2013年5月にFabCafe Taipei、その2年後の2015年2月にロフトワークの台湾現地法人Loftwork Taiwan Inc. がオープンしてから、月日が流れました。台北を拠点に、アジア、そして世界を視野に入れた実験的な活動をはじめてから約7年間。企業や大学、自治体など、日本のクリエイティブやビジネスシーンと、今までにさまざまなコラボレーションが行われてきました。日本企業が今後、課題解決の視野をグローバルに広げる意義について、FabCafe Taipeiのオーナーであり、ロフトワーク台湾の創業者であるTim Wongに話を聞きました。

日本市場だけを見てる時代は終わった。アジアを拠点に、世界に飛び出す

アジア、そしてグローバルへのフロンティア

「社会、経済などの変化が予測し難い時代である今日、ローカルだけでなく、視線を外にも向け、グローバルに課題発見と解決を行なっていく必要があります。」

こう語るのは、香港、アメリカ、日本など、さまざまなビジネスシーンを目にしてきたTim Wong。東京で生まれたFabCafeを、グローバルネットワークに発展させることを最初に提案した人物です。Timは、日本の経営者たちに対し、日本の外にも視野を広げ、ローカルを超えてグローバルに事業を展開していくことの重要性を語ります。

「東京中心の時代は終わりました。これからは、日本企業もアジア諸国、そして世界に開いたイノベーティブな機会発見、開発、そして展開を行っていく必要があります。」

そのために、台湾のような相対的な場所からプロジェクトを発信していくことに可能性があると、Timは続けます。

「台湾を勧める最初の理由は、デザイン・テクノロジー領域に対する、国レベルでの積極的な取り組みです。台湾では近年、政府がデザインと文化の力に注目しており、さまざまな実験が行いやすい環境にあります。」

例えば、2020年には政府が主体となり、台湾デザイン研究院(Taiwan Design Research Institute / TDRI)が発足。台湾におけるデザインの取り組みを推進し、経済産業の活性化を図るための組織です。また、2016年には、国際インダストリアルデザイン団体協議会によって運営される国際イニシアチブ、「ワールド・デザイン・キャピタル」に台北市が選出され、地方政府レベルでのデザインの取り組みも活性化しはじめました。「実験的な活動の種をまくには、デザインに寛容で、国レベルで積極的にイノベーションに取り組む、台湾からだと始めやすいんです」とTimは話します。

また、多国籍企業が集まりやすい土壌も、台湾の魅力のひとつです。

「中国に参入したいGoogleやFacebookなどのテックジャイアントも、まずは参入しやすい台湾市場から活動を開始することで、アジア進出の道を切り開いてきました。日本でのローカルマーケティングに留まらず、台湾に裾野を広げることで、香港、中国、マレーシア、シンガポールなど、アジア諸国のより広いオーディエンスに向けて、布石を置くことができます。」

FabCafe Taipei / ロフトワーク台湾の現在地

領域を超え、より複雑な課題へのソリューションを発見する

文脈も、プロセスも、それに伴うチャレンジも東京とは異なる台湾。ここ台湾で、ロフトワークは、過去5年間に渡り実験と挑戦を続けてきました。

「『領域を超え、より複雑な課題へのソリューションを発見する』という私たちのミッションについて、5年前にロフトワーク台湾をオープンした当時に比べ、周囲の理解が深まってきたと感じます」とTimは5年間を振り返ります。

私たちの社会・経済・環境はますます複雑性を増し、将来の予測が困難なVUCA時代に突入していると、Timは説明します。予測不能な変化の時代である現代において、全てをひとつの企業内で行うことはできません。だからこそFabCafe Taipei、ロフトワーク台湾では、内部だけで全てのプロジェクトを完成させるのではなく、アジアの他の地域も含めて都度クリエイティブチームを組みながら、アジャイル開発でプロジェクトを行うことを大切にしています。

グローバルネットワークを活かしたマーケティング・PR

ロフトワーク台湾が提供するサービスのひとつに、グローバルネットワークを活かしたマーケティング・PR活動があります。

例えば、ロフトワークが株式会社Psychic VR Labと株式会社パルコと共に立ち上げたプロジェクト「NEWVEW」では、新たなVRコンテンツクリエイションのムーブメントとコミュニティの創造・運営を、台湾を含めロフトワーク・FabCafeのグローバルネットワークを存分に活用しています。

現在、欧米や中国企業が牽引しているVRデバイス市場。Psychic VR Labによるサービス「STYLY」を海外マーケットで広げるために、NEWVIEWプロジェクトでは、日本以外にある7カ所のFabCafeからバルセロナ、台北、バンコクを選び、現地のクリエイターを対象に、「STYLY」のハンズオンワークショップと、3次元VRの制作についてインタビューを実施しました。

