトタイピングを行ったりします。ただ今回新型コロナの影響で直接会うのは少人数にとどめ、オンライン/オフライン混在で開催しました。すると、お互いの雰囲気が掴みきれないため、いい意味で空気を読まない発言があったりする一方、発言しづらいという声もあるのでオンオフ混在状態は難しかった。チームにテレワークの人が混在することは今後増えていくと思いますが、こうした課題解決の実例はありますか?

▶︎松下慶太:1977年、兵庫県神戸市生まれ。京都大学文学部・文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員を経て、2008年に実践女子大学人間社会学部専任講師として着任。2012年より同准教授。2020年4月より関西大学社会学部教授。専門はメディア論、都市論、コミュニケーション・デザイン。近年はモバイルメディア・ソーシャルメディア時代におけるワークプレイス・ワークスタイル、渋谷における都市文化に関する調査・研究を進めている。また企業や地域との連携プロジェクト、産学連携PBL(Project Based Learning)などアクティブ・ラーニングも積極的に展開している。著書にコワーキングスペースやワーケーションなどを取り上げた『モバイルメディア時代の働き方 拡散するオフィス、集うノマドワーカー』(勁草書房、2019)。

松下 まだ企業は探っているところだと思いますが、学生からいい変化が見えてきています。「オンラインだから発言しやすくなった」という学生は確実にいます。
これまで、就活において「コミュ障(コミュニケーションが苦手な人)」や「非リア充(リアルな生活が充実していない人)」であることは障壁でした。しかし、オンラインの採用面接をするようになった今、コミュニケーション力がある人/ない人、リア充/非リア充といった2象限ではなく、4象限で捉えられるようになってきた。

オンオフ関係なくリア充の人の人もいれば、オンラインでいつもの威力を発揮できないリア充もいますし、密かにチャットを盛り上げ、オンラインだと水を得た魚のようになる非リア充の人も、そのまま非リア充の人もいる。企業における従業員のコミュニケーションの性質や傾向もきっと同様の変化があるでしょう。オンオフ混在の時は、そうした個人の特性も丁寧に見ていくといい気がします。

――テレワークでは、場所が変わったことに対して回線や労務管理といったハード面で対応するだけでなく、どういうコミュニケーションが適切かを見ることが大事なんですね。

松下 オフライン、オンラインと画一的に捉えるべきではなく、両方をハイブリッドにした戦略を立てていくにはどうすればいいか。みんながチームとしてクリエイティビティを発揮できる仕組みをどうつくるか、というのは多くの企業がいま向き合っている課題なのではないでしょうか。これはクライアントとのプロジェクトや、採用でもいえることだと思います。

必要なのは、刺激と癒しと、土地と重なる物語

――松下先生は、「日本型ワーケーション」についても語っていますね。

松下 日本と海外では、自主性と地域との関わり方が大きく異なります。海外におけるワーケーションの特徴のひとつは、ワーカーが自分のライフスタイル、ワークスタイルとして能動的に動くことです。企業が制度をつくり促したり、地域がワーケーションをお題目に誘致したりすることがあまりないんです。フリーランス人口が多いというのはあると思いますが、勤め人もバケーションで現地に行って、どのように休むか、活動するか、仕事するかを自分なりのスタイルで決めています。

もうひとつ、海外はワーカー同士のつながりやコミュニティがあるのに対して、現地の人を含めたコミュニティはあまりありません。例えばワーケーションで人気のバリ島では、インドネシア人の人も一緒にコワーキングスペースでワークしていることってほとんど見られないです。そういった意味で、外来者が中心のコミュニティになっている。

バリ島・ウブドにあるコワーキングスペース「Hubud」の様子。バリ島らしく竹を使った設え。

一方日本におけるワーケーションは、まず地域と馴染もうとしたり、「せっかく◯◯に来たならあれをやりたい」と場所に紐づいた交流や活動を考えることが多い印象です。海外のノマドの人は、その土地の特性云々よりも、動いていること自体がライフスタイルであって、「今日どこいく?」というやりとり自体はありますが、それは場所そのものであって、その地域の人びととの活動や交流についての情報がやりとりされることはそれほど多くはありません。

例えば企業合宿の話でいうと、アメリカで2〜3人でスタートアップをする場合、サンフランシスコでオフィスを構えるより、数ヶ月間バリ島で開発してきた方が安く済むわけです。そういうコストメリットの観点でワーケーションする人もいます。

――地域ありきで考えがちな「日本型ワーケーション」において、その地域が向いている・向いていないということはあるのでしょうか。

松下 地理学者のY.F トゥアンは「田園-都市」が対極に置かれがちだが、「田園」は「生の自然」ではなく人工物であり、対極に置かれるべきは「原野-都市」であるというコンセプトを提示しました(*)。この関係性をもちいるならば、オフィスがある「都市」が日常である場合、その非日常は「原野」といえます。かといって、ワーケーション先がまっさらな原野だったらどうでしょうか。おそらく多くの人は、非日常への羨望を抱えつつも「とはいえコンビニくらいは……」という感覚があるのではないでしょうか(笑)。
私は、人々がワーケーションに求めるものは、刺激と癒しだと思っています。原野までいくと荒々しい刺激しかなく、ほどよい刺激がない。極端ですが、ヒマラヤを見ながら清々しく仕事がしたくても酸素ボンベ背負ってまでは違う、みたいなボーダーラインはあると思います。

(*)『トポフィリア――人間と環境』(せりか書房、1992)

