株式会社ロフトワークは、JST ACCEL「身体性メディア」プロジェクト主催の元、触覚のデザインに基づいた新たな体験(モノ/サービス)のアイデア、作品を表彰する「HAPTIC DESIGN AWARD」の受賞作品を発表しました。

2016年11月19日(土)~2017年2月5日(日)までの応募期間中、作品部門42作品、アイデア部門29作品、合計71作品のエントリーがあり、作品部門からはグランプリ1作品、優秀賞1作品、佳作6点を選出。アイデア部門からは優秀賞1作品、佳作4作品を選出しました。

作品部門のグランプリは、「ボタンを押す」「指定された面を触る」ではないスイッチの新たな触覚をデザインしたインターフェイス『稜線ユーザインタフェース』(クリエイター:安井重哉) が受賞しました。「指をスライドさせて知覚的稜線を超える」という動作をスイッチの生成源に利用し、不意の誤動作の防止や、スイッチに高い造形自由度を与える作品です。

作品部門の優秀賞は、赤ちゃんに対する優しさ・緊張感・丁寧な動きなどの人の本能的な習性から着想を得た、和紙の“つみき”『積み紙(tsumishi)』(クリエイター:川崎美波) が受賞しました。さまざまな種類の和紙を使用し、色や触り心地の微妙な違いを楽しめる作品です。

アイデア部門の優秀賞は、嗜好品であるタバコを、唇へのHAPTICな刺激という観点でアップデートする試み『LIP SERVICE』(クリエイター:北恭子、迫健太郎) が受賞しました。タバコの葉の中身の違いではなく、さまざまなテクスチャーによる触感の違いで、唇に新鮮な喜びを与えるアイデアです。

全ての受賞作品と、審査員のコメントは以下のページよりご覧ください。
結果発表ページ: http://hapticdesign.org/award/

※アイデア部門のグランプリは該当作品なし
※作品部門でエントリーされた「Rez Infinite – Synesthesia Suit」は、審査の結果、すでに世の中で高い認知・評価を得ている作品であること、抜きん出て高い完成度であることなどを考慮し、参考出展として選定、HAPTIC DESIGN AWARD EXHIBITIONでの展示作品として紹介することとしました

エキシビジョンと授賞式をFabCafe Tokyoにて開催

受賞作品は、3月26日(日)〜4月2日(日)までFabCafe Tokyoにて開催するEXHIBITIONにて展示します。また3月27日(月)には、授賞式を同会場にて開催します。

■ HAPTIC DESIGN AWARD EXHIBITION
AWARDの受賞作品と一部応募作品をキュレーションした体験型エキシビジョンを開催
開催日程:3月26日(日) 〜4月2日(日)
時間:月~土 10:00 – 22:00 / 日・祝 10:00 – 20:00
会場:FabCafe Tokyo (東京都渋谷区道玄坂1-22-7道玄坂ピア1F )
http://www.fabcafe.com/tokyo/access/
料金:無料

■ HAPTIC DESIGN AWARD 授賞式
授賞式や審査員によるトークなどを行います。
開催日程:3月27日(月)
時間:19:30 – 22:00
会場:FabCafe Tokyo
http://www.fabcafe.com/tokyo/access/
定員:60名
申し込み:https://mtrl.net/shibuya/events/haptic-design-award/

受賞作品

作品部門:グランプリ

作品名:稜線ユーザインタフェース

クリエイター名:安井重哉
コンセプト:
本作品は新しいスイッチインタフェースのコンセプトプロトタイプである。このインタフェースは、立体的な段差や障壁などの知覚的稜線によって区切られた、二つ以上のタッチセンシング領域によって構成されている。そして、既存のスイッチのように「ボタンを押す」、「指定された面を触る」といった操作ではなく、「指をスライドさせて知覚的稜線を超える」という動作をスイッチ及び触覚フィードバックの生成源として利用する。
これにより、不意の誤動作が起こりにくいという特性の他に、単純な構造による高い造形自由度を持たせることができた。本作品は、立体造形による視覚と触覚の両面からの情報デザインの世界を開拓する。

