茨城県北芸術祭の公式テーマソング『わたしは人類』をやくしまるえつこが制作、楽曲をゲノムに組込んだ遺伝子組換え微生物を9月16日より展示

バイオテクノロジー領域の技術が急速に発展し、医療や創薬、農業などに加え、素材や食、ファッション、アートなど、幅広い分野での可能性が注目されるようになってきました。ロフトワークでは、バイオラボの運用やコミュニティ活動を通して、バイオテクノロジー領域の理解の促進やビジネス機会の創出を目指していくために、FabCafe Tokyoの施設内にバイオテクノロジーの実験や研究が可能な設備を備えるバイオラボを本日オープンします。

オープン記念として、音楽家やくしまるえつこの特別展示を開催。茨城県北芸術祭の公式テーマソングにも採用されている、バイオテクロジーを用いて制作された作品『わたしは人類』を、“音源”と“遺伝子組換え微生物”の形で展示します。バイオテクノロジーを用いて制作した楽曲を国際芸術祭のテーマソングとし、更にポップミュージックとして流通させ、微生物そのものも音楽作品として展示するこの試みは、国内でも初めて経済産業大臣から大臣認可を受けた作品となります。

やくしまるえつこ、人類滅亡後の音楽『わたしは人類』を音源と微生物で発表

やくしまるによるテーマソングのコンセプトは「人類滅亡後の音楽」。古来より伝達と記録によって継続されてきた人類の歴史。そして同じく伝達と記録、また、変容と拡散の歴史の中にある音楽。その関係性と、遺伝子とDNAの関係性との類似に着目し、いつか人類が滅んだとしても、新たな生命体が記録/DNAを読み解いて奏で、歴史をつなぐことのできる音楽を遺伝子組換え技術を用いて制作。
「KENPOKU ART」が開催される茨城県北地域は自然と科学の深い結びつきを持ち、海と山には、古くかららん藻(シアノバクテリア)が生息している。やくしまるは、このシアノバクテリアの一種である微生物「シネココッカス」の塩基配列を組み込んだ楽曲を制作し、さらにその楽曲情報をコドン変換し、DNAを人工合成してこの微生物の染色体に組み込む。楽曲そのものはもとより、この遺伝子組換え微生物そのものを「KENPOKU ART」のテーマソング『わたしは人類』として発表する。
制作された音楽をDNA情報にもつ遺伝子組換え微生物は自己複製し続けることが可能なため、最強にして最長の音楽記録媒体、歴史に類を見ない流通形態となる。
このテーマソング『わたしは人類』の音源は9月16日よりApple Music / iTunes Storeにて世界一斉配信される。
また、この『わたしは人類』は微生物を音楽作品として発表・展示する試みとして、経済産業大臣から日本初の大臣認可を受けた作品となっている。更にやくしまるは『わたしは人類』の世界観とリンクする楽曲『ロンリープラネット』の遺伝子を組み込んだ微生物も制作。FabCafeにオープンしたバイオラボ(BioLab)では、9月16日から9月30日まで『ロンリープラネット』の遺伝子組換え微生物が、 11月10日から11月20日まで『わたしは人類』の微生物が展示される。

やくしまるえつこ『わたしは人類』
Apple Music / iTunes Store にて先行配信中
iTunes Store https://itunes.apple.com/jp/album/id1149713825?app=itunes
Apple Music https://itunes.apple.com/jp/album/id1149713825?app=music

 

やくしまるえつこ『わたしは人類』展示

展示日時:第一期 / 9月16日(金)〜9月30日(13:00-18:00)、第二期 / 11月10日(木)〜11月20日(日)(13:00-18:00) 
展示内容:やくしまるえつこの楽曲を組み込んだ遺伝子組換え微生物作品の展示 
第一期『ロンリープラネット』/第二期『わたしは人類』
入場料:無料
入場方法:FabCafe Tokyo 店頭にて案内

この取り組みに関して、経済産業省、NITE バイオテクノロジーセンター、首都大学東京教授らからコメントが寄せられています。

「近年、バイオテクノロジーは著しい進化を遂げ、健康・医療分野のみならず、工業分野、農業分野を含め、経済・社会の変革の大きな推進力となりつつあります。
この度、やくしまるえつこさんが制作した茨城県北芸術祭のテーマソングの楽曲情報をDNAに組み込んだ遺伝子組換え微生物は、今までになかった音楽とバイオテクノロジーの融合を実現させ、新たな可能性を導き出しました。このような取り組みによってバイオ産業がさらに飛躍していくことを期待いたします。」

経済産業省商務情報政策局生物化学産業課 課長 西村 秀隆氏

「我々の持つ微生物の技術や知識とアーティストの方々の発想の融合から、DNA情報に音楽をもつ微生物という今までに例のない作品を生み出すお手伝いができました。微生物と音楽の融合という新たな文化の幕開けに立ち会えたことを大変うれしく思い、今後のご発展を祈念いたします。」

