金指 了 クリエイティブディレクター 2015年入社

ロフトワークは、Web・空間・サービスなど幅広い領域の課題や、新しい価値の創出をクリエイティブの力で支援しています。幅広い事業領域をカバーするために、メンバーのバックグラウンドも多種多様。もともとWeb業界の人もいれば建築事務所にいた人やアパレル店員だった人もいる。そんなロフトワークで働く多様なメンバーを紹介するインタビューシリーズを始めます。インタビュアーは、これまた多様なバックグラウンドをもつライター西村隆ノ介さん。

こんにちは。西村隆ノ介です。ライター業以外にも、食堂を主宰し、eat designerとして活動しています。そんな僕が、昔から気になる会社だったロフトワーク。サイトをみていると、事業内容がWeb制作だけでなく、空間やコミュニケーションのデザイン、VRの企画編集と多岐に渡っていることがわかります。一体どんな人達がどんな風に働いているのか、実際に聞いてみると、とても興味深いルーツと人柄の持ち主ばかりでした。

まず1人目としてお話を伺ったのはクリエイティブディレクターを務める金指了(かなざしりょう)さん。

穏やかに話しながら、楽しいムードをつくってくれる金指さんに異業種からWeb業界に入った苦労や働き方、これからの挑戦についてお聞きしました。

不安の中で異業種からWebの世界に

──前職では不動産関係のお仕事をされていたそうですが、どのような経緯でクリエイティブの仕事に興味を持ったんですか?

大学4年でワーキングホリデーから日本に帰ってきた頃、東日本大震災の影響で学校も就活も全部ストップしたんです。そこで、当時のバイト先の不動産会社に、そのまま正社員として入りました。そして新規メディアサイトの立ち上げ担当として外部のデザイナーの方とやりとりをするなか、作り手の人と、もっとちゃんと話せるようになりたい、一緒にいいものをつくっていきたいと思ったのがきっかけですね。

デザインというものはなんとなく頭でわかっていたけど、もっとしっかり学びたいと思い、働きながらデザインを学べる専門学校に通いました。

──その学校では何を学んでいたんですか?

グラフィックデザインが主で、ソーシャルデザインラボというプログラムにも参加していました。学んでいくうちに実際にデザインやクリエイティブの業界で働きたいなと思うようになり、会社を辞めたんです。

──思うようにデザインができるようになるとどんどん仕事が面白くなっていきますよね。僕も以前、グラフィックデザイナーをしていたのでわかります。辞めてすぐにロフトワークに入ったんですか?

実はロフトワークを受ける前に地域おこし協力隊に申し込んでいたんですけど、落ちちゃったんです。それで、今は東京を離れる時じゃないんだなと思い、東京で仕事を探してロフトワークを見つけました。でも正直、名前は知っていたけれど何をしているかよく理解していなかったんです(笑)。

──よく知らない中で、しかも異業種。戸惑いや不安はなかったですか?

めちゃくちゃありましたね。前職では色々任されてはいたものの、正直何もできませんでした。少人数だったので、仕事の進め方を丁寧に教わることもなく。大きな失敗こそしませんでしたが、悔しいことはたくさんありました。

そこで、プロジェクトを成功に導く手法である“プロジェクトマネジメント”という言葉に惹かれてロフトワークに入りましたが、自分が何がわからないのかがわからないという状態が続いて、1年くらいは苦しかったですね。

できない自分との対峙が毎日続くなかで、よくめげずにやっていたなって思います(笑)。

苦しさの霧を晴らしてくれた先輩からの誘い

──そのしんどさを支えていたものは何かあったのでしょうか。

早く仕事をできるようになって、会社に貢献しなきゃっていう意識はずっとありました。プライベートでの活動は控えて、会社の仕事に対して100%で臨んでいました。それでもできないことだらけで焦りもあって、本を読んだり、ネットで調べたり、色々勉強して友人にもいろいろ話を聞いたりして。苦しいけど逃げたくない、自分に負けたくないと思って踏ん張っていました。

──穏やかな雰囲気から想像できないですが、けっこうな負けず嫌いなんですね。

そうですね。でも金メダルが欲しいわけではないんです。3位になれればいいけど、メダルが獲れないのはイヤ(笑)。

──苦しい中から抜け出したきっかけとかはありましたか?