作品部門:優秀賞

作品名:積み紙(tsumishi)

クリエイター名:川崎美波
コンセプト:
赤ちゃんを抱っこする時を思い出してください。”積み紙”は、そんな風に自然と優しく持ってしまう和紙の”つみき”です。
人間に限らず、赤ちゃんの頃は体が小さく目が丸くて大きい動物が多く、それらを可愛い、守りたいと思う気持ちは本能として備わっているそうです。その為、皆赤ちゃんに対して優しく、且つ緊張感を持った丁寧な動きになります。
その習性から着想を得て、敢えて繊細で壊れやすいものを作りました。
積み紙は中が空洞で、光にかざすと透けて見えます。また、様々な種類の和紙を使用しており、色や触り心地の微妙な違いを楽しめます。
ものを大切に扱うことや、日本の伝統文化を受け継ぐための1つのツールとなれば幸いです。

アイデア部門:優秀賞

作品名:LIP SERVICE

クリエイター名:北恭子、迫健太郎
コンセプト:
テクスチャ・シガレット『LIP SERVICE』は、伝統的な人間の嗜好品であるタバコを、唇へのHAPTICな刺激という観点でアップデートする試みです。10種の異なる質感素材で包むことで、唇で感触の違いを味えるタバコをつくりました。
これまで人は、タバコを中身の葉の違いで選んできました。一方でその葉を包むペーパーはどれも画一的で大きな違いはありません。タバコが触れる唇は、人間の身体の中でも最も敏感な部分のひとつです。そこに様々なテクスチャが触れることで、いつものタバコの吸い心地を繊細に変化させ、常に新鮮なリフレッシュを与えてくれると考えました。

佳作(作品部門:6作品)

作品名:ひるねで候
クリエイター名:Team at! (花形槙、木許宏美、小笹祐紀、加藤有紀)
作品名:COVER
クリエイター名:黒田恵枝
作品名:connect project
クリエイター名:大平暁
作品名:WIM
クリエイター名:亀井潤、ケイト・マックケンブリッジ、ジェイコブ・ボースト
作品名:hapbeat
クリエイター名:山崎勇祐
作品名:Cross-Field Haptics
クリエイター名:橋爪智

佳作(アイデア部門:4作品)

作品名:さわってカルタ
クリエイター名:藤川美香
作品名:寝かしつけ用“ウェアラブルポンポン”
クリエイター名:代田ケンイチロウ
作品名:傘ぶくろくんの手
クリエイター名:松本祐典
作品名:How Far To Touch?
クリエイター名:竹腰美夏

参考出展(作品部門:1作品)

-Rez Infinite – Synesthesia Suit’ Performed at Media Ambition Tokyo 2016
Tetsuya Mizuguchi + Rhizomatiks + Keio Media Design
Photographer: Atsuhiro Shirahata (un)
作品名:Rez Infinite - Synesthesia Suit
クリエイター名:水口哲也 + Rhizomatiks + Keio Media Design

審査員からのコメント

川村真司

(PARTY エグゼクティブ クリエイティブ ディレクター)

応募作品のクオリティがどれも非常に高く、審査をしていてとても面白かったです。触ったか・触ってないかという0か1ではなく、触ったときの感触やそこから生まれる感情や共感といった部分にまで触れているようなアイデアを特に評価させていただきました。プロダクトや体験に「HAPTIC DESIGN」を加味することで、新たな物語やアフォーダンスのレイヤーをモノやデータに加えることができるんだなということを改めて感じさせられました。個人的にも、もっとこの分野で様々な実験をしていきたいなと思います。

大屋友紀雄

(クリエイティブカンパニー NAKED Inc. プロデューサー)

今回のアワードを振り返ってはっきりしたのは、HAPTICを使ったデバイスを作るコンテストではなく、HAPTICを使って社会とヒト、モノとヒトなど、さまざまなモノゴトをいかにデザインするかというコンテストだということ。デザインまで落とし込んだ作品は、なかなか難しいんだなと思いました。生活の変化までイメージできた作品、世界の認知を変えちゃうような作品が高く評価された結果になりましたね。