独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター 所長 木井 保夫氏

「茨城県北芸術祭において、アーティストのやくしまるえつこさんが自ら作曲した楽曲をDNA配列に変換して、シアノバクテリアという光合成細菌のゲノムの中に組み込むというアートを行う。世界で初めて、コード(和音)をDNAにコード(暗号)化し、シアノバクテリアの中に記録するというコンセプトは、その斬新さだけではなく、驚くほど長い寿命を持つDNAを記録媒体として用いるという点において、生物学的のみならず情報工学的な見地からも大変に興味深いと言えよう。シアノバクテリアのゲノムに組み込まれた彼女の楽曲情報は、その生物の増殖に伴って複製され、遙か未来へ連綿と受け継がれていく。おそらく今から数千万年後、人類が滅びた後の地球にもその情報は存在することになるのだろう。それは〈悠久の時を超える音楽〉という壮大なアート作品なのである。人類滅亡後、ポスト・ヒューマンが支配する未来の地球の片隅で〈音楽を組み込んだシアノバクテリア〉がひっそりと光合成をしているさまを思い浮かべるだけで、心が震えてしまうのは私ばかりではないはずだ。」

首都大学東京 花田智氏

バイオラボと、BIoClubについて

FabCafe Tokyoの2階にあるコワーキングスペース「FabCafe MTRL」施設内の個室に、双眼実体顕微鏡、デジタル顕微鏡、インキュベーター、クリーンベンチ、オートクレーブ、スターラー、電子レンジ、食洗機といった実験機材を備えたバイオラボを本日オープンしました。
安全性の確保に対しては、国が定めるP1レベルの拡散防止措置をとり、その中で扱える安全な組換え体のみを用いて、バイオテクノロジーの実験や研究を行うことが可能です。

バイオテクノロジーと聞くと「よくわからない」「危なそう」という声が多く上がります。
現在3Dプリンターやドローンの話題がよく取り上げられるように、これらの領域の急速な発展のスピードに法整備や一般的な理解が追いつかない、けれども私たちの生活を変えるものであることは間違いありません。また「バイオロジーは21世紀のインターネットである」とMITメディアラボ所長の伊藤穰一氏は述べています。
3Dプリンターといったデジタルファブリケーション領域がそうであったように、バイオテクノロジー領域も個人で扱えるようになる日がそう遠くない未来に来るでしょう。アメリカでは、このような時代の変化にあわせて、積極的な監視の必要性からもFBIもスポンサーとなってバイオラボの整備と普及が進められています。
ロフトワークは、バイオテクノロジー領域の理解の促進やビジネス機会の創出を目指していくために、日本でデジタルファブリケーションと文化の融合に取り組んできたFabCafe Tokyoを拠点に、専門家や市民が一体となって、バイオテクノロジーの可能性を探求するオープンなコミュニティ「BioClub(バイオクラブ)」の活動を有志で行ってきました。

早稲田大学先進理工学部細胞分子ネットワーク研究室、生命美学プラットフォーム「metaPhorest」を運営する岩崎秀雄教授、アーティスティック・リサーチ・フレームワーク「BCL」のゲオアグ・トレメル氏と福原志保氏をコアメンバーに据え、独立行政法人や研究者などの有識者、クリエイターや起業家などを含めた約300人のメンバーとともに、これまでコミュニティイベント「BioClub Meetup」を開催したり、MakerFaireTokyo 2016への作品展示や、世界各拠点で同時に開講されるDIYバイオの講習プログラムである「Bio Hack Academy」の開催などを行ってきました。
今回のバイオラボのオープンは、この活動を加速するものになります。
バイオラボやBIoClubの参加方法については、随時公式Webサイトでお知らせしていきます。
http://www.bioclub.org/

参考:BioCub Project Charter(Google docs上で公開、誰でも編集可能)

やくしまるえつこについて

音楽家として「相対性理論」など数々のプロジェクトを手がけるほか、メディアアート作品の制作、楽曲提供やプロデュース、文筆と多岐にわたる活動を行う。人工衛星や生体データを用いた作品、人工知能と自身の声による歌生成ロボット、独自のVRシステムを駆使した舞台操作及び演奏指揮などを次々に発表。近年の活動に、森美術館「LOVE展」(2013)、豊田市美術館「反重力展」(2013)、相対性理論×Jeff Mills「スペクトル」(2015)、相対性理論「天声ジングル」(2016)など。芸術祭では、バイオテクノロジーを駆使したテーマソング「わたしは人類」を制作。

ロフトワークについて

ロフトワークは「すべての人のうちにある創造性を信じる」を合言葉に、クリエイターや企業、地域やアカデミアの人々との共創を通じて、未来の価値を作り出すクリエイティブ・カンパニーです。ものづくりを起点に、その土地ならではの資源やテクノロジーを更新する「FabCafe(ファブカフェ)」、素材と技術開発領域でのイノベーションを目指す「MTRL(マテリアル)」、クリエイターと企業の共創プラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。目先の利益だけにとらわれず、長い視点で人と企業と社会に向きあい、社会的価値を生み出し続けるビジネスエコシステムを構築します。

株式会社ロフトワーク 広報:pr@loftwork.com

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