先述の通りワーケーション先としてバリ島は人気で、高地にあるウブド地区や海沿いのチャングー地区でも美味しいピザ店やスターバックスはあるし、通信速度は東京より速いくらいです。ワークするための要素が担保されながら、建物が竹でできていたりオーシャンビューだったりとエキゾチズムがあり、「癒し」の側面もあるところがいいのでしょう。

同じく「Hubud」の中の様子。冷房あり、カフェスペースあり、Wi-Fiもあります。

――商業的なものが主張し過ぎるのは違いますもんね。

松下 また、ワーケーションは重ねる、と言いましたが、その土地がもっている文化や歴史と、今取り組んでいる仕事をストーリーとして重ね合わせられることも大事です。例えばポルトガルのリスボンもコワーキングが徐々に盛んになってきていますが、単にパリ・ロンドンと比べて安いという話ではなくて、「ここは15世紀に大航海時代が始まった場所で、これからの時代はデジタルコロンブスが生まれるだろう」なんて言われるとなんだか面白そうじゃないですか? そういう文脈って大事だなと。
ちなみにこうしたストーリーは行政が語ってもいますが、ノマド当事者が自己肯定のために発している面もあり、この辺りは今後調査したいところです。

評価軸には、生産性だけでなく幸福度も

――ワーケーションは数週間にわたるとなると、家族がいる場合なかなかリアリティがわかない気もします。子育てや介護などの事情があればなおのこと。

松下 ワーケーションを広げようとするなら、そこが課題になるでしょうね。私も4歳の子どもがいますが、仕事の話は置いておいて(笑)、親としてなにか原体験をさせたい気持ちがあります。

大変生々しい話ですが、例えば大学入試でもペーパー試験以外の入試方法が拡大しており、志望動機の背景に原体験があるのはとても大事。単に物理が得意だからとかじゃなく、「幼い頃に富士吉田で見た星の流れに興味がわいた」といった話です。入試だけではなく、研究や卒業後のキャリアでもこうした原体験や好奇心は非常に重要になってきます。予備校の夏期講習でウン十万とお金を使い、塾で缶詰になって机上の学びばかりをするより、私なら子どもにその金額でなんらかの原体験につながる機会をつくりたい。なんなら塾側が、こういう子どもの体験に焦点をあてつつ、親の仕事にも配慮したワーケーションプログラムを企画してくれたらいいのですが(笑)。

まぁ既存のプログラムはまだないと思うので、私が子連れワーケーションをするなら、南の島を行き先にしてウミガメの産卵に立ち会うとかがいいですね。となるとなるべく長期滞在にしたいところですが、日本では長期休暇が取りにくく、短期間のワーケーションで父親もしくは母親が仕事している間に、もう片方が子どもの世話をして、「早く仕事終わらせて!」というプレッシャーにさらされるかもしれない。そんな無理したワーケーションを推奨するのではなく、たとえば企業には育休・産休の延長線上に、子どもの教育支援も含めた福利厚生のひとつとしてのワーケーション制度があってもいいかもしれません。

――育休的にワーケーションをとるとなると、周りの社員からの目線も気になるところです。どういう効果がある、と伝えられるのでしょう。

松下 今多くの企業でテレワークの生産性調査が行われていますが、私は生産性は上がらなくたって変わらなければ素晴らしいことだと思うんです。快適な場所に行き、普段と同様に成果が出せるなら本人にとって幸せじゃないですか。仮に少しパフォーマンスが低下しても、その人の健康度や幸福度が高まるなら、企業や組織への愛着は高まるでしょうし、十分に価値がある。ワーケーションの効果は、生産性だけじゃなく健康や幸福という視点からも捉えることが大事だと思います。

逆に企業への評価項目として、福利厚生や働き方としてワーケーション制度があるかどうかが注目されるかもしれません。例えば実際その制度を使うかどうかは別として、今時育休・産休をサポートしていない企業って、好印象もてますか? 企業の態度としてそれをサポートする気があるかないかというのは、働き方に対するその企業の組織分野や態度を評価するうえで、気になる点にはなると思うんですよ。ワーケーションも同じようなものかと思います。
つまり、優秀な人材を集められないという機会損失の話にもつながる要素なわけです。目先の生産性向上のためのワーケーション導入とはまた異なるパワーフレーズ視点で考えてほしい。従業員や家族の幸福度も含めて、ワーケーション制度を考えないとあまり意味がないと思います。

――今日も台風が近く悪天候ですが、雨風が酷いときに必死で出社しても在宅と生産性が変わらないなら、在宅の方がハッピーですよね。帰れないリスクもあるし、家族や子どもがいたらいろんな調整もある。そんなことまでして生産性が同じなら、テレワークの方が社員もその家族も幸福度が上がります。

松下 災害や事故、花粉症、生理痛や悪阻……個人が背負ってきたコストをテレワークにすることで個人が背負わなくてよくなるって、シンプルにいいことですよね。ワーケーションは趣味のような感じで捉えられがちですが「どこで働くのが一番効率的かを合理的に考えた結果」でもあって。「社会人なら無理してでも出社する」という暗黙の了解や同調圧力によって、“なんとなく個人が負担していたコスト”をどう減らしたり、分配するかということです。

「人生100年時代で長く働こう」というならば、社会人は根性でなんとかしようじゃなく、そうやって効率性を考えることが大事です。コロナ禍の今、3.11の震災の時以上に根性論の古い働き方から解放されつつあると思います。企業のなかで、働き方の選択肢を増やしていくということですね。

構成・文=原口さとみ

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