高橋晋平

(株式会社ウサギ 代表)

「触覚って何に使ったら一番いいの? どう社会が変わるの?」といった、何の役に立つのか、どんな可能性があるのか、そこまでを意図的に組み込むことが「HAPTIC DESIGN」には必要なんだと改めて認識しました。HAPTICというと、気持ちいい触り心地をまずは発想しがちですが、今回のアワードを振り返り、「HAPTIC DESIGN」はキチンと考えれば、人間の行動、生活、文化を変えてしまうようなすごい力がある!と気付かされました。

泉 栄一

(MINOTAUR ディレクター/デザイナー)

審査員の皆さんとディスカッションする中で、新しい視点や新たな評価軸みたいなものがどんどん加わっていく感じがエキサイティングでした(笑)。自分自身の作品を見る視点も成長していく感じがしました。作品を使った体験のストーリーに共感できる作品に評価が集まりましたね。

堀木 俊

(隈研吾建築都市設計事務所)

「HAPTIC DESIGN」は、個人の記憶や体験に基いて共感を生む作品が重要である点が、その他のアートやデザインへの評価と異なるポイントだと思いました。テクノロジーだけではなく、人の感覚を呼び起こすものや、すごく抽象的でセンシティブなもの、ひとつの感覚を研ぎ澄ますようなもの、そうした異なる作品がおもちゃ箱のように入り混じり、「HAPTIC DESIGN」の枠組みを広げるような気づきが多い審査会でした。

オーガナイザーからのコメント

南澤孝太

(慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 准教授)

アイデア部門は評価にも紆余曲折の流れがありました。審査開始当初は課題解決型が選ばれやすかったですが、実際に課題を解決している人にはかなわない。だから、アイデアで社会課題解決を求めるよりも、もしかするといっそ妄想してワクワクできる方がいいのかもしれない。
今回の議論の中で、もしかしたら応募者も気づいていなかったかもと思える視点まで俯瞰して見ることができ、さらに審査会の場で応募作をさらに昇華させるアイデアも生まれていきました。なかには生活や文化まで変えるようなインパクトのある作品もあり、私たちが作ってしまいたいくらいです(笑)。今回の審査員の評価が次の作品の糧になり、実際に社会に実装されるプロダクトやサービスが生まれて欲しいと思います。

渡邊淳司

(NTTコミュニケーション科学基礎研究所 人間情報研究部 主任研究員)

今回集まった作品の中には大きく2軸、「課題を解決するもの」と、「さらに気持ちよさを追求するもの」があり、とてもバランス良かった。当初は課題解決型のデザインが多く集まるかと思っていたのですが、今回のAWARDを通じて新たな軸ができたというか。いつもなら同じテーブルに並ばないものがHAPTICという文脈を通じて並んでいるのが素敵だなと思いました。単に震えるデバイスというだけではなく、作品を使った体験の”意味付け”みたいなものまで内包する作品が評価されたと思います。

HAPTIC DESIGN AWARD

●主催:
JST ACCEL「身体性メディア」プロジェクト

●協力:
新学術領域研究「多元質感知」
NTTコミュニケーション科学基礎研究所
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科

●企画運営:
株式会社ロフトワーク

JST ACCEL「身体性メディア」プロジェクトについて

人の触知覚メカニズムに基づき、触覚を視覚の3原色と同様に、圧力・振動・温度など複数の感覚要素の統合として捉えることで、触覚の計測・伝送・提示を可能とする技術を研究開発。触覚を持つ身体的経験の記録、伝送、再生に基づく製品やサービスの早期創出を推進するプロジェクトです。放送分野やエンターテインメント分野での実用化を志向した「身体性コンテンツプラットフォーム」などの実証システムを構築し、社会的・経済的インパクトを与えるイノベーションの実現を目指します。
https://www.jst.go.jp/kisoken/accel/research_project/ongoing/h26_05.html

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