台北では、現地のクリエイターを招致し、ワークショップを6回開催。今まで3DやVRツールを使ったことがない人にも体験してもらうことで、VRコンテンツクリエイションの新しい可能性を開きました。

台北を含め、海外のFabCafeの各拠点が持つローカルコミュニティは、現地のクリエイティブシーンと密接な関係性を保っています。コミュニティに入り込んでマーケティング・PR活動を行うことで、ターゲットオーディエンスに素早くリーチし、関係性を構築できます。

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世界のVRプラットフォームへ挑め、NEWVIEWの挑戦
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新規事業のための海外フィールドワークリサーチ

続けて、グローバルに事業を拡大するために、アジア諸都市の文脈で課題や今後の方向性を探索するリサーチプロジェクトの可能性を、Timは語ります。

「人口が増加するアジアの諸都市では、公共資源、社会保障、健康・保険、若者世代のお金の管理、同性間結婚、公共資源、働き方など、日本とは異なるインサイトを得ることができます。」

2019年後半には、パナソニック株式会社のモビリティ領域における新規事業のビジョン策定のためのリサーチが台北にて実施されました。

東京から台北へ、クライアントメンバーも含めて数日間滞在し、プロジェクトに関連する有識者インタビューのほか、FabCafe Taipeiを会場に、現地の企業を招いたミートアップを開催。街中でのフィールドワークや、メンバー間での集中ディスカッションなどを通して、現場に身を投じ、実体験をもってビジョンや仮説を練りあげました。

「台北では、『遊バイク(YouBike)』というシェア自転車システムなど、交通のシェアリングエコノミーが発達しています。モビリティ領域の新規事業プロジェクトのリサーチ先として、台北は最適な場所でした。今後はリサーチだけでなく、台湾を実験場として積極的に使ってもらいたいです。」

プロジェクト設計も含めてディレクションができるメンバーが現地にいることで、台湾の現地企業との交流や連携も、スムーズに行なわれたと、Timは話します。

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新規事業の初速をあげる。超没入型海外フィールドワークのススメ
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UXの手法を、スペースデザインへ

ロフトワーク台湾のサービスには、スペースデザインも含まれます。2019年には、台北の百貨店・信義遠東A13店にて、インフォメーションデザインやサインデザインなどを、ロフトワーク台湾が担当。いくつものブロックが積み重なったような特徴的なデザインの館内で、単にサインを作るだけでなく、迷うことなく買い物を楽しめる、シームレスで新しい顧客体験を提供することを目標にプロジェクトが行われました。

リサーチと分析に時間をかけ、カスタマージャーニーや顧客のパーセプション・マップを使用することで、利用者の感情に訴えかけ、自然な移動が行われる「ウェイファインディングシステム(Wayfinding)」が完成しました。

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台北市街の最新百貨店「遠百信義A13」シームレスな Wayfinding system
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華山1914文創園区への移転。FabCafe Taipei / ロフトワーク台湾の更なる連携へ

ロフトワーク台湾は、2020年5月に、FabCafe Taipeiのある華山1914文創園区へ移転。今までFabCafeとロフトワークが同じ台北市内でも別々の場所にありましたが、同じ場所で活動を開始することで、密な連携と、より積極的な発信を進めていきます。

今までFabCafe Taipeiはコワーキングとして利用されていましたが、それぞれ別々に誰かが作業をしているだけで、本当の意味での共創は生まれにくかったと、Timは説明します。「今回のロフトワーク台湾オフィス移転に伴い、自主企画や新しいイニシアチブにも、共創的に積極的に取り組んでいきたい」と今後の展望を語ります。

「華山1914文創園区は、文化活動、展示会、小売のショップなど、全てが同居しており、さまざまなイベントや活動が行われている場所。体験ドリブンな場所なので、ここに集まる現地のクリエイターともっと積極的に関係性を築き、さまざまなアクターとの共創活動を強化していきたいと思います。」

華山1914文創園区内に新しく作られた台湾のオフィスには、仮設の足場が印象的に使用されています。さまざまな使い方を許容し、使い⼿が、自ら空間をアップデートできるような仕掛けです。

また、Timは、「華山1914文創園区にいるからこそ生まれるセレンディピティを大切にしていきたい」と語ります。ロフトワーク台湾は、インバウンド、アウトバウンドの両方の視点から、日本の企業とアジア諸国を繋げる活動をこれからも支援していきます。

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