入社から1年くらい経って、会社のことや仕事の進め方がわかってきた頃に、僕の入社面接を担当した二本栁さんにSUWAデザインプロジェクトに誘われたことが苦しさを抜けるきっかけになりました。昔から地域に関わる仕事をやりたいと考えていたので、そこからだんだんと霧が晴れていったような気がします。

──いろんなものがタイミングよく重なったんですね。諏訪市のプロジェクトではどんなことをするんですか?

諏訪は、精密機器の製造や加工が有名な地域です。非常に小さなネジやバネを職人の方々が作り、世界に送り出しています。そんな高い技術力をより多くの人に伝え、外部のクリエイティブ人材との交流を増やしていくために始まったのが諏訪プロジェクトです。

昨年までは技術ある力を持った工場で働く職人の方々と一緒に、東京のクリエイターの方を交える機会を作りました。そして「ミニ四駆」を“技術が集積するプラットフォーム”ととらえて、実際に車体に実装するハッカソンを開催し、技術の新たな可能性や広がりを探りました。

今もプロジェクトは続いていて、今年3年目を迎えます。1、2年目は二本栁さんのアシスタントとして、プロジェクトの企画から実行のサポートをしていました。今はPM(プロジェクトマネージャー)として、諏訪市には月に1度くらいで行っています。

──工場で働く職人の方々はこだわりが強そうというイメージなのですが、プロジェクトを共にする上で難しさなどはありますか?

当初みなさんからは、クリエイターの方々に対する戸惑いが感じられました。一緒に活動した経験があまりなかったと仰っていて、コミュニケーションの面でも苦労することがありました。

意識していたのは毎回きちんと現場に足を運んだり、一緒に飲みに行ったりしてロフトワークや私たち自身のことを知ってもらうこと。丁寧に関係性を築いて、何か面白いことが起こるかもしれないと思ってもらえるように動いていました。

3年目の今年は諏訪のみなさんと同じ目線で、時には意識改革を促しながら、諏訪を盛り上げていくプロジェクトを企画しています。

支える立場になることで発揮される力

──担当してきた案件で、これは楽しかったなって思うものはありますか?

最近担当した案件だとLIXILさんとのプロジェクトですね。「未来の素材」を生み出すために、3日間集中してアイデアを見つけるデザインキャンプを行いました。キャンプ中はとても大変でしたが、最後に全参加メンバーが立場を超えてチームとしての一体感が生まれました。この感覚をずっと求めていたので、すごく楽しかったし、嬉しかったです。

──金指さんはみんなの意識を同じ方向に持って行ったり、盛り上げたりすることにやりがいを感じているんですね。

僕の場合は、自分がPMになって下にディレクターがつくという立場よりも、誰か一人に上に立ってもらい、それを支える立場になるとパフォーマンスが上がるんです。そっちの方が楽しいかもしれないですね(笑)。

サポートに回ることで、相手が何をやろうとして何で困っているのか、今どういう状況なのかがしっかり把握できる。僕自身がPMになると、自分に高めのハードルを課したり、全部やらなきゃっていう考えになってしまって、あんまり楽しめないんですよ。

チームで動いて役割分担もしっかりできて、そこに関わってる全員が同じものをみれた瞬間が一番嬉しいし、やりがいを感じます。

金指の入社面接を担当し、諏訪のプロジェクトをともにつくりあげるNさん談

「金指くんにアシスタントをやってもらうのは、最高にいいですよ(笑)。パワーでゴリゴリ動かす僕は細かい部分を見きれないことが多いのですが、彼はフォローも丁寧で、ほんと気が利くんですよね。相当助けられました。彼の人柄や生まれ持っての感性みたいなところは地域の案件に活きると思ったんですよね。そして思っていた通りの動きをしてくれました。」

頑固者にならないよう、苦手なことでも断らない

──金指さんが中心だった案件で面白いエピソードがあるとお聞きしたのですが?

