2020年、あなたはどんな都市で過ごしたい? 都市の視点を学べる9冊
個人のクリエーションを後押しする「Shibuya Hack Project」
2020年開催のオリンピック・パラリンピックに向けて、都市再開発が加速する東京。ロフトワークが拠点をおく渋谷も、文字通り日々景色が変わっています。 ロフトワークも構成メンバーとして活動している「Shibuya Hack Project」は、こうした建造物や道路など目に見える「ハード面」の都市づくりと並行して、都市を構成する大事な要素「カルチャー」をどう生み育み都市をつくるか、というソフト面のアプローチを行っています。
「ボトムアップの都市づくり」「まちに選択肢をつくる」をキーワードに、渋谷を舞台に「もっとこうしたい」「あれをやってみたい」といった個人のクリエーションを後押ししたい!ーーShibuya Hack Projectは、そんな思いでまずは小さく、実験的にいくつかの企画をスタートしました。
渋谷のスキマ空間に新しいステージを設置・開放する「シブヤヒミツクラブ」
道玄坂のど真ん中に家具を置いて人とまちの関わり方をシフトする「Street Furniture」
渋谷で面白い仕掛けをしている人の現場に潜り込み活動を覗き見させてもらう「360°ラヂオ」
リサーチと小さな実験で見えてきた、これからの都市づくり
こうしたプロジェクトは、「新しいカルチャーを渋谷の人々と共創し、都市に多様なカルチャーを受け入れる体力が根付くこと」を目指して企画されています。
その実現には、「住民や商店会の方、行政関係者、オフィスワーカー、そして観光客など様々なステークホルダーそれぞれが都市のことを『自分ごと』として捉えることが重要」と話すのはShibuya Hack Projectプロジェクトマネジャーの石川由佳子。
都市づくりといえば、企業や行政のマスタープランが主導するのが一般的。個人からの「ボトムアップ」で行うという180°の転換は、文字通り手探りで毎回試しながら学びながらの連続なはずですが、一体どうやって企画のアイデアを出しているの? 実行しているの?ーーそんな疑問をディレクターの石川に投げたところ、ベルリン、東日本橋、スケートボード、関東大震災後の日本……いろんなシーンを切り取った、企画の参考本を20タイトル近く(!)推薦してくれました。
都市開発に関わる方はもちろん、開発・企画職の方、何かつくることが好き、音楽やカルチャーが好きという方にも読んでいただきたいラインナップ、一部抜粋してご紹介します!
12月2日(金)開催のイベント「HACK OUR CITY」にてShibuya Hack Projectのプロジェクトメンバーが登壇、プロジェクトにかける思いや企画実施のプロセスをたっぷり紹介します。詳細が木になる方は、ぜひお越しください!
“妄想”だったアイデアをプロジェクトに導いた本
『ツーリズムの都市デザインーー非日常と日常の仕掛け』(橋爪紳也、2015)
日常のなかの非日常が当たり前になるといいな、なんて妄想をしていた時に出会ったという一冊。ドバイや香港など唯一無二のランドマークを躍起につくる巨大都市がある一方、日常のなかに非日常を見出すツーリズムの動きも。「土地を味わうフードデザイン」「コンクリートの詩学」など、目次を眺めるだけでも楽しくなってくる、世界各都市の展開を建築家目線で紹介する事例集。
『クリエイティブリユースーー廃材と循環するモノ・ヒト・コト』(大月ヒロ子/中台澄之/田中浩也/山崎亮/伏見唯、2013)
クリエイティブリユースとは、スイスのバッグブランドFREITAGに代表されるように、一度は不要と思われた“ゴミ”から新たなものを生み出すという動き。この拠点となる場所は、おしなべて居心地がよく、アートやデザインによって人々が生き生きしているそう。「クリエイティブを促進する場のつくり方を探っていた時に出会った本。まちの資産の転換の仕方を学びました」
『RePUBLICーー公共空間のリノベーション』(馬場正尊+OpenA、2013)
『PUBLIC DESIGNーー新しい公共空間のつくりかた』(馬場正尊+OpenA、2015)
『エリアリノベーションーー変化の構造とローカライズ』(馬場正尊+OpenA、2016)
やるべきこと、やりたいこと、それらを実行するための思考態度や舞台裏での動き方……。都市づくりのプレイヤーがまず最初に読み、自分のスタンスを定めるのにおすすめの一冊。
プレイヤーとしての振る舞いのバランスやブレイクスルーのポイントを、OpenAや公共R不動産で知られる馬場さんがリアリティあふれる事例と独特で豊かなボキャブラリーで解説しています。石川いわく「馬場さんの言葉で、まだイメージがぼやけていたアイデアが腹落ちした!」とのこと。Shibuya Hack Projectを前進させた一冊でもあるようです。
既成概念を固定化しないってこういうことか!な本
『スケートボーディング、空間、都市ーー身体と建築』(イアン・ボーデン、2006)
スケーターはまちを「素材」として捉え、既成概念にとらわれずに都市を自由に往来している。スケーターたちにとって建物とはあってないようなもので、まるで波に乗るように自由に「まちに乗る」感じ、いいなあ!とインスパイアされたという一冊。公共空間には「無意識な当たり前」が多いなかで、視点を転換させたかったり工夫のアイデアがほしい時、刺激になりそうです。
『マゾヒスティックランドスケープーー獲得される場所を目指して』(LANDSCAPE EXPLORER、2006)
都市づくりのキーワードのひとつ「スキマ空間」。公共の場でも私有地でも、そこにあるだけで使われていない空間を完全に「変える」のではなく、別の意味を重ねることで新たな魅力をその場に宿そうーーそんな議論が行われています。本書では、プライベートな空間から外部(=パブリックな空間)に「しみ出している」と思われる活動や景観を収集し、「空間読取力」「装置改変力」などちょっと変わった指標で評価しています。「こんなのあり!?」な事例が豊富。
情報空間としての“まち”の眼差し方を学んだ本
『考現学入門』(今和次郎、1987)
アーバニストなら一度は読むであろう、今和次郎の名著。Shibuya Hack Projectでも「Street Furniture」実施の前に渋谷を舞台に座布団片手にスリッパに履き替え、5分間地べたに座ってまちを眺めるワークを行いました。石川が「観察のやり方、状況に浸る視点を得る方法を学んだ」という本書は、関東大震災後のバラックのスケッチから始まった「考現学」をベースに、都市風俗をこれでもかという細かさで知ることができます。
『広告都市・東京ーーその誕生と死』(北田暁大、2002)
渋谷は、かつて「渋谷系」というジャンルができるほどユニークな文化が醸成された都市。しかし、まるで「舞台装置」だった文化空間としての渋谷に向けられる眼差しは、あまりに多い情報量からその文化への関心は徐々に落ちてきている、という問題提起がされている本書。「渋谷は文化力はあるのになぜ危機感が芽生えるのか?」という疑問に少し解がみえたという一冊。
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