昨年の社内合宿の話ですね(笑)。毎年ロフトワークでは全社員で合宿に行くのですが、昨年は僕が合宿委員長になったんです。

2ヶ月くらい前から、仲間と毎日夜遅くまで準備をしていました。委員の合宿の参加経験が少なかったからそもそも合宿とはなんだと考えることからのスタートでした。沢山議論して、代表の林と何度も話したり、プログラムの設計をして、宴会や交通手段、宿泊施設を押さえたりととにかくやることは沢山あって。

出発当日に珍しく遅刻者も出ずに空港にみんな集まったのに、飛行機が欠航してしまったんです。そんなことあるのかって思いましたけど、でも飛ばないなら行くことができないし、泣く泣く中止にしました。

空港から移動して、そのまま合宿中止を楽しんでしまうロフトワークのメンバー

──今だから笑えるけど、それだけ準備をしたのに中止ってつらいですね(笑)。

去年の悔しさを果たすべく、今年は合宿委員のサポートに入りました。中心に立つとどうしても全体を進めることに意識がいってしまうので、今年は気持ち的にとても楽でしたよ(笑)。

合宿委員や諏訪市のプロジェクトで一緒に仕事をしているMさん談

金指さんの1番尊敬しているポイントは、人との距離の取り方が上手いところ。諏訪市のプロジェクトは、行政の方、地元の事業者の方、デザイナーの方というようにステークホルダーが多いのですが、それぞれの立場、人柄ごとに心地良い距離感でコミュニケーションを取っている姿は、後輩としてとても参考になります。あとは、いつも穏やかで私のつまらない話にも耳を傾けて笑ってくれるので、金指さんがいると場が和みます(笑)。

──そもそも、なぜ“中心に立つ”委員長をやることになったんですか?

ここ1〜2年くらいは、苦手なことでも頼まれたらなるべく断らないようにしているんです。自分の型に自分をはめたままだとつまんないんだろうなと思って。ロフトワークって、Webだけじゃなくて様々なジャンルのプロジェクトがあって、個性的なメンバーがいるので常にいろんなことが起こる会社なんです。

そんな中で、自分がやりたいことだけをやっていても面白くないし、頑固者になってしまいそうな気がして、スケジュールさえ合えばなるべく断らないようにしています。

──様々なチャレンジをする中で、何か手応えを得た経験はありましたか?

コレだ!みたいなドンピシャなものは、まだないんです。以前担当したあるプロジェクトでは、チームみんなでいい結果を出したので、ひとつの実体験として「これだけやったから結果が出たんだな」とおおまかに思うことはありました。でもそこで個人として何かを掴むまではいかなくて。

ただ、この1年で、今までやってきたことで培ったものを伸ばしていける予感がしています。地域の仕事とあわせて入社1年目に苦戦したWeb案件をバランスよくやることは、すごくいい何かを僕自身に与えてくれるような気もしていて。今年は勝負の年ですね。

──未経験でも好奇心旺盛に飛び込んで、その中でもがき苦しみながらも何かを掴みかけている。穏やかな空気をまといながら、内では熱く勝負をしようとする金指さんの1年後がとても楽しみになりました。

金指 了

Author金指 了(クリエイティブディレクター)

大学卒業後、不動産会社に入社、企画・営業・メディア運営に従事。その後新規事業で学生寮の立ち上げに参画、企画・空間ディレクション・管理運営などを担当。前職で関心を抱いたグラフィックデザインとソーシャルデザインを学ぶ中で広義の「デザイン」に可能性を感じ、ロフトワークに入社。プライベートでは気仙沼を拠点に活動するNPO法人の理事も務める。仕事のモットーは、「何をつくるのかよりも、何故つくるのか」。

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